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トヨタが本気で作った“1.5リッターLPGハイブリッド”搭載の「次世代タクシー」撮影会

タクシー利用者、ドライバー、経営者のすべてが満足するクルマを目指して企画・開発

 トヨタ自動車は、2015年に開催された「第44回東京モーターショー」で映像が公開され、「2017年度内に発売を予定」とアナウンスされている「次世代タクシー」の実車撮影会を開催した。

 当日はタクシー業界向けの説明、試乗会が中心となっており、報道向けとしては車両撮影のみが行なわれ、試乗などはできなかった。また、詳細な車両データについてもまだ公開されていないので、現地で聞いた内容のみで記事を構成している。会場では動画やスライドなどで紹介が行なわれていたが撮影禁止となっていたので、撮影が許可されていた車両の写真を中心にご紹介する。

2017年に発売予定の「次世代タクシー」。ボディカラーは黒ではなく、伝統的であり日本を象徴する色である「濃藍」で塗装。ニューヨークの「イエローキャブ」、ロンドンの「ブラックキャブ」のように“都市のアイコン”となるようにとの思いが込められている
ベーシックグレードは白いボディに未塗装バンパーとなっている。ルーフ先端にタクシーサインが用意されているが、これは決定した仕様ではなく装着位置の提案とのこと

 車両解説はチーフエンジニアである粥川宏氏が行なった。次世代タクシーについては技術面だけではなく、今後のタクシーがどう変わるべきか、また、タクシーで実現したい社会はどうなのかという3点のポイントが挙げられたので、それぞれ順に紹介していこう。

 最初はトヨタが次世代タクシーで実現したい社会についての説明から。2020年の日本では、東京オリンピック・パラリンピックの開催によりインバウンド需要の増大が予想されている。また、これからの日本は超高齢化社会と向き合っていくことも必要となる。高齢者、障がい者が健常者とともにいきいきと活動できる社会を実現するために「ユニバーサルデザインタクシー」の普及が必要で、それが日本のバリアフリー化を加速させていくことになると語る。そこでトヨタは、この次世代タクシーをユニバーサル化し、バリアフリーな街作りを目指すとのこと。

日本の超高齢化社会への対応、大柄な外国人の利用などを考慮。さらに親しみやすさとおもてなしの心、ひと目でタクシーと分かることなどを盛り込んでデザインしたボディ。乗り降りしやすさ、積載性のよさなども考えられている

 次に環境と安全について。トヨタでは長距離を走るタクシーだからこそ環境対応が必要で、乗客を乗せて走るだけに最も安全、安心なクルマでなければならないと考えている。そのために次世代タクシーではパワートレーンに「LPGハイブリッド」を採用した。これによって現行型のタクシー仕様車と比較して飛躍的にCO2の排出量を減らしている。そして安全性については衝突回避支援パッケージの「Toyota Safety Sense C」をはじめ、SRSエアバッグ、SRSサイドエアバッグ、SRSカーテンシールドエアバッグなどの安全装備の採用によって安心、安全な公共交通を作るということだ。

 最後に観光への寄与について。海外から訪れる観光客に対して次世代タクシーが提供するサービスにより、日本のおもてなしの心を感じてもらい、日本のファンを増やしていきたいと考えているということも語られた。

「みんなが乗りたくなる、次の次代を担える、持続可能な次世代タクシー」

 続いては次世代タクシー自体の内容に関する説明。タクシーの開発におけるターゲットとはタクシーの利用者、運転するドライバー、そして車両を所有する経営者の3者となる。次世代タクシーはこれらすべてのユーザーが満足するクルマにすることを目標として企画・開発された。

 開発当初、企画メンバーは日本各地のタクシー会社、福祉施設、有識者のところに足を運んで実態の調査と要望のヒアリングを行なった。加えて主要都市や観光地、被災地などでのタクシーの利用状況の実態観察、さらに実習生としてタクシーに同乗して、ドライバーの仕事も体感するということまで行なっという。粥川氏も実習生としてタクシーに同乗したとのこと。こうした取り組みから、次世代タクシーの企画チームは日本のタクシーになにが求められているかを探っていったのだ。

 そこで得た情報の一部も公開され、高齢者が従来のセダンタイプタクシーに乗り降りするときに苦労している光景を非常に多く見かけたそうだ。これは高齢者が外出をためらう原因にもなっているとのこと。そして車いす利用者がタクシーを使うシーンでは、車いす利用者、同行者、タクシー乗務員のすべての人が乗り降りで苦労をしていることが多数あったという。

 一般の利用者からの声についても数多くの意見、要望が聞けたという。例として挙げると、女性の不満で最も多かったのが加齢臭などの臭いや衛生面について。2位は乗り降りしにくいこと。3位は後席中央が狭いことである。

 男性からの不満点の1位は後席中央の狭さで、2位が衛生的ではないこと。3位が古くさいということだ。また、タクシーに自転車やベビーカーを積むこともあるので、その点での利用しやすさについての意見もあったという。

 タクシーのドライバーから寄せられた意見では、まずは視界に関することだが、安全運転が求められるタクシーの運転においては視線移動が少ないフェンダーミラーが好まれていることのほか、最近増えている車道を走る自転車の存在が怖いので、死角をなくしてほしいという要望もあった。

 そして、利用者からの意見にも出ていた消臭への要望はドライバーからも出ている。内容の具体例としては、焼肉屋から乗ってきた乗客がいると独特の臭いが残ってしまうので、次の乗客の迷惑になっている。

 乗り降りについては、とくにシニア層の乗客に対応するにはスライドドアが適していることと、通常の乗り降りでもヒンジドアよりスライドドアのほうが車体を路肩に寄せられるので安全ではないかといった分析が挙げられていた。

 経営者の視点からは、タクシーの利用者が減少していることで営業収入が低下していることに加え、タクシー会社の原価構成は人件費に次いで燃料費が多いので、燃料費や維持費などのコスト削減が必要であることが挙げられていた。

 こういったさまざまな要素を踏まえて、ドアtoドアで移動できる公共交通であるタクシーがもっと活用できる社会にならなければ、超高齢化社会で大切な移動手段を失いかねないという恐れもあるだけに、集められた情報から企画の方向性を確認し、それにトヨタの技術を重ね合わせてできたのが「みんなが乗りたくなる、次の次代を担える、持続可能な次世代タクシー」であると総括された。

 最後に次世代タクシーの特徴について、写真と合わせてご紹介する。

ドライバーの操作しやすさを重視した次世代タクシーの前席。センターコンソールのドライバー側のみに日報など乗客の目に触れなくていいものを収納するスペースの開口部がある。助手席のヘッドレストは収納式で後席に座る乗客の前方視界を妨げないようになっている。ステアリングスポークの右手側にハザードランプのスイッチをレイアウト
タクシーメーターや領収書の発券機、電子マネーの読み取り機などを装備
乗り込みだけでなく、車内での左右の移動も楽な低床フラットフロアと大開口パワースライドドア。仕事場である運転席とは世界観を変えて「おもてなし空間」とした内装デザインになっている。足下スペースもかなり広い。前席との座席間距離はクラウンコンフォートと比べて+155mmの1065mmになっている。ルーフ高も高く、ヘッドクリアランスはクラウンコンフォートから+116mmの232mm。乗り降りに使うつり革も新開発したもので、握り心地や適正な反力など徹底的に研究したという。ちなみにまだ開発は続けられている
シートは前方に折り畳むことも可能。これは主に車いす利用者が乗車するときのシートアレンジとなる。車内の臭いへの対策としてnanoe(ナノイー)発生装置も搭載しており、読書灯、足下灯、USB端子なども装備する。上級グレードにはリアシートヒーターとサーキュレーターが追加される
トランクも広く、大サイズのスーツケースは平積みで2個。ケースを立てると大サイズが2個に加え、小サイズも2個入る。ゴルフバッグは4個入る。リアゲートはヒンジ位置をルーフ中心に寄せることで、開いたときの後方への跳ね上げスペースを減らしている。これによってスペースのない場所でもリアハッチを開けられるようになっている
車いすの乗り込み実演。助手席を起こし、積載している折りたたみ式スロープをセット。ドライバーが車いすを押して車内に迎えたあと、タイダウンベルトで車いすを固定。リアシートは分割可倒式なので、付き添いの人が車いす右側の座席に座ることも可能。スライドドアの開口幅はJIS規格の車いすの横幅に合わせるため、シエンタなどより広く開くようになっている
ドライバーからの意見を取り入れたフェンダーミラー。大型で死角が少ない構造。デザイン的も優れていて新しい世代のボディともマッチしている。標準車はミラーのボディは黒となる
リアウィンドウとハッチ部に小さい段が設けてあるが、これは外観デザイン上のポイント。実用的になりすぎずどこかクラシックでもあり、モダンさも兼ね備えるイメージを生んでいる。リアウィンドウ内側に後方に乗降中であることをアピールするサインも装備。このクルマは寒冷地仕様ということで、リアバンパーのセンター部分にバックフォグも備えている
パワートレーンのベースはシエンタの1.5リッターエンジンだが、LPG仕様への変更と耐久性向上が図られている。ヘッドのバルブシートは硬い材質に変えられ、カム駆動は直打式からローラーロッカータイプとなる。ピストン変更で圧縮比も落とした
ピストンとピストンリングも変更され、さらにPCV径の換気率も高めてデポジットを減らしている。また、EGRは廃止。制御系では燃焼のプレイグニッションを捉えるため、燃焼時にガス内にできるイオン成分を電気的に検知するセンサー内蔵プラグを採用している
一般のクルマとは使用するパーツが異なるが、エンジン組み立ては外注ではなく、トヨタのライン内で行なうとのこと。フロアには圧縮して温度が上がったLPGを冷やすクーラーもある。冷媒はエアコン用を使用
タクシー用ハイブリッドということで対策されているのがバッテリーの冷却系。シエンタ同様、助手席シート下にバッテリー冷却用のダクトがあるが、ここのフィルター交換が容易になっている。ハイブリッドシステムはシエンタ用をパーツ強度を高めるなどの対策を施して搭載。機能面で新しいところはないという
サスペンションのスプリングを比較すると、自由長、線径ともにサイズアップされている。これは耐久性を高めるための仕様とのこと。スプリングの種類は荷重軸線コントロールバネを採用し、足まわりのセッティングではタクシー専用に荷重軸線を最適化。ショックアブソーバーの取り付け角度も、設定されているタイヤサイズに合わせて最適化しているので、ストローク時の摩擦力も低減。これによって足まわりがスムーズに動き、乗り心地がよくなる
騒音対策のためボンネット裏にインシュレーターを装備。リアハッチには引き下ろし用のグリップが左右に用意されている。東京モーターショーで展示したときよりルーフ高が上がっているが、これはユニバーサルデザイン要件に合わせるための対策とのこと