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JALのビジネスクラスシート「JAL SKY SUITE」でル・マン24時間レースに行ってきた(後編)
ユノディエールは普段は対面通行?
2017年7月28日 00:00
世界三大レースの1つに数えられるル・マン24時間レース。24時間ひたすらサーキットを走り続けるという通常のレースにはないフォーマット、そして1周が13km強という超ロングコースであることにより、コースの途中で問題が発生するとピットに戻るのもひと苦労というその特殊性、さらには常設サーキットと市街地コースが合体したユニークなコースレイアウトなどが相まって“世界一過酷なレース”と言っても過言ではない。
今回筆者はそのル・マン24時間レースに初めて取材に出かけてきたので、その時の模様をお伝えしていきたい。前半の記事ではフランスまでのフライトでJALのビジネスクラス“JAL SKY SUITE"を利用したレポートをお届けしたが、後半はパリの空港からル・マンまでの交通手段、そしてル・マン市およびサーキットライフについて紹介していきたい。
パリからル・マンへの移動は、SNCF運営のTGVに乗ると約1時間で到着
日本からのフライトは、パリに複数ある空港のうちシャルル・ド・ゴール空港(3レターコードはCDG)に到着する。スターアライアンス系のフライトはターミナル1に、今回筆者が使ったJALなどそれ以外のフライトはターミナル2Eに到着する。CDGからパリ市内に出るには、CDGVALと呼ばれる空港構内の列車を利用してターミナル3へ移動して、そこから近郊列車”RER”に乗って移動する。料金は市内まで10ユーロで、そのチケットを利用してパリの中央駅まで移動する(待ち時間も入れてパリの中心地までだいたい1時間程度)。
パリの中央駅には西駅、東駅など複数の駅があるが、今回のル・マンへ向かうTGV(フランスの新幹線)に乗るにはGARE MONTPARNASSE(モンパルナス駅)から乗ることになる。と言っても、筆者も初めて移動することになるため、どこをどう移動してよいか分からなかった。このため、まずはスマートフォンのGoogle Mapsを利用してある程度のルートに当たりをつけて、その後その指示に従ってチケットを予約した。TGVのチケットは運営するフランスの国営鉄道(SNCF)が運営しているサイトで検索して購入することが可能だった。
なお、シャルル・ド・ゴール空港から直接ル・マンへ向かうTGVというのも本数は少ないがある。ただし、筆者が到着した時刻には、最後の電車がすでに出てしまったあとだったので、モンパルナス駅へ移動し、その後TGVでル・マンへ移動ということになった。
当初はPCのサイトから購入していたのだが、後にiOS(iPhone/iPad)とAndroid用のアプリがあることが分かったので、それを利用することにした。というのも、スマートフォンのアプリを使うと、それを利用して購入したチケットをeチケットとして利用することができるからだ(PCの場合は印刷して持って行く必要がある)。eチケットは車掌さんが車内改札に来たときでも、それを見せれば車掌さんがバーコードを読み取って確認するだけと非常に簡単だ。
しかも、このネット予約のシステムはなかなかよくできていて、モンパルナスにあったチケット販売機にこのバーコードを読み込ませたところ、そのチケットを紙のチケットにしたり、機械を利用して予約を別の電車に変更することもできた。今回筆者も予約していた電車の1時間前にモンパルナスについてしまったのでどうしようかと思ったのだが、この機械を利用して1本前の電車に乗ることができた。ただ、パリにあるこの機械は最新鋭らしく、ル・マン駅にあるチケットの機械では同じことができなかった。
ル・マン市内の移動はトラムかバス、タクシー。トラムに乗る場合にはチケットの刻印に注意
さすがフランスが誇るTGV。約200kmあるパリ~ル・マン間は約1時間程度であっという間に着いてしまった。ル・マン市内の交通は、公共交通機関はトラムないしはバス、タクシーとなる(Uberなどのシェアライドサービスはなかった)。
残念ながらGoogle Mapsではル・マン市の公共交通機関はトラム、バスともに検索されないので、自分で路線図などと照らし合わせながら解決する必要がある。このため、荷物を持ってホテルなどに移動する場合には、トラムよりもタクシーなどがお薦めだ。なお、ル・マン駅からサーキットのメインゲートまでは30ユーロ程度の料金となる。
慣れてきたら、トラムを利用するといいだろう。トラムはル・マンの中心部から、ル・マン駅、サーキットの裏側(といってもグランドスタンドまでは軽く数kmはあるが……)の駅まで通じており、1.5ユーロで乗ることができる。チケットは自動販売機で買うことができるのだが、注意したいのは日本と違って改札がないので、電車に乗るときはチケットを買うだけでなく、電車の中で刻印が必要になるということだ(刻印機が駅にある場合もある)。日本の鉄道で改札を通るのと同じ行為がこの刻印なので、乗ったらまずチケットに刻印をするということを習慣にしたい。
なぜ刻印が必要なのかと言うと、欧州の鉄道では改札がない代わりに車内改札があって、そのときにチケットを持っていなかったりすると高額の罰金を科せられる。また、チケットは刻印がされていないと“未使用”という扱いになるので、チケットを持っていないと同じ扱いになってしまうのだ。日本の鉄道で改札口がある環境に慣れてしまっている人はついついこの刻印を忘れてしまうのだが、上記のような事情なので、必ず刻印をするようにしたい。
なお、今回筆者はル・マン市の中心部に宿泊したが、当然のことながらル・マン24時間レースの週末は普段の数倍という価格になる。従って、報道関係者の中でも郊外に宿泊するという人も少なくないが、同じ値段で郊外の豪華なところに泊まるか、内容はそれなりだが近い方を選ぶかの2択になっているのが現状で、今回は近さを優先して後者を選んだ。ル・マン市はフランスの典型的な地方都市という趣でのどかな感じだが、ル・マン24時間レースの週は別で、街中に観光客だらけになり、夜になると酔っ払いなども増えるので、夜遅くはあまり出歩かない方がいいだろう。
サルトサーキットのミュージアムにはル・マン24時間レースの歴史が凝縮されている
ル・マン24時間レースの会場は、市の中心部から約5kmにあるサルトサーキットになる。常設コースとなるブガッティサーキットと公道コースを組み合わせたサーキットで、全長約13kmという1周の長さも特徴となる。このため、1度ピットを通り過ぎたあとにトラブルが発生すると、10km以上を走行しないとピットに戻って来ることができない。今年もトヨタの7号車、ポルシェの1号車がコース途中でトラブルが発生し、ピットに戻れずリタイアに終わった。いずれも通常のサーキットであればピットに戻れた可能性が高く、その意味でも過酷なコースレイアウトなのがこのサルトサーキットだ。
サルトサーキットのメインゲートは、メインストレートの近くにある。メインゲートの横には、ル・マン24時間レースのグッズを販売しているオフィシャルショップと博物館がある。
この博物館には過去にル・マン24時間を彩った多数のマシンが展示されており、それを見るだけでも十分楽しい。今年のレース中には、過去にル・マンで行なわれたF1レースの企画展示が行なわれており、その時代のF1マシンが展示されていた。ル・マンと言えばスポーツカーによる耐久レースが一般的だが、1967年には常設コースとなるブガッティサーキットにおいてF1 フランスGPが開催されており、そのときに走った車両が展示されていた。優勝したジャック・ブラバムがドライブしていたブラバム・レプコ、3位だったジャッキー・スチュワートのBRM、そのほかにも、ロータス、クーパー・マセラティなど、歴史の本でしか見たことがないような伝説のマシンが展示してあった。
もちろん、ル・マン24時間レースの車両も多数展示されていた。1991年に日本メーカーとして悲願の初優勝を実現したマツダ 787B、1994年に勝利に限りなく近づいたが惜しくも2位に終わったDENSO トヨタ 94C-V、ジャガー、プジョー、ポルシェ、アウディといったル・マンの歴史を彩った多数のマシンが展示されている。これを眺めているだけでも数時間は過ごすことができるので、ル・マンに行ったらここを訪問することをおすすめする、いや、必ず行かなければならないと強くおすすめしておく。
金曜日などは一般道として解放されているユノディエール
さて、すでに述べたとおり、ル・マン24時間レースは、常設コースのブガッティ・サーキットに公道コース部分を付加することで、サルトサーキットが構成されている。
つまり、レースが開催されていないときは、公道コース部分は一般道として開放されており、普通に自家用車で走行することができる。公道コース部分というのは、有名な全長6kmのユノディエールのストレートや、アルナージュからポルシェカーブといった、TVでもよく映るコースの一部を自分で運転して走ることが可能なのだ。
ル・マン24時間レースは、水曜日と木曜日の夕方から夜にかけて予選、土曜日の15時から日曜日の15時まで決勝レースというスケジュールになっており、例えば金曜日には公式スケジュールはないので、コースは一般道として解放されているのだ。
そこで今回は、レンタカーで来ていた中野カメラマンのクルマに同乗して、一般道で走れるところを走行してみた。写真で分かるとおり、ユノディエールは片側1車線の対面通行で、意外と狭い。しかも、このユノディエールストレートは普通の一般道なので、路面が結構歪曲しており、そこをレースのときはレーシングカーが300km/h以上でぶっ飛ばしていくのだから、レーシングカーで走ったら相当恐いだろうなと感じた。
意外な発見としては、このユノディエールの入り口となる、テルトル・ルージュ・コーナーだが、そこには“テルトル・ルージュ”という名前の居酒屋があった。コーナーの名前はこのテルトル・ルージュから取られたということなのだろうか(もしかしたらその逆なのかもしれないが……)。なるほどなーとひとしきり感心した。
同じように、ミュルサンヌコーナー周辺の地名はミュルサンヌだし、アルナージュ・コーナーのまわりの地名もアルナージュだった。このように、コーナーの名前は地名からついているのね、というのが新しい発見で“へー”ボタンを100回押したい気分だった。
現地では同じように考えるお仲間が多いようで、特にユノディエール・ストレートの途中にあるシケインでは、クルマや自転車を止めて撮影している人が多かった。確かに、コースで写真を撮るのはインスタ映えしそうだと感じた。
グランドスタンド裏にはミニカーやウェアなどの物販店が並んでいた
サルトサーキットでの楽しみは、1つには先ほど紹介した博物館なのだが、もう1つ挙げたいのはショッピングや企業の販促ブースだ。
グランドスタンド裏にはたくさんの物販ショップが並んでいる。サーキットではお馴染みレーシングチームのウェアや帽子、さらにはレーシングカーのモデルカーなどが所狭しと並んでおり、そうした趣味の人はそこを歩くだけでも数時間は楽しめそうだ。中にはアイルトン・セナグッズショップもあって、「F1じゃないのになぜ……」と思ったのだが、よく考えたらLMP2にセナの甥にあたるブルーノ・セナ選手が出場しており、そのためだと分かった。
パドック側にも一般客向けのエリアが用意されており、そこには自動車メーカーやタイヤメーカーなどによるプロモーションブースが出展されている。もちろん、ポルシェやトヨタ、ミシュランといったWECに参戦している自動車メーカーやタイヤメーカーなどのブースが用意されており、ポルシェでは半分レゴのPorsche 919 Hybridを展示していたり、トヨタではタイヤ交換の体験コーナーが用意されていた。
しかも面白かったのは、ル・マンには出ていないテスラ、ホンダといったブースも用意されており、それぞれ自動車を展示したりしていた。ホンダでは発売されたばかりの「NSX」や、これから日本でも販売が始まる新型「シビック TYPE-R」などが展示されており、シビック TYPE-Rに関しては実際に触れることができた。このほか、将来ル・マン24時間レースに参戦する予定の、バッテリー交換型EVとなるパノスGT-EVのモックアップが展示されていたり、ルイス・ハミルトン選手が声で説明してくれるメルセデスF1のシミュレータが有料アトラクションとしてあったりと、色々楽しめるなという印象だった。
さまざまな観戦スタイルで楽しんでいる観客。夜中も観客がレースを楽しんでいた
そうしたル・マン24時間レースだが、ル・マン市内には十分な宿泊施設がないため、多くの観戦者は近郊に宿泊してクルマで通うか、クルマでやってきて駐車場でテントを張って宿泊というのが一般的な観戦スタイルのようだ。このため、駐車場にはテントが多数並んでいるし、グランドスタンド裏のショップにはアウトドアグッズが多数販売されており、足りないものはそういうところで入手してテント生活というのが多いようだ。また、キャンピングカーも数多く見かけたので、ヨーロッパの各地からキャンピングカーでやってきて、そこで過ごしながらレース“も”観戦というのがこちらの人のスタイルであるようだ。
ル・マン24時間レースは、当たり前だが24時間やっているので、夜になると真っ暗になった中でレースが行なわれている。じゃあグランドスタンドはどうなっているのかというと、実はそれなりに人はいる。写真はトヨタ7号車、トヨタ9号車が相次いでリタイヤした日曜日午前2時頃の様子だが、まだまだ人は多い。このあと徐々に人が減っていき、朝になるとほとんど人はいなくなった。つまり、みんな夜明けごろまでサーキットにいて、その後は自分のテントに戻ったり、ホテルに帰るなどして休んで、お昼ごろ、15時のゴールに向けてサーキットに帰ってくるというスタイルのようだ。
そして迎えたゴールの瞬間。結果はすでにお伝えしている(別記事参照)とおりポルシェが3連勝。初優勝を目指したトヨタにとっては残念な結果になったしまったが、24時間レースはレースをやる側だけでなく、レースを見る観客にとっても、そして24時間見続けなければならないメディアの関係者にとっても文字どおり耐久レース。そのため、レースがチェッカーを迎えたときのサーキット全体の不思議な一体感は、ここでしか味わえないものだと感じた。
レース終了後にはスタンドのお客さんなどもメインストレートに入って表彰台近くまでいくことが可能で、筆者はプレスルームから見ていただけだったが、それでも壮観だった。
多数のポルシェの旗に混じって日の丸の姿もちらほら……。もしトヨタが勝っていたら日の丸がその役割だったことを思えば、ぜひともトヨタにはすでに豊田社長が宣言されている(別記事参照)とおり来年も挑戦してもらって、来年こそ日の丸でメインストレートを埋め尽くしてほしいと願ってこの記事のまとめとしたい。