ルネサス、カーナビ向けSoC「R-Car」シリーズを発表
第1弾はミッドレンジ向け、高性能と省エネ両立でエコカー対応

R-Car M1Aと専用電源IC(右)

2011年5月サンプル出荷
サンプル価格:5500~6000円



 ルネサス エレクトロニクスとルネサス モバイルは2月16日、カーナビ用システムLSI「R-Car M1」シリーズを発表した。5月からサンプル出荷し、2012年6月から量産を開始、2014年に月産20万個の量産を目指す。サンプル価格は「R-Car M1A」が6000円、「R-Car M1S」が5500円、専用電源IC「R2A111301F」が400円。

 R-Car M1は、「システム・オン・チップ」(SoC)と呼ばれる製品で、様々な演算処理を行うCPUと、動画処理エンジン、2Dと3Dのグラフィックスエンジン、オーディオ用プロセッサ、MOSTやCANなどの車載ネットワークのインターフェイスなど、カーナビに必要な機能を1つのチップにまとめたもの。

 同社はこれまで車載情報端末向けに「SH-Navi」シリーズや、「EMMA CAR」シリーズをラインアップしていたが、R-Carシリーズはこれを統合した新シリーズとなる。

 R-Car M1はそのR-Carシリーズの第1弾製品。ミッドレンジのカーナビ向けで、今後R-Carシリーズからはハイエンド向けのR-Car H、エントリー向けのR-Car Eがリリースされる予定。

ボリュームゾーンのミッドレンジで世界シェア拡大
 同社は2月16日、都内で記者会見を開催し、R-Carシリーズの概要を説明した。

 今回発表されたR-Car M1には、CPUとしてARM Cortex-A9(800MHz)とSH-4A(800MHz)の2つを搭載した「R-Car M1A」と、SH-4Aのみを搭載した「R-Car M1S」を用意。45nmプロセスで製造される。

 同社MCU事業本部自動車システム統括部 自動車情報システム技術部の平尾眞也 部長によれば、ARMコアは同コアを前提としたGENIVI(MeeGo)、Linux、Androidといった組み込みOSの採用例が増えているためで、一方で、従来からあるSH系の資産を活かしたい顧客も多いため、2本立てになったと言う。M1Aでは、ナビゲーション処理などをARMコアが、マルチメディア系のリアルタイム処理をSH-4Aが担当。双方の処理能力を合わせると最大3.7GIPSとなり、同社のカーナビ向けSoCとしては最高性能となる。

 R-Carシリーズの特徴は、分かりやすいインターフェイスを実現するために「リアルでゴージャスなGUI」を表示できるグラフィックス性能や、フルHD動画再生も可能なマルチメディア性能を備える一方で、電気自動車やハイブリッドカーにも搭載できるよう消費電力を抑えたこと。また、カーナビメーカーが開発期間とコストを圧縮できるよう配慮されてること。

R-Car M1Aの仕様R-Car M1Sの仕様車載向けに必要なインターフェースや機能を搭載するほか、マルチメディアとグラフィックス性能を重視した。また電源ICとのセットソリューションで消費電力とコストを抑制している

 動画処理には同社独自の「VPU5HD2」を専用回路として搭載。H.264/MPEG-4 AVC、MPEG-4、VC-1、MPEG-2などの再生に対応する一方で、ソフトウェアで動画を処理するよりも、約92%消費電力を低減した。

 オーディオ処理にもやはり同社の専用回路「SPU2F」を搭載。MP3、AAC、WMAなどのフォーマットに対応し、さらに5.1chサラウンドにも対応する。消費電力はやはりソフトウェア処理よりも88%削減されている。

 グラフィック表示はPOWERVRのハイエンド回路「SGX540」を採用。ミドルクラスと言えど「リアルでゴージャス、分かりやすいGUIが求められている」ため、ハイエンド製品を搭載した。3D表示はもちろん、前席にカーナビ、後席に動画を表示するような2画面表示も可能になっている。

 これらのソリューションは同社の携帯電話やTV向け製品でも採用されているもの。クルマ以外の分野で作られた資産を流用することで、クルマ特有の部分だけ新たに開発すればよくなり、開発期間とコストの圧縮につながる。

 さらに、R-Carシリーズとタイアップして、専用電源IC「R2A111301F」を提供することも、消費電力とコストを下げている。

フルHD動画を再生する能力を持たせつつ、消費電力を削減5.1chサラウンドに対応しつつ、やはり消費電力を削減しているハイエンドグラフィックス回路を搭載することで、リッチな画面を実現できる
専用電源ICを用意した同社製の携帯電話向けやTV向けの製品との共通部分を持たせたことで、開発期間やコストを抑制できる

キーワードは“スマート”
 MCU事業本部 自動車システム統括部の金子博昭 部長は、「キーワードは“スマート”」とR-Carシリーズのコンセプトを説明。

 スマートとは、「地球環境やエネルギー消費の問題に対し、社会全体をネットワークでつないでCO2排出とエネルギー消費をミニマムにする」こと。ホーム、オフィス、クルマといったすべての領域で「“スマート化”が求められる」が、同社はそれぞれに最適化したソリューションが必要と考える。

 R-Carシリーズはその中でも、クルマに特化したソリューションとして提案。「スマートカー」には環境、安全、快適の3つの分野でのソリューションがあるが、R-Carシリーズはカーナビ、インフォテインメントといった「快適」領域のソリューションであり「ドライバーとパッセンジャーがいかに外界と情報を共有し、発信し続けられるか」を目指したものと言う。

 同社は車載半導体分野では世界第1位のシェアを誇るが、ボリュームゾーンと目するミッドレンジにR-Car M1をリリースすることで、さらなる世界シェアの拡大を目指す。

 なおR-Carシリーズのバリエーションは、エントリー向けが軽自動車を含めたエントリークラス向けで、コストダウンを目的としたもの、ミッドレンジ向けは現在のカーナビ/インフォテインメントに必要な機能のほかに、消費電力を下げてエコカー対応を謳うものになる。ハイエンド向けはこれに「“走る”“曲がる”“停まる”との連携するソリューション」になると言う。

自動車システム統括部の金子部長R-Carシリーズはハイエンドとエントリーにも展開する

【お詫びと訂正】記事初出時、R-Car M1AのARMコアをARM 9としておりましたが、正しくはCortex-A9となります。お詫びして訂正させていただきます。 

 

(編集部:田中真一郎)
2011年 2月 16日