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スバル「XV ハイブリッド」の生産ラインを見る

本工場、大泉工場、矢島工場の群馬製作所3拠点を公開

スバル初の量産ハイブリッド車となる「XV ハイブリッド」。独自のハイブリッドテクノロジーが注ぎ込まれている

 スバル(富士重工業)は、6月24日に発売した同社初のハイブリッド車「XV ハイブリッド」の生産ラインがあるスバル群馬製作所を報道陣向けに一部公開した。

 スバル群馬製作所は、群馬県太田市にある同社の自家用車を中心とした生産拠点。本工場と、その周辺にある矢島工場、大泉工場、そして北工場の4つの拠点で構成されている。今回見学ができたのは北工場を除く3個所。戦前の中島飛行機時代からの敷地を引き継いだ歴史のある工場で最新車両が生産される。

 現在、スバル群馬製作所で作られている車両は、レガシィ、インプレッサ、フォレスター、エクシーガ、スバルBRZ、トヨタ86の6車種。そのうち、本工場ではインプレッサ(XV)、BRZを、矢島工場ではレガシィ、インプレッサ(XV)、フォレスター、エクシーガを生産している。エンジンやトランスミッションは大泉工場でまとめて生産されている。

 生産車種が一部重複しているのは各工場の負荷を軽減するためで、たとえばフォレスターの受注が多い場合、矢島工場のインプレッサの生産量を減らしてフォレスターを増産したとしても本工場ではそのままインプレッサを生産し続けることができ、柔軟に対応できるという。

矢島工場にはかつて航空自衛隊で使用されていたT-1練習機が今のスバルを代表するクルマとともに展示されていた
群馬製作所で作られている車種
群馬製作所のビジョン

矢島工場

 最初に見学をしたのは矢島工場の第5トリム課と呼ばれる場所で、同工場内ではフォレスターとインプレッサの組立を担当している部署だ。ここでXV ハイブリッドの組立も行われている。スバルでは工場のラインは混成ラインとなっており、1つのラインに1種類の車種ではなく、複数の車種が同一のラインで流れてくるようになっている。

 そうした流れのなかで作業する際にミスを軽減する仕組みとして「部品指示ポカヨケシステム」というものが導入されている。これは車両ごとに必要な部品情報を無線LANで共有し、目の前に来た車両にどのパーツを付ければよいかが作業者に一目で分かるようになっているもの。車両にはあらかじめその仕様データを納めた端末が取り付けられており、車両が作業エリアに入ってくると、必要なパーツが入っている棚のランプが点灯し、どれを取り付ければよいかが一目で分かるようになっている。

 ここでは、XV ハイブリッドにハイブリッド走行用のバッテリーを取り付ける様子や、エンジンを取り付ける様子を見学することができた。

XVハイブリッド用のニッケル水素バッテリー
エンジンユニットと接続するためのコネクター
搭載予定の車両が到着するとバッテリーを吊り上げセッティングを開始
「部品指示ポカヨケシステム」の端末
車体の上に突いている白い小さな箱状のものがその車両の仕様を記録しているユニット
パーツの置いてある棚にランプが設置されており、車上の情報ユニットから得た情報によって必要なパーツの棚が光るようになっている
後部のトランク下にバッテリーが搭載される。エンジンへの配線は別の工程で行う
ここで車両の下にバッテリーとハイブリッドエンジンを繋ぐケーブルを設置する
オレンジ色のケーブルがバッテリーの接続ケーブル
配線開始
ケーブルを仮止めしたあと、電動工具で固定
あっという間に設置が完了した
エンジンの取り付け工程
自動化された台車で続々と運ばれてくるエンジン。残念ながら時間の都合で見学ができたのは通常のガソリンエンジンの取り付けのみ
搭載予定の車両が到着
台車がジャッキアップして定位置にエンジンを持ち上げる
作業員が手慣れた様子で組み付けていく。1台あたり1分程度で作業を完了していた

大泉工場

 大泉工場ではエンジンやトランスミッションの製造工程を見学した。まずはダイカスト工場でアルミインゴットからエンジンケースやシリンダーブロックなどをアルミ鋳造によって生産する工程だ。ここではアルミのインゴットを急速溶解炉を使い、摂氏760度の温度で加熱、溶解させる。これをダイカストマシンを使って高圧で鋳込み、冷却。その後機械を使って大まかに湯道(バリ)を取り除く。その後は人間による手作業で細かいバリや液漏れの有無などをチェックし、微調整していく。

山積みされたアルミインゴット
アルミの急速溶解炉。760度の温度で加熱・熔解する
溶けたアルミから不純物を取り除く
ダイカストマシンでアルミが流し込まれる鋳型
鋳造されたシリンダーブロックのライン
鋳造されたシリンダーブロック。この状態ではまだ大きなバリなどが残っている
ロボットアームでマシニングセンタにセット
マシニングセンタで大きなバリを除去する
最後は人間が目視で確認しながら細かいバリを除去し、液漏れなどもチェックする

 次はトランスミッション系の製作工程。ディファレンシャルギアに使われるハイポイドギアの製作の様子や、ラッピング研磨の様子を見学できた。ハイポイドギアはグリーソン製の歯車製造機によって作られる。製造されたギアはラッピング研磨過程で一組にされ、組み合わせた状態で回転させながら研磨が行われる。この組み合わせはそのまま完成車まで変更されることはない。

 ラッピング後は最終チェックとなるが、ここでもやはり、最終的なチェックは人間が行う。実際に組み合わせた状態でギアを回転させ、噛み合い具合や異常音などの有無を熟練工がその目と耳でチェックする。同様のチェックを行うための機械もあるが、時間がかかり、結局は人間の手によって行うほうが速いのだそうだ。

XVハイブリッド用のトランスミッション
加工前のハイポイドギア
歯車製造機にセットされたハイポイドギア。右側が歯切り用の歯
これを歯と素材を高速で回転させながら歯切りを行う
完成したハイポイドギア
コンパウンドを塗布してラッピング研磨をする
ラッピング研磨が終わったハイポイドギア。この組み合わせは完成車まで維持される
最終チェックは人間が行う
実際に回転させて異常をチェック
手作業で微調整を加えていく

 最後はエンジンの組立行程を見学した。基本的にはこちらでも車両の組立時と同様に「部品指示ポカヨケシステム」が使用されている。エンジンパーツがラインで流れてくると、パーツが入った棚にあるランプが点灯して、組み込みが必要なパーツを作業員に指示してくれる。ここでは使ったパーツの数や作業員が行ったネジ締めの回数などもカウントしており、すべての作業履歴が蓄積されてるという。

 完成したハイブリッドエンジンは、実際にガソリンを入れて点火をするファイアリングチェックとモーター部分の動作を個別にチェックして、矢島工場に出荷され、それぞれの車両に搭載されていく。

エンジンの組立ラインの一部
エンジン組立行程の最終ラインでの作業の様子
ハイブリッドエンジンの動作チェックの様子。右側はファイアリングチェックを行うところ。左側ではモーターのチェックを行う
モーターチェックの様子

本工場

 本工場では実際のラインは見学できなかったが、戦前からほぼそのままの状態で残っている「本工場 本館」や、戦前の飛行機工場をそのまま流用した建物など、歴史的な価値のある建物を見学することができた。また、大泉工場内の資料館ではスバルの歴代エンジンも展示されていたのでその一部も紹介する。

本工場 本館。上から見ると飛行機のような形状をしているという。玄関の屋根がちょうど機首の部分に相当する
マンホールの蓋は「中島飛行機」当時から使われているもの
本館 来賓室。天皇陛下をお迎えしたこともあるという
本工場の一部は戦前からある建物をそのまま利用している。航空機の組み立て工場であった当時、この壁はスライド式の開閉扉になっており、この中から完成した航空機を引き出し、現在の大泉工場にあった飛行場まで移動させたという。その名残でレールも残っているが今はこの扉が開くことはない

スバル歴代エンジン

スバル 360搭載エンジン「EK-32A」。1959年(昭和34年)生産開始
スバル 1000搭載エンジン「EA-52A」。1966年(昭和41年)生産開始
スバル サンバー搭載エンジン「EK-32N」。1968年(昭和43年)生産開始
スバル R-2搭載エンジン「EK34A」。1971年(昭和46年)生産開始
スバル レックス搭載エンジン「EK21A」。1973年(昭和48年)生産開始
スバル サンバートラック搭載エンジン「EK23」。1980年(昭和55年)生産開始
初代レガシィ搭載エンジン「EJ22」。1992年(平成4年)生産開始

【お詫びと訂正】記事初出時、XV ハイブリッドの駆動用バッテリーをリチウムイオンと表記していましたが、正しくはニッケル水素となります。お詫びして訂正させていただきます。

(清宮信志)