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【特別寄稿】オグたんのホンダF1復帰フォローアップ会見リポート

「社長からのトップダウンでF1をやるようではレースに勝てない」と本田技術研究所の新井取締役

5月に本田技研工業 代表取締役社長 伊東孝紳氏、マクラーレン・グループ CEOのマーティン・ウィットマーシュ氏らによるF1復帰記者会見が行われた

 2015年からF1に復帰することを決定した本田技研工業。5月に本田技研工業 代表取締役社長 伊東孝紳氏、マクラーレン・グループ CEOのマーティン・ウィットマーシュ氏らが出席するF1復帰記者会見が行われた。

 そして6月14日に本田技術研究所取締役の新井康久氏、本田技研工業モータースポーツ部部長の佐藤英夫氏らによるフォローアップ会見が行われた。その会見に本誌で執筆中の小倉氏が出席したので、その模様を質疑応答形式で紹介する。

 なお、質疑応答に先立ち、新井氏による挨拶が行われた。その内容は以下のとおり。

本田技研工業 代表取締役社長 伊東孝紳氏(左)と本田技術研究所取締役の新井康久氏(右)。写真は別会見時のもの
本田技研工業モータースポーツ部部長の佐藤英夫氏(右)。写真は別会見時のもの

5月の記者会見には多くの報道陣が詰めかけた

 先日、私どもホンダは2015年よりFIAフォーミュラワン選手権に参戦することを発表させていただきました。おかげさまで、たいへん多くの皆様に支持していただき、うれしく思う一方でその期待に応えるべく身が引き締まる思いでございます。

 会見で(代表取締役社長の)伊東がお伝えしたように、ホンダは創業以来レースに参戦し、勝利することで成長して参りました。今回の目標はもちろん勝利することでありますが、同時に将来技術を切磋琢磨しながら開発するその過程で技術者が育っていくことを多いに期待しております。

 さて、来年より導入されるダウンサイジング過給エンジンやエネルギー回生システムなど、市販車の環境技術に呼応する新しいレギュレーションは、先進環境技術のリーダーたらんとするホンダの戦略に合致し、私どもにとって大変やりがいのある内容でございます。

 直噴やハイブリッド技術など市販車の技術をF1に活かすとともに、新しいレギュレーションのF1で培われる究極の燃焼効率の追求、超高速回転域での直噴技術、何よりも最後の1㏄のガソリンのエネルギーまで徹底的に使い尽くすエネルギーマネージメント技術は、将来的には市販車にも活かされると期待しております。

 かつての盟友・マクラーレンとタッグを組めるということは、技術者としてこれまで活躍を見てきた1人として、大変嬉しいことです。他チームからのオファーについては、まずはマクラーレンとともに成績を残せるように努めたいと思っております。

 ホンダはレースと並行し、市販車領域においてはNSXや小型スポーツモデルを開発しております。これらの活動で共通していることは、次世代技術の結集であるということです。レースの活動と市販車開発の連携を通じて、“技術のホンダ”を世界に示したと思っております。そして、新時代のホンダサウンドを轟かせるべく、これから開発を加速して参ります。ぜひご期待をしていただきいと思います。ありがとうございました。


質疑応答

──エンジンとパワートレーン開発は、どのくらいのフェイズまで進んでいるか?
新井氏:先日の発表から1カ月で、発表した段階でまだ基本的な設計をスタートしたばかりですので、これからといったところです。まだ形もありせんし、今はどういうレイアウトにするかとか、基本的な部分を一所懸命検討しているところで、「これから」という段階です。

──デザインのキーポイントと、いつごろ完成し、テストではどこのマシンを使って行うのか?
新井氏:今回のレギュレーションがエンジンだけではなく、排気熱の回収、それから機械的な回生システムが組み合わさってくるわけで、同時に並行して進めていかないと、なかなか日程的にも厳しいかなと思っております。そうはいっても、エンジンをちゃんとやらなければならないということで、レギュレーションの中で最大限の性能が出るように、エンジンのレイアウトを現在細かく詰めている最中です。

 エンジンに火が入って回り出すのは秋口くらいかなと。同時に色々なシステムをやっていますが、システムの技術的な難易度がまちまちなので、同時にそろって「はい、パワーユニットができました」となるのは、もう少し先だと思います。

 クルマでいつテストをするのかということですけれども、昨今のF1はクルマのテストの回数が限られておりますし、クルマでやるよりももっと効率のよいベンチでテストしたほうが性能の見極めも効率よくできるということで、ベンチ主体のテストが主流だと今は考えています。

──今回はエンジンだけでなくパワーユニット全体をということだが、すでに運動回生エネルギーのKERS(Kinetic Energy Recovery System)はコンビを組むマクラーレンも使っている。一方、新しく熱回生の部分がある。回生の部分については、どこまでをホンダが担当するのか?
新井氏:まずユニット全体は、エンジンも含めて私どもが担当します。ですからKERS、MGU-Hと言われている排熱回収システム、それから電気を溜める蓄電のシステム、この辺を含めてパワーユニットとしてホンダの担当で開発して参ります。

 KERSについて付け加えると、今までのKERSとエネルギーの量で10倍くらい違う(増える)ので、使い方も含めてまったくまっさらだなと思っております。この辺が、次の2014年レギュレーションのよいところなのかなと思っています。同時に、難易度が非常に高くて、いかに効率よくエネルギーを使って速く走らせるか、というとことだと思います。

──MGU-Hの開発が自社開発になるのか? ターボのコンプレッサーから、その同軸上に置かれるモータージェネレートユニットまで含めて自社開発ということになるのか?
新井氏:回転数が相当高いのは事実で、ただ回転の規制がありますので、今のレギュレーションでいくと(ターボチャージャーを含めたMGU-Hの回転数が)12万5000rpmということなので、意外に中途半端に高回転で中途半端に低回転ということだと思うんですね。そこが1つ技術的には難しいかな、と。ターボと組み合わせると、ターボにしては微妙に(回転が)低いかもしれないし、ジェネレーターにしてはちょっと高すぎるかなと。まあ、そこが技術的には大きな問題かなと思っております。もちろん協力していただく、開発していただくサプライヤーと一緒にやっていきますが、ちょっとサプライヤーの名前は控えさせていただきますが、すべての中身、細かいところまで自分たちだけでやっているわけではありません。

──直噴ターボ・エンジンは来年から国内でもスーパーフォーミュラとSUPER GTでも使い始めるが、やはりこれも高い燃焼マネージメントとエネルギーマネージメントとしている。来月(7月)からテストエンジンが走り出すとのことですが、その技術と今度のF1用の技術の相互関係性はあるか?
新井氏:直噴ターボということなので、基本的なコンセプトは同じです。ただ、エンジンのボアとかが違いますので、燃焼の細かなコンセプト、燃焼室の設計とかは違いますが、基本的な考えとしては踏襲していくと思っています。共通要素は非常に多いです。開発チーム間で技術交流はもちろん、情報交換も密にやっております。そんなにリソース(人員)がたくさんいるわけでないのですが、分けてやってもコンセプト自体意味がないので、共通要素をみんなでシェアしながら進めていています。

──今回のプロジェクトリーダーは新井さんという解釈でよいか? ヨーロッパに拠点を構えなければならないと思うがどうお考えか? またコンサルタントとして、ジル・シモン氏がいるが、どういう立場で関わってきているのか?
新井氏:プロジェクトリーダーという言い方が正しいかどうか分かりませんが、今回のF1参戦の責任者は私が務めさせていただきます。現地でのいわゆる「監督は誰か」とか「テクニカルダイレクターは誰か」とかいうことにもなるかと思いますが、参戦体制についてはもう少し時間をかけて決めていきたいと思っています。現時点でいうと、私がF1の責任者ということと考えていただいて結構だと思います。

 ヨーロッパの拠点については必要だと思っています。開発は日本でやりますが、中心の半分はヨーロッパですから、拠点の準備をしなければいけないと思って、いくつか今考えているところです。

 ジル・シモン氏との関係ですけれども、コンサルティングを受けていて、実際にレギュレーションの詳細理解とか、そういうところを手助けをしていただいています。ただ、「社内にいるのではないか」という話もありますが、研究所の中で仕事をしているわけではありません。我々がミーティングをもって、いろいろ情報交換を密にさせていただいております。FIAでいろいろとレギュレーションを作っていったこともありますので、そういう意味ではなぜこのレギュレーションができているのか、どういう考えなのか、ということをちゃんと理解するためにも、ミーティングを持っています。

──FIAの技術部会のエンジン部会に、過去十数カ月間かホンダ関係者が出席していないと聞いているが、それは本当か? そうだとしたら、その理由は? ホンダ関係者が出ていなくても、ジル・シモン氏が出席しているのか?
佐藤氏:FIAのパワーユニットワーキンググループですが、10カ月くらいは確かにこれまでホンダとしては出席しておりません。今後は出席していく予定です。正式な要件参戦かどうかは分かりませんが、F1に参戦するにあたりそこに出席するのは必要だと考えておりますので、今後については参戦を表明いたしましたのでワーキンググループに参加していきたいと思っております。

──現在F1のプロジェクトに関わっている人数はどれくらいでしょう? 前回のF1参戦規模に比べての割合でもよいのですが
新井氏:ズバリ言いたいところですが、ちょっと数字はさし控えたいところです。前回と比べると参戦の形態がだいぶ違いますので、それなりの規模に少なくなっています。ただ、パワーユニットというとエンジン以外の部分があるので、そこで差し引きがあったりということもあって……。基本的には少なくなっています。

──コンピュータによる制御が大切になってくると思いますが、使うECUについては?
新井氏:今の段階で言うと、エンジン用のECUは供給されるものを使うと思っていますが、それはレギュレーションがどう動いていくか、というところです。逆に、他のコントローラーは自分たちで作らなければならないものもあります。これをどこまでやるかはこれからですし、今のレギュレーションがどこまで続くかも分からないので、そういう意味では開発は結構大変かなと思っています。現段階でのことしか申し上げられず、申し訳ないです。

──ドライバーについて日本人の起用が可能性は? 希望を含めてどう考えているか?
佐藤氏:ドライバーの決定につきましては、マクラーレンと話し合いをしながら決めていくことになっています。日本人ドライバーということですが、マクラーレン、ホンダともに「勝つ」ということを最大の目標と掲げておりますので、その「勝つ」ことを目標とした体制を考えています。その中の1つがドライバーであるということになってきます。ですから、ホンダとしてはもちろん日本人ドライバーが乗ってほしいという希望は持っていますが、「候補として日本人ドライバーの名前が上がってくる」ということを期待しています。

──現在行っているドライバー育成システムを、F1を目指すものに変えていく予定は?
佐藤氏:この時点で大きく変えていくものはありませんが、部分的に修正をしながらホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクトがもう少しF1に続くような見え方を考えていきたいと思います。

──今のF1のパワーユニットは空力が密接に関係してくるので、最終的なエンジンの仕様にマクラーレンの意見が入ってくるかと思う。仕様に決定の仕方については?
新井氏:2014年、2015年に関係なく空力特性は非常に重要ですので、パワーユニットの設計段階が一番重要だと思います。エンジンだけでなく、他の部品も付くわけなので、どれだけそこをコンパクトにまとめて、空力とバランスを取れるようにするかがすごく重要なので、基礎的なテストはたくさんしますが、クルマにしてからなんかやるというのではなく、ほぼシミュレーションで性能の9割、95%くらいまでを見極めてからクルマを作っていくということになると思います。実際の開発もそうなっていますので、パッケージ・レイアウトを初期段階でやって、空力設定とちゃんとバランスを取りながら、それらがシミュレーション上で動いていくという開発スタイルになるかと思います。

──2014年から新レギュレーションが始まるが、1年遅れて参戦するメリットとデメリットは?
新井氏:本当であれば、先日の発表の時に「2014年から」と言えば非常によかったのですが、いかんせんエンジン以外に色々なことをやらなければならないということで、時間的に厳しいというのが本音でありまして、いま鋭意努力をしているところです。

 レギュレーションが変わって1年目に出られないわけなので、メリットで言うと、シミュレーションや基礎テストを繰り返すことで、熟成できる可能性が高い。一方で、レースは現場で色々なことを学ぶことが多い。それを反映して次の仕様、もしくは何レースか後の仕様に反映していくということがあるので、その速いフィードバックができないわけですね。

 すると、現場から色々学ぶことができないということがあって、とくにレギュレーションが変わって各チームが手探りの中でスタートするわけで、そこから得られるものが我々は参戦していないので得られないということがデメリットになるかと思っています。ということで、どれだけ技術者として創造力を働かせることができるか、2015年に向けた準備ができるかどうか、そして技術者として創造力の豊かさが最後の勝負につながるではないかと思っています。

──今回の参戦はいつ決めたのか? マクラーレンから話がきたのか、それともホンダが出ることが決まってからマクラーレンがきたのか? ほかのチームとの交渉もあったのか? なぜ、マクラーレンを選んだのか?
佐藤氏:F1ということではなく、ホンダのモータースポーツ活動を将来を含めてどのように考えていこうか、どう参戦していこうかということは常に持っております。そういう中で、F1が2014年から大きく変わる、そのことから社長の言葉で“勉強中”ということになったと思います。

 その勉強を進める中で、ホンダの中でF1参戦の意思を固め、その上でマクラーレンに対してホンダの方からお話をさせていただきました。他のチームとの交渉は行っておりません。社内の中でも今回(F1に)戻るにあたって「勝てる」「できるだけ長く続けること」「F1の中からもホンダの存在が期待されるようにしていきたい」ということから、さまざまな体制を考えていきました。その中でもマクラーレンとはかつて組んでいたこともあり、マクラーレンの勝つということへの「想い」もよく理解しておりますので、マクラーレンにまずお話をさせていただいたということです。社内的にもマクラーレンというチームの実力と歴史は理解されています。

──開発の人数が少ないとのことだが、予算も含めて今後、増やしていきたいかどうか?
新井氏:人数が少ないと申し上げたのは、前回の第3期に車体まですべて“オールホンダ”でやっていたので、その意味での「少ない」という意味です。いま十分に足りているかということになれば人数は申し上げられませんが、要素が非常に多いので、適宜そこは必要なエキスパートを集める、もしくは社内で色々な開発をしていますので協力をしてもらうとか、ということでこれから進めていきます。

 まずは冒頭で言いましたように、エンジンを作っていくのが一番最初と思っていますので、そこに集中しています。これからシステムのテスト・設計が始まりますので、そこに対してはもう少し人が要るのではないかと。そこは私が責任を持って遂行していきたいと思っています。

──FIAはフォーミュラEも来年から始めるが、フォーミュラEではなくF1を選んだ理由は? 今後フォーミュラEに出場する可能性は?
佐藤氏:フォーミュラEについてはまさにこれから始まっていくところでして、その骨格というか骨子については、まだ勉強していないというところです。

 今回の2014年の(F1の)技術、新しい規則について、自動車メーカーとして大きな魅力を感じているというところであり、また、過去からの歴史もありますし、そういったところから2015年からF1に参戦するということを選びました。

──コントロールシステムの開発は難しい作業だと思います。マクラーレンのマーティン・ウィットマーシュ代表は、ホンダのスタッフがマクラーレンに常駐することになると言っていたが、マクラーレンとホンダは別々に働くのか、それとも1つのチームとして働くのか?
新井氏:コントロール・システムはすごく難しいですが、常駐するかどうかはまだ決まっていないですけれども、密な関係を保つことはもちろん大切だと思っています。先日の発表のときにマーティン・ウィットマーシュ氏から「TOGETHER」という言葉があって、ともにやるんだということで、我々はいま一緒にやっていますので、どこからどこがというよりも、お互いにアイディアを出し合いながら1つのチームとして活動していくのが、今回一緒に組んでいることの大きな方向性だと思っています。

──当初はマクラーレンへの独占供給か? 先ほどの佐藤さんの「F1界から望まれるホンダ」という言葉のように、カスタマー供給も視野に入ってくるのか?
佐藤氏:2015年についてはマクラーレンへのパワーユニット供給だけで、他チームへの供給は考えておりません。

 2016年以降につきましては、チームから要望があった場合、話し合いをさせていただきながら、複数チームへの供給を考えていきたい。そうすることで、F1の中からホンダの存在へ期待されるように、少しでも役に立てればと考えています。

 供給チーム数については、とくに今のところ考えておりません。

──ターボでは現在インディカーをやっているし、1988年に16戦15勝したのもターボエンジンだった。今回、ハイブリッドになることも含めてだが、この3種類のターボの違いを新井さんはどう認識されているか?
新井氏:F1の今回の新しいレギュレーションと、今まで私どもというか世界中、こんなに複雑なシステムでレースをやれることはなかったと思うので、そういう意味では明らかに違うエンジンと思っています。

 過給そのものの技術的困難さで言うと、同じような共通要素が非常に多いですね。たとえばノッキングです。過給すると必ずノッキング壁というのが出てきて、それをどう克服するのか。そのために直噴の技術が入るわけですけれども、直噴ですとバルブが開いているときに吹いていてもしょうがないので、非常に限られた時間にしか燃料を噴射できない。なのに燃料量はたくさん要求する。すると燃圧をものすごく上げるとか、そういう技術がたくさん必要になってきます。

 インディカーとWTCC、ターボの過給という意味では同じですけれども、とくに使っている回転域とか使う燃料、その辺が大きく違う。さらにF1は回生技術を2つ入れなければいけないということで、ある意味技術がてんこ盛りです。エンジニアとしては非常にやりがいがありますけど、きちんとシステムを組み上げるまで相当な難儀があるんじゃないかと思っています。まあ、そこがチャレンジしがいがあるし、私どもで言うと、量産車でハイブリッドなり色々な技術を出している中で言うと、そこの基本の技術はある程度手中に収めている気がしないでもないので、そこをこれから1年間かけてきちっとまとめ上げたいと思っています。

──第3期は休止ではなく撤退という表現だったが、今回復帰するに当たって社内では何をもってその考えを覆したのか?、経済的なものか、ギュレーション変更が最大の理由だったのか? 第3期にやり残したこともあると思うが、社内で「これだけはやらせてほしい」という希望はあったのか?
新井氏:「撤退」という言葉は非常に重いと受け止めていますし、今でもそう思っています。でも、あの時点であの言葉を使うというのは社内的にも意味があって、ホンダの置かれている当時の経営状況で言うと、社内的にも対外的にも撤退という言葉を使うような厳しい状況にあったので、あえて撤退という厳しい言葉を使ったのだと私は理解しています。たぶん社内のメンバーもそう思っていると思います。

 技術者としてみると、やはりそれは悔しい思いをしているわけで、ある程度形が見えてきてなんとなく「いけるのではないか」と思った矢先の撤退でしたから、エンジニアとしては非常に悔しいと思うんですね。ですが、その後引き取っていただいたチームが成績を残し、基本設計はホンダがやったのだと言っていただき、自分たちが技術としては達成しているのだという自負も持っているし、結果も出ているということでは、技術的にはある意味満足しています。ただ、自分たちでできなかったという悔しさずっと残っているので、そういう複雑な思いのままこまできているというのが正しい理解かな、と。

 社内は非常にレース好きが多いのでですね、そっちこっちでF1やろうぜとか(話題になっている)。色々なレースに参加していますが、いつの世でも、いつの時代でもやるんだ、というのがホンダのエンジニアの気持ちなんではないかと思います。たまたまではないですけども、環境技術が世の中で注目されている中でレギュレーションも変わり、技術的にもチャレンジしがいがあるということは、我々エンジニア側からも非常によいタイミングでありますし、今ここでやらなくてどうするんだというようなことが、社内の思いであります。

佐藤氏:今あったような技術的なところと経営的なところを勘案しながら、決定いたしました。リーマンショックは多くの自動車メーカーが経験しましたが、その後も東日本大震災やタイの洪水などホンダは大きなダメージを受けました。よって、量産車の開発を止めたものもありましたし、モータースポーツに関しても活動を縮小しておりました。結果的に総合力としてここまで回復しつつある中で、F1のレギュレーションが大きく変わり、エンジニアのそういった想いも含みながらここでまたF1に参戦しようと決めました。

──パワーユニット全体を開発するなかで、マクラーレンとの連携について新井さん以外、その上で全体を見る方は栃木研究所にいるのか? また、実際に2015年に供給するものができるのはいつごろになるのか?
新井氏:パワーユニット全体の開発で言うと、F1の今のプロジェクトは私が責任者を務めさせていただいています。ですから、私のところにそれぞれのパートの責任者がいる、という形です。

 いつから(エンジンを車体に)搭載できるようになるのかということについては、まず(今年の)秋ぐらいにエンジンを回すという段階で、来年ですかね。クルマの形になるのは、来年の後の方になると思います。そこまでは、システムとエンジンをくっつけたベンチでのテストが主流になるのではないかと考えています。

 (今年の秋に回すのは)2015年レギュレーションを反映した、一番最初のエンジンとなります。

──単気筒の初期テスト用のエンジンによるテストは?
新井氏:もちろん単気筒は実験的にやります。シミュレーションと単気筒を繰り返しながらやっていきます。単気筒ではレースにならないので、レース用のエンジン・ユニットとしてできるのが秋くらいということです。

──単気筒はすでにあるのか?
新井氏:今ちょうどテストをしなければいけない。まだできてませんけれども……、そんな段階ですね。発表してまだ間もなくて、非常にバタバタと頑張っている最中ですので、ぜひ応援をしていただきたいと思っています。

──その単気筒では、面白いことをやったりしているのか?
新井氏:まず、燃料コンセプトをきちんとまとめなければいけないので燃焼室の設計、ボアは決まっていますので、バルブのレイアウトと傾きとか、フュエルインジェクター(燃料噴射装置)の位置とか、色々な要素を単気筒で検討して、そのテスト結果をもとに数値を設定していくことになると思います。

──来年のレギュレーション改正のポイントである熱回生について、具体的にどのような方法を考えているか? 排気でタービンを回して電気を得る方法、温度差で電気を得る方法など色々あると思うが、どこに魅力があるのか? 他の参戦メーカーと考え方が大きく違ってくるのか、それともある程度同じようなものになるのか?
新井氏:方向性としては同じものになると思います。排気熱でタービンを回して、そこで発電するということですね。何が魅力的かと言うと、今までそういうターボ・コンパウンドと言われる技術ですが、言われていながらなかなか世に出てこない。そういう意味で、ここできちっとF1の世界でまとめられれば、将来につながるのではないかと私は思っています。

 排気の熱は空中に放出して、ほとんど何の役にも立っていない。最近は空力に使っていますが、市販車でも熱エネルギーを捨てているわけですね。それを回収できるということはクルマの効率を一気に上げる大きなチャンスで、熱をそのままエネルギーにするためにたとえば熱から直接発電するとか、水蒸気にして別の大きなコンプレッサーを回すとか色々なことがありますが、極めて現実的な技術ではないかと思っていて、将来的にそれが市販車につながるように開発していきたいと思っています。そのためのレギュレーションであると理解しています。

──量産車との技術の共通性も考えてのF1参戦と理解してよいか?
新井氏:「はい」と言うしかないですけれど、それでよろしですか?

──F1は大きなリソースが必要となるが、ほかのカテゴリーへの影響は?
佐藤氏:F1参戦によって、他のカテゴリーが縮小とか、参戦休止とかということはございません。それぞれのカテゴリーのレギュレーションが変わっていったり、ホンダとして参戦するリソースがなかったりしたら、そういう条件・状況になったら、ホンダとしてはF1とは別のところで考えることはあります。でも、F1(参戦)が要因で現在参戦しているカテゴリーを縮小、休止するということはございません。

──マクラーレンとはいきなり相思相愛状態だったのか? マクラーレンの反応は?
佐藤氏:マクラーレンがどうお感じなったのかは、ウィットマーシュさんに聞いていただくのがよろしいと思います。すみません。でも、過去の関係がありますので、ホンダに対する技術力やレースの対する取り組み、姿勢、考え方はご理解していただいていたと思います。

──市販車へのフィードバックの話があったが、マクラーレンの市販車へのエンジン供給の可能性は?
新井氏:それは私どもが決めるわけではないのでなんとも言えませんが、いまマクラーレンがスポーツカーを作っていらっしゃることは知っています。答えられるのはそれぐらいかなと。まあ、プライスレンジがだいぶ違ので、お話をいただいてから考えることになると思います。

──今回の参戦をマーケティング面で有効活用していくことは? 例えば、NSXのなどと
佐藤氏:営業で、ビジネスでの活用は結果がともなうということなので、まずは勝つこと、タイトルを獲る取ることを目指して全勢力を注いでいきたい。その結果を、いかにグローバルなホンダとして活用していくか、お客様のご期待に沿っていくかということは、これから広報、営業を含めて体制を組みながらと考えています。

──ウィットマーシュさんは、初年度から勝てるかというような具体的な話は出なかった。実際に技術的な目標としてどのように考えているか?
新井氏:もちろん参戦するということは、初年度から成績をちゃんと出せるように1年間、これから1年半くらいですが準備をするわけで、レースに出るときに勝てないつもりで出ることはないですね。そのつもりでいますし、その覚悟で今回開発をスタートしてるわけですから、皆さんの期待に1日も早く応えられるように、全力を尽くしていきたいと思います。

──2011年ころだったと思うが、高効率エンジンの基礎研究を始めて、それがGREになっていると思います。それがF1への勉強の一環だと理解してよいのか?それとも切りはなして考えた方がよいのか?
新井氏:たぶん、その開発をやっているころは、F1の新しいレギュレーションがはっきりしていたわけではないと思います。ただ、いま見ればやっている要素が役に立っているというのは事実です。レーシング・エンジンなので、どれだけ効率を最大限追求して、いいものを作るかという要素は共通していると思います。だだ、1つ1つの要素のすべてがF1と共通かと言うとそういうことはないので、まあ考え方だけかなと。今考えると、そういうことをきちっと蓄積していることが、これからの飛躍につながると考えています。

──今回の参戦の経緯ですが、研究所のエンジニアからの参戦したい、という気持ちが会社を動かしたのか? それとも、社長がトップダウン的に参戦しようと言ったのか?
新井氏:トップダウンでくることはないですね。我々研究所としては、いつだってやりたいわけです。F1をやりたくて会社に入ってきたというスタッフがたくさんいますから。そういう気持ちを最後は理解していただいて、押し切ったということで。上から落ちてきてやっているようでは、たぶん勝てないですよね、レースは。なにクソと思って、絶対に勝ってやるというのは、現場の技術で闘っている研究所の中から出てこないと、「F1の世界で勝利を目指しています」なんてことは言えないと思います。そういうことで、現場の我々からはっきりこうしてくれと言ったわけではないですが、空気を感じていただいたのだと思います。

佐藤:研究所の技術サイドの熱い思いと、私ども本田技研としての今後のモータースポーツをどうしていくのかという議論は常にしておりますので、そういう中で双方の想いをうまくまとめあげていったということです。

──コントロール制御技術が成績を決めるかもしれないが、今あるレギュレーションは自由度が高い部分があると思う。新井さんから見て、ここは突っ込めると思ったところは?
新井氏:ここでネタばらししますかねぇ(笑)。もうちょっとお待ちいただきたい。少なくとも、おっしゃるように制御技術がキーであることは間違いと思います。今までのKERSと違って、モーターでアシストする部分は、私どものフィット EVよりも大きなモーターになるわけで、想像していただくとそのくらいの加速力はオマケが付いてくる、しかも時間が長い。それをどこで使うんだ? その時のエネルギーはどうするんだ? というところが大事だと思います。まあ、これ以上言ってしまうとネタばらしになるので、ちょっと1年間勉強させてください。

──2016年から供給チームを増やすかもしれないとのことだが、メルセデスなどは3チーム供給しないと採算が取れないというようなことを言っています。長く続けるためには、そうした施策が必要になってくると思うが、そのためのロードマップの様なものはあるか?
佐藤氏:「ロードマップ」というと難しいですが、現在FIAと話している内容としては2015年は1チーム、2016年からは、チームからオファーがあれば複数チームと考えています。コストについては、今まさに開発中でして、それをカスタマーとして有償で供給するにも、まだ価格として算出もできておりませんでの、これから考えていきたいと思います。

──2018年から開発が凍結されるという話があるが、参戦の意義は失われないか?
新井氏:それは決まっているわけではないと思いますし、先のレギュレーションについては逐次議論はあります。ただ、F1は最高峰のレースなので、ある意味、技術競争の一番の舞台であるわけです。そこで開発を凍結するということは、その範囲にもよりますし、いまでも凍結している部分もあるわけですが、それがレースの魅力を失うかどうかというところがまず先なんだと思います。

 そこに我々として開発要素がないのであれば、市販車にフィードバックするものがなくなってまたかけ離れてしまうということで、今のレギュレーションを見ている限りそのような風にはなると思えないですが、こればっかりはこちらで決めるわけでもないですが、私どもとしては技術競争の中で市販車にフィードバックできることが重要だと考えていると申していきたいと思っています。

(小倉茂徳)