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夢が現実へと変わる記念すべき瞬間、国産初のジェット旅客機「MRJ」ロールアウト

YS-11以来、小牧空港に半世紀ぶりに新型旅客機が登場

2014年10月18日開催

ロールアウトした三菱航空機「MRJ」と開発関係者

 三菱航空機と三菱重工業は10月18日、三菱重工業 名古屋航空宇宙システム製作所 小牧南工場内で、新型国産旅客機「MRJ(Mitsubishi Regional Jet)」のロールアウト式典を開催した。小牧南工場は名古屋飛行場(小牧空港)に隣接しており、約50年前に戦後初の国産旅客機として登場した「YS-11」がロールアウトした場所になる。

 ロールアウト式典は、地元小学生による「大空賛歌」の合唱からスタート。その後、和太鼓による演奏が続き、三菱重工業 取締役会長 大宮英明氏が登壇し、挨拶を行った。

ロールアウト開始前はスクリーンにMRJのカスタマーとなった航空会社を掲示
1分前からカウントダウンを開始
地元小学生による「大空賛歌」の合唱
和太鼓の演奏
三菱重工業 取締役会長 大宮英明氏が挨拶

「今日の日本は戦後の貧しい時代から復活を遂げ、経済も発展し、世界中にメイドインジャパンの製品があふれている時代となりましたが、旅客機におけるメイドインジャパンは、YS-11の生産終了後、残念ながら約40年間途絶えておりました。国産旅客機の復活は、私の夢であり、三菱重工の夢でもあり、また、まさに日本の夢であると思います。しかしながら、夢を実現させることと、事業として成功させることは同じではありません。夢だけでは事業はできないのであります。この夢を実現させること、すなわち、国産旅客機を開発・製造・販売するためには膨大な数の障壁があります。」

「それ故、事業として決心した当時は、会社の屋台骨を揺るがしかねないほどのリスクを背負う覚悟が必要でありました。2008年春に三菱航空機株式会社を設立し、MRJを正式にローンチ。本格的開発・販売活動を開始してから、これまでの間さまざまな困難に直面してまいりましたが、これらを乗り越え、皆様にお披露目する日を迎えることができました。これも本日ご列席の皆様からいただきました、多大なるご支援・ご協力と、MRJ事業に携わるすべての関係者のなみなみならぬ努力のたまものと思っております。」

「まさに高い技術力で品質・安全性を追求するという日本のもの作りの英知の結晶と、国産旅客機事業の復活を実現したいという多くの人々の情熱が見事に融合したことにより、最高レベルの運航経済性と、最高レベルの客室快適性を兼ね備えた、世界に誇れるメイドインジャパンの製品が、ようやく夢から現実へと姿を変えようとしています。」

「MRJは世界最先端の空力設計技術、騒音解析技術などの適用と、最新鋭エンジンの採用により、大幅な燃費低減を実現しつつ、騒音・排出ガスも大幅に削減します。また、これら圧倒的な運航経済性と環境適合性により、エアラインの競争力と収益力の向上に大きく貢献いたします。」

「半世紀ぶりに日本が手がけたこの素晴らしい旅客機は、今後世界中のさまざまな国・地域で人々に受け入れられ、多くのお客さまの夢と希望を乗せて飛び回ることでしょう。私は自信を持ってMRJを世界に送り出せることを、大変誇りに思っております。それではいよいよ皆様の目の前に、MRJの美しい勇姿をお披露目し、夢が現実へと変わる記念すべき瞬間を皆様と分かち合いたいと思います。」

大宮氏の挨拶の後、MRJが姿を現した
MRJ試作1号機はMRJ90(JA21MJ)

 大宮氏の挨拶のあと、ロールアウト式典会場となった格納庫の扉が開く形でMRJ試作1号機が、開発に携わった人たちと姿を現した。MRJは92席の「MRJ90」(35.8×29.2×10.4m、全長×全幅×全高)と78席の「MRJ70」(33.4×29.2×10.4m)をラインアップするが、試作1号機として登場したのはMRJ90。登録番号は「JA21MJ」となっていた。

 MRJお披露目後は3人が登壇。空の交通を管轄する国土交通省からは国交副大臣 西村明宏氏、経済産業省からは小渕優子経産大臣代理として製造産業局長 黒田篤郎氏、MRJのローンチカスタマーとしてANAホールディングス社長 伊東信一郎氏が祝辞を述べた。

 西村国交副大臣は安全審査を行う国交省の重責を語り、国産旅客機であるMRJの安全は、「我が国が安全を保証する義務を第一義的に持っている」とコメント。MRJ開発にあわせて小牧空港に設置した、航空機技術審査センターは70人体制に増強。試験飛行に向けて厳しい安全審査を行っていく。

 経産省 黒田局長は小渕経産大臣の祝辞を代読し、航空機産業が日本の基幹産業に育つことの期待を述べた。

国土交通省 副大臣 西村明宏氏
経済産業省 製造産業局長 黒田篤郎氏

 MRJをいち早く発注。順調にいけば2017年第2四半期にMRJの初号機を受け取り、世界で初めてMRJを運航することになるANA HDの伊東社長は、「発注後はローンチカスタマーとして、三菱重工業が持つ最新技術をベースに、ANAが培ってきた運航・整備などのノウハウを提供することにより、その開発に貢献」と述べ、「ローンチカスタマーとしての誇りと責任を持ってMRJを世界中から信頼され、愛される航空機にしていく」との抱負を語った。

ANAホールディングス社長 伊東信一郎氏
MRJのANAカラーイメージ

 ロールアウト式典の最後は、三菱航空機社長 川井昭陽氏が「MRJの開発に向かって邁進していく」と挨拶。5人でおそろいのMRJジャンパーを着ての記念写真となった。

5人でおそろいのMRJジャンパーを着て、三菱航空機社長 川井氏が挨拶
スラリとしたシルエットを持つMRJ。全長の長いMRJ90のためか、とくにスマートに見える
ロールアウト式典終了後はMRJ見学。MRJのサプライヤーや、各国の航空会社代表、多くの政府関係者が訪れていたようだ
主翼取り付け部。直径の大きなエンジンを搭載するため、主翼の取り付け位置や胴体下面の処理に配慮。主翼の厚みも減らすことで空気抵抗の減少を狙っている。MRJでは当初CFRP製の主翼も検討されたが、アルミ製と比較検討した際に、それほどのメリットが見いだせず、アルミ製になった経緯がある。開発責任者の三菱航空機 執行役員 チーフエンジニア兼技術本部長 岸信夫氏は、その1つの理由としてこの薄い主翼付け根の構造を挙げており、このような形状の場合(曲率がきついため)CFRPのメリットがそれほどなかったとのことだ。MRJの特徴として、アグレッシブな設計を行ったため、その実現には定評のある技術を採用という傾向が見られる
MRJの優れた燃費効率を支えるP&W「PW1200G」エンジン。最前列のフィンの取り込む空気量と、燃焼に用いる後段の空気量の差をバイパス比といい、バイパス比が大きいエンジンが一般的に燃費に優れるとされる。また、ジェットエンジンでは、最前列のフィンの外周部での音速突破(角速度は同じだが、外周部では移動距離が長いため、速度が高い)による衝撃波の発生が問題となっており、このエンジンでは最前列のフィンをプラネタリーギヤ(ステップATの変速機構に使われているものと同型式)によって減速することで、大直径(つまりバイパス比の大きい)のフィンを可能としている。このようなエンジンをギヤードターボファンエンジンといい、P&Wのカタログ(http://www.pratt-whitney.com/Content/Press_Kits/pdf/ce_pw1200g_pCard.pdf、英文)によるバイパス比は9:1と大きな値を実現した。とはいえ、外周部での衝撃波発生をできるだけ遅らせるため、最前列のフィンは複雑な曲線を描いている
エンジン後部は空力上の重要ポイント。この複雑な形状も燃費効率向上、騒音低減に役立っている
MRJと特徴づける主翼のウイングレット。形状や構造をCFDなどで何度も解析して設計したという
翼端灯はLEDだろうか
MRJの機体後部
これは離陸時に機体後部が地面に接触しないようにする機構。オプション発注対象
前輪まわり
後輪(主輪)まわり。タイヤは前輪とともにブリヂストン製
試作1号機のため、さまざまな計測用の部品が取り付けられている。基本的にオレンジに塗られた個所は、試作機ならではの計測部品が取り付けられている個所になる
ロールアウト式典にはJAL(日本航空)の植木義晴 代表取締役社長も訪れていた。パイロット出身社長としても知られているが、MRJについて「よい飛行機」と述べるとともに、「10年若かったら飛ばしてみたいね」と語っていた
MRJのJALカラーイメージ

(編集部:谷川 潔)