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快適な空の旅を支えるJALのグランドスタッフに密着してみた
(2014/11/13 18:15)
飛行機を利用する際に必ず訪れるのが空港だ。仕事で必要に迫られている人、楽しみにしていた旅行をする人。そのほか、さまざまな想いで旅立つすべての人のスタート地点が空港であり、そこで日夜奮闘しているのがグランドスタッフだ。
JAL(日本航空)のグランドスタッフには、飛行機の運航を地上からサポートしたり、飛行機が安全に飛べるよう手荷物や貨物の搭載位置を調整したりするオペレーション部門と、カウンターやラウンジ等の利用者が直接接する機会の多い旅客サービス部門に大別されるが、今回は利用者にとってもっとも身近であろう後者の仕事を見学する機会を得たので紹介したい。
空の旅は空港のロビーから始まる
電車やバス、自家用車等で空港に着いたらまず向かうのが出発ロビーであり、チェックインカウンターだ。旅慣れしている人にとっては今やスマートフォンでも簡単に済ますことのできるチェックインだが、慣れない人にとっては他の公共交通とは少し違うこの手続きに「どこへ行けばいいのだろう?」「まず何をすればいいのだろう?」と、戸惑うこともあるのではないだろうか。そんな旅の始まりから無事に搭乗するまでをサポートしてくれるのがグランドスタッフの仕事だ。
まずはチェックインすることで旅が始まるわけだが、今回紹介する舞台、東京国際空港(羽田空港)は数多くのカウンターがや自動チェックイン機がズラリと並ぶ大きな空港だ。だが心配は無用。JALでは約1000名のグランドスタッフが在籍し、その対応に当たっているので安心だ。注意深く見ているとグランドスタッフは所定の位置に立っているわけではなく、常に人の流れや困っている人を探しながら積極的に動き、声をかけたりしていることが分かる。また、取材時はそれほど込み合った時間ではなかったが、JALでは混雑時にも極力メガホン等を使わず可能な限り利用者に寄り添い、個別に案内をするように心がけてるという。
チェックイン~手荷物の預かり業務
チェックインを済ませた利用客の中で、預ける荷物がある人は手荷物カウンター向かうのだが、ここの業務もグランドスタッフが担当する。自転車など大型の荷物からスーツケースなど、さまざまな荷物を安全に手際よくカウンターの後ろに設置されたベルトコンベアーに流していく。一見簡単そうだが、実は行き先の入ったタグを着けたキャスター付きのバッグを一定方向に揃えたり、ベビーカーを専用のビニール袋に収納したりと、そのノウハウこそが荷物を安全にかつ間違いなく目的地へ届ける出発点であり、また定時運航を支える大きなポイントでもあった。
JALスマイルサポートとは
グランドスタッフがさまざまな利用客の旅のサポートをする一方で、妊婦や赤ちゃん連れの人、高齢の人や子どもの一人旅などに対してJALでは「JALスマイルサポート」というサービスを用意している。
羽田空港では広いスペースの専用カウンターが設けられているので、上記に該当する人や怪我をしている人などは気軽に相談してみるのもよいだろう。なお、このカウンターでは、チェックインから手荷物の預かりなど保安検査場に入るまでのすべての工程をこの一個所で済ますことが可能だ。
保安検査場
さて、手荷物も預けたら次の手順は保安検査場での検査だ。といっても、利用者は機内に持ち込む荷物を機械に通してもらうだけだ。ただしこの検査場、観光シーズンなどは非常に込み合うので時間には気をつけた方がよさそうだ。羽田空港の場合、1つのターミナルに複数の検査場があるが、その混み具合はグランドスタッフが把握しているので搭乗ゲートを伝えれば適切な査場を案内してくれるだろう。
また、この保安検査場付近では随時アナウンスが流れている。「ご出発のお客様にご案内します。保安検査場通過の際には搭乗券、2次元バーコード、ICカードなどと検査場入口にあるピット端末にタッチしていただきますようお願いいたします。~(中略)~。また、搭乗口には出発時刻の10分前までにお越しください。定時出発への皆様のご理解とご協力をお願いいたします」というアレだ。ちょっと語尾が上がる、特徴のあるそのアナウンスを聞いたことのある人もいるのではなかろうか。実はあの声の主は、羽田空港内のグランドスタッフによるアナウンスコンテストの2011年優勝者のものなのだ。羽田空港第1ターミナルを利用する際は、気をつけて聞いてみてはいかがだろう。その声の主も当然今日も空港内のどこかで奮闘しているのだ。以上ちょっとした豆知識でした。
搭乗ゲートでの対応
保安検査を済ませたらいよいよ搭乗だ。搭乗口ではすでにグランドスタッフが準備を整え待機している。ゲートでのアナウンスを聞いていると、担当者が自分の名前を名乗り案内している。一人ひとりが責任を持ち業務に臨んでいる姿勢がそこに垣間見える。搭乗者はこの搭乗口で再度バーコード等をかざし、多くの場合ボーディングブリッジを通り機内へ進むことになるのだが、ここでグランドスタッフの仕事は終わらない。最初に済ませたチェックインの数と搭乗口でのチェックの数が合わないと、これがまた大変なのだ。JALでは出発時間の15分前までに保安検査場を通過し、10分前に搭乗口へとアナウンスしているのだが、実はこの時間が結構ギリギリの設定になっている。
例えばボーイング777で満席の場合、250人以上の搭乗者をこの時間内で機内に案内することで定時運航が達成されるのだ。しかしながら筆者の経験上、わりと頻繁に「福岡行き16時05分発323便ご利用のお客様はお知らせください!」などと走りまわるグランドスタッフの姿を見かける。時には個人名で搭乗予定者を探しまわる姿も珍しくないように感じているが、これは結構大変な事態なのだ。チェックインしていながら搭乗口に現れないのであれば、そのまま出発してもよさそうなものだが(実際、他の公共交通の多くはそうするだろう)JALはあきらめないのだ。それは「手続きしたお客様にはぜひ乗っていただきたい」「乗客の大切な時間を預かっている」という想いゆえに、こだわる定時運航との狭間でグランドスタッフは常に奮闘しているのだ。
ちなみにこのアナウンス、「行き先」「出発時刻」「便名」の順で語られる。便名が先だと分かりにくいとの判断で、もっとも伝わりやすい順番を考えこのスタイルになったそうだ。こういう一見些細なことでも非常によく考えられていて、すべての行動がこのような気配りの上に成り立っているからこそ快適な空港での時間が過ごせるのだと改めて実感した。
なお、グランドスタッフの一日の平均歩数は8時間で1万2000歩程度。厚生労働省が発表している2013年の女性の平均(6257歩)の2倍程度は歩いて(時には走って)いるのだ。
いよいよ出発
以上で業務終了といいたいところだが、グランドスタッフの仕事はまだまだ終わらない。ボーディングブリッジを通り搭乗者が全員機内へ乗り込むと、今度は客室乗務のリーダー、チーフパーサーに書類が引き渡される。この書類にはすでに機長にまで伝えてある乗員人数の最終確認版、そして機内での配慮が必要な乗客の情報などさまざまなことが記載されている。例えばあらかじめ体調がすぐれないと申告した人の情報や、ミルクを作るためにお湯が必要な赤ちゃん連れの方の情報など多岐に渡る。また、その書類には機内で原則名前で呼ぶことが定められているファーストクラスやクラスJの座席リストなども含まれるという。乗客に対する心配りの虎の巻が客室乗務員に託されるのだ。
そのサービス業務を客室乗務員にバトンタッチし、ここでグランドスタッフの仕事は「一旦」終了する。ちなみにドアが閉まった後、客室からは決して見えることはないボーディングブリッジから、これから飛び立つ機体に深々と頭を下げる姿は非常に印象的だった。
出発後
さて、飛行機が飛び立った後、グランドスタッフはまた各々の持ち場に就き次の利用者を待つわけだが、その間にもこれから到着する飛行機に体調不良を訴える乗客がいれば、その受け入れ対応に追われることとなり、休む暇もない。時には機内で嬉しいことがあった乗客のお祝いを到着までに用意した経験を持つグランドスタッフもいるようだ。空と地上を結ぶカンパニーラジオ(社内専用無線)では、安全運航のための情報や乗客の健康に関する情報のほかにも機長の判断の元色々とやりとりがなされているようで、空の旅を彩るためのその柔軟性が何とも嬉しい。
空港勤務ゆえ、空港内の美味しいお店やおすすめのお土産物を利用者に訪ねられるために、日ごろから空港内のすべてをチェックするよう心がけ、機材変更により元々指定していた窓側の席の変更を余儀なくされた乗客の怒りにも丁寧に対応しながらも、最終的には笑顔で空港を去られる姿を支えに日々の業務をこなしていると笑いながら話すグランドスタッフの近藤仁美さんは、「客室内でプロポーズに成功したお客様がいるとカンパニーラジオで伝えられ、到着時に花束を用意し祝ったこともあります。そのお客様に号泣された時にはこちらも感動しました」「(徹底したマニュアルがありながら)自分達がこうしたい、ああしたい、という気持ちを形にできる(のがグランドスタッフの)仕事です」と語ってくれた。
また、国内のグランドスタッフの教官でありながら自ら現場にも立っているという鍋嶋美希さんは「(自動チェックイン機など機械化されているところも多いが)機械にできないこと、私達だからこそできる寄り添い、おもてなしの気持ちをお客様にお届けしてJALはよかったなぁ、またJALに乗りたいなと思ってもらうことを心がけています」と語った。
困っている利用者を自ら探し、自ら寄り添い対応するJALのグランドスタッフ。名実ともに日本を代表する航空会社としての歴史を刻んできたJALが、ここ数年での紆余曲折を経て今目指している「顧客満足度ナンバーワン、愛される会社」は地上勤務においても、丁寧で一生懸命で手作り感あふれる仕事で支えていることを実感した。取材に対応していただいた社員の1人が「JALが残ってよかった、と思ってもらえるような仕事がしたい」と語っていたのが強く印象に残った。