SUPER GT300クラスに参戦する“痛車”を紹介【前編】 イカ娘 フェラーリ&初音ミク号 |
いまや痛車はSUPER GTの華。富士スピードウェイで開幕した2011年シリーズにおいては、GT300クラスに出走する22車中の5車、つまり1/5強にさまざまなキャラクターをモチーフとした、いわゆる“痛車”と呼ばれるカラーリングが施されていた。昨年も定番コンテンツとして「初音ミク」そして「エヴァンゲリオン初号機」の2台が出走していたが、エヴァンゲリオンレーシングが初号機に加えて「弐号機」の投入を発表したのを皮切りに、2010年のスマッシュヒットでアニメの第2期制作も決まった「侵略!イカ娘」が、サーキットへの侵略を開始するという。
また、開幕直前の4月には、ライトノベルとアニメを中心に人気を集める大型コンテンツ「涼宮ハルヒ」をテーマとしたハルヒレーシングの参加も発表されるなど、サーキットを舞台にしたキャラクターコンテンツが注目を集めている。開幕戦に出走した4チーム5台を、前後編に分けて紹介しよう。
左上から、27号車「PACIFIC NAC イカ娘 フェラーリ」、4号車「初音ミク グッドスマイル BMW」、2号車「エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電」、7号車「エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTION」、34号車「ハルヒレーシングHANKOOKポルシェ」。この5台を、前後編に分けて紹介していく |
触手ならぬドアをいっぱいに広げた「PACIFIC NAC イカ娘 フェラーリ」 |
■みんなでイカ娘フェラーリを応援しなイカ? ファンには嬉しい聖地巡礼も
サーキットへの“侵略!”というフレーズが見事にマッチしているのが「PACIFIC NAC イカ娘 フェラーリ」だ。名称のとおり、フェラーリF430にイカ娘のカラーリングが施されている。モータースポーツファンならずともフェラーリと言えば“赤”の印象が強いが、車体のベースカラーは白で、両サイド、ボンネットを中心にイカ娘が、そしてルーフにはタイトルロゴが描かれている。
このイカ娘だが、昨年のアニメで大ブレイクして一躍人気キャラクターとなった。作品名は「侵略!イカ娘」。原作は週刊少年チャンピオン(秋田書店)における同名のコミック連載で、現在も連載が続いている。2010年10月から3カ月にわたって全12話が放映されたアニメは、同クールでは1、2を争う人気を集めたと言ってよい。
あらすじは、海洋汚染を続ける人類を侵略するために地上にやってきたイカ娘が、上陸地点となった海の家の一部を破壊するものの、侵略どころかその代償に海の家で働かされることになるという“ほのぼの侵略コメディ”である。なによりもイカ娘の使う「侵略しなイカ?」「そのとおりでゲソ!」といった、語尾にイカ、ゲソを付ける言葉遣いと明るいキャラクターが大いにうけて、ファンの間ではTwitterや日常会話でも使われている。
SUPER GTへの参戦は、この大ヒットとアニメの第2期(続篇をこう称する)制作発表を受けたプロモーションの1つで、エントラントであるLMP MOTERSPORTSの公式応援サイト(http://www.lmpcars.com/motorsport/system/2011/)にはアニメ公式サイトへのリンクバナーも用意されている。何よりこの公式応援サイトにアクセスすると、イカ娘が「SUPER GTシリーズを侵略するでゲソ!!」と宣言してくれるので、例えアニメ未見の読者であっても、一撃でその概要を把握できるはずだ。ただし、あまりにも声高らかに宣言してくれるので、職場でサイトを見るときには少しばかり気をつけよう。
ボンネットに描かれたイカ娘。痛車かイタ車かイカ車なのかは意見の分かれるところ | ルーフには、応援に訪れた原作者の安部真弘(あんべまさひろ)氏による直筆サインも! | 地上のみならず、サーキットまで侵略にやってきた「PACIFIC NAC イカ娘 フェラーリ」 |
イカ娘フェラーリには、痛車チームではおなじみの個人スポンサー制度が用意されている。詳細は前述した公式応援サイトが詳しいが、1口3000円から参加でき、3口までの参加口数に応じて特典となるステッカー、ワッペン、パスケースやタオルマフラーなどの各種応援グッズがプレゼントされる。もちろんスポンサーとして名前が(ハンドルネームでも可)公式応援サイトの特設ページ、レース時のピット内ボードなどに掲出されるという。別途フィギュアコースのスポンサー制度もあり、こちらはオリジナルのイカ娘フィギュアがプレゼントされるもの。一般的にキャラクターフィギュアは受注生産が中心のため、このフィギュアコースのみ受付〆切を5月末日に予定している。
個人スポンサーに加えて、イカ娘フェラーリならではと言えるのが「プラチナVIPチケット」の存在だ。これはサーキットへの入場券、パドックパス、グリッドパスをセットにして、さらにピット裏でのお食事権を付けた特別チケットとなる。食事“券”ではなく食事“権”であることがミソで、なんと食事のできる場所は作品の舞台となる「海の家れもん」。ピット裏に特設されているのだが、これが写真のとおりに見事な出来映えで、今回ひと目見るなり「完全に一致!」とつぶやいてしまったほど。
看板の書体、メニューの並び、柵の格子までが劇中そのままで、ここで食事できるのはファン冥利に尽きる(かも知れない)。ちなみに供される食事はお弁当とお茶。海の家での食事に多くを求めてはならないのはお約束である。
ピット裏に出現した「海の家れもん」。看板から柵の格子まで劇中とまったく同一だ | ピットウォーク中に行われていたドライバーチェンジ、タイヤ交換、給油の訓練。「プラチナVIPチケット」ではこうした様子も間近で目にすることができる | チームのレースクイーンは、PACIFIC RACINGに所属するパシフィック・フェアリーズが務める。特にイカ娘のコスプレなどは行わないとのこと |
このプラチナVIPチケットの価格は2万7000円。一見するとお高く見えるが、前述のとおりこれには2日分(予選日・決勝日)の入場券、パドックパス、グリッドパスが含まれている。開幕戦が行われた富士スピードウェイの場合、これらの総額は1万8500円となるので差額は8500円。これがお弁当、お茶、そして当日のサプライズ分にあたる。
チームの記念撮影。中央がチームの監督兼アニメ監督の水島努氏。その右側にアニメでイカ娘を演じる声優の金元寿子さん、そして原作者の安部真弘氏 |
開幕戦ではそのサプライズとして、アニメでイカ娘役を演じる声優の金元寿子(かねもとひさこ)さんがスペシャルゲストでサーキットに来場し、ファンの前に姿を見せた。サプライズは必ずしも約束されたものではないし、今回の決勝当日は強風と荒天のために残念ながら海の家れもんの看板も撤去されてしまったわけだが、ファンなれば“聖地巡礼”として足を運ぶ価値も十分にあるだろう。プラチナVIPチケットは、マレーシアのセパンで開催される第3戦と、11月に富士スピードウェイで開催される特別戦を除いたすべてのレースで各20席が販売される予定。現在は5月21日、22日に岡山国際サーキットで開催される第1戦(震災の影響で本来の第1戦が延期されている)のチケットが購入できる。
チーム概要はレース本編記事が詳しい。オーナードライバーである山岸大氏と、山内英輝氏の2ドライバー構成で参戦する。しかし、本稿で注目すべき点はチーム監督を務めるのが、侵略!イカ娘のアニメ監督である水島努氏というところ。水島氏は大のモータースポーツファンで、自らもカートなどを嗜んでいるというサーキット経験者。
チーム関係者によると、決してお飾りのような監督ではなく、開幕戦のように天候によって微妙なタイヤチョイスが必要な局面においても、最終決断は自ら責任をもって判断を下す立場にあるという。チームの人員を管理・運営して適切な指示を下すという点では、レーシングチームもアニメの制作チームも本質的には変わらないとのこと。ちなみに決勝前日のミーティングでも「(スペアマシンの用意されないSUPER GTだけに)安全運転で行け!」というありがたい訓示が行われたとも聞く。もちろん、本業であるアニメ監督としても、侵略!イカ娘の第2期を鋭意制作中である。
レース結果は関連記事のとおり。車両規定違反での繰り上がりがあったとは言え、予選結果はGT300クラスでなんと2位。決勝は他車のスピンに巻き込まれるといった不運もあったが、見事に10位完走を成し遂げた。マシンの戦闘力には期待できるので、イカ娘ファンもフェラーリファンも応援のしがいがあるというもの。特にスーパーラップ方式で行われる予選では、1台ごとのタイムアタックの際にテーマソングとともにマシンが疾走していく。サーキットに響き渡る“♪侵略!侵略!♪”で始まるオープニングテーマとともに疾走するイカ娘フェラーリの侵略っぷりを君も見に行かなイカ?
「初音ミク グッドスマイル BMW Z4」 |
■GT300のチャンピオンシップを目指す「初音ミク グッドスマイル BMW Z4」
突如侵略を開始したイカ娘に対して、事実上の参戦4年目シーズンとなるグッドスマイルレーシングによる初音ミク号。2009年まではメインスポンサーとして痛車のカラーリングを提供、2010年以降はグッドスマイルレーシング自体がチームオーナーとなってGT300クラスへの参戦を続けている。3代目となる初音ミク痛車のベース車輌は「BMW Z4 GT3」。今年度のチーム体制発表は、フィギュアやガレージキットなど造形物の祭典であるワンダーフェスティバルの会場で行われた。既報(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20110207_425541.html)のとおり、チャンピオンを狙えるチーム体制を構築するために、元F1ドライバーの片山右京氏をスポーティングディレクターとして迎え、チーム名は「GSR & Studie with TeamUKYO」、車両名が「初音ミク グッドスマイル BMW Z4」となっている。
ボンネットに大きく描かれた2011年バージョンのRACINGミク | 初音ミク グッドスマイル BMW Z4のコックピット |
ミク号のリアまわり |
4年目のシーズンともなれば、初音ミクファンばかりではなくレースファンへの認知度はかなり高いとも思われるが、簡単におさらい。元々はヤマハが開発した音声合成システム「VOCALOID2」を使って、2007年にクリプトン・フューチャー・メディアが発売した女声を合成するソフトウェア製品が「初音ミク」であり、その歌い手としてのバーチャルアイドルとして登場したのが発端。
それまでの音声合成音楽ソフトとは一線を画した使い勝手のよさとキャラクター性の高さから、黎明期だったニコニコ動画やイラストサイトへのユーザー投稿などを中心にブレイクした。また、早期にクリプトン・フューチャー・メディアがユーザーフレンドリーな二次創作のガイドラインを提供したことで投稿と人気に拍車がかかり、ファンが育てたキャラクターという意識も強く、人気の下支えとなっている。
2011年度におけるチームのテーマソングも公募によって選ばれており、ボーカロイド初音ミクによるオリジナル楽曲「Winning Road」(taka×3氏 作詞・作曲・編曲)が最優秀賞として選出された。この曲はスーパーラップ時のテーマソングとしても演奏される。
キャラクター造形物としては各社からライセンス商品が数多くでているが、特にグッドスマイルカンパニー(グッドスマイルレーシングの親会社にあたる)制作によるスケールモデル、各関節が稼働可能な「Figma」、デフォルメされた「ねんどろいど」などは、いずれも高いクオリティで人気を集めており、これらがグッドスマイルレーシングにおける個人スポンサー獲得の潜在的なベースとなっている。
レースクイーンはレーシングミクサポーターズとして活動。2011年版のRACINGミクをモチーフにした新しいコスチュームを身につけてサーキットに登場した |
ちなみに東日本大震災に際しては初音ミクをキャラクターにしたねんどろいどの応援ミクを企画。一体3000円(送料込)で受注販売し、うち1000円をチャリティーへとまわした。きわめて短期間ながら日本国内だけで約7万体を受注したとされ、正式なチャリティー総額は後日アナウンスされるが7000万円余りを関係団体を通じて寄付することになる。この成果は、震災直後のユーザーやファンの意識が非常に高い段階において、迅速にチャリティー企画を実現させた企業のフットワークの軽さを象徴する事例の1つと言えるだろう。こうした親会社とレーシングチーム、そしてファンが初音ミクによるレーシング活動を支えている。
個人スポンサー制度は3000円の漢(おとこ)コースから。オリジナルステッカーと個人スポンサーカード、チケットホルダーなどが入手できる。さらに10万円の漢前(おとこまえ)コースでは車輌へのロゴ掲載(小)、任意の1戦分のパドックパス(ペア)プレゼントなどが加わる。さらに30万円の超漢(ちょうおとこ)コースではロゴが大型になり、レース開催中のピット招待が追加される。ロゴは既定のサイズで自由に作ることができるほか、用意されたテンプレートに任意の文字を加えることで簡単に作成することも可能になっているという。ほか、共通の特典として公式サイト等へスポンサー名の掲示が行われる。個人スポンサー制度の詳細は、公式応援サイトを参照してほしい。
車輌へのカラーリングは2011年仕様に生まれ変わった。2009年までのBMWから2010年のポルシェへ、そして再びBMWということで、テーマは原点回帰。ベースカラーを白にしたうえ、イラストレーターの村上ゆいち氏描き下ろしのRACINGミクが両サイドとボンネットに描かれているという正統なる痛車仕様だ。ルーフには現在の個人スポンサー数と、漢前コースや超漢コースに参加したスポンサーロゴが描かれている。リアウイング上部にはグッドスマイルレーシングのロゴも加わった。
ルーフに描かれている個人スポンサー数。4月中旬時点で3670名にのぼる。超漢コースや漢前コースのスポンサーによる大・小それぞれのロゴも見える | チーム監督の大橋逸夫氏。「イカには負けません(笑)」とひと言。とはいえ、ニコニコ動画の番組で共演するなど、チーム間の交流も深いという | スポーティングディレクターを務める片山右京氏(中央)と、ドライバーの谷口信輝選手(左)と番場琢選手(右) |
ピットの雰囲気も華やかだ。ピットの壁面にもRACINGミクのイラストがデザインされていて、全体がコーディネートされている。またチーム所属のレースクイーンも、2011年版のRACINGミクをモチーフにしたコスチュームを身につけて、ピットウォークやグリッドウォークに花を添える。レース結果は予選4位とグリッド位置ではイカ娘フェラーリの後塵を拝することになったが、決勝では順位を逆転。今回出走した痛車のなかでは最上位となる5位完走を果たした。チャンピオンシップを狙う1年がスタートする。
ピットの様子。壁面のイラストをはじめ、給油機器、ボード類、レースクイーンの持つ傘などのすべてがRACINGミクのデザインでまとめられている | ピットウォークでも、「初音ミク グッドスマイル BMW Z4」の前は大人気だ | レースクイーンのコスチュームデザインは、このイラストを元に作られている |
左から、レースクイーンの立花サキさん、AYAMIさん、蒼井晴香さん |
後編では「ハルヒレーシングHANKOOKポルシェ」「エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電」「エヴァンゲリオンRT弐号機RIRECTION」を紹介する。
(奥川浩彦/Photo:矢作 晃/矢作 晃)
2011年 5月 12日