【詳報】ジャガー「Fタイプ」
第4世代ボディー採用で、よりピュアなスポーツカーに


 2011年秋に開催されたフランクフルト・モーターショーのジャガー・ブースを、コンセプト・モデル「C-X16」が華々しく飾ってからちょうど丸1年。そんなタイミングで開幕したパリのモーターショーでついに姿を現したのが、「Fタイプ」を名乗る“その市販バージョン”だ。

「クーペにすればより軽量にできる」
 C-X16で公表されていた「ホイールベースが2622mmの、オール・アルミモノコック式ボディを備える2シーターのFRスポーツカー」という内容は、Fタイプでもそのまま。ただし、こちらはご覧のようなオープン・デザインの持ち主で、来年春にローンチの予定というこのモデルにとって、そうした季節観を踏まえたよりタイムリーなボディー形態は、クーペよりもオープンの方であったという事なのだろう。

 もっとも実は、現時点でFタイプとして発表されたのはこのオープン・バージョンのみ。クーペの存在については公式には触れられていない。

 しかし、開発担当者にインタビューを試みると「クーペにすればより軽量にできる」、あるいは「ラゲッジスペースはオープンの2倍以上の容量を確保が可能」などと、妙に具体的なコメントが返って来るもの。「オープン・ボディーの方が剛性確保の難易度が高いので、こちらから手掛けておけばクーペ化は容易」というコメントも聞くことができた。

 さらに何よりも、C-X16がコンセプト・モデルながらクーペとして出展された事を振り返れば、「Fタイプにクーペが存在しない」理由など、もはや考えられないわけだ。

イアン・カラム氏

優雅なプロポーション
 往年のジャガー・スポーツカーからの歴史の連続性を彷彿とさせられるネーミングを与えられたこのモデルの第一のセールスポイントが、そのエクステリア・デザインにある事は疑いないだろう。

 現行のXK以来、XF、XJと最新ジャガー各車のデザイン開発を手掛けて来た同社のデザイン・ディレクター、イアン・カラム氏によれば、Fタイプもまた、75年の歴史を持つジャガー車ならではのスポーツカーである事を強く意識しつつ、新たなデザイン言語を具現化したものであるという。

 抑揚に富んだプロポーションを特徴づけるのは、「ハートライン」と呼ばれる2本の力強いライン。グリル両サイドの「サメのエラ」部分を分断するブレードを出発点にしてフェンダー上部に沿って流れ、ドアラインで下降をしてリアフェンダーに向けて消滅するのが1本目で、ドア後端から外側に膨らみつつ上昇し、後輪が駆動力をもたらす事を強調しながらテール部分を途切れる事のない曲線で包み込むのが2本目。

 そんなラインが優雅なプロポーションをより理想的に演じられるように、ドアハンドルやリアスポイラーには格納式のアイテムが用いられてもいる。

 一方のインテリアが目指したのは、「ドライバーを包み込むような、ドライバーのためのコクピット」。ドライバーズ側とパッセンジャー側は、コンソール部の特徴的なハンドルによって明確に分断され、左右非対称の“1+1レイアウト”を形成。戦闘機のコクピットにヒントを得たスポーツカーとしての機能性の高さが追求された結果、トランスミッションのポジションセレクターは昨今のジャガー各車が好んで用いるポップアップ式のロータリーセレクターではなく、敢えてレバー型のアイテムが採用されている。

 FRレイアウトの持ち主としての最適な前後重量配分を狙った結果、バッテリーはもちろんウォッシャータンクもリアにレイアウト。ただし、そうした事もあってかトランクルームは小さく、フロアにも複雑な突起があって、航空機機内持ち込みサイズのキャリーケース1個+プラスα分に留まるスペースは、パッケージング上の数少ないウイークポイントと認められる部分。

 実は、Fタイプはその開発にあたってポルシェ・ボクスターを強く参考にしたフシが伺えるが、ここに関しては前後にトランクスペースを備えるボクスターに大きく見劣りをする。それを踏まえ、「クーペ化の折にはどのくらいの容量が確保されるのか?」という質問に対する回答が、前出の「オープン比で2倍以上」というものであったというわけだ。

 

将来はMT仕様も?
 Fタイプに搭載されるパワーユニットは、デビュー当初は3タイプ。最高340PS、もしくは380PSを発生する3リッターのV型6気筒と、最高495PSを発する5リッターのV型8気筒で、いずれもメカニカル・スーパーチャージャーによって過給が行われる、アイドリング・ストップメカ付きの直噴ユニット。

 そんな搭載エンジンの気筒数は、6気筒がセンター2本出し、8気筒が両サイド4本出しというテールパイプのデザインの違いによって、外観からも知ることができる。

 トランスミッションは、トルコン式ATながらダイレクトな伝達感覚を売り物とする「クイックシフト」が謳われた8速仕様のみ。多段化の効果もあり、加速力の点でも燃費の点でも今やMTを上回る仕上がりを示すのが昨今のATだが、だからといってジャガーは一部のスポーツカー・ブランドのように、MTを“否定”してはいない模様。具体的な計画は明らかにしないものの、開発担当のエンジンニア氏は、将来的なMT搭載の可能性を否定しなかったからだ。

軽量・高剛性を両立した第4世代ボディー
 完全新設計のFタイプのハードウェア上の最大の見所は、ジャガー自身が「第4世代」と謳う、そのボディー構造にあると言ってよさそうだ。

 同じアルミモノコック式構造ではあるものの、現行XJが採用する“第3世代”に対してのアドバンテージは、例えばドア・インナー製造のための「温間成型」技術の新採用や、XJ用パネルと同等の仕上がりレベルを実現させつつ、より優れた成形性を備えた合金の採用などに代表される。

 そうした最新構造を用いた結果、ホワイトボディーの重量はわずかに261kg。さらに、ウインドーシールドや吸気システム、バンパービームなど周辺各部の軽量化に加え、トランクリッドを樹脂製にするといった工夫も実を結び、車両重量は1597kgからと1.6tを割り込む数字を実現している。

 一方、ここで見逃せないのはそうした軽量設計が、大幅な剛性アップと両立されている事。ボディー全体のねじり剛性はXKR-Sのそれよりも10%高く、また、フロント・サスペンションの取りつけ部横剛性は30%もアップ、という具合。「とにかく、剛性のアップには徹底的に拘った」というのがまた、Fタイプのボディーでもあるのだ。

 4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションはアルミニウム製で、ノーズ部分の軽量化のためにフロント・サブフレームにも合金を採用。ハイパワー版6気筒車と8気筒車は、ボディーコントロールの強化を狙ってより固めのダンパー・セッティングが行われると共に、そのダンピングレートの調整を1秒間に最大500回行う電子制御式の可変減衰力ダンパー「アダプティブ・ダイナミクスシステム」を採用する。

 LSDは、ハイパワー版の6気筒モデルにメカニカル式、8気筒モデルには電子制御式を標準採用。前者は主にハンドリングの向上、後者はそれに加えて際立つ大パワーエンジンを搭載するゆえのトラクション能力の向上も狙ったものだ。

 ブレーキも、エンジン出力に対応して3タイプで異なるキャパシティを採用。ハイパワー版6気筒モデルと8気筒モデルには、最大加速力を簡単操作で発揮する「ダイナミック・ローンチ・モード」も装備をされる。

ピュアなジャガー・スポーツカー
 これまで、XKというスポーツモデルをラインナップに加えて来たジャガー。そんなXKがグランドツアラー的なキャラクターの持ち主であったのに対し、Fタイプは「よりピュアなジャガー・スポーツカーである」とする。

 そんなFタイプに対して、開発グループ責任者の口から度々飛び出す事になったのは「高剛性を追求した、レスポンスと一体感に富んだ、動物のように俊敏なスポーツカー」というフレーズ。例えば、8気筒モデルでは0-100km/h加速タイムが4.3秒で最高速は300km/hといった際立つスペックを示しはするもの、「そうした数字はあっても、とことんレスポンスに富んでクイックな動きの実現こそが、ジャガーのスポーツカーならでは」と言う。

 ラインナップに並ぶ全てのモデルは、スポーツカーとしてのキャラクターを備えている――これが、昨今とみにジャガーが強調をする事柄。その頂点に立つピュア・スポーツカー「Fタイプ」のステアリングを握れる日が、本当に待ち遠しい!

 FタイプFタイプ SFタイプ V8 S
全長×全幅×全高[mm]4470×1923×1296
ホイールベース[mm]2622
前/後トレッド[mm]1585/1627
重量[kg]159716141665
エンジンV型6気筒DOHC3リッター
スーパーチャージャー
V型8気筒DOHC5リッター
スーパーチャージャー
ボア×ストローク[mm]84.5×8992.5×93
最高出力[kW(PS)/rpm]250(340)/6500280(380)/6500364(495)/6500
最大トルク[Nm/rpm]450/3500-5000460/3500-5000625/2500-5500
トランスミッション8速AT
駆動方式2WD(FR)

(河村康彦)
2012年 10月 5日