モリゾウ選手(豊田章男氏)が「86(ハチロク)」でラリーデビュー
ワルデガルド氏とTA64グループBセリカツインカムターボも登場!


初のラリー参戦を果たしたモリゾウ選手(左)と、モリゾウ選手と組んだ竹下紀子選手(右)

 愛知県新城市で11月3日~4日に行われた「TRDラリーチャレンジ Round5 in 新城」にモリゾウことトヨタ自動車社長である豊田章男氏が参戦。クラス8位、総合13位で完走を果たした。「TRDラリーチャレンジ」は昨年までトヨタヴィッツのワンメイクラリーであったが、本年より「ヴィッツ」以外のトヨタ車も参戦可能な「クラス4」を新設。モリゾウ選手はGAZOO Racingのトヨタ「86(ハチロク)」を駆りこのクラスへ参戦。初めてのラリーを完走で飾った。



人生初のラリー体験
 豊田社長は、今回同様モリゾウの名でニュルブルクリンク24時間レース等に参戦しているが、ラリー参戦は初めてとのこと。パートナーを組む竹下紀子選手は数々の全日本選手権を戦ってきたベテラン コ・ドライバー。朝のレッキ(コースの下見)の後、参加受付をすませ、スタート前のドライバーズブリーフィングに参加したモリゾウ選手は、当然ほかのエントラントと同じ扱いであり、本人もそれを望んでいるようにも見えた。

レッキ(コースの下見)から帰るモリゾウ選手参加受付コ・ドライバーはベテラン竹下紀子選手

 しかしながら、そこはトヨタの社長。ステージでのスピーチを促され、「自然に恵まれた新城の道がヴィッツで埋め尽くされ、朝のレッキ中の風景が気持ちよかった」と笑顔で語った。また、「こんな風にアチコチの道がトヨタだらけになれば私の笑顔もホンモノになる」と経営者としての本音ものぞかせた。

 大勢のラリーファンの見守る中スタートしたモリゾウ/竹下組は、オープニングのSS(スペシャルステージ)で3番手タイムを叩き出すものの、その後慎重な走りでトータル16.09kmを完走し、12台のエントリーがあったクラス4で8位の成績を納めた。また、1DAYイベントの短い時間だったが、モリゾウ選手もすっかりほかのエントラントととけこんでいたようだ。

ロールケージ、シート以外ほとんどノーマルのインテリアVSCはカットされている模様競技車輌ながらカーオーディオ付き。ほかに特別な装備は付いていないようだ
ゼッケン104はトヨタの10(ト)4(ヨ)を表しているが「タ」に当たる数字がないとモリゾウ選手は笑う朝のブリーフィング中ステージに呼ばれスピーチ
大勢のラリーファンの見守る中モリゾウ/竹下組スタート!!ギャラリーステージを走るGAZOO Racing TRD86ほかの選手と盛り上がる姿は、すっかりラリーストの仲間入り

 なお、このラリーは11月4日の1DAYイベントであるが、前日より行われていたJAF全日本ラリー選手権第9戦「新城ラリー」と使用会場・コース等を一部共用する形での開催であったため、モリゾウ選手は11月3日~4日の2日間、ファンの前でデモラン等を積極的に披露していた。

WRCチャンピオン ビョルン・ワルデガルド選手がTA64セリカツインカムターボで激走!
 TRDラリーチャレンジと並行して行われていたJAF全日本ラリー選手権第9戦「新城ラリー」のメイン会場では、国内外のトップドライバーによるデモランが2日間に渡り披露された。参加ドライバーはWRCチャンピオン ビョルン・ワルデガルド氏、昨年のパイクスピーク・ヒルクライム覇者モンスター田嶋選手、2度のAPRC(アジア・パシフィック・ラリー選手権)チャンピオンを獲得した田口勝彦選手、そしてトヨタ86のモリゾウ選手だ。そのほか、新城ラリーの勝利により3年連続全日本チャンピオンを決めた勝田範彦選手/足立さやか選手、クスコインプレッサを駆る柳沢選手らも見事な走りを披露した。

 メイン会場に設置されたフラットダートのみならず、SSにも使用された林道をも激走する御年68歳のビョルン・ワルデガルド氏。かつてWRCが怪物グループBマシンで争われていた時代、圧倒的な強さを誇ったランチア、プジョーを始めとする欧州勢に挑み、トヨタに勝利をもたらしたのが、ワルデガルド氏が駆るTA64セリカツインカムターボだ。今回のデモランのために日本に持ち込まれたのは、1986年アイボリーコーストラリーでの優勝車両。ドイツ人オーナー、メカニックとともに来日した。

イベントごとにどんどん上手くなるモリゾウこと豊田章男社長のデモランモンスター田嶋選手のマシンは圧巻のオーバー900PS!凄い迫力!
国内現役組も迫力のデモランを披露した。左から田口勝彦選手、勝田範彦選手/足立さやか選手、柳沢宏至選手

「FUN TO DRIVE, AGAIN.」
 1980年代中盤のトヨタの企業スローガンは「FUN TO DRIVE」。ちょうどグループBセリカツインカムターボでサファリ3連勝を果たした頃だ。そして昨年の秋より再びトヨタは「日本人の気持ちをもう一度ドライブさせたい」「もう一度、新しいクルマの楽しさを創造したい」という思いを込め 「FUN TO DRIVE, AGAIN.」というスローガンを掲げた。

 その翌年となる今年、86がデビュー。この新旧2台のトヨタのラリーカーがもたらすクルマの楽しさは、この新城の地で参加者、観戦者、そして関わった全ての人に十二分に伝わったのではなかろうか。国内モータースポーツ人気の低迷や国内新車販売の低迷が叫ばれる中、近年これほど会場のすべての人が笑顔に満ち溢れたイベントはそう多くないだろう。

 日本自動車工業会の会長でもあり、今や一企業のトップだけにはとどまらない豊田社長だが、柳沢選手のインプレッサに同乗し、激しいデモランでフラフラになった大村秀章愛知県知事と笑顔で交流。応接室などでは決して見られないラリー会場ならではの出来事だった。このような活動を通じて決してノスタルジーではない21世紀の 「FUN TO DRIVE, AGAIN.」をぜひ実現してほしいものだ。

ワルデガルド氏のデモランに同乗する豊田社長豊田社長を乗せたセリカツインカムターボが発進かつてのウイニングマシンと最新マシン
多くのファンとの距離の近さはラリーならでは
日本のトップ企業の社長と大村愛知県知事もラリー会場なら爆笑のご対面たった1台のマシンのためにドイツから来日してくれたオーナーとメカニックその実績も体格も超大物に囲まれご満悦の豊田社長

全日本ラリーとトヨタ86
 話題こそ大きく先行したものの、実はデビューしてまだ1年にも満たない86だが、全日本ラリーではすでに数多くのエントラントがこのマシンで参戦している。今回の新城ラリー/TRDラリーチャレンジを通じてその活躍を見てみよう。

 全日本ラリーで86は、排気量1500cc超~3000cc以下の車両がJN-3クラスとなる。トップカテゴリーのJN-4クラスはランサー エボリューション、インプレッサが凌ぎを削る(両車も2000ccだが、ターボ車のため排気量×1.7で計算され、3000cc超のJN-4クラスとなる)。

 86と戦うほかのクルマは、「インテグラ」「S2000」「111型カローラレビン」「セリカ」など現行モデルが極めて少ないクラス。今回は哀川翔選手率いるTEAM SHOWの2台の86が直前に出走を取りやめてしまったものの、このクラスの3割近くがすでに86となっている。

CUSCO ADVAN 86ベストカーウイズモンスター 86GAZOO Racing ラック 86
マジカルカーボンハセプロTOYOTA86哀川翔率いるTEAM SHOWの2台の86は今回不出走ゼロカーはスバルBRZ
TRDラリーチャレンジには山口/片岡組がエントリーしクラス優勝。モリゾー/竹下組はクラス8位

 新城ラリー/TRDラリーチャレンジを観戦し、決して移動の道具だけではない自動車の魅力を再確認することができた。と同時に、楽しさを分かりやすい形で次世代に伝えるために足りないものも散見され、筆者自身大変意義のある2日間となった。86も、大企業トップのモータースポーツ活動も、その話題の大きさゆえ、賛否はさまざまなところで語られているようだが、今回のラリーが多くの自動車ファンにとって楽しいイベントであったことは間違いなさそうだ。

(高橋 学)
2012年 11月 29日