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5万人超の来場者が訪れた「新城ラリー2016」レポート

全日本ラリー選手権は勝田範彦/石田裕一組がシリーズチャンピオンに

2016年11月5日~6日 開催

JAF全日本ラリー選手権での総合優勝はSTI名古屋スバル DL WRX 勝田範彦/石田裕一組(スバルWRX STI)。この勝利によってシリーズチャンピオンも獲得した

 11月5日~6日、愛知県新城市で「新城ラリー2016」が開催された。大会は2日間に渡る「JAF全日本ラリー選手権 第9戦」と、6日のみ行なわれた「TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ in 新城 (特別戦)」で構成され、山並みを走る県道を封鎖した高速ステージや、狭く曲がりくねった林道の難コースで熱い戦いが繰り広げられた。

 また、大会のメイン会場となる愛知県営新城総合公園では、参戦マシンのメンテナンスなどを行なうサービスパークや競技が行なわれるスペシャルステージのほか、さまざまなラリーカーの展示やイベントブース、飲食エリア等が用意されるという充実したもので、初めてラリーを観戦する人でも楽しめるプログラムが多数用意されていた。

 今年は会場からクルマで5分程度の距離に新東名高速道路の新城IC(インターチェンジ)が開通し、アクセスが飛躍的に向上。晴天にも恵まれ、昨年を上回る5万3000人(新城市発表)の来場者が訪れてラリー観戦を楽しんだ。

JAF全日本ラリー選手権 第9戦(最終戦)

11月4日に新城市内で行なわれたセレモニアルスタート

 競技前日の11月4日には新城市内でセレモニアルスタートが行なわれ、地元新城高校の吹奏楽部による演奏や新城小学校の児童たちによる応援のなか、翌日の戦いを前にしたラリーカーが走行した。

 チャンピオン決定がこの最終戦までもつれる展開となった今シーズンのJAF全日本ラリー選手権だが、5日から始まった競技では、チャンピオンの可能性を残していた奴田原文雄/佐藤忠宣組のADVAN-PIAAランサー(三菱ランサーエボリューションX)が初日のSS2でクラッシュ。あっけなくチャンピオン争いから脱落してしまい、今年の新城ラリーは昨年に続きラックSTI名古屋スバル DL WRX 勝田範彦/石田裕一組(スバルWRX STI)が制し、同時に今シーズンのシリーズチャンピオンを決めた。

 なお、2位には新井敏弘/田中直哉組の富士アライモータースポーツWRX(スバルWRX STI)、3位にはJN-5クラスより参戦していた新井大輝/小坂典嵩組のMATEX-ZEUS KYB DL DS3(シトロエンDS3)が続いた。

地元新城高校吹奏楽部の演奏と新城小学校の児童に迎えられスタートする新城ラリー。競技前日は平日だっただけに一般の観戦客はまばらだが、それだけに地元との密着感も感じられいい雰囲気だ
総合2位の新井敏弘/田中直哉組 富士アライモータースポーツWRX(スバルWRX STI)
総合3位の新井大輝/小坂典嵩組 MATEX-ZEUS KYB DL DS3(シトロエンDS3)
元F1ドライバーで現在SUPER GTに参戦中のヘイキ・コバライネン選手の乗る左ハンドルの86は、FIA R3規定のラリー仕様車 GT86 CS-R3(大会プログラムではトヨタ86 CS-R3)だ
クスコジュニアラリーチームのレースクイーン(ラリークイーンか?)として4年もの間ラリーファンに親しまれてきた七井しおりさんが、今シーズンでその活動を卒業した。セレモニアルフィニッシュではJN2シリーズチャンピオンを獲得した明治慎太郎選手から花束の贈呈も
勝田貴元/足立さやか組のヴィッツは専用セッティングされたCVTのマシン
今シーズン唯一シリーズを戦い抜いた軽自動車のYHGd高崎くす子アルト(スズキ・アルトワークス)
2016年JAF全日本ラリー選手権シリーズチャンピオンにはスバルWRX STIを駆る勝田範彦/石田裕一組が輝いた

TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ in 新城(特別戦)

特別戦を制したのはオリジナルエリア(この大会は西・東・オリジナルエリアの3つのエリアで戦われた)のチャンピオンの種治芳尚/天野沙貴組

 ラリーの入門的な大会となるTOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジだが、新城で行なわれる特別戦は今シーズンのポイント上位の選手に出場資格が与えられるハイレベルなものだ。

 トヨタ車を中心とした8クラスで構成されるが、今回はトヨタ車以外も参戦できるオープンクラスでも国沢光宏/木原雅彦組のトヨタ ミライのみの参戦であったためオールトヨタの争いとなった。トップ3はトップカテゴリーとなるE-2クラス(トヨタ 86のエキスパートクラス)のマシンで占められ、同クラスに参戦した“モリゾウ”ことトヨタ自動車社長である豊田章男/勝又義信組は10位、トヨタ ミライは総合18位、俳優の哀川翔選手はアクアで参戦して総合42位で完走した。

2位は西エリアのチャンピオン山口忍/坂田智子組
3位は小倉康宏/高田高志組
国沢光宏/木原雅彦組のミライは18位
哀川翔/中谷篤組は42位
モリゾウ/勝又義信組は10位
唯一のステーションワゴン、カルディナは8位
型は違えど白いセリカとこのカラーリングの組み合わせに反応するのは40~50代のファンか?

メイン会場は気軽にラリーに触れられるイベント・展示が盛りだくさん

ずらりと並んだトヨタの歴代ラリーカーの展示は圧巻だ

 大会のメイン会場は、ナゴヤドーム9個分もの広大な敷地を持つ県営新城公園だ。敷地面積、施設の充実度、芝生や木々が整備されたその美しさは国内ラリー随一のもので、天気にも恵まれた今大会は公園内をブラブラするだけでも気持ちよく、ラリーを身近に感じられる素晴らしいものであった。

 企業展示で最大のスペース「TOYOTA GAZOO Racing PARK」の充実度は見事なもので、昨年から始まった女性向けのカフェラウンジは今年も用意され、女性ならではの目線でその魅力を紹介するラリー初心者講座や東京ラリーガールズによるラリー撮影講習会も行なわれ、来場者を楽しませた。

 また、2017年にWRC(世界ラリー選手権)に再参戦するトヨタは、1957年の豪州ラリーで完走したトヨペット クラウンのレプリカから歴代のラリー参戦マシンを一挙展示。企業ブースエリアでもトヨタ紡織ブースに最新のハイラックスREVOのクロスカントリーラリー用のマシンが展示されるなど充実していた。一方で、昨年まで展示されていたランチアやスバルら、かつてトヨタと戦ってきたライバルメーカーのマシンが姿を消してしまったのは少々残念だ。

1957年 トヨペットクラウンRSD 1957年豪州ラリー参戦車レプリカ
1985年 MR2(222D)グループS試作車の222Dは車名がMR2となっていた
1985年 セリカツインカムターボ(TA64)サファリラリー優勝車(ドライバーはJ.カンクネン)
1990年 セリカGT-Four(ST165)サファリラリー優勝車(ドライバーはB.ワルデガルド)
1993年 セリカGT-Four(ST185)オーストラリアラリー優勝車(ドライバーはJ.カンクネン)
1995年 セリカGT-Four(ST185)サファリラリー優勝車(ドライバーは藤本吉郎)
1995年 セリカGT-Four(ST205)コルシカラリー優勝車レプリカ
2015年 ヤリス WRCテストカー
2017年から参戦するWRCを強く意識した展示だ
女性向けのカフェラウンジも設けられたブース
G’s車両も多数展示された
東京ラリーガールズによるラリー撮影講習会では、貸出用にキヤノン EOS M10とEF-M55-200 IS STMが用意された
2日間にわたりさまざまなステージイベントが催された
発売間近のトヨタ「C-HR」も先行展示された
トヨタ紡織ブースには同社のシートを装着した日本未導入のハイラックスREVOのラリーカーが展示された
サービスパークの中でもとりわけ人気が高かったのが隣り合った新井敏弘選手、新井大輝選手のテントだ
デモランを行なったマシンの数々
1995年のパイクスピークヒルクライムで総合優勝したツインエンジン・エスクードはエンジン音を披露した
スバルは応援ツアーを実施。ラリードライバー小西重幸氏の解説や、鎌田卓麻選手による同乗体験が行なわれた
各マシンのデモラン終了後、突然モリゾウ選手ことトヨタ自動車 社長の豊田章男氏が2014年に製作された4WDマシン「GR 86×(クロス)」で登場。その後、発売間近の新型C-HRに乗り換えてデモランを披露した

日本でのWRC開催の気運高まる閉会式での登壇者トーク

 例年通り行なわれた閉会式だが、昨年との大きな違いといえば、登壇者の多くがWRCの日本開催について触れたことだ。冒頭で新城市長の穂積亮次氏が地域再生計画でわずかな観客から出発したこのラリーにかかわった多くの人に感謝の意を述べた後、登壇した4名が全員日本でのWRC開催について語ったのだ。

 この大会の名誉会長でもある愛知県知事 大村秀章氏は挨拶冒頭で「ここは県の公園なので、まずは今年何か壊れんかったかなぁと思って心配しました。去年見とったら目の前のその辺でクルマが突っ込んで木を5~6本なぎ倒していましたけど……。でも、ああいうのを見れた方が盛り上がるような気もしますし。まあそういう余計なことをいうと怒られるかもしれませんが」などと県知事ならではのコメントを述べるも、挨拶の後半では「先ほど古屋先生(衆議院議員 モータースポーツ振興議員連盟会長 古屋圭司氏)とも話していましたが、愛知県と岐阜県で組んでWRCを引っ張ってくる……(客席から歓声と拍手)(司会:おっ、大丈夫ですかソレ)。まあ、とにかく一緒になって色々と盛り上げていきたいと思います」と語った。ちなみに3日前に一緒にJリーグの名古屋グランパス戦を豊田章男社長と観戦した大村氏によると、この日の豊田氏は3日前とは見違えるほど明るい表情だったとコメントした。

大会会長 新城市長 穂積亮次氏
大会名誉会長 愛知県知事 大村秀章氏
大会名誉顧問 衆議院議員 古屋圭司氏

 続いてはこの大会の名誉顧問も務める衆議院議員 古屋圭司氏が挨拶。冒頭でF1やSUPER GT車両でも公道でレースできるようになることが観光資源の開発になると説明し、「私が国家公安委員長を務めた時代に、ナンバープレートの付いていないクルマ(レース車両)でもちゃんと公道を走れるようなイベントも一部許可しましたので、その延長線上ですから難しくないです、大丈夫です!」と力説。そして、挨拶の後半では「今、大村知事からもありましたが、せっかくこれだけ盛り上がっている新城ラリーですよ。これ、愛知県だけではなく日本のラリーにしましょうよ。世界のラリーにしましょうよ。WRCなどのインターナショナルなラリーならば長いSSも必要ですからもっと広域にしましょう。お隣の岐阜県と連携してやれば可能だと思います」と、岐阜県選出の国会議員ならではのコメントも飛び出した。

トヨタ自動車株式会社 専務役員 嵯峨宏英氏

 そしてトヨタ自動車 専務役員の嵯峨宏英氏は、参加者、主催者への感謝の意を述べ、子供から年配の方までが楽しめ、ラリーの魅力が伝わるのが新城ラリーだと語り、「WRCにも匹敵する日本一の大会だ」と加えた。2017年に再参戦するトヨタのWRC活動もぜひ応援してほしいと訴え、TOYOTA GAZOO Racingとしてラリーの世界、レースの世界で自動車ファンにさらに喜んでもらえるよう取り組んでいくことをアピールした。

 ステージ上でWRC日本開催の気運が盛り上がる雰囲気の中、新城ラリーの組織委員長の勝田照夫氏は「先ほどから先生方の声を聞いていますと、すぐ先にWRCがあるような言い方を簡単に言われていますが、ラリーを運営するのは並大抵ではありません。本当に大変です。今回も山の中に280人くらいのスタッフが入っております。このラリーを作るためにも1年がかりで作っております」と述べ、安易な盛り上がりを制するかと思いきや、「WRCということであればおそらく国や県からも大きな支援がいただけることを確信しております。残念ながら今はありません。冗談ではありません。本当です」と少々生々しいコメント。その冗談とも本音ともとれるコメントが、皮肉にも何かが動き出しているような印象を醸し出した閉会式での挨拶であった。

 13年前にほんのわずかな観客の中でスタートした新城ラリーが、今や5万人規模のイベントとなったことはラリーファンにとっては朗報だ。この新城の一大イベントがどこへ向かっているかはまだ分からないが、それが国内選手権であれ世界であれ、もっと裾野を広げると同時にもっと深くラリーに接することができる進化をまだまだ期待してしまう2日間であった。