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過去最高の5万4000人の来場者を記録した「新城ラリー2017」レポート
WRCラリージャパン実現に向け、豊田章男社長が思いを語る
2017年11月17日 12:54
- 2017年11月4日~5日 開催
11月4日~5日、愛知県新城市で「新城ラリー2017」が開催された。大会は2日間に渡る「JAF全日本ラリー選手権 第9戦」と5日のみ行なわれた「TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ in 新城(特別戦)」で構成され、2016年に続き晴天に恵まれた紅葉の美しい新城市の山々に点在する狭いコーナーの続く林道や観光道路を利用したハイスピードセクションで熱い戦いが繰り広げられた。
また、大会のメイン会場となる県営新城総合公園には、参戦マシンのメンテナンスを行なうサービスパークや競技が行なわれるスペシャルステージのほか、かつてWRCを戦ったラリーカーの展示やさまざまなイベントブース、飲食ブースなどが用意され、初めてラリーを観戦する人でも楽しめるプログラムが多数用意されていた。
なお、来場者数は2日間の延べ人数で新城市の人口を上回る5万4000人(主催者発表)が会場に足を運び、過去最高を記録した。
JAF全日本ラリー選手権 第9戦(最終戦)
競技前日の11月3日には、市内の新城文化会館でセレモニアルスタートが行なわれ、地元新城高校の吹奏楽部による演奏の中、翌日に戦いを控えたラリーカーが集まったファンの中を走行した。
2日間、14本のスペシャルステージで争われるオールターマックラリーの新城ラリー。2016年同様シリーズチャンピオン争いがこの最終戦までもつれる展開となった。
今シーズンのJAF全日本ラリー選手権だが、ポイントでリードする2016年の覇者 勝田範彦/石田裕一組と、前戦のM.C.S.Cハイランドマスターで奇跡的な逆転優勝を遂げチャンピオンの可能性を残した新井敏弘/田中直哉組との戦いに注目が集まった。両者による2台のスバルWRX STI同士の戦いはステージ毎に一進一退の攻防を繰り返すものの、新井/田中組はパンクによる初日の大きなタイムロスを挽回するに至らず勝田/石田組が総合優勝を果たし2年連続のシリーズチャンピオンを決めた。
なお、総合2位には奴田原文雄/佐藤忠宜組の三菱ランサーエボリューションX、総合3位には福永修/齊田美早子組の三菱ランサーエボリューションXが続いた。
TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ in 新城(特別戦)
TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジは初めての人でも参加しやすい1デイラリーで、参加者の約半数がラリー初心者というビギナー向けの大会だ。2002年にトヨタ ヴィッツのワンメイクラリーとしてスタートした「TRDヴィッツチャレンジ」が、現在は86やアクアなどが出場できる多くのクラスを加え開催されている。最終戦となる新城での大会は、今シーズンのポイントランキング上位の選手が優先的に参加権利を得ることができる特別戦という扱いで、参加しやすいラリーでありながら特別戦らしいハイレベルな戦いが繰り広げられた。
総合トップはC-3クラス(トヨタ86のチャレンジクラス)よりエントリーした中野勝文/逸見茉央組。トヨタ86勢で形成されるトップグループの中で総合トップ10に唯一割って入ったのは、なんとステーションワゴンのカルディナだ。なお、モリゾウ選手(トヨタ自動車社長 豊田章男氏)は賞典外ながらE-2(トヨタ86のエキスパートクラス)でエントリーし総合7位でフィニッシュしている。
ちなみに11月5日は東京モーターショーの最終日。運営する自工会(日本自動車工業会)の会長代行としての顔を持つ豊田章男氏だが、会場では自分は豊田章男であると同時に半分は「モリゾウ」でもあるのでショー最終日ではありますが、こちら新城の地を選ばせてもらいました、と理解を求めた。
広大な芝生広場に設置されたTOYOTA GAZOO Racing PARKとさまざまな企業ブース
大会のメイン会場である新城総合公園では2016年同様さまざまな催しが行なわれ、2日間にわたり秋晴れの中終日盛り上がった。TOYOTA GAZOO Racing PARKでは、先ごろ発表されたトヨタ自動車の「GR」シリーズを一挙に展示したほか、さまざまなアトラクションが行なわれ、企業ブースではイベントやラリーカーやパーツの展示、飲食ブースではさまざまな飲食店が軒を連ね来場者を楽しませた。
子供連れの家族や女性も多く、自ら競技に参加していたモリゾウ選手こと豊田章男氏も走行終了後「やはりお子さんたちがクルマに興味を持って、クルマでいい思い出を作ってもらう、ということはありがたいことですね。なによりもご家族で楽しめる1つの方法として、モータースポーツが入ってくるというのが大変ありがたいことではないかなと思います」と語っていた。
各ブースが立ち並ぶ会場を囲むように設置されたSS(競技区間)も、短いながらも日本のトップラリーストの走りや最新マシンのデモンストレーションランを身近に堪能できるものであり、初めてラリーを見る来場者にも飽きずに楽しめる作りは新城ラリーの大きな特徴だ。
終始WRCラリージャパン誘致の話で盛り上がった閉会式
新城市の地域再生計画から始まった小さな集まりだった大会が「モータースポーツのシーンの中にピクニック気分で楽しむご家族連れがいる、そんなフェスタのようなラリーが開催できたことを心から誇りに思う」と大会会長を務める新城市長の穂積亮次氏が語るまでに成長した新城ラリー。
この大会はWRCチャンピオンドライバー ビョルン・ワルデガルドが来日してデモンストレーションラン(デモラン)を披露し、モリゾウ選手がラリーデビューを果たした2012年大会で、モリゾウ選手のデモランに同乗した(させられた?)愛知県知事の大村秀章氏が「気持ちよかった!」との感想を漏らした翌年から、県営の新城総合公園での開催が実現した経緯を持つ。
閉会式で大村氏は「えっ!本当に公園でやるの?」という第一印象だったこと、豊田章男社長からヨーロッパでの事情などを事細かに説明されたことや、県立公園での大会実現後もサッカー場での雨中のデモランでは芝生が剥げて直すのが大変だったことなど当時を振り返りながらも、多くの観客がこの地を訪れるようになってよかったとの感想とともに、この東海地方から世界に発信できるラリー、そしてモータースポーツをどんどん創っていきたいと述べた。
大会名誉顧問 衆議院議員と紹介され登壇した古屋圭司氏は、挨拶冒頭で「衆議院議員というよりも、私はモータースポーツ振興議員連盟の会長 古屋圭司でございます。私もまだレース、モータースポーツに参加しています」と、会長職が単なる名誉職ではなく、自らモータースポーツを楽しむ現役レーサーであることを強調。
WRC開催について、愛知県知事や世界一の自動車メーカーの社長が公言しているのだから、間違いなく実現できるし、実現しなければならないと語った。岐阜県選出の国会議員の古屋氏は、新城を中心とする愛知県と隣接する岐阜県が協力すれば20kmくらいのSSが可能なこと、飛行機、高速道路、鉄道、すべての面で世界からのアクセスが揃っていることもWRCの開催地としての適性があると説明。日本が世界有数の自動車産業国でありながら、モータースポーツ文化がまだまだ遅れている現状を打破すれば本当の自動車大国になれるので、みんなで応援していこうではありませんか、と閉会式に集まった観客、関係者に呼びかけた。
大会組織委員長を務める勝田照夫氏はWRC開催話で盛り上がる閉会式結びの挨拶として、この大会が1年間かけて新城市役所や警察、消防等行政機関をはじめ多くの人の協力によって成り立っていることを強調し、決して自分たち運営メンバーだけの力では成し得なかったと述べた。また、100名以上の新城市役所の職員が、SSが設置された山の入り口や駐車場など多くの場所に出向いたこと、トヨタグループの協力による33台ものバスが会場と駐車場などとのスムーズな移動を実現したことなどに触れ、ボランティアスタッフを含むすべての関係者に感謝の意を述べた。
WRCの開催についてはラリー業界にとっても非常に夢のある話であると同時にときの政治力なしには実現できないと述べ、もし日本開催があるのなら全面的に協力すると語った。
WRCラリージャパン実現に向けた豊田章男氏 語録
「6年前にここに来て新城ラリーを見て、それでラリーをやろうという形になって、次の年から社長は出場、(その後)WRCにも参戦し……。新城ラリーというのが(現在の)トヨタのラリー活動の原点ですよね」(Gazoo Racing Company プレジデント友山茂樹氏 談)
ラリードライバー モリゾウ選手のスタートの地であり、トヨタのWRC参戦再開、Gazoo Racing Company設立後初の新城ラリーの会場で語った豊田章男氏のコメントを紹介する。
「モリゾウとして初めて参加させていただいたのはここ新城でありました。また、ここの公園が使えるよう知事にお願いしました。当時、私がデモンストレーション走行で知事を乗せマイクを渡して『気持ちよかったでしょ!』と聞いて『気持ちよかった!』と言ってもらった。あそこで『こんな危険なことはやめなさい』と言われていたならもう終わっているわけですね」(報道陣の囲み取材にて)
「本当にこの新城ラリーの開催にあたりまして、本当に色々な方の協力をいただいております。今でも本当に多くの方が毎年駆けつけていただいてまして、いちラリーファンのモリゾウとしては嬉しいことでして、今後も盛り上げるためにはぜひ皆さんのお力が必要です。ぜひともですね、今後もみなさんとともにこの新城ラリーを盛り上げていただきたいなと思いますし、モリゾウも頑張れる限り頑張ってまいりたいと思っていますのでよろしくお願いいたします」(報道陣の囲み取材にて)
「人口5万人の街に2日間で5万の人が訪れる。人の移動に関してもいろんな会社が協力し、また、県がこの会場を貸してくれたり地元の方が気持ちよく協力してくれる支えてくれている。すべてのステークホルダーの人が2日間、この新城での笑顔のために自分たちができることをやっているケースだったんじゃないかと思います。今後もみなさんとともにこれを育て、モリゾウとしては自分がやれることはやっていきたいなと思います」(報道陣の囲み取材にて)
WRC開催を望む声もあるが、実現のために社長がどういうことをしていくのか?との報道陣の質問に対して。
「(みなさんが方々に)噂話を流してください(笑)。いやぁ、これを決めるのは私ではありませんし、決めていくにはそれぞれのステップがあるし、決まるタイミングというものもある。ですけれども、日本での開催は多くの人が望んでいるのではなのでしょうか。日本での開催なり日本人ドライバーの参加で、ラリーがより身近な存在になるのではないかと思うので、いろいろな形で応援いただきたいなと思います」
WRC日本開催が実現するのならどこ? との報道陣の質問に対して。
「以前は北海道でやりました。東北復興というのもあるでしょう。新城もメッカになっているし、もともと渋川や九州の唐津だってある。それはどこでもいいし、最後の最後まで分からないほうがいいんじゃないですか。みんなが盛り上げ、全日本選手権やTGRラリーもいろんな地域で開催されていますし、年々開催地域も増えてます。そうしますと色んな方が集まってきます。それは村おこしや町おこしにもつながるでしょうし、我々自動車業界に近い人間にしてみればクルマのファンが増えるわけですから、それは大変ありがたいことじゃないですか」
閉会式で穂積市長、大村知事、古屋議員の話を聞いて……。
「噂っていうのはこういう風にするんですね(笑)。市長が言って、知事が言って、衆議院議員ですよ。でもこれが噂の発端なんですね。でもね、こういう噂って誰も傷つきませんし、みんな盛り上がるのですから。そして今日ここに来られている方はみんなこのラリーが好きで、新城が好きで、愛知県が好きで、日本が好きな、そんな方々だと思います。だからそういう方々であれば、心一つにモータースポーツを盛り上げる、結果自動車に関わっている当社は得しますから(会場 笑)。ですから、あの(笑)、ここでトヨタをお願いしますなんていうと反旗を翻す人もいるんですけど、自動車を盛り上げさせていただきますので、是非ともね、みなさん、自動車、バイク、好きになってください!」
新城ラリーは閉会式やそのほかさまざまな場面で年を追うごとにWRC誘致にまつわるトークショーのような場面も増え、なかなか面白い。
最後に……。
「今、トヨタは18年ぶりにWRCに参戦していますが、やっぱり世界選手権の中で日本人ドライバーが日本の道を走る姿を誰もが見たいと思うんですよ」(モリゾウ談)
【お詫びと訂正】記事初出時、参戦選手の名前に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。