インプレッション

スズキ「ソリオ」(フルハイブリッド)

EV走行可能なフルハイブリッド登場

 2015年にフルモデルチェンジを行なった「ソリオ」「ソリオ バンディット」に新たなハイブリッドモデルが加わった。新たなと言うのは、スズキにはすでに“マイルドハイブリッド”と呼ばれるハイブリッド車が存在しているから。

 マイルドハイブリッドとは「S-エネチャージ」のことで、「エネチャージ」からスタートしたスズキのグリーンテクノロジーの1つ。減速エネルギーを活用した発電とエネチャージ用リチウムイオンバッテリーへの蓄電、そしてその電力を電装品などに使って燃料消費を抑えるエネチャージ。

 そこからさらに充電/給電能力を高め、走行時のモーターアシストまで行なうようになったのがS-エネチャージだ。助手席下に搭載する充電/給電能力に優れるリチウムイオンバッテリーはそのままに、それまでの高効率/高出力オルタネータ―に代わって「ISG(インテグレーテッド スターター ジェネレーター)」というモーター機能付き発電機を採用。このISGの発電/給電能力が高いのもウリなのだが、それを減速エネルギーを使って発電するからガソリン消費はさらに減る。そしてその電力は、アイドリングストップ車用鉛バッテリーと前出のリチウムイオンバッテリーに蓄えられる。

 ISGにはあと2つの機能がある。アイドリングストップ後の再始動時に働くスターターモーター機能と、加速時のモーターアシスト機能だ。S-エネチャージにはモーター(EV)走行はなく、モーターはエンジンをアシストするのみという役割であることから、一般的には“マイルドハイブリッド”と呼ばれている。

 そして新たに登場したのがフルハイブリッド。ストロングハイブリッドとも言われ、EV走行もするシステムがソリオ、ソリオ バンディットで選べるようになったのだ。

今回試乗したのは、ファーベントレッドとブラックルーフを組み合わせた2トーンカラーの「バンディット HYBRID SV」(2WD/デュアルカメラブレーキサポート装着車)。直列4気筒DOHC 1.2リッター直噴「K12C」エンジンに軽量・コンパクトで伝達効率に優れる5速AGS(オートギヤシフト)、コンパクトなMGU(駆動用モーター/PB05A型)、100Vの高電圧リチウムイオンバッテリー(440Wh)などを組み合わせ、EV走行を実現。撮影車の価格は210万6000円
フルハイブリッド仕様ではフロントグリルのスケルトン部分にブルーメッキが与えられ、マイルドハイブリッド仕様と異なるデザインを採用
ソリオ バンディット(フルハイブリッド仕様/マイルドハイブリッド仕様共通)の15インチアルミホイール(タイヤサイズ:165/65 R15)
直列4気筒DOHC 1.2リッター直噴「K12C」エンジンは最高出力67kW(91PS)/6000rpm、最大トルク118Nm(12.0kgm)/4400rpmを発生。「バンディット HYBRID SV」(2WD)のJC08モード燃費は32.0km/Lとなっている
フロントフェンダーに備わる「HYBRID」バッヂ
ブルークリアタイプのリアコンビネーションランプ(LEDストップランプ)。マイルドハイブリッド仕様ではクリアタイプを採用
フルハイブリッド仕様、マイルドハイブリッド仕様共通のバッヂ

 このフルハイブリッドでは、マイルドハイブリッドで採用されたISGと2種類のバッテリーを採用しているが、フルハイブリッドのISGでは減速エネルギーによる発電は行なわない。新たに加わったのが「MGU」と呼ばれる駆動用モーターと、それに伴い動員された「パワーパック」(高電圧リチウムイオンバッテリー+インバーター)、「MGU用の減速機」(MGUの回転速度を減速してトルクを増幅。その増幅されたトルクはチェーンで駆動軸に伝えられ、駆動力アップを助ける。もしくは高電圧リチウムイオンバッテリーに充電される)。

 さらにもう1つ。マイルドハイブリッド(S-エネチャージ)ではCVTを使っているが、フルハイブリッドには「5速AGS」(中身はシングルクラッチ使用のMTだが操作はATのように行なえる)が組み合わされる。開発者の方によると「エンジン、トランスミッション、ハイブリッドシステムそれぞれが持つ合計3つのコントローラーの協調制御が要」という。これらが1.2リッターのエンジンと組み合わされ、「走る」「充電」「給電」を制御することになる。

ブラックを基調にした「バンディット HYBRID SV」のインテリア。フルハイブリッド仕様のインテリアではインパネのアッパーガーニッシュをシルバー塗装からブルーメタリック塗装に変更されている。トランスミッションは5速AGS
後席は最大56度まで角度調節が可能なリクライニング機構や、左右独立で移動できるシートスライド機構が備わる。運転席と助手席のシートバックにはドリンクホルダー付きのパーソナルテーブルも用意
メーターレイアウトについて、マイルドハイブリッド仕様では左側にタコメーターが並ぶところ、フルハイブリッド仕様ではMGUの作動状態を表示するモーターパワーメーターを設置。EV走行時やエンジン自動停止中はメーター内の「EV表示灯」が点灯する
助手席下に12Vリチウムイオンバッテリーをレイアウト
100Vの高電圧リチウムイオンバッテリー(440Wh)とインバーターを内蔵したパワーパックは、冷却システムなどとともにラゲッジ下のスペースにレイアウト。駆動用モーターに電力を供給するとともに、減速エネルギーを利用して駆動用モーターで発電した電気を充電する
モーター(PB05A型)は最高出力10kW(13.6PS)/3185-8000rpm、最大トルク30Nm(3.1kgm)/1000-3185rpmを発生。なお、マイルドハイブリッドで使われるモーター(WA05A型)は最高出力2.3kW(3.1PS)/1000rpm、最大トルク50Nm(5.1kgm)/100rpmという仕様

“AGS”特有のギクシャク感がほとんど感じられない!

 ソリオ バンディットに乗り込み、スタートボタンを押してエンジンを始動。スタート時にエンジンがかかるのは、エンジンシステムをチェックするため必要なのだそうだ。“エコモード”を選んでいたので、EV走行で駐車スペースからソリオ バンディットが動き出す。少しアクセルを踏み足すとエンジンがかかるが、そのかかり方はいたってジェントル。振動も極めて小さく、遠くの方で低音のエンジン音が聞こえる程度だ。

 試乗ルートはアップダウンやカーブの多いコースだったため、登坂路ではアクセルのON/OFFを行なう頻度もアクセルの踏み込み量も多かった。当然、エンジンとモーターによる走行場面も増える。エコモードは燃費優先になるため加速性能がマイルドなので、場面によっては“ノーマルモード”もおすすめしたい。エンジンにモーターの力を上乗せするハイブリッド走行の力強い加速感、ノーマルモードならば申し分ない。キャビン内の静粛性もとっても良好だ。

 すると、はたと気づいたのはあの“AGS”特有のギクシャク感がほとんど感じられないこと。もっと言えば、MTギヤボックスベースであるため、シフトアップ/ダウンにメリハリが効いてソリオ バンディットが実に軽快にシャキシャキと走る。CVTを採用するマイルドハイブリッドが滑らかな印象なのに対して、こちらはキビキビ感が強い。AGSとモーター駆動が鮮やかに共演してくれる。シフトチェンジの際にクラッチが切り離され、エンジンの駆動力が伝わらない間(トルクギャップ)、その隙間をモーターがカバーしてくれているというのだ。走行シーンによって時々“AGS”っぽさが顔を出さないこともないが、この技術、よく制御されていて素晴らしい。

 EV走行の条件は原則として“60km/h以下+アクセル一定走行時”という。今回は同乗してくれた編集者とともにシステムの制御を観察していたが、アップダウンやカーブも多い郊外ではなかなかこの条件を満たす走行は難しかった。しかし、その条件に入ると速やかにEV走行をする。その切り替えが実にリニアで、よく制御されていると言ってもよさそうだ。50~60km/hで一定走行しやすいバイバスなどではEV走行の頻度も上がりそう。

 発電に関しても、減速時のみならず走行中でも燃料消費の少ない走行状態なら駆動力を活用し、MGUで行なうという。電池の変化はすぐに減るけどすぐに貯まるといった印象だ。

 クルマがどのような制御をしているかなど気にせずに走ってもいいと思うが、エネルギーフローインジケーターをディスプレイに表示させることもできるし、メーターには色が変わることで教えてくれるエコドライブ支援機能も備わるので、それらを活用して燃費走行に励むのもありだろう。ちなみによい燃費で走行していると青→緑に、減速エネルギーを使って回生しているときには白くなる。

 スズキの関係者と話をしたところ、「とにかく高くては売れない」とおっしゃる。だから安く作るのではなく、余分なコストをかけずに性能を進化させていくという考えだ。しかし、マイルドハイブリッドとフルハイブリッドの両方が必要なのだろうか。マイルドハイブリッドのカタログ燃費は27.8km/L、フルハイブリッドは32.0km/L。燃費に優れる方だけラインアップすればいいのではないかと思いきや、そこは価格なのだ。

 ならばフルハイブリッドをわざわざ作らなくても、と思うが、スズキとしてはコンパクトミニバンにフルハイブリッドを用意したかったのだという。スズキのテクノロジーを徐々に積み重ねたからこそ今回のフルハイブリッドが誕生していて、そこにエンジニアとしてのプライドを大いに感じた次第。

飯田裕子

■日本自動車ジャーナリスト協会会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員/日本自動車連盟 交通安全・環境委員会 委員
東京生まれ、神奈川育ち。自動車メーカーでOLをした後、フリーの自動車ジャーナリストに転身。きっかけはOL時代に弟(レーサー・飯田章)と一緒に始めたカーレース。その後、女性にも分かりやすいCar&Lifeの紹介ができるジャーナリストを目指す。独自の視点は「人とクルマと生活」。幅広いカーライフを柔軟に分析、紹介のできる視野を持つ。自身の2年半の北米生活経験や欧米での豊富な運転経験もあり、海外のCar&Life Styleにも目を向ける。安全運転やエコドライブの啓蒙活動にも積極的に取り組んでおり、近年はIT技術を採用するクルマの進化とドライビングスタイルの変化にも注目。ドライビングインストラクターとしての経験も15年以上。現在は雑誌、ラジオ、TVなど様々なメディアで様々なクルマ、またはクルマとの付き合い方を紹介するほか、ドライビングスクールのインストラクター、講演、シンポジウムのパネリストやトークショーなど幅広く活動中。

Photo:安田 剛