【インプレッション・リポート】
スズキ「ソリオ」

Text by 岡本幸一郎


 


 2010年秋に発売された新型スイフトの評判も上々で、このところますます存在感を増している感のあるスズキから、今度は「ソリオ」というニューカマーが送り出された。

 全長が4mを大幅に下回る小さなサイズながら背が高いボディーの中に、スライドドアや広い室内空間を詰め込んだという、ありそうでなかったコンセプトのクルマ。事前の情報があまりなかった中で、最近になっていきなりスクープ情報が出てきたのだが、初めて聞いたときから、これは売れそうだと思ったら、やはりそうらしい。

 ちなみに、ソリオという車名のモデルとしては、実は2代目になる。2005年に「ワゴンR」がモデルチェンジした際に、「ワゴンRワイド」→「ワゴンRプラス」の後継モデルである「ワゴンRソリオ」が継続生産されながらも、車名からワゴンRが外れて、ソリオになっていたのが初代。ご参考まで、ソリオとはスペイン語で「王座」「王権」を意味する言葉だ。

“大きなパレット”ではなく
 その2代目ソリオは、見た目からしてスペース系軽カー「パレット」の拡幅版っぽい雰囲気で、リアサスペンション形式がアイソレーテッド・トレーリング・リンクというと、やはりそうなのかと思うところだが、実際はそうではない。

 開発陣に訊くと、できるだけコンパクトで取り回し性のよいサイズの中で、居住空間を広く確保し、両側スライドドアを付ける、というコンセプトに合わせて、プラットフォームをイチから考えたとのこと。部分的にスイフトや軽自動車から使える部品を調達しているものの、プラットフォームとしては「新規」という認識が正解となる。

 仮にリアサスをスイフトと同じトーションビームにした場合、むろん剛性は高くなるが、このように低くて広く使いやすい形状の荷室は実現しなかったという。

 エクステリアは、このクラスでは特徴的なデザインの車種が多いところだが、ソリオは比較的オーソドックスな路線を行っている。とは言いつつも、パレットの「SW」に相当するエアロ系の「S」グレードがメインという印象で、けっこう派手なスケルトングリルやリアのガーニッシュが、Sグレード専用かと思っていたら、そうではないことを知ってちょっと驚いた。

撮影したモデルはトップグレードの「S」。エアロパーツが標準で装着される

 外見はそんな感じで、インテリアもパレット系のミニバンっぽい感じをイメージしていたところ、インパネはスイフトの雰囲気に近いものだった。質感も低くなく、収納スペースがとても豊富に設定されていて便利に使えそうだ。助手席の下には、スズキおなじみの通称「バケツ」のアンダーボックスもあるし、助手席アッパーボックスには、保冷機能も付く。

 ボディーサイズは小さいものの、各ガラスウインドーが、着座位置からするととても遠くにある印象で、開放感は高く、視界も非常に良好だ。運転席~助手席感のウォークスルーもしやすい。ただし、シートハイトアジャスターは付くものの、ステアリングにテレスコピックが付かない点には、標準的な体格の筆者にはあまり関係ないものの、とりあえず苦言を呈しておこう。

 そして、ソリオの醍醐味はリアにあり。スライドドアの開口幅は、580mmと十分。開口高も1230mmも確保されているので、あまりかがむことなく室内にアクセスできる。タイヤ外径により、サイドシル高はわずかにパレットよりも高くなっているが、ワンステップで乗り降りできるのは、やはり便利だ。

とにかく広い室内
Sが両側、X/Gが左側のみパワースライドドアになる。運転席のスイッチとリモコンキー、ドアハンドルで操作できる

広い室内に大きなシート
 乗り込んでの第一印象は、とにかく広い! 前後スライドが可能なリアシートを最後方まで下げると、驚くほど広々とした空間となる。膝前や頭まわりの余裕ももちろんそうだが、シート自体のサイズもかなり大きいのだ。

 これは、シートアレンジ性との兼ね合いで、座面も背もたれもサイズを小さくせざるをえないMクラスの3列シートミニバンと比べても圧倒的に上回るほどの大きさ。人が座ることを考えると、どちらがよいか、いうまでもないだろう。

 リアシートは左右50:50の分割可倒式なので、中央席は非常用に違いないが、ちゃんと3点式シートベルトが与えられている。

 ラゲッジスペースは、165mmのスライド幅を持つリアシートのスライド具合により奥行きが変わる。リアシートを一番後ろにすると、ゴルフバッグを横積みにする程度のスペースしか残らなくなるので、必要に応じてシートを前にスライドさせるか、前倒しすればいいわけだが、100mmぐらい前にスライドさせた程度なら、リアシートの広々感を大きくスポイルすることはない。

 リアシートは、スライドも前倒しも、左右独立して行えるところが便利だ。前倒しでは、リアシートの座面が沈み込みながら背もたれが倒れるので、より低い位置でフラットになる。さらに、助手席の背もたれを前倒しできるので、スノーボードやサーフィンのボードなどの長尺物も楽に積むことができて重宝しそうだ。

不満のない性能
 走りについても、これだけ車高が高ければ、おそらく重心も高いだろうと予想したのだが、その走りに見た目からイメージするほど腰高な印象はなかった。かと言って、ロールを抑えるために足まわりを固めて、つっぱったようになっている印象もなく、乗り心地は良好だ。

 開発陣に訊くと、そのあたりにはけっこう注力したそうで、乗り心地の確保に努めるとともに、少しでも重心が低くなるよう、ルーフ部の鉄板をできるだけ薄くするなどしたという。そうした努力が、ちゃんと結果に表れている。このあたりは、スペース系軽カーとの大きな違いでもある。同様に車高が高くても、トレッドが広いことの恩恵といえるだろう。

 後席の乗り心地は、許せる範疇ではあるのだが、ちょっと固さを感じる。ただしこれは、足まわりが硬いわけではなく、シート自体からくるもの。ただし、安いクルマなのでコストの制約でクッションを薄くしたのかと思ったら、そうではないらしい。チャイルドシート装着時の据わりのよさに考慮して、あえて硬めにしたとのことだ。

 パワートレーンはスイフトと共通で、吸排気ともVVTを持つ1.2リッターエンジンに、例の副変速機の付くジヤトコ製CVTが組み合わされる。大きな変速比幅のおかげで、エンジンの効率のよい領域を上手く引き出してくれる印象で、動力性能にも不満はなく、いかにも燃費がよさそうな感じ。できるだけ低回転を維持しようと、アクセル開度を小さめに保つイメージで運転すると、ちょうどよいという印象だ。

 逆にガンガン走ろうとすると、このCVTのあまりリニアでない部分が顔を出しがちなので、あまりそういう走りには向いていない。これで、10・15モード燃費で21~22.5km/Lを達成したのは立派といえるだろう。

安くて広くて小回りが利く
 静粛性もまずまずで、パワートレーン系の音は、このクラスとしてはよく抑えられているほうだと思う。そのせいか、逆に目立ってしまっているのがタイヤの音だ。40km/hを超えたあたりから、ロードノイズがやや大きめになる。エコを意識したタイヤはどうしても音の面では不利で、しかも指定空気圧が250kPaとやや高めであるせいか、そのあたりの事情による影響が出ているようだ。

 一方、ちょっと気になったのはブレーキだ。基本的にはスイフトのものと同じなのだが、車重の増加に合わせて、ややアシストを強めているとのこと。そのせいか、あるポイントでカクンと利いてしまう傾向が見受けられた。これがスイフトではそのような印象はなく、良好なフィーリングだったので、ちょっと惜しいところではある。

 そんなソリオだが、とにかく印象的だったのは、やはり後席の空間の圧倒的な広さだ。スライドドアで、そしてこの広さ。しかも、いまどきの軽自動車の上のほうと大差ないほど車両価格も安い。ボディーサイズが小さいことも、このクルマの場合は、小回りが利くという武器のひとつになっていると思う。

 TVCMでも謳っているが、まさに「コンパクトなのに才能ギッシリ」。こんなクルマの登場を待っていた人は少なくないはずだ。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 3月 4日