インプレッション

スバル「レヴォーグ」「WRX S4」(2017年大幅改良モデル)

“ビッグマイナーチェンジ”が行なわれた「レヴォーグ」「WRX S4」

「レヴォーグ」と「S4」が大幅改良を行なった。ここでは実際に試乗した際の質感や走行性能の進化点を中心にレポートを行ないたい。試乗車はレヴォーグが「1.6GT-S EyeSight」、S4が「2.0GT-S EyeSight」。このうちレヴォーグは同一グレードでの新旧モデル比較試乗(従来型は後述するC型)が行なえた。試乗の舞台はWRXの試乗時と同じくクローズドコースだ。

 その昔から愚直なまでの技術向上に取り組むスバルは、登場から2年程度を経てから行なわれるマイナーチェンジ路線を基本的にとっていない。「年次改良」、すなわち当該年モデル(イヤーモデル)を定期的に発表することで常に最新の技術を織り込んできた。登場した際のモデルをA型とする呼び名はスバルではすでに一般的。レヴォーグのB型では「アドバンスド・セーフティパッケージ」、C型では「STI Sport」をそれぞれ追加し、安全性能の向上やグレード構成の拡充が図られてきた。

 今回のレヴォーグはD型とカウントされる。スバルはこのD型に“ビッグマイナーチェンジ”を施したというが、それは決して大げさではなく、いわば正常進化の鏡ともいえる内容だ。外観ではフロントバンパー、グリル、ヘッドライト、フォグランプの処理が変わっているが、これにより薄めのボディカラーを選択した場合でも力強さが感じられるようになった。人気ボディカラーである「アイスシルバー・メタリック」はもちろんのこと、新色として青味が強くなった訴求色でもある青メタ色「ストームグレー・メタリック」などではその印象がひときわ強い。正直、カタログでは大差ないと思われたのだが、実車を見てグッときたほどだ。

 ヘッドライトは単に意匠変更がなされただけでなく、AFS機能(Adaptive Front Lighting System/配光可変型前照灯システム)を持つステアリング連動型となった。これにより、ステアリング操作に合わせて左右それぞれ18度の範囲でカーブの内側を照らすことができ、進行方向の照射範囲が広がった。同時にフォグランプもLED化され、照射範囲が前方だけでなく横方向にも広がり、夜間の視認性向上をアシストする。

 インテリアでは実用性の向上がうれしい。見た目ではドアスイッチやシフトまわりの表面処理に違いが見られ、センタークラスターに8インチのナビゲーション画面が収まるようになったことが挙げられるが、見えない部分、例えばドアのグリップ部分の内側が少しえぐられ、指が引っかかりやすくなりドアの開閉時に力を入れやすくなっているなど、地味だがとてもありがたい改良が加えられた。これこそユーザーの意見を真摯に受け止めそれを反映した好例だろう。

大幅改良がなされて“D型”となったレヴォーグ。試乗車の「1.6GT-S EyeSight」のボディサイズは4690×1780×1500mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2650mm、最低地上高は145mm。最高出力125kW(170PS)/4800-5600rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1800-4800rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 1.6リッターエンジンを搭載し、CVT(リニアトロニック)を組み合わせる
新型レヴォーグのインテリア。シフトまわりのパネルが黒艶に変更されシルバーの縁取りが施された
センタークラスターは8インチのナビゲーションが装着可能となる
新型レヴォーグではメーカーオプションで「コールドウェザーパック」を選択すると、ファブリック/トリコットシートでもフロントシートヒーターが装着される
ドアグリップは指を引っかけやすい形状に変更され、ドアの開閉時に力が入れやすくなった
リアシートの分割可倒方式が従来の6:4から4:2:4に変更され、リアシートを倒す際に動きを抑制するダンパーを新しく搭載。安全面での配慮がなされた

走行性能の動的質感が高められた“D型”

 さて、走行性能はどう変化したのか。レヴォーグファンには一般的な情報ながら、従来型のうち最初期であるA型はスポーツ性能が重視されていた。勢いあまって後席での突き上げが大きいという評価が多かったほどだ。ただ、スバルとしてもそこは認識した上でのセッティングだったようで、B型では足まわり全体をしなやかな方向へするべく若干(!)の変更を加え、C型では後席シートの座面を改良するなど手を入れてきた。

従来型レヴォーグにも試乗

 こうした経緯があるものの、やはりそれでは足りないとの判断なのだろう。今回のD型では大胆な変更が加えられた。フロントサスペンションでは「ピロボールブッシュ」を採用していたフロントアームの後方ブッシュを一般的な「ゴムブッシュ」に変更するとともに、ストラットのリバウンドストロークと、コイル部のバンプストロークをそれぞれ延長しながらバネ定数も低くした。また、リアサスペンションでもフロントサスペンションと同じ変更を加えるとともに、リアスタビライザーの径を20φから18φへと小径化(STI Sportは20φのまま)したのだ。つまり、高い剛性を誇るボディを支える足まわり全体をしなやかな特性へと変更しつつ、車体後部のロールを許す方向で走行性能の再バランス化を図ったのだ。

 変化は乗った瞬間に分かる! それこそ「WRX STI」の試乗レポートでのとおり20km/h程度でのスラロームで劇変したことが確認できた。ここではステアリングを操舵した状態から直進状態へと戻す際に、ステアリング自体が自然に直進状態に戻るようセルフアライニングトルクを制御するプログラムを追加したことが大きい。具体的にはEPSのモーター制御を変更することで、ドライバーがステアリングを戻す速度に合わせて最適化できるようになった。ジンワリ切っても、スパッと切ってもこの制御が入るから、路面の起伏や状態まで手のひらを通じて掴むことができる。ちなみに、この制御はS4にも採用されている。

 50km/h程度で大きな弧を描かせるスラローム走行では、新旧の違いは早くも決定的になる。従来型の美点はなによりもスポーツ性能とステーションワゴンとしての利便性を高い次元で両立させていたこと。対して新型は、居住性の向上という第3の美点を手に入れた。スバルが狙ったC型までの方向性は理解できるものの、ステーションワゴン(メルセデス・ベンツ S204)を愛車としている筆者としては、ロングドライブや多人数乗車の機会も多く、その際には乗る人全員が疲れを感じにくい快適な乗り味が大切だと痛感している。

 その点、D型は車体全体の動きがマイルドになり、結果としてドライバーだけでなく、試乗コースで体験してみたが実際に後席でも滑らかさが感じられるようになった。とはいえ、一定のスラローム走行での確認ながらロールの絶対量はそれほど大きくなっていないから別のキャラクターになったわけではないが、路面の継ぎ目や段差などを通過する際、従来型であれば“ガツン!”とそれなりの衝撃音と共に強めの振動を体感していたものが、“すとん”と振れ幅こそ大きくなったものの一発でスッと収束し、また耳に届く衝撃音も角が丸く優しくなった。つまり、日常の使い勝手としては大きく向上し、走行性能の動的質感と呼べる部分も相応に高められたのがD型の素顔といえる。

足まわりでは、フロントストラットとリアダンパーのリバウンドストロークを延長(フロント5mm、リア8mm)し減衰力を最適化。フロントサスペンション後方のアームブッシュをピローボールからゴムブッシュに変更し、リアスタビライザーの直径を20φから18φへ小径化したほか、1.6GT EyeSightと1.6GT-S EyeSightではコイル部のバンプストロークを前後ともに8mm延長してバネ定数をダウン。よりしなやかな乗り味を与えるとともに、ハンドリングの際の気持ちよさを向上させる改良が加えられた

 ユーザーとしてうれしいのは、スムーズさと力強さ、そして静粛性だ。直噴のインジェクターの設定変更とCVTの連携によって、“じんわりスタート”ができるようになった。従来型は少しクセがあってゆっくりとした浅いアクセル開度でもスタート時にドンと出てしまう傾向があったのだが、新型ではそれが解消された。また、踏み込み量に応じて躍度が増加するからクルマとの一体感が強くなる。加えて、2.0リッターモデルに採用されていた「オートステップ変速制御」が1.6リッターモデルにも採用されたことで、とくにアクセル開度が大きな場面でのラバーバンドフィーリング(エンジン回転数の高まりと加速感のズレ)が大きく減少していることが確認できた。

WRX S4もしなやかに

 S4は新型のみの試乗だったが、やはりしなやかさが前面に出た変更は分かりやすい。このクラスのセダンでしかもハイパワーモデルは希少価値が高い存在だが、S4は純然たるスポーツセダンを名乗れるだけあって、レヴォーグの改良幅よりも運動性能向上に主軸が置かれた。一方、レヴォーグ同様のアイサイトツーリングアシストが標準装備となるほか、運転支援機能を高める「アイサイトセイフティプラス」や視界拡張機能である「アイサイトセイフティプラス」も2.0GT-S EyeSightでは標準装備、2.0GT EyeSightではオプション設定となるなど優れた運転支援技術が搭載される。

レヴォーグと同じく大幅改良が行なわれた「WRX S4」。ボディサイズは4595×1795×1475mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2650mm、最低地上高は135mm。最高出力221kW(300PS)/5600rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/2000-4800rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 2.0リッターエンジンを搭載し、CVT(スポーツリニアトロニック)を組み合わせる

 最後に一言。今回のD型レヴォーグはより上質な走りや装備を求めるユーザーにはジャストミートな1台だ。しかしクローズドコースで勢いよく走らせた際には、従来型のパキッとしたハンドリングや車体の動きも捨てがたいと感じられた。この先、各自動車メーカーでは先進安全技術であるADAS(Advanced Driver Assistance Systems)と、車両の持つ運動性能のうち特化したスポーツ性能をいかに融合させていくのかという共通の課題に取り組んでいくわけだが、今回レヴォーグ/S4が見せてくれた進化の方向性は1つの羅針盤になるのではないかと思えた。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学