インプレッション

ランドローバー「レンジローバー」

 ヘビーデューティな4WDオフローダーのパイオニア・ブランドとして知られる英ランドローバー。「レンジローバー」はそんなこのメーカーが揃えるラインナップの頂点に立つ、フラッグシップ・モデルだ。

初めて「環境対策に真剣に取り組んだレンジローバー」

 日本で従来用いられていた「ヴォーグ」の名称が外され、他のマーケット同様シンプルに「レンジローバー」が正式車名とされた、今回フルモデルチェンジを受けた新型は、1970年にデビューをした初代から数えて4代目となるモデル。そんな最新型のスタイリングが、前3代目のイメージを強く受け継いだものであることは一見して明らかだ。

 サイド見切りの「クラムシェル・フード」に始まる厚みのあるロワーボディーに、ブラック塗装でヒドン化されたピラーを介して、薄いルーフが載せられたそのプロポーションは、いかにも「レンジローバーの文法通り」という印象。

 今や重要なアイコンの1つとなったサイド・ベントは、新型ではエンジンフードとフロントフェンダー上部の隙間からエアを導入する構造へと進化したため、もはや機能上の意味は持たなくなり、フロントのドアパネル前方へと場所を移すことに。そんな理由ゆえデザインの自由度を大きく増したそのアイテムが、サイドビューでの「レンジローバーらしさ」を強くアピールするのも、また新型での“見せ場”の1つということになる。

エアの導入方法が変わったため、サイド・ベントは装飾になった

 ボディーサイズは、全長と全幅が従来型からわずかに拡大されると同時に、ホイールベースも40mm延長。それでもレンジローバーらしい雰囲気を大きく変えるにはもちろん至っていない。

 注目に値するのはむしろ全高で、こちらは前出の各寸法がすべてプラス側へ変化したのに対し、唯一のマイナス値を発表。従来型との差はさほど大きくはないものの、それでもこの“ダウンサイジング”は見逃せない。聞けば、そこにはよりスタイリッシュな見た目を手に入れるという思いのほかに、「空気抵抗の低減」という狙いも含まれているというのが、いかにも今の時代のモデルならではでもある。

 大きく重いボディーを大排気量の多気筒エンジンで駆動する――そんなレンジローバーといえば、これまでは「“効率”という2文字には最も縁遠いモデル」というのが一般的な認識でもあったはず。が、後述のように、大幅な軽量化を実現し、さらにアイドリング・ストップメカや電動式パワーステアリングといった“省エネメカ”も採用する新型は、前述空力性能のアップなども含めて、歴代モデルとしては初めて「環境対策に真剣に取り組んだレンジローバー」であるのもまた間違いない。

 そんな新型での技術上の最大の見どころは、「SUVとしては世界初」を謳う、オールアルミ・ボディーの採用にある。

 詳細については、すでに本サイト上でもプロダクトセミナー・リポートとして報告済みだが、モノコック構造のボディーシェルは、それ単体でも「従来型のスチール製と比べて、39%レスとなる180kgの軽量化」が謳われている。

 さらに、内蔵されるインパクトバーを含めてオールアルミ製となるドアや、やはりアルミ製のサブフレームを用いた前後の新設計サスペンション、SMCプラスチック製のアッパー・テールゲートパネル等々の軽量構造を採り入れることによって、「同じV型8気筒ガソリン・エンジン搭載車同士の比較で、従来型よりも最大345kgのマイナス」もアピールされるのだ。

 ちなみ、車両全体では「最大420kgの軽量化」が謳われているが、実はこちらは同等以上の動力性能を発揮しつつ、8気筒から6気筒へとレスシリンダー化が図られたディーゼル・モデルでの話題。いずれにしても、従来型比で軽く1割以上の軽量化を実現させたことこそが、10年ぶりのフルモデルチェンジを行った新型の、最大の技術的な見どころというわけだ。

ハイエンド・モデルの面目躍如のインテリア

 そんな新しいレンジローバーの国際試乗会は、冬でもなお暖かい陽が降り注ぐ、北アフリカのモロッコで開催された。

 スタート基点のリゾートホテルのエントランス前に並べられた新型レンジローバーは、従来型同様の“威風堂々”ぶり。同じレンジローバー・ブランドのモデルでも、「イヴォーク」のようなスポーティさや新規さは持ち合わせない一方、いわゆる“冠婚葬祭”のシーンすべてを難なくこなしてくれるオールマイティぶりという点では、このモデルの右に出るSUVは世界にもなかなか居ないはずだ。

 しかし、ドライバーとしてレンジローバーというモデルの崇高さを最も強く実感できるのは、硬質な触感そのものが本格的な4WDモデルならではの高い信頼感を連想させる、ドアラッチが外れる感覚を味わいながらドアを開いたその瞬間ではないだろうか。

 目前に広がるのは、まさに「贅を尽くした」という表現がぴったりの、いかにも吟味をされた素材で組み上げられたインテリア。木目と革とメタル材の調和ぶりが何とも見事なダッシュボードや、そこにコーディネートをされたドアトリムやシートなどの質感も含め、インテリア全体にまさにハイエンド・モデルの面目躍如という光景が広がるのだ。

 一方、デザインそのものは一見オーセンティックにも思えるそんなインテリアが、従来型に比べセンターパネル部のスイッチ数が大幅に整理をされ、ATレバーが姿を消すなど、実は機能性を追求した近代化が図られている点も見逃せない。

 全長5m級のボディーの持ち主ならではの大柄なキャビン内でアップライトな姿勢で着座をするゆえ、そもそも従来型でも十分だった居住性にも、さらなるリファインの手が加えられた。

 中でもそれを強く実感できるのが、後席足下のスペース。それもそのはずで、そこでのレッグスペースは120mm近くも拡大されているという。後席を2シーター・デザインにアレンジした「エグゼクティブ・クラス」のパッケージをチョイスすれば、このクラスのモデルとしては唯一最高のショーファー・ドリブンカーとしても抵抗なく用いることができそうだ。

 「コマンド・ポジション」がもたらす見下ろし感覚の強いドライビングのスタンスはもちろん健在。スクエア基調で見切り感覚に優れたデザインゆえ、大柄でもボディー端がつかみ易いというのもまた、「レンジローバーならでは」と言ってよいポイントだ。

“軽さ”と“速さ”に驚愕

 まずはオーバー500PSの最高出力を誇るスーパーチャージャー付きモデルに乗り込んでいざスタート。エンジンや駆動系のセッティングを包括的に制御する「テレイン・レスポンス2」が、新設された「オート」の位置にあることを確認し、エンジンのスタートと共にセンターコンソール上にせり上がるダイヤル式のATセレクターでDレンジをチョイスしてアクセルペダルを軽く踏み込むと、即座にその“軽さ”と“速さ”に驚愕させられることになった。

 それは、アクセル開度を早開きの非線形とすることで、出足のよさの演出を狙ったような不自然なものではない。アクセル操作に対する動きのリニアさは文句なしの状態のままに、「とてもSUVとは思えない」前述のような軽さと速さが、どこまでも続いて行くという印象だ。

 加えれば、今度は速度が高まるに従って驚かされるのが、その静粛性の際立つ高さ。まるでメルセデス「Sクラス」やレクサス「LS」のような静かさを保ったままに、瞬く間に指針を上げて行くバーチャル式スピードメーターの表示を見つめていると、「このモデルはSUVのスーパーカーなのだ!」と、改めてそんな感慨を抱くことになる。

 新開発されたエアサスペンションがもたらす、すこぶるフラットでスムーズな乗り味にも感心をさせられた。恐らくは、1人でのタイヤ交換など到底不可能? と思われる大きく重い20インチのシューズを履いているとは思えない滑らかで“軽快”なばね下の動きも特筆もの。同時にそんなフットワークが、あくまで自然で軽快なハンドリングと安定性もを実現させていることを、市街地から山岳ワインディング・ロード、そしてまだ完成間もないと思われる郊外の高速道路上でもしっかり確認できた。

 もっともこうしたフットワークの好印象は、まずはアルミ材の使用で軽量化されつつも、高い強靭さを実感できるそのボディーのでき栄えに支えられたものであるのは疑いない。実際には、いかにレンジローバーと言えどもその生涯の大半のシーンは、完全舗装をされたオンロード上で過ごすというのが、今の時代であるはず。となれば、極端なオフロード踏破性には見切りをつけ、さまざまな部位の“肉抜き”や素材のダウングレードなどで、スチール製ボディーのままに軽量化を図るという手法だって考えられないわけではないはずだ。

 実際、そんな手段に打って出るライバル車も皆無とは思えない中で、しかしそうしたやり方はレンジローバーにとっては有り得ない選択肢であったに違いない。そして、そんなクルマ作りのフィロソフィこそが、世界のハイエンド・サルーンと直接比較をしても見劣りをすることがない、この何とも上質な乗り味を実現させているのだ。

 そんな「何もかもがスーパー」と感じられるモデルから自然吸気エンジン搭載モデルへと乗り換えてみると、0-100km/h加速にして1.4秒という差も示すように、スーパーチャージャー付きモデルでは嫌と言うほどに実感させられた“怒涛の速さ”はさすがに影を潜めることになる。

 が、それでもその動きの軽快感はやはり十分に健在だし、何よりも加速力そのものがこちらでも十二分。スーパーチャージャー付きモデルと比べると1速から2速へのシフトショックがやや大きめと感じられたが、こちらでは隣合うギア間のステップ比が小さな8速ATのメリットがより強く生きていると思えた。

“ON”でも“OFF”でも世界一快適かつゴージャス

テレイン・レスポンス2のダイヤル

 今回の2日間に及ぶ国際試乗会のプログラム中には、通常であればとてもクルマで乗り入れようとは思わないはずの砂丘から酷く荒れた岩場など、モロッコならではのタフなオフロードもたっぷりと用意されていた。

 そして、そこでの新型レンジローバーは、前述のようなオントロードのセッション以上に“水を得た魚”のごとし。すなわち、「これでダメならばそれは“どんなクルマ”でも走り抜けるのは無理でしょう!」と、そう思わせる、圧倒的な踏破性を見せ付けてくれたということだ。

 ここで威力を発揮したのが、例の「テレイン・レスポンス2」なるランドローバーの作品ならではの装備。通常時には、「オート」のモードで大半のシーンを賄えるものの、「砂地」「泥濘地」などと予めプリセットをされた5つのモードの中からその路面に応じたポジションを選択することで、アクセルの線形やギアポジション、エアサスペンションや駆動系のセッティングが最適な組み合わせへと瞬時に変化し、なるほどそんなシビアな走行シーンでのドライビングが、大いにリラックスできるものへと変化するのを実感させてくれた。

 ちなみにそうした走行シーンでは、新たに採用された電気式のパワーステアリング(EPS)が、路面からの無用な反力や衝撃を大きく緩和してくれることも確認。これまでは、車重の大きさゆえなかなか普及が進まなかったSUVへのEPS採用だが、実はこうしたモデルにこそこの装備が相応しいことを、改めて証明してくれた。

 それにしても、目も眩むほどの荒れた急勾配や、大スタック間違いなしでしょう! と思える深い砂丘などを、空調がしっかり効いたキャビン内で際立つ静粛性に包まれたに踏破できてしまうとは何と贅沢なことか。

 すなわち、新型レンジローバーは“ON”でも“OFF”でも世界一快適かつゴージャスな、スーパー4WDモデルであると言うわけだ。

 そんなこのモデルも、やはり人間が生み出した工業製品の1つ。そこには、この先リファインを進めて貰いたいと思えるポイントも皆無というわけではなかった。

 1つはタッチ操作方式のセンターディスプレイで、これはこのモデル最大とも思えるウイークポイント。画面が指先の皮脂でたちまち汚れてしまうのがこうしたハイエンド・モデルに相応しいとは思えないのを筆頭に、ナビゲーション地図の縮尺変更に2度のタッチを必要とする点なども含め、その操作性も一級品とは言い難い。

 また、バーチャル・メーター内に表示されるインフォメーションの文字が今回もカタカナに据え置きというのも、メルセデスやBMW、アウディなどすでに漢字を使いこなして久しいライバルに比べると、見劣りして残念な部分。さらに、ドアミラーの装着位置が着座点に対して相対的に高まったことで、その背後に生まれる死角が従来型よりも大きくなってしまった点も気になる。

 もっともこれらは、いずれもそう難しくなく改良が可能であるはずの内容。ここのところは今後早期のリファインに期待ということになる。

 今度のレンジローバーが大変な意欲作であり、そして実際にその仕上がりレベルが非常に高いものであることは十分確認できた。従来型よりもスターティング・プライスがわずかに上がったその価格は、もちろん絶対的には「大変な高額」であるのは確かな事柄。

 しかし、その内容の進化ぶりを考えればそれも十分納得できてしまう新型と言ってよいものだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

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