インプレッション
トヨタ「カローラ アクシオ ハイブリッド」「カローラ フィールダー ハイブリッド」
Text by 岡本幸一郎(2013/9/20 00:00)
噂の絶えなかったハイブリッドが追加されて受注も好調
初代カローラが登場したのは1966年(昭和41年)のこと。3年後の1969年からは、それまでのコロナに代わって年間の販売台数でトップに立ち、それ以降、2001年まで33年間の長きに渡ってその座を守り続けた。2002年にホンダのフィットがカローラに代わって首位に躍り出る。2003年以降は再びカローラが首位に返り咲き、しばらくその座を堅守したものの、2009年に3代目プリウスが発売されて爆発的にヒットすると、カローラの販売台数は必然的に落ち込んでいった。
そういえば、2002年の“カローラ首位陥落”はかなり話題になったものだが、2009年はプリウス一辺倒でカローラのことはあまり話題にならなかった気がする。それだけカローラの存在感が下がってしまったようだ。
そんな状況で登場した11代目カローラの発売から1年あまり、かねてから噂のあったハイブリッドモデルがついに追加された。そして、発売後1カ月で月販目標台数の9倍近くとなる2万2000台を受注したことが大いに話題となっている。
元になった11代目カローラについて述べると、現在では2ボックスのコンパクトカー以外で5ナンバー枠を守っている車種がほとんど存在しなくなったなかで、車体寸法をダウンサイズするという思い切った策に出たのが大きな特徴だ。それでいて、室内空間はむしろ従来より大きくなっているという面は歓迎したい。
外観のデザインは、普遍性を損なわない範囲でありつつ凡庸に終始しないよう、できるだけ変化をつけようとした痕跡を感じるもの。なんとなくまとまりがよろしくないような気もするが新しさはある。誰にも嫌悪感を抱かせないこともカローラに与えられた重要な使命に違いないだろうから、その意味ではこれぐらいがいいのかもしれない。ちなみに、ガソリン車とハイブリッド車で外観上の相違点は非常に少ない。
シートに収まると、シフト位置も含めて適切なドライビングポジションが取りやすく、ピラー類やミラーによる死角が小さい良好な視界も確保されており、快適な運転環境が得られていることを直感する。さらに、エアコンを操作しやすいようにセンタークラスター中段を手前に出し、その下を斜めにくぼませて収納スペースを設置。L字型に長くえぐられたインナードアのアームレストと、その下に大きく機能的なドアポケットを用意するなど、使い勝手に配慮して設計されたことがうかがえる。
ハイブリッド車にはブルーのメーターや、ハイブリッドに関連した情報を表示できる4.2インチTFTモニターなどの専用装備が与えられているが、基本的にはベース車のデザインを踏襲しており、アクアやプリウスのようなハイブリッド然とした雰囲気ではない。いくつかのレクサス車にある切り替え式ではなく、常時表示されるタコメーターが残されているのも特徴だ。
そういえば、先代の10代目カローラ アクシオは、年配ユーザーのためにバックガイドモニターを全車標準装備としていたはずだが、いつの間にかオプション設定となり、今回の撮影車両にも装着されていなかった。当時は「さすがはトヨタ、良心的だな」と感心したものだが……。
アクアと近い動力性能、アクアと異質のフットワーク
パワートレーンは、当初からラインアップされているガソリン車は、フィールダーが1.8リッターと1.5リッター、アクシオが1.5リッターと1.3リッターという設定になった。アクシオでは従来の1.8リッターが廃止されて1.3リッターが復活したわけだ。そしてハイブリッド車は、システムとしてはアクアと同じ1.5リッターエンジンにモーターと2段リダクションシステムを組み合わせたTHSIIとなる。
今回、アクシオは上級装備が与えられるグレード「ハイブリッド G」、フィールダーはシートなど各部にホワイトのステッチが入り、シートベルトもホワイトになった特別仕様車「ハイブリッド G エアロツアラーW×B」を持ち込んだ。セダンのアクシオは年配のユーザーに、ワゴンのフィールダーは若者に向けた性格とされているのも従来どおりで、今回の2台も雰囲気はかなり異なる。
撮影車両の車両重量は、アクシオが1140kg、フィールダーは1180kgとなり、大半のグレードが1080kgというアクアよりだいぶ重いが、動力性能の印象はやはりアクアに近い。
アクアはもともと出足をマイルドにして、アクセルをあまり踏み込まなくてもモーターがアシストしてくれる設定だが、カローラのハイブリッドもまさにその傾向。誰にとっても乗りやすく、燃費も稼げる特性を意識しているようだ。JC08モード燃費については、アクアにオプションを装着して1090kg以上になった車両と同じ33.0km/Lとなっている。このクルマにはタコメーターが装着されているおかげで、エンジンがいつ止まっているのか一目瞭然であることも運転していて楽しい要素だ。
一方で、フットワークの仕上がりはアクアとは別物。アクアは引き締まった足まわりを持ち、意外なほど運動性能が高くて操縦安定性に優れる。それに比べるとカローラはガソリン車がそうであったように、乗り心地重視のソフトな足まわりが与えられている。大きなアクションを起こしたときの挙動変化は大きめだ。
アクシオ ハイブリッドはまさに同様で、フィールダー ハイブリッドは乗り心地がそれほど硬くないのに、ちょっとした段差を通過すると意外と大きな入力を感じるという、やや不思議な味付けだ。
ガソリン車と比べた印象では、車両重量が増して前後重量配分がいくらか均等に近づいたことで、ピッチングがおだやかになってガソリン車に見受けられた軽薄な印象がやや薄れていた。そして、前後重量配分に優れるフィールダーのほうがより前後バランスが高く感じられた。
ブレーキフィーリングは踏むときはまだしも、抜くときが早く抜けすぎてピョコンと姿勢が変わってしまいがち。ガソリン車でも頼りなさを感じたものだが、ハイブリッド車も同様。剛性感に乏しく、回生ブレーキの違和感も加わっていまひとつだ。同乗者にも不快な思いをさせかねないので、今後の改善に期待したいところだ。
ハイブリッドの室内空間やトランクはガソリン車とほぼ同じ
ハイブリッド車というと、トランクや室内がどうなっているかも気になる部分だが、数値に表れる寸法はガソリン車とまったく同じ。ただし、アクアと同じくリアシートの下にバッテリーが搭載されるため、シート下の張り出しがガソリン車よりもやや大きく、加えてクッションが薄くなっている。これに対しては着座感が損なわれないよう、クッション内部の素材を変更して対応している。実際に座ってみるとカカトの収まりはガソリン車のほうがよかった気もしたが、大きな差はない。
収納スペースについては基本的にガソリン車と同じ。フィールダーはアンダートレイや各所に設定したフック類、パーティションにできる前後2分割のデッキボードなど、最近のワゴンに見られる便利機構はおおむね採り入れている広いラゲッジはそのままで、ガソリン車に対して失ったものはなにもない。この便利な収納が手に入るという部分は、プリウスやアクアに対して大きな優位点だと思う。
一方のアクシオも、ハイデッキとすることで効率的に容量を稼いでいて積載性は高い。ガソリン車のようにリアシートを倒してトランクスルーにできる設定がハイブリッド車にはないが、それ以外はまったく同じだ。
カローラ ハイブリッドの価格帯は、アクシオが192万5000円から、フィールダーが208万5000円からとなっており、いちがいに比較はできないが、ガソリン車と比べて40万円ほど高い。同じ2WD(FF)のガソリン車に当てはめると、アクシオの「1.5 ラグゼール」(190万円)、フィールダーの「1.8S エアロツアラー」(212万円)といった最上級グレードと同等になる。あるいは、169万円からのアクアと、217万円からのプリウスという2モデルのほぼ中間かプラスアルファというイメージだ。
カローラ ハイブリッドのJC08モード燃費の公表値は、ガソリン車に対しておおむね5割増しという感じ。元が取れるかどうかいった損得勘定をすると、ハイブリッドという選択肢はあまり合理的ではないといえる。しかし、もはやそこは問題ではない。カローラのようなタイプのクルマでもハイブリッドという先進的な付加価値を求めるユーザーが大勢いることは、冒頭の受注台数を見ても明らかだ。
アクアやプリウスのような、ある種の“華やかさ”らしきものはないが、性格の違うクルマだからこそ、敢えて存在する価値も高まるというものだ。とにかく、トヨタの手ごろなハイブリッド車の選択肢が増えたことは大いに歓迎したい。
ガソリン車の印象をプレイバック
別の機会に試乗したガソリン車について紹介すると、動力性能の印象自体はやはり排気量どおりだが、1.5リッターの1NZ-FE型エンジンは型式名こそ従来と同じながら、大幅に進化していることが分かる。
また、新開発のCVTは低フリクション化、変速比幅のワイド化、リニア感の追求などを行っているとのことで、印象もよかった。フィールダーの最上級モデルに搭載される1.8リッターの2ZR-FAE型エンジンはさすがに瞬発力があり、スポーツモードが付いたCVTは7速のマニュアルシフトが可能。パドルシフトがないことが惜しまれる。
足まわりについては、トヨタはセッティングの共通化を図っている傾向が強いというイメージだが、11代目カローラではグレードごとにキャラクターに合わせて細かく差別化している。大まかに表現すると、やはりアクシオよりもフィールダーのほうが硬めで、1.8リッターモデルがもっともスポーティとなる。
しかし、アクシオは1.5リッターでコンフォート性を高めて、1.3リッターはキビキビ感のある味付け。これは、50~60代のユーザーが多いアクシオで、上級モデルではあまり尖ったところのない穏やかな乗り味を心がけたとのことで、実際にそのとおりになっていた。逆に、1.3リッターモデルはフリートユーザーを視野に入れ、乗り心地を確保しながらも、走りを楽しんでもらえるような味付けとしたと開発担当者は口にする。
フィールダーの1.8リッターモデルは、開発担当者が「かなりチャレンジした」という設定となっていたのは乗ってみても明らか。とはいえ、乗り心地がガチガチというほどではなく、ちょっと硬めかなという感じ。跳ねるほどではないが、ロールもそれほど抑え込まれているわけではない。しかし、なぜか段差を通過したときなどは「ゴンゴン」と大きめの音を発するので、実際よりもハードに感じられる。スポーティな雰囲気の演出として、敢えてこうしているのだろうか?
ちなみに、先代で採用したヤマハのパフォーマンスダンパーは装着していない。プラットフォームのキャパシティが高まったので頼らずにいこうと考えたそうだが、それでも筆者はこれまでの経験から付けたほうがいいと思う。
さらに1.8リッターモデルは、ステアリングもクイックになっている。ご参考まで、ほかのグレードのステアリングレシオが15.8ぐらいのところを、同モデル1.8リッターでは14.1となっていてかなり速い。ちなみに従来のステアリングレシオはすべて18台だったので、全体的に速くなっていることになる。
ただし、ステアリングフィール自体は全体的にあまり好みではなかった。開発担当者によると、グレードごとに気を配ってチューニングしたと説明されたが、基本的な素性としてイナーシャが大きめなことや、中立付近にあいまいな遊びがあり、やや操舵力が軽すぎる点などが気になった。最近の同じクラスの他メーカー車では、このあたりもがんばっている例が多く見受けられることだし、カローラでももう少し改善されることに期待したいところだ。
そんな感じの11代目カローラ。あれこれと注文をつけたくなる部分もあるのだが、カローラを選ぶユーザーにとっては、細かい部分が洗練されていくことを期待するとしても、本質的にはおおむねこれぐらいでちょうどよいと筆者は思っている。あまり妙に背伸びしていないところがいい。ハイブリッド車でもあまりガソリン車と見た目の差をつけなかったこともその表れだろう。
販売台数でトップの座を死守しなければならないという重圧から解き放たれた11代目カローラは、肩の荷が下りて「身の丈」のクルマになった……と思っていたのだが、ハイブリッドの追加で状況が変化してきた感もある。ひょっとして、トヨタはカローラを再び販売台数トップの座に返り咲かせようと本気で考えていたりするのだろうか。