インプレッション
ボルボ「V60 T6 AWD R-DESIGN」「S60 T4 R-DESIGN」
Text by Photo:安田 剛(2013/11/6 00:00)
ボルボといえば“安全思想の塊”といった感が強いメーカーだ。2020年までに新しいボルボ車において、交通事故による死亡者や重傷者をゼロにしようという「ビジョン2020」を掲げ、ボディーやシャシーの磨き込みだけでなく、あらゆるセンサー類を搭載することで衝突を回避する「シティセーフティ」も装備。少しでもユーザーに安全を提供しようと躍起になっている。
安全にばかり注視していると聞くと、何だかつまらないクルマに感じてしまうが、その心配は無用。なぜならボルボには、ドライビングプレジャーを第一に考える「R-DESIGN」が存在するからだ。
新たに登場した2014年モデルの60シリーズに設定されたR-DESIGNは、ベースモデル同様にフェイスリフトを行ったところが目新しい。フレームレスでワイド化されたフロントグリル、そしてグリル脇に存在したポジションライトを廃止したこともベースに準じている。その上でグリルをブラックアウト化。バンパーは専用品となってかなり精悍な顔つきになった。リアまわりでも専用ディフューザー付のリアバンパーや専用デュアル・スポーツテールパイプを装備。これもまた走りのクルマであることをアピールしている。なお、今回試乗したのはセダンのS60とワゴンのV60をベースとしたR-DESIGNだが、SUVのXC60にもR-DESIGNが設定されている。
インテリアもまたR-DESIGNならではの世界観。ドアを開いてまず目に飛び込んでくるスカッフプレートは走りを予感させる。そして室内全体がブラックアウト化されたことも引き締められた印象が伝わってくる。その上でセンターパネルにアルミニウムパネルを奢ることで、上質さを際立たせているところもポイントの1つだ。この磨き上げられたアルミパネルは、高級宝飾時計に用いられる「ジュネーブ・ウェーブ」という手法を用いており、きめ細かいウェーブが全域に施されているのが心憎い演出だ。このほか、2014年モデルから投入されたTFT液晶メーターパネルにも専用テーマカラーが与えられ、スタートアップ時にはR-DESIGNのロゴが示されるなど、細部に渡ってユーザーを喜ばせようという演出が散りばめられている。
だが、それだけに終わらず、手が触れる部分についてもチューニングが行われているところが好感触。ディンプル加工が施されてグリップも太めになったステアリングやそれに準じたシフトノブは、ハードに走ったとしても十分に応えてくれそうな感覚。ホールド性を高めたリクライニングバケットシートやスポーツペダルも、走りに効果を発揮しそうだ。
R-DESIGNの見どころは、なにも見た目や内装の充実ぶりだけではない。シャシーについてもかなり引き締められていることがポイントなのだが、その内容がじつにマニアックなところが面白い。詳細を確認すると、スプリングとダンパーを引き締めてストラットタワーバーを追加するだけでなく、なんとブッシュ関係まで硬度を増しているというのだ。サスペンションとタイヤ&ホイールを変更しただけでは終わらず、ブッシュにまで手を加えたあたりがR-DESIGN流と言っていいだろう。なお、XC60のR-DESIGNについてはさらにステアリングギアレシオの変更まで追加されている。この本気ぶりはハンパじゃない。
パワートレーンについてはノーマルと同様だが、ボルボのモータースポーツ&カスタマイズの公式パートナーとして設立された「ポールスター・レーシング」が送り出すパフォーマンスパッケージが20万円高でオプション設定で用意されている。内容はコンピュータチューニングで、これによってT4エンジン搭載車は最高出力が180PSから200PS、T6エンジン搭載車は304PSから329SPに引き上げられている。これは購入後でもディーラーでチューニングすることが可能になっている。
最初にV60 T6 AWD R-DESIGNを拝借し、箱根のワインディングを走り出す。するとまず感じたことは、シャシーがかなり引き締められているということだった。スロー走行していると路面のアンジュレーションに車体が追従するかのようにハードな設定。しなやかさが際立ち、路面状況を見事に吸収し続けていたノーマル仕様とはまるで違う印象だ。ハーシュネスが少ないとは間違っても言えない。R-DESIGNとはそういう仕様である。
だが、けっしてそこに嫌な感覚を抱くことはない。その理由は、このクルマがペースを上げれば上げるほど入力を吸収し、路面を捉え続けてくれるからだ。大入力を与え続けたとしても決して力不足にならないこのシャシーは、はっきり言ってスポーツカーのそれだ。ハンドリングを最優先に考え、とにかくニュートラルに、そして立ち上がりではトラクションをしっかりと稼ぎ出すという仕上がりになっている。その動きの過程がきちんと正確に伝わることも魅力の1つ。このクルマは車重が1800kg近くある巨体なのだが、それがネガティブ要素にならないほど走りが突き抜けている。生半可なスポーツカーならこのクルマに道を空けるべき。それくらいにコーナーリングは速く、そして気持ちいい。
ポールスター・パフォーマンス・パッケージが与えられたT6の直列6気筒エンジンも、そんな気持ちよさを後押ししてくれる。低回転からツキがよく、高回転に向けて突き抜けるような滑らかさを持つこのエンジンは、直列6気筒ならではのシルキーさがある。音色もじつに官能的であり、思わず回したくなる仕上がりを持っている。もちろん、重量的に見ればワインディングには不向きなパッケージングであることも事実なのだが、シャシーが引き締められたことによって、直6のネガを感じにくくなっているところもR-DESIGNならではと言える。
こうした感触を得たあとに、今度はS60 T4 R-DESIGNに乗り換える。すると、先ほどのV60とは180°違う世界を感じることができた。それは軽快さがかなり増しているということ。セダンボディーで直列4気筒エンジン、そして2WD(FF)になることで1540kgの車重を達成しているこのクルマ。数値だけを見ればそれでも十分に重量級なのだが、先ほどのワゴンと比べればピュアスポーツのようにも感じるほどスッキリとしたハンドリングを展開する。たとえタイトターンが連続しようとも、キビキビと鼻先をイン側に向けていくのだから面白い。もちろん、そのぶんコツコツとしたハーシュネスをV60以上に感じる部分もある。だが、それを許せるだけのハンドリングがあるのなら、これもまた1つの選択肢になるだろう。
車両価格やエンジンスペックが「数値が大きいほうがエライ」となる傾向はスポーツモデルの宿命だが、このR-DESIGNに関してはそうはならず、T4であっても十分によさがあると僕は感じた。動きの正確性、そして手の内に収まる感覚は明らかにS60 T4のほうが上だ。
そう感じさせてくれたのは、やはりポールスター・パフォーマンス・パッケージによってT4のエンジンもしっかりと調教されているからだろう。低回転からグッと前に出る感覚を持つこのパワーユニットは右足の感覚と見事にリンク。上り勾配であっても必要十分以上に駆け抜けてみせたのだ。
ここまでのスポーツ性を宿しつつ、その一方ではボルボらしい安全思想を合わせ持つ。遊び心を忘れずにいながら、真面目な部分を削らないあたりがR-DESIGNの魅力といっていい。いつまでも走りを忘れたくはないけれど、自分や同乗者の安全はしっかりと確保したいと考える大人に乗ってほしい1台だ。