インプレッション

三菱自動車「ミラージュ(2016年型)」/タイ バンコク

まるで車格が上がったかのような雰囲気

 タイ バンコクで開催された「タイモーターエキスポ2015」の三菱自動車工業のカンファレンスにおいて、日本に先駆けて「ミラージュ」のマイナーチェンジ版が発表された。そして、会場となったインパクト チャレンジャー ホールの通路に設定されたコースで、簡単ではあるが試乗することができた。

 2012年に登場した現行ミラージュは、タイで生産された車両が世界中にデリバリーされているが、エンジンについては仕向け地により事情が異なっている。たとえば日本では直列3気筒DOHC 1.0リッターのみでスタートし、2014年の年末に直列3気筒DOHC 1.2リッターが追加されたが、タイやアメリカではもともと1.2リッターのみで、ヨーロッパが1.0と1.2リッターであった。そして、マイナーチェンジが12月中旬に予定されている日本でも、今後は1.2リッターだけの展開になるようだ。

新型ミラージュは、日本では直列3気筒DOHC 1.2リッターエンジン搭載車のみの展開となる

 実車と対面すると、パッと見では同じクルマとは思えないほど雰囲気が変わったことに驚かされる。従来はどちらかというとかわいらしい感じだったところ、グッと上質でスタイリッシュになった。まるで車格が上がったかのようだ。

 具体的には、ボンネット中央部が少し盛り上がった形状になり、グリル一体型フロントバンパーはアッパーグリルの開口部が大きく開いた形状になると同時に、クロームメッキの縁取りが施された。ロアグリルも開口部の面積が大幅に増えていて、メッキのアクセントが配された。ヘッドランプはLEDのデイタイムランニングライトを配した先進的なもの。ただし、日本では法規の問題があるので、ポジションランプと連動するタイプになりそうだ。

 リアバンパーはフロントに合わせて凹凸にメリハリを効かせたワイド感のあるデザインになり、リアスポイラーも従来はルーフのラインに合わせて後端にかけて落とし込んでいたところ、後方の視界向上のため落とし込みを抑えた形状になった。リアコンビランプもLEDを組み込んだタイプに一新されている。アルミホイールはご覧のとおり、なかなかスタイリッシュなデザインになる。同じものが日本仕様にも与えられる。

2016年型ミラージュでは前後バンパーの形状が変更されたほか、LEDポジションランプを組み込んだディスチャージヘッドライトを採用。ブラック塗装&切削光沢仕上げの15インチアルミホイールも新たに装備された

 インテリアでは、ステアリングホイールの下半分がピアノブラックとなり、クロームメッキのアクセントが施された。シート表皮も変更されている。また、ラゲッジフロア下にカーゴフロアボックスが設けられるとともに、リアシートを前倒しした際にフロアをフラットにできるようになったのも新しい。

 なお、タイ仕様と日本仕様の差は少なく、目立ったところではアイドリングストップとプライバシーガラスの有無が挙げられる。日本では着色フィルムの装着は禁止されているが、気温の高いタイでは多くの人が断熱フィルムをウインドーに貼るので、最初から濃色になっていることに価値を感じてもらえないからだ。

インテリアではピアノブラック&メッキ加飾を施した本革巻きステアリングを採用するほか、メッキリングをあしらったメーターを装備。ルームミラー付近には低車速域衝突被害軽減ブレーキシステム「FCM-City」などで利用するレーザーレーダーが備わった。そのほかラゲッジフロア下にはカーゴフロアボックスが新設されている

引き締まった乗り味と余力ある動力性能

 実車に乗り込み、さっそくコースへ。すると、会場の簡易コースでも従来モデルとの違いは明らか。まず感じたのはフットワークのよさ。コースの途中に設けられたパイロンスラロームで試すとよく分かる。

 従来型ではややソフトすぎるきらいもあったところ、新型は心地よく引き締まった印象に仕上がっている。当初のスタビライザー非装着モデルは、乗り心地がソフトであることをよしとしていたようで、確かにそのよさはあったがいささか心もとなく、ロールも大きかった。それが新型では引き締まった印象になり、ロールもかなり減っていた。車速は上限でも50km/h程度だったが、これならもっと高い速度域でも安定して走れそうだ。

 かといって乗り心地が犠牲になっている印象もなく、ミラージュの美点である乗り心地のよさは損なわれていない。また、従来型ではステアリング切り始めの反応が希薄だったのだが、新型は応答遅れも小さく、走りの一体感が増している。これには、サスペンションやEPSのチューニングの変更はもとより、フロントサスペンションのアッパーマウントまわりの剛性を強化したことも効いていることと思う。

 動力性能については、筆者はミラージュの1.2リッター車には初めて乗ったのだが、このクラスにおいて200㏄の排気量の余裕というのは大きなものだし、CVTの制御の見直しもあってだろうが、なかなか好印象だった。アクセルワークに対して“ついてくる”感覚がリニアで、浅い踏み込み量でもスルスルと加速していくのでストレスを感じない。D-Sモードにすると、より走りが元気になる。加えて静粛性も、今回のマイナーチェンジでというよりは、発売されてから4年の歳月をかけてちょっとずつ手を入れているようで、当初よりも大幅にレベルアップしている。

 また、今回のマイナーチェンジの大きなポイントとして「e-Assist」の採用がある。日本では軽自動車にまで普及が進んでいる衝突被害軽減ブレーキだが、タイではまだまだこの類いの装備は普及しておらず、一部の高級車だけに装備されているのだが、1.2リッター未満/燃費20km/L以上といった要件を満たす現地で「エコカー」と呼ばれるコンパクトカーに採用されたことで、ミラージュは大いに注目を集めているのだという。日本での価格は執筆時点では明らかにされていないが、多岐にわたる装備の追加に対し、価格の上昇は抑えるつもりとの情報もあったので期待したい。

 という感じで、今回は本当にチョイ乗りではあったが、ひとまず印象は上々であった。日本でもっとじっくりテストドライブできる日を楽しみにしたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。