インプレッション
ランボルギーニ「ウラカン LP610-4 スパイダー」(マイアミ試乗会)
Text by松田秀士(2016/2/18 12:21)
センターコンソール(トンネル)上の開閉スイッチを操作すると静かに、しかも迅速に電動油圧式ソフトトップのルーフが開き始めた。待ちに待ったオープンモデル「ウラカン LP610-4 スパイダー」の試乗会が行なわれたのは、米国でも有数のリゾート地であるマイアミだ。
筆者は同じフロリダ州で、ここマイアミに近いホームステッドやセブリングでインディカーのテストをしたことがあり、また1992年にはデイトナ24時間に出場しただけに、この地にはちょっとした郷愁を感じるのだ。フロリダ州はサンシャインステート(日光の州)とも呼ばれ、1月でも昼間は太陽さえ出れば半袖で十分。
ところで、ウラカンの先代モデルともいえる「ガヤルド」のスパイダー発表試乗会もマイアミで行なわれたとか。このときはホームステッドでのサーキット走行もあったらしく、今回も期待していたのだが予想は外れた。とはいえ、ほぼ1日中ウラカン・スパイダーをマイアミサンシャインシャワーのなか存分に乗り回すことができたので、その印象をお伝えしよう。
クーペよりも美しいシルエット
まずはエクステリアだ。そのシルエットを見れば感動するはず。クーペに比べてなんとボリュームを感じるリアセクションだろうか。さらに洗練性も感じさせる。コクピット後部のリアカバーが立ち上がることによって、なかから折り畳まれたソフトトップが出現してルーフを閉じることができる。この間なんと17秒。しかも50km/h以下なら走行中でも開閉が可能だ。
日本の折り紙からインスピレーションを受けたというクーペのルーフラインだが、スパイダーではルーフを閉じたときサイドビューのウィンドウまわりをヘキサゴン(6角形)にデザインされていることが特徴だ。
さて、このソフトトップは3層から形成されていて、外側にアクリル繊維のPANと略されるポリアクリロニトリルの層があり、中間層はクロロプレンゴム、そして内層はポリエステル100%で形成されている。スパイダーの全高は1180mm。クーペに対してわずか15mmアップに抑えられていて、前述したようにそのシルエットはむしろクーペよりも美しい。それはこのソフトトップテクノロジーによるもの。特にこの3層からなるソフトトップでは、空気抵抗や遮音・遮熱性、そして軽量コンパクト化が徹底的に研究されたという。
実際、走行時の静粛性や快適性はとても高く、見た目はソフトトップだが触れば樹脂製パネルのようなピンとしたしっかり感がある。このソフトトップはブラック、ブラウン、レッドの3色が用意される。ルーフを閉じた状態でもコクピット後方のウィンドウは開閉することができ、V10サウンドを肌で感じることができる。もちろん、このリアウィンドウはオープン時の巻き込みエアを軽減する役目も担っている。スパイダーではエアロダイナミクスも研究開発されていて、オープン時でも上面のエアの流れを整流し、わずか45mmのライドハイトを抜ける下面のエアはリアの大きなディフューザーに導かれる。これによって先代ガヤルドよりも50%ダウンフォースが増しているという。
オープン時にはもう1つ、座席背面両側にフィンが出現する。これによってスパイダーの横顔が力強さを増すだけでなく、ヘッドスペースへの乱流を抑制する。さらにフィン前方には左右に取り外し可能なウィンドガードが装着可能で、こちらはサイド部分の空気振動を弱めることで、オープン時でも会話が楽しめるのだという。車両横転時への安全装備では両席後方から飛び出すアンチロールオーバープロテクションが装備されていて、起動時にはルーフトップよりさらに110mmポップアップして1290mmの高さで乗員を守る構造になっている。
オープンだからこその音質と振動感がたまらない!
前置きが長くなってしまったが、どうしても詳細を伝えたいほどにスパイダーのルックスが素晴らしかった。インテリアは走りながら説明しよう。
まず朝イチで与えられたのがマットシルバーのベースモデルともいえる1台。オプションの可変ダンパーシステムであるマグネティックライドや可変ステアリングシステムのLDS(3種類の走行モードに応じて切れ角が変化)を装備していない。その代わりバケットシートが装備されていて、座面の厚みも薄い。朝からアグレッシブに走ろう! とはいうものの、サーキット走行があるわけでもなく、ある程度法規内での走行だ。
しかし、このシートがスパイダーの乗り味をしっかりと筆者に伝えてくれた。アルミ材アームによる前後ダブルウィッシュボーン式サスペンションは明らかに硬い。薄い座面のバケットシートには路面のギャップからの衝撃がしっかりと伝わってくる。しかしボディが震えていない。この感触はマクラーレン「MP4-12C」に初めて乗ったときと同じフィーリング。マクラーレンはF1で培ったカーボンテクノロジーでメインタブをフルカーボン化しているが、ウラカン・スパイダーはアルミとカーボンのハイブリット構造。しかしとても剛性感がある。
ねじり剛性はガヤルド比で40%アップを達成しているのだとか。それよりも2次振動が抑えられているのでバイブレーションがとても小さく、不快感がない。それでもアクセルを踏み込めば前後30:70(イニシャル時)のAWD駆動配分によりリアが沈み込み、リアのLSDが抜群のトラクションを発生して豹のようにカッ飛ぶ。硬いサスペンションだが、ストレスに対しては柔軟にストロークするのだ。装着されるホイールは20インチのGIANOホイール。前後フルLEDランプとこのGIANOホイールのデザインが筆者にはとてもカッコよく見えた。
イタリアンテイストのコクピットでは、質のよいレザータッチのインテリアがドライバーをハイな気分にしてくれる。ましてやオープンエアの周囲はマイアミの高級リゾート。このインテリアは17種の内装色と5種類のトリミングからカスタマイズできる。またボディ色は11色だが、アドペルソナム・カスタマイズ・プログラムというオプションにマット色が5色用意されている。今ドライブしているマットシルバーは、このオプション色なのだ。
午後からはイエローカラーのモデルに乗り換える。こちらはマグネライドなどのオプションを装着し、シートもやや厚みのある仕様。よって、乗り心地はより快適になる。
ステアリング上にある走行モードの切り替えスイッチによってストラーダ(標準)、スポルト(スポーツ)、コルサ(サーキット)の3種類が選べる。これによってエンジン、サウンド、トランスミッション、AWDシステム、ESC、ハンドリングシステムが変化する。可変ダンパーのマグネライドを装着したモデルでは、もちろん乗り心地も変化する。
こちらのモデルでは遠出もまったく苦にならないほどに快適で、オープン時の風の巻き込みも自然。リアガラスと両サイドのウィンドウを上げれば、とても快適なオープンドライブが楽しめる。マイアミのようなデイタイムドライブもよいが、例えば深夜の表参道をフルオープンで走るのもスパイダーならではの感動があるはずだ。
ところで、スパイダーのメーターパネルは12.3インチのTFTディスプレイ。ここにナビゲーションマップ(オプション)がインプットされている。大型(丸型)のエンジンレヴカウンターは毎秒60回の演算が行なわれ、その動きはリアルタイムでとても俊敏なもの。V10 5.2リッター(610CV/8250rpm、560Nm/6500rpm)の超パワフルなエンジンの鼓動をしっかりと伝えてくれる。
このV10エンジンは直噴とポート噴射のデュアル噴射形式。アクセルを床まで踏みつければ、空気振動とともに強烈な咆哮と加速Gに襲われ、気持ちをしっかりと保ちつつ右パドルを引けば7速デュアルクラッチトランスミッション「LDF」が即座に反応して、まるでF1マシンに乗っているかのようなシフトアップを体感できる。その速さとシフトノイズに痺れる。ダウンシフトもブリッピングとバックファイヤーのようなエクゾースト内の燃焼音。オープンだからこの音質と振動感がたまらない。
法規内で楽しまなくてはならないから、幾度となくこのアップダウンシフトを繰り返すが、LDFの電気油圧式マルチプレート連結器は常に冷却されているのでまったくタレたフィーリングがない。フロント43:リヤ57の前後荷重配分とAWDシステムがもたらすスタビリティの高い直進性とコーナリング。最高速324km/h、乾燥重量1542kg、パワーウェイトレシオ2.53kg/CVがもたらす0-100km/h加速3.4秒、0-200km/h加速10.2秒。スタート&ストップシステムとシリンダーオンデマンド(小負荷時片バンク停止)によって燃費は8.13km/L、CO2排出量は285g/km。エコでホットなスーパーカーのお値段は3267万円也。宝くじが当たったら、真面目に欲しい。