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世界一の“ウラカン・ガヤルド乗り”を決定する「ランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオ ワールドファイナル 2015」リポート

欧州、北米、アジアの猛者が米セブリング・サーキットに集結

2015年11月19日~22日(現地時間)開催

 イタリアのスーパーカーメーカー「Automobili Lamborghini(ランボルギーニ)」は、11月19日~22日(現地時間)の4日間に渡り、米国フロリダ州セブリング市にあるセブリング・サーキットにおいて「Lamborghini Blancpain Super Trofeo Sebring World Final 2015(ランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオ セブリング ワールドファイナル 2015)」を開催した。

 ランボルギーニが主催しているランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオは、欧州、北米、アジアの3つの地域でシリーズとして行なわれている、ランボルギーニの「ウラカン」または「ガヤルド」を利用したワンメイクレース。今回セブリングで行なわれたワールドファイナルは、その3つのシリーズの参加者が一堂に会すレースとして開催されている。

スーパーカーメーカーのランボルギーニが運営するワンメイクレース

 ランボルギーニと言えば、日本では「カウンタック」「ミウラ」「イオタ」といった1970年代のスーパーカーとセットで記憶している人が多いだろう。ホンモノは買えなかったけれど、“スーパーカー消しゴム”のカウンタックやミウラで遊んだ記憶がある40代、50代の読者は少なくないのではないだろうか。かく言う筆者もその1人で、ランボルギーニと言えば池沢早人師氏(当時は池沢さとし氏)の名作漫画「サーキットの狼」に登場する“ハマの黒ヒョウ”操るカウンタックだし、飛鳥ミノルが操るミウラというのが原体験だ。

 そうしたカウンタックやミウラの子孫に当たるのが、現在ランボルギーニが発売している現行車の「Aventador(アヴェンタドール)」であり、「Huracan(ウラカン)」となる。直接の後継という意味ではV12のエンジンを搭載したアヴェンタドールということになるのだろうが、V10エンジンを搭載しているウラカンもランボルギーニの“スーパーカー”というイメージを引き継ぐ車両ということになる。

 ランボルギーニはそのウラカン、およびその前モデルとなる「Gallardo(ガヤルド)」を利用したワンメイクレースを欧州、北米、アジアの3地域で行なってている。それがランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオで、その3地域のランボルギーニオーナーを対象に開催されている。このシリーズが非常にユニークなのは、ランボルギーニが自社のブランドをマスマーケットに向けてアピールすること(例えばF1やSUPER GTなどはそうした目的が企業が参戦する目的となっている)を目的として開催しているのではなく、ランボルギーニの車両を購入してくれるオーナーをターゲットにして開催していることだ。

 つまり、ランボルギーニを購入するような富裕層の中には、スーパーカーを所有するだけでなく思いっきり走らせたい、サーキットでレースをしてみたいというオーナーが少なくないので、そうしたオーナーを対象に行なっているレースがこのランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオなのだ。

ランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオを走るウラカン LP620-2スーパートロフェオ
ランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオを走るガヤルドLP570-2スーパートロフェオ。レギュレーションで来年以降は参加できなくなる

ジェントルマン・ドライバーの事情に配慮したドライバー2人制と1分間ピットストップ

 モータースポーツの世界では「ジェントルマン・ドライバー」と呼ばれる、自分の予算を使って自分でレースに参加するドライバーが近年増えている。それに合わせてランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオへの参加者も増えており、2009年の欧州戦のスタート時点では11台に過ぎなかった参加台数は、シリーズの成長とともに増え続けており、2015年は3地域合わせて84台が参加するまでに成長している。

 このランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオのレースフォーマット、ルールは以下のようになっている。

・練習走行(50分)、予選1/予選2(それぞれ15分)、レース1/レース2(それぞれ50分)
・プロ、プロアマ、アマの3クラスが設定されているほか、車両の違いでウラカンクラスとガヤルドクラスが設定されている
・車両はウラカン LP620-2スーパートロフェオまたはガヤルドLP570-2スーパートロフェオ
・ドライバーは2人まで走ることができるが、1人で走り切ることも可能
・レース中の20~30分のタイミングでピットインして1分間止まる必要がある
・タイヤはピレリのワンメイク。パンクなどの場合を除きレース中のタイヤ交換はできない

 非常にユニークな規定としては、レースを1人で走り切る場合でもピットインして1分間停止しなければならないというもの。2人で走るチームはこの1分間を利用してドライバー交代を行なうのだが、この規定が導入されているのは2人で走るチームが不利にならないようにという配慮のため。というのも、ジェントルマン・ドライバーは富裕層とはいえ、やはり予算に限りがある場合もあるので、2人で予算を半分ずつ分けて走りたいという場合も少なくないという。それに配慮した規定が「2人まで走れる」「1分間ピットストップする」ということなのだ。

 また、タイヤはピレリのワンメイクで、レース中は基本的にタイヤ交換ができない。ただ、サイドウォールにはF1でも見かけるような、イエローとホワイトという2種類のサイドウォールが用意されている。ただし、この違いはコンパウンドやスペックなどの違いではなく、単純に第1レース用、第2レース用という意味だという。つまり、実質的にはタイヤは1スペックしかなく、間違えないように色分けされているということだった。

タイヤはピレリがオフィシャルサプライヤーとして供給している。ここはピレリのテント
タイヤはサイドウォールに白と黄色があるが、どちらも同じスペックとのこと
スイスの時計メーカー「ブランパン」はタイトルスポンサーとしてシリーズを支援している
どのチームも本格的なレーシングチームが運営しており、アマクラスでもレベルは高い
クラスはPRO、PRO-AM、AMの3クラス。フロントウインドーで違いが分かるようになっている
レース中、全車両に1分間のピットストップが義務づけられている。と言ってもドライバー交代のためだけなので、ドライバー交代がない車両は止まるだけになる
チームによっては本格的なコントロールユニットを持ち込んでいるところもあった

今年のワールドファイナルはセブリング・サーキットで開催

 ランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオは、欧州、北米、アジアという3つのシリーズが開催されている。例えばアジアシリーズでは日本の富士スピードウェイ、マレーシアのセパンサーキット、さらにはマレーシアの首都であるクアラルンプールでの市街地レースなども行なわれている。それぞれのシリーズで選手権が争われるとともに、シーズンの最後のレースで3地域のどこかにシリーズ参加者が集合して、ワールドファイナルと呼ばれる世界戦が行なわれる仕組みになっている。今回セブリングサーキットで行なわれたワールドファイナルは、その2015年版ということになる。

 Sebring International Raceway(セブリング国際レースウェイ)はアメリカ合衆国フロリダ州にあるサーキットで、一般のモータースポーツファンにはIMSA(International Motor Sports Association、米国のレースプロモーター、北米でのランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオの運営も担当している)主催の有名なレースである「セブリング12時間レース」の会場として知られているだろう。同レースはスポーツ・プロトタイプカーのレースとしては、ル・マン24時間レース、デイトナ24時間レースに次ぐ格式があるとされており、毎年3月の中旬ごろに開催されている(2016年も3月16日~19日に開催の予定)。

 セブリング・サーキットは1周3.74マイル(約6km)の常設コースだが、半分は隣にある空港の滑走路だった部分を利用して作られており、ロードコース部分と裏のストレートで舗装が異なるなど、ユニークな構造のサーキットになっている。特に17コーナーに当たる裏ストレート終わりの最終コーナーは、元が滑走路だったところを曲がっていくのだが、外側にエスケープゾーンが広く取られているため、さまざまなライン取りが可能になっており、セグリング12時間の過去のレースでもここで多くのパッシングなどが見られている。また、コースの前半は非常にチャレンジングなロードコースとなっており、難しいコーナーが多いとされている。

 通常のレースシリーズであれば、このサーキットに多数の観客が詰め掛け……とリポートに書くところだが、実はこのランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオでは観客はほとんどいない。いないわけではないのだが、多くはレースに参加しているジェントルマン・ドライバーの関係者ということが多い。というのも、すでに述べた通りランボルギーニがこのレースを開催しているのは、マス市場に向けてというよりも、ランボルギーニのスーパーカーを購入してくれるような富裕層に向けてアピールするため。なので、レースも観客のためというよりは、顧客であるジェントルマン・ドライバーのためのレースであり、その参加者が楽しめるようなイベントとなっている。このため、通常レースで見かけるようなホスピタリティブースも、どちらかといえばレース参加者たちのために用意されている感じになっていた。

隣接する空港には現在もセスナなど小型の飛行機が離着陸しているセブリング国際レースウェイ
ストレートの終わりには、こうしたエスケープゾーンが広い最終コーナーがある
セーフティカーももちろんウラカンだった
スターティンググリッド。台数も多く、多くの人がグリッドウォークに参加していた(ただし多くは関係者)
観客もアメリカンスタイルで観戦している人はいるが、ほとんどは関係者だった

セーフティカー出動、最終ラップまで激しい順位争いを見せたジェントルマン・レース

 そんなジェントルマン・ドライバーのためのランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオだが、レースそのものは非常に熱いレースとなっていた。

 今回のワールドファイナルではアマチュアが参加する「AMクラス」によるレース、プロが参加する「PROクラス」とプロ・アマが参加する「PRO-AMクラス」が混走するレースという2つのレースが行なわれた。PROクラスとPRO-AMクラスのレースでは、欧州や日本で名前の知られているドライバーが走っていた。

 日本のモータースポーツファンになじみがあるところでは、例えばビンチェンゾ・ソスピリ・レーシングからケイ・コッツォリーノ選手が走っていた。コッツォリーノ選手は日本人の母親とイタリア人の父親の間に生まれたハーフで、国籍こそイタリアだが日本育ちのドライバーで、以前はフォーミュラ・ニッポンに参戦していたこともある実力の持ち主。現在は、こちらも米国人と日本人のハーフとなる道見ショーン真也選手とともに、このランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオに参戦している。ビンチェンゾ・ソスピリ・レーシングは欧州の名門チームで、AUTO GPなどではチャンピオンを獲得している。このほかにも、PROクラスに参戦しているレーシングチームは独自のピットボックスを持ち込んで作業するなど、みな本格的なレーシングチームとなっていた。

ビンチェンゾ・ソスピリ・レーシングの116号車をドライブしていたケイ・コッツオリーノ選手

 それに対してAMクラスのレースは、よく表現すれば“熱い”レースが展開されていた。例えばレース1、レース2のどちらのレースでもセーフティカーが複数回出動した。PROクラスでは1度もそんなことがなかったので、それだけ激しいレースが行なわれているということでもあるだろう。実際、土曜日に行なわれたレース1では最終ラップまで1位と2位の車両が激しく争っていたが、最終ラップで2位の車両が1位の車両をコーナーでプッシュする形になり、1位の車はスピンして4位に後退。結局、2位以下が繰り上がってそのプッシュした方の車両がトップでゴールする形になった。

 ゴール後、当然のように収まらない1位だった車両のドライバーはトップでゴールした車両のところに猛烈な抗議に行くという展開になったのだ。その後、主催者からトップでゴールした車両に30秒のペナルティが課せられることが発表され、それでことは収まったようだが、参加者はそれだけ本気で戦っているということの現れだろう。

AMクラス 第2レースのスタート。路面はウェットでかなりのウォータースクリーンを巻き上げながらのスタートとなった
PROクラス、PRO-AMクラスによる第2レースのスタート。さすがプロクラスはみなうまく、セーフティカーなどは出動しなかった
AMクラスの第2レース。AMクラスの方がむしろ激しい戦いが展開されていた

 余談だが、その1位を走っていて押し出された車両は、スピンの影響からかエンジンから出火してしまった。消火器で消し止められたのだが、エンジンは結構ダメージを受けていたはずで、筆者はてっきり翌日のレースは欠場だろうと思っていたら、翌日何事もなかったかのように出走。エンジンを乗せ換えたのか、あるいはそこまでのダメージはなかったのか分からなかったが、何事もなかったかのように綺麗に直っていたのだ。その車両だけでなく、土曜日のレース1でセーフティカー出動の原因になったようなクラッシュをした車両でも、日曜日のレース2では綺麗になっており、正直びっくりした。

 ランボルギーニのウラカンといえば、新車で3000万円近い価格(ウラカン LP610-4)がつけられている。スーパートロフェオ用のウラカン LP620-2スーパートロフェオはレース専用車ということで価格は非公開だが、ロードカーより安いということはないと思うので、やはり数千万円だろう。それをレーシングコースでぶつけながらレースしたり、エンジンから出火しても翌日には普通に直っていたり……。庶民の感覚で計算してはダメということなのだろう。

AMクラスでは何度もセーフティカーが出る荒れた展開に
トップを走っていてぶつけれたドライバーが猛烈に抗議して、関係者になだめられる場面も
ゴール後エンジンから出火。大量の消化剤がまかれたが、次の日に何もなかったかのように走っていた
PROクラスの第2レースでの様子。PROクラスでも抜きつ抜かれつの激しいレースが展開されたが、接触などはなかった
PROクラスの第1レースでトップを争う2台
チェッカー
チェッカー後にはチームクルーなども含めてお祝い
PROクラス第1レースの表彰式後の記念撮影
各クラスの優勝者には、タイトルスポンサーのブランパンより時計のトロフィーが贈られた
PROクラス第2レースの表彰式。2位になったパトリック・クヤラ選手(132号車)がワールドチャンピオンに
ワールドチャンピオンとなったクヤラ選手がドライブする132号車
レース終了後にはシリーズの表彰セレモニーも行なわれた。ワールドチャンピオンのクヤラ選手には、ランボルギーニのステファン・ヴィンケルマン代表兼CEO(右)から数々のトロフィーなどが贈られた

進化中のランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオ

 このランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオを見ていて、まさに紳士のスポーツなのだなと感じた。元々モータースポーツというのは、欧州の“貴族の遊び”から発展していったことはよく知られている。その貴族が乗る遊びから、プロドライバーが乗るスポーツへと昇華していった。それがモータースポーツの歴史である。

 このランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオには、そうした古きよき欧州の貴族の遊びという要素が反映されている。実際参加しているドライバーも、何らかの事業で成功を収めて、余裕があるのだろうなというような実業家などが参加している雰囲気だった。ランボルギーニの主要な顧客はそうした層だと考えることができるので、言ってみればこれはレースで顧客をもてなす、そういうプログラムなのだろう。

 ただ、シリーズとして発展していく中で参加台数も増えてきており、PROクラスとAMクラスが分離したことでプロドライバーの参加も増加傾向だという。日本でも知られているケイ・コッツオリーノ選手のようなプロドライバーが参加するレースにもなっており、ランボルギーニ自身もヤングドライバープログラムを行なって、若いドライバーをプロとして育成する場としても利用している。徐々にシリーズとしての注目度も上がってきており、将来的にはもう少しマスの層にアピールするシリーズに脱皮していく可能性も秘めているだろう。

 来年のスーパートロフェオは、欧州、北米、アジアの3カ所で行われ、11月末にスペインのバレンシアでワールドファイナルが行なわれる予定だ。腕と予算に自信があるジェントルマン・ドライバーの方、来年の参加を検討してみてはいかがだろうか。

【お詫びと訂正】記事初出時、ウラカンのエンジン表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

(笠原一輝)