飯田裕子のCar Life Diary

新型「スカイライン」に関する疑問を聞いてきた

 2013年12月に発表された日産自動車の新型「スカイライン」。フルモデルチェンジしたわりには何だか影が薄いと思うのは私だけ? スカイラインは今回の新型で13代目となり、日産の中でも歴史と伝統ある名前を受け継ぐモデル。新型スカイラインでは、世界初となるステア・バイ・ワイヤ技術を採用している。この技術に対する開発陣の手応えはいかがなものなのだろうか。

 それに、今回スカイラインなのにインフィニティのバッヂが付いているではないですか。その意図は何なのだろう? インフィニティ事業本部 車両開発主査の長谷川聡さんに、ステア・バイ・ワイヤ技術とバッヂの意図についてお話をうかがってきました。

ハンドルを切ったときに舵が切れるという正確性を重んじている

インフィニティ事業本部 車両開発主査の長谷川聡さん

 新型スカイライン。個人的に内外装のデザインは上質さが感じられ、とてもステキだと思う。エクステリアの、特にサイドビューはクーペのようなフォルムの中に美しさとエレガントさ、クールなスポーティさが存在し、そのテイストはインテリアも変わらない。欧州セダンと並べても同等どころか勝てそうな気さえします。と、紹介しているだけで欲しくなってくるほど好みのタイプ。

 パワートレーンや先進技術のアレコレを説明していると本題に入れなくなってしまうので詳細説明は省略させていただきますが、パワートレーンはV型6気筒3.5リッターエンジン+1モーター2クラッチ方式を採用するハイブリッド車のみの設定で、とにかく速いです。ただ速いだけではなく懐も広く、この奥深さを味わうと自分は“ゴージャス&クールないいオンナ”になれそうな気がするほどです。ボディーの重厚感と静粛性、フラットライドな乗り味もしかり、というかそれらも含めて素敵な乗り味を生み出しているのです。

 しかし唯一、私にとって譲れないステアフィールが引っかかる。先に述べたとおり、新型スカイラインは世界初採用となるステア・バイ・ワイヤを採用。それはとても誇らしいことであり、技術的な説明をうかがえば納得もできる。ハンドルを切ればタイムラグなく切った分だけタイヤを動かしボディーも同時に動く。これ以上クイックな反応をするクルマはないのです。

 「慣れれば普段のドライビングが楽ですし、コーナリングもより楽しいですよ」と長谷川さん。「この技術は10年くらいかけて開発している。最初の7年くらいでセンサーやモーターなどメカニズムはすべて完成していて、実際はフーガで採用することも検討していたのですが、感覚の造り込みをしていたのです。ステアリングのフィーリングに3~4年かけていて、それだけのために世界中の道を走り、開発できた状態です。今後は“最高得点”まで持っていくためにもっとやらないといけない」とも語っています。

 まだまだ進化する技術であるというのは想像通り。新しい技術の違和感というか、かつてBMWがアクティブステアリングを初採用した際に違和感を抱いたのも事実。しかし、その後に自然なフィーリングを得られるようになったことを思えば、この技術も今後より洗練されていくことが想像できます。

ステアリングの動きを電気信号にしてタイヤを操舵するステア・バイ・ワイヤ技術

「ステアリングシステムの歴史を振り返ると、昔(R30型スカイラインの時代)のボールナット時代のステアリングフィールはダルダルでしたよね。それがより正確さを求めてラック&ピニオンに変わり、当初は切れすぎるって言われたんですよ。そのあとEPS(電動パワーステアリング)が出て、“こんなゲーム機みたいなフィーリングにして”と言われたこともある。しかし、ボールナットや油圧に戻る人はいないですよね。今回採用したステア・バイ・ワイヤの命は正確性です。ハンドルを切ったときに舵が切れるという正確性を非常に重んじているのです。一般的なステアリングは油圧を介したり、EPSではジョイントまわりなどで位相遅れが発生する。一般的に、現代のクルマに乗られている方は位相遅れに慣れているので、より正確性を求めた新システムを採用すると違和感が発生してしまうのではないでしょうか」と長谷川さん。ステアリング技術はこのステア・バイ・ワイヤの登場によって新たな過渡期を迎えたことになるのかもしれません。

 では、例えばステア・バイ・ワイヤは電子技術なのだから、あえて「位相遅れ採用モード」なんていうチューニングも可能なのではないかと聞いたところ、新型スカイラインのスタンダートモード(新型スカイラインでは「スタンダード」「スポーツ」「エコ」「スノー」に加え、詳細に設定可能な「パーソナルモード」という5つの走行モードを用意)はそれに近い状態にチューニングしたものであり、スポーツはほとんど位相の遅れがない状態になっているとのこと。1時間弱の試乗中、キレキレなハンドリングやコーナリング中のフィーリングに少々の違和感を抱いた私、もう少し長く試乗してみたら長谷川さんの意図がもっと分かるのかも。

 確かに理論的には理解でき、理想的なステアリングフィールを作り出すことが可能というこの技術。ご興味のある方は百聞は一見ならぬ一体験にしかず。新しい技術に触れることができるのは間違いないです。

新型スカイラインの走行モードスイッチ。「スタンダード」「スポーツ」「エコ」「スノー」「パーソナルモード」から選択できる

インフィニティバッヂを採用した理由とは

 日本のセダンの販売台数はシュリンク状態ですが、一方で海外に目を向けるとスカイラインは2世代前から日産のプレミアムブランド“インフィニティ”の「Q50」との車名で販売しており、とりわけ北米マーケットでは年間5万台が売れ、中国でも注目を集めるモデルなのだそうだ。日本における新型スカイラインの月販目標台数は200台/月。結果的にスカイラインの主戦場が日本ではないことが、お分かりいただけるのではないでしょうか。ちなみに、同社のミニバン「セレナ」の月販目標台数は6300台/月。車両価格がまったく異なるとはいえ、これが今の日本の現実なのです。

 そんな状況もあり、新型スカイラインはプレミアムセダンとしてメルセデス・ベンツやBMWをライバルと睨み、先に発売されたQ50の開発は北米主導で行われています。新型スカイラインは製造方法からデザイン、内外装の品質、革新的技術の採用に至るまで、プレミアムさを実感できるモデルとなっていることをまずはお伝えしたいと思います。

 そして再び長谷川さんの登場です。今回のインフィニティバッヂ採用の件についても質問させていただきました。それについては、「1つのチャレンジだとご理解いただきたいです。クルマの完成度が日産ブランドよりも1つ上のクラスの出来栄えということで、日本市場でもBMWやメルセデス、アウディクラスの出来栄えのクルマであることを表す象徴として、インフィニティバッヂをつけて販売してみようと決定した次第です」と述べられています。

 車両価格は500万円前後。価格面、そしてクルマの仕上がりからその意図は理解できます。しかし、そうした説明をうかがえば理解できるけれど、同様の宣伝活動をしているわけでもなく、やはりその意図は見えにくいのです。

 「確かにインフィニティブランドを日本で立ち上げる予定はないです。しかしこだわりたいのはクオリティです。そろそろ品質の高さをアピールしてもいいのではないかと。例えばドアのパーティングライン(パネル同志のつなぎ目)1つとっても日産とインフィニティでは基準が違うのです。ドアの隙間も日産は4mmという基準で作っているのですが、インフィニティは3.5mmと決められています。実はフーガもその基準で作られていたのですが、お客様にそのクオリティを伝える機会がなかったのです。その1つの象徴としてバッヂを変えたという説明を今後していこうと思っています」(長谷川さん)。

ステアリングにもインフィニティバッヂが備わる

 ちなみに北米で「インフィニティQX50(発売当時はEX35)」として販売されているモデルが、日本では現在も「スカイライン クロスオーバー」として販売されている。これについてうかがうと、「あの時代はそういう判断だったんです」と長谷川さん。これは日産がクオリティに対する明確な違いを紹介するために、インフィニティバッヂでアピールしようというチャレンジなのだと理解。一方でインフィニティブランドの日本展開はないというし、するとこのチャレンジは1台で終わってしまう可能性もあるのではないか聞いたところ、「それは難しい質問ですね。終わらせたくはないと思っています。皆さんにどう浸透していくかというところでしょうか」と回答されています。

 また、日本における月の販売台数が200台では浸透するに至らないのではないかと思うのですが、「今のセダンの(販売)状態を鑑みると強気に出られないのですが、評判が上がってくれば強気な展開(=ラインアップを増やす)も含め考えないといけないかと。ただ、今はまだスタートしたばかりですから(200台で)様子を見守るという状況です」「我々のホームグラウンドはココ(日本)なんです。ステア・バイ・ワイヤに対する理解も日本のジャーナリストの方があるので心強い。日本からもっと新技術を発信していきたいのです」と長谷川さん。

 そのあとの“日本メーカーである日産”としての信念に近い言葉が印象的でした。「海外の、例えばBMWの電気系統はデンソー製です。昔は壊れることもありましたけど、今は壊れなくなっている。そうした日本の技術がどんどん輸出され、海外のクルマに取り付けられて品質がよくなって日本に帰り、プレミアムブランドになっている。日本の技術を詰め込めば、もっといいプレミアムブランドを作れるんじゃないかと思うし、レクサスも考えていると思うんです。だから我々もプレミアムブランドをちゃんと作り、海外のメーカーをギャフンといわせるような『メイド・イン・ジャパン』を作りたい。そういう思いがあって、今回はスカイラインをプレミアムブランドモデルにしようと考えたのです」。

 ここまでのお話で、私は何となくインフィニティバッヂに込められた期待のようなものが感じられましたが、本稿を読まれた方はどう理解されるのでしょうか。

 確かに新型スカイラインはハイブリッド技術やステア・バイ・ワイヤなどの走行面、ミリ波レーダーを使ったエマージェンシーブレーキといった安全面など、最新の技術テンコ盛りのクルマです。その点では一度は乗ってみる価値があり、新しいモノに興味のある方にとっても、その技術以外の質の高い仕上がりにきっと満足できるはず。

 そんなスカイラインにインフィニティバッヂを付けて販売するという日産の新しい取り組みは、まさに今始まったばかり。日産のディーラーで販売され、お店ではスカイラインのこと、インフィニティブランドのことを色々と説明してくれるそうです。そして接客方法についても日産ブランドとの差別化を「試みたい」とおっしゃっているけれど、つまり今の段階ではまだ整備されていないようです。

 長谷川さんによればユーザーの反応を見たいということだけど、我々ユーザー側から見れば、試されるのはむしろ今回の新型スカイラインとプレミアムブランドを売る日産(の接客やサービス)ではないかと思います。

飯田裕子