特別企画
藤山哲人の「アウトランダーPHEV」に乗ってみました(後編)
加速度センサー、オシロスコープ、ワットチェッカーでアウトランダーPHEVをテスト!
(2014/6/23 00:00)
前編(http://car.watch.impress.co.jp/docs/special/20140616_652740.html)では三菱自動車工業「アウトランダーPHEV」の街乗りや高速道路を走ってみた印象をリポートしたが、後編ではアウトランダーPHEVの運転をより面白くする回生ブレーキ&回生レベルセレクターについて紹介したい。
また、モーターならではの低回転からの力強い加速が魅力のアウトランダーPHEV。その加速具合について、感覚で説明してもなかなか分かりづらいので、加速度センサーをアウトランダーPHEVと普段筆者が乗っている愛車に取り付けて比較してみた。
さらに、アウトランダーPHEVは走行用のバッテリーを使って最大1500Wまでの家電などを動かせるコンセントも備えている。カタログでは電池容量が300Vの12kWhとなっているが、一体どのような家電を何時間動かせるのか分からないので、ワットチェッカーを使いながらホットプレートをどのくらいの時間使えるのか、テストを敢行。
ちょっと盛りだくさんの内容になってしまったが、後編ではそのあたりについてリポートしてみたい。
峠道もスイスイ! パドルで回生ブレーキを調整して走りを楽しむ
一般的にSUVは、車高も重心も高いうえに車重もあるので、曲がりくねった峠道は少々慎重に走る必要がある。でもアウトランダーPHEVで峠を走ってみると、これが楽しい!
前編でも少し紹介したが、アウトランダーPHEVは床下にバッテリーを搭載していることで重心が低く、車両運動統合制御システム「S-AWC(Super All Wheel Control)」が峠道でも車両の姿勢や挙動をコントロールしてくれるので、峠道を走っていてもまったく怖さを感じない。
またコーナー手前ではアクセルを緩めたり、ブレーキングしたりして減速を行うわけだが、0rpmから最大トルクを出せるモーターによる加速だから、コーナーをクリアしてからの立ち上がり加速がよい。
アウトランダーPHEVの運転が楽しい理由の1つに、パドルを使った回生ブレーキのコントロールがある。前編で少し触れたが、アウトランダーPHEVの回生ブレーキは既定では1~6段階(もっとも弱いB0~もっとも強いB5)あるうちの3段階目(つまりB2)に設定されている。この回生ブレーキの強さは、ハンドル脇についている左右のパドルで段階を調整できるのだ。つまり下り坂では、回生ブレーキをうまく調整すると思いどおりの速度にコントロールできるというわけ。
ちなみに回生ブレーキの強さを一番効かせる(B5)と、ギアを1段階落としたぐらいの回生ブレーキがかかり、一番弱くする(B0)と回生ブレーキゼロで走ることができる。そこでカーブ手前では徐々に回生ブレーキを強めて減速し、コーナーを抜ける手前で回生ブレーキをOFFにすれば、長い下り坂でも安全速度で、ブレーキが焼き付くこともなく、しかも楽しく運転できるというわけ。東名高速道路(上り)足柄SA(サービスエリア)を過ぎたあたりの下り坂なら、弱めのB2~B3あたりを中心に使う感じだろうか。
アウトランダーPHEVは、回生ブレーキの強さを積極的に変えることで、スポーティな運転も楽しめる。これは他のSUVにはない面白さだろう。
バッテリーとモーターだけでどこまで走れる?
電池残量が10%を切ってもバッテリとモーターで走ろうとするアウトランダーPHEV。いったいバッテリーをフルチャージするとどこまで走れるのかを試してみた。走行経路は都内(田町)からスタートして一般道を走り、首都高速 池尻(下り)入口~東名高速 海老名JCT(ジャンクション)~圏央道(首都圏中央連絡自動車道)海老名IC(インターチェンジ)とした。
田町を出発する際にバッテリーはフル充電状態にしておいた。都内は比較的混雑していたが、東名高速はだいたい90km/h前後で走ることができた。バッテリーモードはとくに節電しないノーマルで、エアコンもフツーにかけてドライブ。結果は、海老名JCTから圏央道に入って間もない海老名IC付近でようやくエンジンがかかり充電を始めた。そのときのトリップメーターはおよそ55km。カタログでは充電電力使用時走行距離が60.2km(JC08モード)と記載されていたので、高速道路を走ったとはいえ、その数値にかなり近い結果になった。
ガソリンも満タンにすると、600km(カーナビが示した理論値)近く走れるので、だいたい東京~名古屋間を無給油で往復できる計算だが、アウトランダーPHEVはSAで急速充電もできるので、急速充電器の設置状況によってその距離はもっと伸ばせるというわけだ。
ギアチェンジのない新幹線のような加速
加速の違いを千の文章で綴ってみたところで伝わらないので、車両に加速度センサーを取り付けて計測してみた。
比較対象は筆者の愛車である初代カローラフィールダー(1.5リッターのAT、車重1.1t)。アウトランダーPHEVは車重1.8tと圧倒的に重いわけだが、その結果はいかに?
この2台でそれぞれ0-60km/h加速を試し、縦軸に加速の度合い(G)を、横軸に時間を取った折れ線グラフを作成した。縦軸の上に行くほど体はシートに押し付けられ強い加速感を感じる状態で、下側の-Gは回生ブレーキなどで体が前に倒れる状態だ。横軸は加速開始を0秒として、8秒間のグラフとなっている。なお、折れ線グラフが上下に大きくブレているのは、道路の凸凹などが影響しているためなのでご了承いただきたい。とくにカローラフィールダーのブレ幅が大きくなっているが、これはエンジンの揺れも拾っているようだ。
さて緑色で示されたカローラフィールダーの加速は、1.8秒あたりでギアチェンジにより加速が一時的に落ちている。その後もアクセルを踏んでいると、3秒手前になると60km/hまで到達し、そこからアクセルを戻したことで加速度が落ちている。
青色で表示されているアウトランダーPHEVは、まずグラフのブレが少ないことが分かる。またモーターの特徴である0prmから最大トルクが出るという点もグラフにハッキリ出ている。カローラフィールダーが大きく加速し始めるのは0.6秒あたりから。対するアウトランダーPHEVはアクセルを踏んでから0.2秒あたりでぐっとGが立ち上がった。
わずかな時間差だが、これがEV特有のドン!とくる加速といえよう。とはいえアウトランダーPHEVは比較的ドン!が小さいほうで運転しやすいという点も加えておきたい。
もう1つの特徴として、アウトランダーPHEVは加速がスムーズという点が挙げられる。カローラフィールダーは1.8秒あたりでグラフが大きくぶれているが、青色の線は0.5~3.5秒あたりまで同じように0.25Gを示し、スイーーッと加速しているのが分かる。ちなみにアウトランダーPHEVが60km/hに達したのは、カローラフィールダーより0.5秒遅い3.5秒あたり。前編で「ジワジワと加速する」といっていたのはこのことに由来する。
アウトランダーPHEVとカローラフィールダーが決定的に違うのは、アクセルをOFFにした3.5秒以降。アウトランダーPHEVはマイナス方向の加速度に変わり、4~8秒あたりまで回生ブレーキが利いていることがグラフに出ている。このときの回生ブレーキレベルは標準のB2。この状態でだいたい-0.05Gという結果がグラフに出ており、これは助手席に座っている人の頭がヘッドレストから離れない程度の強さだ。
アウトランダーPHEVなら1500Wの電源も取れる
そしてアウトランダーPHEVといえば、イザというときに便利に使える家庭用コンセントが付いているという点だ。しかも1500Wまで取れるということで、まさにクルマに家庭の壁コンセントがついている感覚。停電や災害時でも電源が取れるのはもちろん、筆者のように炊飯器やコタツまで持って行ってキャンプをする人にとっては便利なことこの上ない。
ただクルマから100Vの電源を取る「DC/ACコンバータ」などと呼ばれる装置は、「コンセントの電源を擬似的につくる」ため、すべての家電を動かせるとは限らない。そこで、アウトランダーPHEVの電気の質を調べるためにオシロスコープをつなげてみた。基準となる家庭の壁コンセントは、オシロスコープで見るとこんな波形になっている。
続いてアウトランダーPHEVの波形を見てみるとこんな具合だった。
ちょっとゆがみもあるけどすごくキレイなカーブ!これならワット数にさえ注意すればどんな家電でも動かせるだろう。なお関東と関西では波の数が異なるが、アウトランダーPHEVは関東仕様の50Hzとなっていた。ちなみに安価なDC/ACコンバータが擬似的につくった電源だとこんな感じ。
コンセントのカーブとは程遠く、扇風機や掃除機などモーター系の家電をつなぐと変な音がして使えない場合が多い(ACアダプタを使うパソコンやスマートフォン、照明などは使える)。
さてアウトランダーPHEVには、リアシートに1つ、トランクルームに1つのコンセントがある。それぞれの口に1500Wと書いてあるが、合計で3000W取れるというわけでなく、合計で最大1500Wという点に注意して欲しい。
これらのコンセントは、誤動作防止のために運転席のスイッチで電気の供給をON/OFFできるようになっている。またコンセントは走行中にも利用できるので、車内でノートパソコンを使ったりということも可能になっている。
ホットプレートを使って焼肉パーティー!
上記のテストを経て、アウトランダーPHEVのコンセントは家庭のコンセントと同じで、どんな家電にも対応していることが分かった。では、具体的に何時間ぐらい家電を使えるのかを調べてみよう。
そこで消費電力が高いホットプレートを使い、夕食に焼肉をしてみて電池が何時間で切れるかを測ることにした。合わせてコンセントにはワットチェッカーを設置して、どのぐらいの電力が取り出せたのかも調べてみた。ちなみに屋外で行ったので、ホットプレート以外に照明もコンセントから取り、合計1244Wとなっている。
1時間44分の宴が催され、ホットプレートと照明を合わせて2.14kWhの電力を消費した。このときアウトランダーPHEVのバッテリー残量は、およそ90%から50%まで減った(グラフのみの表示で大まかにしか読み取れない)。
結果からいえるのは、フルチャージしておけばホットプレートで焼肉パーティーを4時間半以上開催できる電力を取り出せるということ。これはかなり大量の電気だ。車載のバッテリー残量計は10%刻みなので非常にざっくりとした数値になってしまうが、フルチャージでおよそ5.4kWhの電気がコンセントから取れるという計算になる。
キャンプをするときや先の震災のような非常時であれば、普段とは違ってエアコンをつけながらだらだらとテレビを見たり、掃除機で部屋を片付けたりすることもないし、待機電力を食われることもほぼない。もしものときでも冷蔵庫(1日使って0.6kW程度)にテレビ、パソコンに炊飯器(IHタイプで1回0.1kWh程度)と必要最低限なものに絞って使えば、1日5.4kWhもあればお釣りがくるだろう。しかもガソリンを満タンにしておけば、9回バッテリーをフルチャージできるらしい。アウトランダーPHEVなら10日間以上サバイバルできそうな感じだ。
EVで一番運転しやすく、乗り心地がいい
2回に渡ってアウトランダーPHEVについてお伝えしてきたが、一言でいうと、これまで乗った電気自動車(EV)の中で一番運転しやすく乗り心地がよいクルマという印象だった。これはお世辞でもなく本音。重心が低い上にS-AWCによる姿勢制御で、街乗りから高速道路、峠道といったどんなシチュエーションでも安心してシートに身を任せられる。
そしてハイブリッド車よりも積極的にEVとして走り、極力エンジンを使わない徹底振りも素晴らしい。静かに、そして力強く走れるのも魅力だ。
これまでSUV車に乗ってきて、キャンプなどのアウトドアを楽しむ人はもちろん、買い物からレジャーまで楽しむ“少し大きめのセダン”としてもオススメできる。「乗ってて楽しい」「いざというときに頼もしい」、そんな言葉が似合うのがアウトランダーPHEVだと感じた次第だ。