特別企画
藤山哲人の「アウトランダーPHEV」に乗ってみました(前編)
PHEV&4WDでアウトランダーオモシロすぎ!
(2014/6/16 00:00)
三菱自動車工業が2013年に発売した「アウトランダーPHEV」。モーターとエンジンと外部充電可能なバッテリーを積むという意味では、PHV(プラグイン・ハイブリッド)やレンジエクステンダー付きEV(電気自動車)に近いが、他社のPHVよりもEVメインで走るし、レンジエクステンダー付きEVと違ってエンジンを駆動としても使う。両者のいいところ取りをしたモデルと言えるだろう。さらに前後2モーターで駆動する4WDシステムは、三菱自動車のお家芸の4輪コントロールで悪路や低μ路の走破性も高く、搭載するバッテリーは満充電なら一般家庭1日分の電力に相当。さらにエンジンを発電機として使えば、ガソリン満タンで10日分の電気をまかなうという。
そんな従来の自動車の枠には当てはまらないアウトランダーPHEVを、“家電”という視点からレビューしてもらうことにした。レビュアーを務めるのは、僚誌「家電Watch」でモバイルバッテリー診断(http://kaden.watch.impress.co.jp/docs/column_review/mbattery/)や実践家電ラボ(http://kaden.watch.impress.co.jp/docs/column/fujilabo/)の連載を担当し、実はEVの試乗経験も豊富という藤山哲人氏だ。
家電ライターの目線でアウトランダーPHEVをレビュー
ある日Car Watchから連絡がきた。「三菱自動車のアウトランダーPHEVの試乗リポートがあるけどやってみないか?」というのだ。いつも家電Watchで家電や電池の比較記事などをやっているオレになぜ? と問うと、こんな具合だ。
「だって電気自動車とかって、モバイルバッテリーにタイヤが付いたようなモンじゃないですか。藤山さん、ちまちま連載してるじゃないですが、モバイルバッテリーのアレ」
いやいやいや。EVをタイヤが付いてるモバイルバッテリーって言っちゃうお前が書いたほうが絶対面白い記事になっぞ! と言いたいところだが、これまでにも日産自動車「リーフ」やテスラモーターズ「ロードスター」、最近ではBMW「i3」などひと通りのEVは試乗した経験があるので、ここは家電ライターの目線でアウトランダーPHEVをレビューしていくことにしよう。
EVなのに運転感覚はガソリン車、HVなのに走りはEVのアウトランダー
日産リーフや三菱自動車「i-MiEV」、テスラのロードスター、BMWのi3などさまざまなEVに乗ってきたが、今回のアウトランダーPHEVはこれまでのEVとはかなり印象が違って面白い。
アウトランダーPHEVは、2.0リッターのガソリンエンジンとモーター&電池を搭載したハイブリッド車だ。モーターで走行中にバッテリー残量がなくなれば、エンジンの動力で走りながらバッテリーを充電する。
ここまでは普通のハイブリッド車でも同じだが、違うのは街の充電スタンドや家庭のコンセントを使って走行用のバッテリーを充電できる点だ。「エンジンを回さないで静かに充電できる」というメリットも分かりやすいが、エンジンで発電するよりコンセントなどから電気でバッテリーを充電すると効率がよいのが最大のメリット。
なぜならエンジンはその仕組み上、ガソリンを爆発させる必要があり、どうしても熱が出る。なのでどんなに燃費のよいエンジンで発電しても、ガソリンが1回爆発するエネルギーを100とすると、その何割かは熱となり空気中に放出されてしまう。さらにエンジン特有の「ボボボ」という音、エンジンや発電機のシャフト(軸)を回すための抵抗など、あちこちでエネルギーロスしてしまうのだ。
でもコンセントから直接バッテリーを充電し、モーターでも(エンジンでも)走れるプラグインハイブリッド車なら(送配電ロスという側面もあるものの)これらのロスが低減され、環境に優しく燃料代も抑えられるということだ。
さてアウトランダーPHEVに乗った第一印象は、ドライブフィーリングがオートマチックのガソリン車とほとんど同じという点。EVの多くはいかにもモーターらしく、軽くアクセルを踏んでもドーン! と加速する味付け(電池節約モード以外)になっている。そのためオートマチックのガソリン車の運転に慣れていると、アクセルの感覚が微妙(滑らかに停止させる瞬間のブレーキ操作ぐらい微妙)で運転しづらいと感じるのだ。
だがアウトランダーPHEVは、アクセルを強めに踏み込んでもジワジワと加速が付いてくる。それは車重が重いという感じではなく、明らかにコンピュータが介入して、加速の具合を調整している感じだ。スキーやサーフィン、キャンプの相棒としても使いたいSUVタイプなだけに、悪路を走る場合でもタイヤが空転しないようにコンピュータ制御していると思われる。あるいは、それ以上に「運転しやすく乗り心地がよいクルマ」が開発コンセプトにあるのかも知れない。
もう1つの強烈な印象は、ハイブリッド車なのにとにかくモーター最優先で走るということ。すでにハイブリッド車に乗っている人は「ははーん!」と思い当たる節があるかも知れないが、乗っていない人には説明が必要だろう。街で見かけるハイブリッド車の多くは、駐車場などではほぼ100%モーターで走っていて「本当にモーターで走ってるなぁ」と感心する。しかし、実際に運転してみると街中では頻繁にエンジンがかかるし、高速道路ではほとんどエンジンで走っている。筆者もアウトランダーPHEVに乗るまでハイブリッド車とはそういうものだと思っていた。
しかしアウトランダーPHEVに乗ってみると、ほとんどエンジンがかからない。強めにアクセルを踏んでもモーターで走ることが多いし、高速道路のIC(インターチェンジ)で合流したり、加速しながら追い越し車線に入ったりしても、エンジンがかかることなく「スィーッ!」とモーターで走るのだ。
しかも、さすがは「PHV」ではなく「PHEV」とこだわっているだけのことはあり、アウトランダーPHEVは電池残量10%を切ってもまだモーターで走ろうとする。これには「おいおい!まだ充電しなくても大丈夫かよ!」と口走るぐらいビックリした(笑)。
アウトランダーPHEVのエンジンはギヤ固定(ギヤ比は5速相当とのこと)となっており、その役割の中心は発電機ということらしい。搭載エンジンで発電するという考えは、5月から納車が始まったBMWの電気自動車「i3」にもあって、i3では軽自動車クラスのエンジンで発電し、航続距離を伸ばす「レンジエクステンダー」(走行用としてエンジンを使わないので分類上はEVであってハイブリッド車ではない)も展開している。
しかしアウトランダーPHEVはレンジエクステンダーの一歩先を行くアプローチと言ってもよいだろう。エンジンを発電機として使うことができるのに加え、高速走行時はモーターが苦手な部分をアシストしてくれるからだ。
街乗りはエンジン要らず、フツーに運転しても乗り心地がよいスペシャルEV!
とにかくフツーに運転していれば、乗り心地のよいクルマという印象。
運転しやすさの1つは、アクセルを戻したときの回生ブレーキの効き具合(回生ブレーキの効きは任意で調整できる)。回生ブレーキというのは、アクセルを戻したり、下り坂を走っている際に走行用モーターが発電機として動き、そこで発電した電気をバッテリーに回収するというものだ。ただ自転車のヘッドライト(ダイナモ車の場合)を付けるとペダルがメッチャ重くなるのと同じで、モーターを発電機として使うとブレーキがかかってしまう。
さてエンジンを持たないEVだと、回収できた電気の分だけ走行距離が伸びるので、車種によっては回生ブレーキを強めに設定し、多くの電気を発電できるようにしている。その半面、アクセルを戻しただけでも、助手席に乗っている人の頭がヘッドレストから離れるほど強い減速Gがかかるモデルもある。こうしたモデルで雑なアクセルワークで運転すると、助手席の人はきっと車酔いしてしまうだろう(笑)。逆に乗り心地よくスムーズに運転しようとすると、微妙なアクセルワーク(MT車の2速ホールドで約40km/hで走る感じ)が必要となって運転しづらくもある。
その点アウトランダーPHEVは、電池残量がなくなってしまってもエンジンで充電できるし、そもそもエンジンで走れるので路頭に迷うことはない。そのためか、アクセルオフ時の回生ブレーキの効き方は弱め(回生量はパドルシフトによって6段階から選択できる)で、多少アクセルワークがラフでもスムーズに走れる。
放っておけばどこまでも電池とモーターで走ろうとするアウトランダーPHEVだが、バッテリーがほとんどなくなるとエンジンがかかる。でも、できるだけ停車中はエンジンをかけないようにしているようで、発電を始めるのは走行中が多かった。街乗りではエンジンの動力では走らず、エンジンで発電した電力を使ってモーターで走る「シリーズ走行モード」がセレクトされる機会が多く、エンジン回転数もアイドリング+α程度のまま。走行中はエンジン音がほとんど聞こえず、エンジン走行中でもEV並みに静かなのがアウトランダーPHEVの凄いところだ。
なおバッテリーが少なくなると不安という人は、バッテリーを温存する「バッテリーセーブモード」にしたり、強制的にエンジンをかけて充電する「バッテリーチャージモード」にしたりできる。詳細は後編に譲るが、キャンプなどでクルマから電化製品の電源を取りたい(最大1500W)という場合など、よほどの理由がない限りこれらのモードは必要なく、クルマまかせでよいだろう。
また電装系の消費電力を抑えるエコモードも搭載。もともとジワーッと加速するので、エコモードに切り替えてもそれほどスポーティさは失われないと感じた。例えるなら、乗車定員いっぱいに人を乗せた感じと言えばよいだろうか。
走りとはまったく関係ないが、感動したのがデュアルエアコン。運転席と助手席それぞれのエアコン設定温度を変えられるというもので、実は今回初めて搭載車に乗ったのだった。これ、嫁持ちには超便利!
嫁を助手席に乗せて走ると、夏は寒いと設定温度を上げられ、冬は暑いと下げられる。しかも運転中にこっそり変えられるからタチがわるい。テレビのチャンネル権の争いはなくなった昨今だが、クルマのエアコンの設定温度に関しては、ときどき主導権をかけたいざこざが起こる。アウトランダーPHEVならこんないざこざも少なく、夫婦円満のキャビンを演出できるだろう。
音もなく加速する快感、車高の高さを感じさせない安定性も◎
普段使いの街乗りでは、「運転がしやすく乗り心地がよい電気自動車のアウトランダー」ということが分かったので、今度は高速道路を走ってみた。
まずIC(インターチェンジ)での本線への合流は、0rpmから最大トルクが出るモーターだけに、スムーズな加速で本線に乗れる。従来のハイブリッド車やガソリン車だと、キックダウンしてエンジンの咆哮高らかに合流するところでも、アウトランダーPHEVなら音もなくシューンっ!とモーターだけで加速しエレガントに合流する。この合流はまさにEVの走りで、他のハイブリッド車と一味違う。
100km/hでのクルージングでもエンジンがかからずスイスイ。舗装が綺麗なところだと、わずかに空調の音が聞こえる図書館のような静かさ。追い越し時など馬力が必要なときも、モーターだけで加速するから驚きだ。またSUVなので車高が高くホイールベースも2670mmとそれなりにあるので、車線変更時のフラつきがまったくなかった。後輪があとから車線に入ってくるような感覚(筆者の乗っているミニバンはバスか!というぐらい酷い(笑))もなく、セダン(というより、セミスポーツに近いかも)のように安定した車線変更ができる。車高はあるものの、バッテリーを床下に搭載しているため低重心になっている点と、「S-AWC(Super All Wheel Control)」という車両の挙動を総合的に監視・制御するシステムも一役買っていそうだ。
カタログによれば「高速走行時に、エンジンで走った方が経済的と車が判断するとエンジン駆動になる」とのことが書いてあるのだが、そういうシーンは平野部では少ない様子。唯一エンジンがかかったのは、緩やかな登坂路で追い越しをかけたときぐらいだ。「ハイブリッド車はエンジンに依存して走るもの」という常識を覆してくれるのがアウトランダーPHEVなのだ。
もちろん車間距離を保持するレーダークルーズコントロールシステム(ACC)も搭載されており、スムーズに前の車に追従してくれたが、運転好きにはあまりオススメできない。一般的なクルーズコントロールだと、いつでもブレーキを踏める状態でスタンバイしなければならないが、アウトランダーPHEVのそれは運転がウマすぎて、やることがなくなっちゃうのだ。
モーターが4WD車にベストマッチ! 河川敷でPHEV-4WDとして楽しむ
0rpmから最大トルクを出せるモーター搭載のEVは、SUVにベストマッチ。ということで、週末になると大勢のファミリーがBBQや川遊びで集う、とある河川敷の悪路にアウトランダーPHEVを持ち込んで遊んでみた。
車高があるので砂利の大きな河川敷でも腹を擦ることなく走行でき、バンプが続く道でもフロントスポイラーをこすることもない。またタイヤがスタックしても、4WDなので脱出も簡単な上に、力強いモーターとS-AWCによって確実に地面を掴んで走行する。
すべりやすい砂の道を走っても、ほとんどスリップすることもない。これなら雪道でもしっかりタイヤがグリップするだろう。
アウトランダーPHEVの頼もしさは、2WD/4WDの切り替え、各タイヤのトルク配分やブレーキングなど、すべて自動でやってくれる点。手動での切り替えも可能だが、慣れない悪路でもクルマ任せにしておけばスイスイ走れてしまう手軽さがよい。セダンタイプのクルマなどでは入れない自然の中を探求できるのも、アウトランダーPHEVならではの魅力だ。