日下部保雄の悠悠閑閑
BASFの予測するカラートレンド
2018年7月2日 00:00
ケミカルでは世界最大手の独BASF。そのBASFが行なうクルマのカラートレンド予測のプレゼンテーションに行ってきた。
BASFは“Badische Anilin und Soda Fabrik”の略(バーデン地方のアニリンとソーダ製造会社の意味)で、創業は1865年、日本は慶応元年でまだ江戸時代だ。そして早くも1888年、明治21年には日本に進出している歴史ある会社である。売上高は644億5700万ユーロというから、いかに巨大な会社かということが分かる。日本法人は2017年に2137億円を売り上げている。日本の売上はグループ全体の中ではそれほど大きな規模ではないというが(十分大きいです)、技術的志向などでは依然として日本がアジアで強固な一角を築いている。
前置きが長くなったが、そのBASFが3~5年先を見越したクルマのカラートレンドを予測するプレゼンを毎年行なっている。
2017年は地域ごとのカラートレンド、そして未来予測を行なってそれぞれ特色があった。しかし、近い将来のカラートレンドは地域を跨いで同一の傾向に向かうとしていることが今回のプレゼンで最も興味を引くところだった。
BASFの顧客はもちろん自動車メーカーで、メーカーの要求に沿った提案となるが、将来のカラートレンドはBASFからも提案している。今回のプレゼンはその一端を紹介したものだ。
カラートレンドが地域を超えて均質化していくというのは、全世界に広がるBASFの各地域の支社や、それぞれの技術の方向性などを考慮しつつ吸い上げて考察したものだ。その考察は急速なインターネットの普及でグローバル化が進み、社会的に均質化に向かっているという予測から導き出したものだ。
トレンドとなるキーカラーはブルー、そしてグレーだという。なんだと思われるかもしれないし、正直私もちょっとがっかりした……。しかし、ひと言でグレーと言っても、これまでのガンメタと違ってさまざまな深みを持たせた新しいグレーで、今までなかった個性的なカラーとしてとらえているという。
カラーサンプルは、ライトを当てると陰影がつくようにデザインされた造形物に塗られているが、その中でサンプルのグレーはさまざまな表情を見せた。大きく3つに分けられて説明された地域によってもグレーは少しずつ変わってゆき、深みのあるグレーから比較的明るいグレーまで変化していく。
グレーは他のカラーに対して大きな特徴を持っておらず、それ自体が与えるインパクトは小さい。つまり、それだけ質感をコントロールしやすい材料である。近い将来の価値観はより質を求めるフェーズに入り、グレーは時代に合ったさまざまな表現方法が可能だという。
一方、ブルーは技術による未来を連想させるカラーとして継続して提案される。確かにブルーには新しいテクノロジーを連想させるものがある。こちらも各地域に応じてさまざまに変化し、今後も発展していくと予想されている。
もちろんブルーとグレーのみに絞られるわけもなく、それをベースにしたカラーが多様に変化していく。確かにこれらの2つのカラーは奥が深く、かつなじみやすい。
面白いのはこのカラートレンドの説明とともに、3つの方向性が考えられるとしたこと。公共の場でのカラートレンド(規律のブルーや何にでもなじむ白など)、そして人々の心に入り込むカラートレンド(ここでは柔らかい色)、さらにテクノロジーの世界のカラートレンド(新しいものへの期待と不安が織り込まれたカラー)も興味深かったが、いずれもグレーとブルーをベースにしてさまざまな技術を織り込んで進めていくとしている。
もう1つ、欧州車でよく見るマットカラー。日本車では皆無だが、これもクルマのカラーの価値観の違いだ。家具などでは光を反射するものより、しっとりと吸収するものに価値を認めるケースが多々あるが、欧州車はその概念を反映している。温帯モンスーンの地域が多い日本と緯度の高い欧州で見るクルマのカラーは違って見えるに違いない。マットカラーはメジャープレイヤーになることはないと思うが、今後は日本でも、もしかしたら見られるようになるかもしれない。
クルマのカラーからいろいろな世相を映し出すプレゼンテーションはいつも興味深く、いろいろと勉強させていただきました。