まるも亜希子の「寄り道日和」

プジョーのEV「e-2008」の試乗で感じたこと

フロントフェンダーからサイドミラーあたりにかけてと、リアドアの中央からリアフェンダーにかけて、パキッとしたキャラクターラインが入っているのがとても斬新なe-2008のデザイン。このヴァーティゴ・ブルーというボディカラーもすごく綺麗でした! 試乗車は「e-2008 GT」で472万4000円。オプションのパノラミックサンルーフ(14万円)も装着されていましたよ

 世界的に電動化の波が加速していますが、私はEV推進派でも否定派でもなく、ただクルマとしてすごく面白いと感じて、急速に進化していく様子にも興味があります。私のように、毎日仕事で200~300kmくらい時間に追われて走るようなライフスタイルには、まだまだEVは向いていないですが、街乗りメインの人などEVがハマるライフスタイルもあると思うので、そうした人たちにぜひEVのことを知ってもらいたいなと、情報発信をしています。

 とくにここ5~6年ほどは輸入車のEVが少しずつ日本でも増えてきて、日本のEVとはまたちょっと違った考え方だったり、走りの味付けだったり、といったところが新鮮。今回も、プジョーのコンパクトSUVのEV「e-2008」に試乗して、また心をつかまれてしまいました!

 まずそのデザインとサイズ感。ガソリンモデルの「2008」とは、まるで間違い探しのクイズみたいにほとんど変わらないデザインなのですが、エンブレムがブルーになっていたり、グリルがボディ同色に塗られていたりと「似てるけど、どこか違う」という絶妙な差別感があるところがいいなぁと思います。

 ボディサイズも、4305×1770×1550mm(全長×全幅×全高)と、機械式立体駐車場も利用しやすいパッケージなので、SUVの中では都市部に住む人でも乗りやすいですよね。しかも、最低地上高は205mm。これって、軽自動車の本格クロカンSUVであるスズキ「ジムニー」と同じです。FFなので、ジムニーのようにとはいかないでしょうけど、ちょっとしたラフロードや雪道でも、ほかの都会派SUVよりは頼もしく走れるのではないでしょうか。ただ最小回転半径は5.4mと、ほぼ同じようなボディサイズの日産「キックス」が5.1mなので、小回り性能は今ひとつですかね。

 でも、走り出した直後からのなめらかさと、静かさと、しなやかさのレベルは感動的。プジョーのEVとしてはコンパクトカーの「e-208」でも感銘を受けましたが、SUVでも変わらぬ上質感が貫かれているのはビックリでした。文字などが立体的に浮かび上がるような、208でもおなじみの「3D-iコクピット」がe-2008にも採用されているのですが、アップライトな位置にあるからか、こちらの方が見やすいようにも感じました。ただ、駐車場でスイッチをONにしたままドアを開けたところ、画面に「エンジンを切ってから降りてください」という警告が。思わず「ん? エンジン?」と首をひねってしまいましたが(笑)、きっとガソリンモデルとメーターが丸ごと共用されているんでしょうね。こういう、完璧すぎないところ、ちょっと抜けてる感じがフランス車らしい、と言ったらフランスの方に怒られそうですが、「ご愛嬌」と許せてしまうところがいいなぁと思いました。

 そして、e-2008は急速充電器「CHAdeMO」と、普通充電の両方に対応していて、今回は2か所で急速充電を行ないました。私が2010年に、おそらく日本人としてかなり早い段階で高速道路での「電欠」を経験した当時から比べると(笑)、あちこちに充電器が設置されるようになって、夢のような環境になりました。EVの台数も増えているので、充電器に先客がいる「充電待ち」も珍しくない状況にはなったものの、これならよほどのトラブルでもない限り、電欠する心配なんてなくなったのではないかと思っていたんですね。

 ところが、新たな問題が起こっていることを感じたのです。というのも、e-2008は急速充電だと約50分で80%の充電が可能とのことでしたが、最近の急速充電器は30分で自動的に充電が終了するようになっているので、80%まで入れたければ30分経過時点で再度、充電操作をやり直す必要があること。昔はバッテリーが満タン近くになるまで、継続できたんですけどね。「充電待ち渋滞」緩和のためでもあるのでしょう。

高速道路のPAで急速充電中。e-2008の充電口は左リアにあり、急速充電用と普通充電用が並んで設置されています。普通充電用のケーブルは標準装備で、ラゲッジのフロア下にオシャレな専用ケースに入って搭載されていました

 そして、1か所目の急速充電では30分で約30km走行分ほどしか充電できず、2か所目の急速充電器では、何度操作をしても「車両から故障信号を受信しました」という表示が出てしまい、とうとう充電をあきらめるしかないという事態に。

 原因は、1か所目はおそらく、急速充電器の最大出力が小さかったか、e-2008のバッテリーが半分程度残っていた状態で充電したために、あまり充電が進まなかった可能性が高いと見ています。CHAdeMOの急速充電器は、メーカーによって最大出力が20kW~50kWのものまであり、乱立している状態。スマホなどで充電スポットを調べた時には、どのメーカーの充電器なのかまでは情報がつかめないことが多いので、現地に行ってみて初めて、「これか」と分かるわけです。

 また、2か所目は「A-pit東雲」にある急速充電器だったのですが、充電できなかったことをプジョーの広報の方に報告したところ、その充電器はバージョンが古いため、e-2008には合わないということが分かったそうです。なるほどそういう問題もあるのかと、勉強になりました。充電スポットを検索するときは、充電器のメーカーと設置年数、もしくはバージョンの情報も掲載されていると、より安心だなぁと実感したのでした。

 こういった、インフラを含めて「まだ進化の途中」だと感じられるところが、EVの面白さの1つだなと私は思っています。作る人だけでなく、実際に使った人の意見が、今後のEVを変えていくために欠かせないんです。今はSNSなどで、誰でも意見を世界に発信できる時代。自分のひと言がEVを変えるかもしれないと思うと、ちょっとワクワクしませんか。

充電中は3D-iコクピットに、こんなに可愛いグラフィックが表示されました。EVによってこうした表示はぜんぜん違って、それを確認するのも面白いのですが、今のところe-2008は抜群の可愛さです
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Zなど。 現在は新型のスバル・レヴォーグとメルセデス・ベンツVクラス。