まるも亜希子の「寄り道日和」

ニューマシン「フィット e:HEV」で参戦した2021年の“Joy耐”

軽量化のためエアロを外したわがチームのフィット e:HEV。レーシングカーらしい迫力がなくなっちゃったかな、と心配していましたが、この決勝中の写真を見て感激。なんとまぁ勇ましい、闘うマシンの顔になっているではないですか。コーナリングスピードではライバルには負けず、今回ストレートスピードも伸ばしてきたので、この経験を踏まえてまだまだ進化してくれるはずです

 台風直撃か? と心配された6月26日~27日の週末でしたが、進路がそれてくれて、ツインリンクもてぎ「Enjoy耐久レース」“Joy耐”が無事に開催されました。2020年はコロナ禍で中止となってしまったので、わがチーム「TOKYO NEXT SPEED」としては2年ぶり11回目の参戦。新たなマシン、新型フィット e:HEVとしては初めての7時間耐久レースへの挑戦です。

 例年、Joy耐はとんでもない猛暑となるため、マシンも人も暑さへの対策を練って準備してきたのですが、今回は途中から「えっ、雨? 台風? どうする?」てな感じでドタバタ。レインポンチョや長靴を揃えたり、タイヤもウェット用がもっと必要か!? などなどやった割には、予選・決勝とまったく雨は降らず、天気予報に振り回されただけでした(笑)。

 私は娘を連れて土曜日の朝にピット入り。参加台数は73台と、一時期の130台超えの時代からすると減ってしまったものの、今回は1日で予選と決勝が行なわれる3時間耐久レース「Joy耐チャレンジ」も14台がエントリーしていたので、パドックの熱気は相変わらず。名前の通り「エンジョイ」なレースなので、どのチームも和気あいあい、ピットでお昼ご飯を作るいい香りが漂ってきたり、子供たちが遊んでいたり、楽しそうな笑顔で溢れています。そんな光景を見つつ、「私はJoy耐のこういうところが好きなんだな~」と、あらためて実感したのでした。

 なので今回は、Joy耐の好きなところをいくつかご紹介したいと思います。まず土曜日の予選。2日間通して、この時がもっともピットが緊張感に包まれる時間帯です。AドライバーとBドライバーがそれぞれ20分ずつ、真剣勝負のタイムアタック。わがチーム#29はまずAドライバーの橋本洋平が2分29秒台を狙っていきますが、かなりタイム差のあるマシン40台くらいが混走するので、クリアラップを取ろうとすると、コースに出て行くタイミングがかなり重要なんですね。そこで、予選開始しても10分くらいピットに留まり、他のチームが戻ってきてコースが空いてから出て行く作戦にしたのです。

 が……10分待ってもほとんどのチームが戻ってこない。かえってコース全体に車両が散らばってしまい、クリアな区間がなくなってまったく速さが発揮できないという結果に。完全に作戦が裏目に出てしまいました。

 そこでBドライバー・桂伸一さんの番ではこの失敗から学び、予選開始から1分後くらいにピットを出る作戦で、なんとか2分30秒台をマーク。ピットはようやく、緊張がほどけてリラックスムードに包まれました。

ツインリンクもてぎのストレートは、コントロールタワーからズラ~っと最終コーナーの方まで、73台のマシンが並んで壮観。ここで1年ぶりに会う知人や、サーキットでしか会わない顔見知りなど、ちょっとした社交場にもなるのがグリッドです。2021年は入場制限があったので、ファミリーはちょっと少なめでしたが、来年にはまたみんな戻ってきてほしいと願います

 次に好きなところは、明けて翌日決勝の朝。以前より前倒しで9時スタートの16時ゴールという7時間となったので、朝早くからツインリンクもてぎ本コースのグリッドには、ズラリとマシンたちが並べられました。フォーメーションラップのスタート5分前までは、そのマシンのところにチームのみんなで行って、記念写真を撮ったり、知人やライバルのチームを冷やかしに行ったり、グリッド上がお祭りのようになるのです。この時間帯も、空間全体が「よし、やるぞ!」という雰囲気に包まれていて、決勝スタートが近づくごとにドキドキが高まっていきます。

 今回のスタートドライバーは石井昌道。わがチームの司令塔として、燃費の計算やドライバーの動きなどを統括してくれています。耐久レースはいつも、後半になるにつれてイレギュラーなことが起こり、作戦が練り直しになったりするので、自分はこうして早めにドライバーをこなし、もしもに備える役割なのです。こうした、絶対に1人ですべてを行なうことはできず、チーム全員が自分の役割を果たしてこそいい結果に繋がるところが、耐久レースの面白さ。やはり今回も、この後橋本、桂、再び石井とリレーをつないでいくのですが、ちょいちょい予定外のことが起こったのでした。

これがJoy耐名物「手押し給油」の光景。どのチームも給油部隊が待機していて、マシンが給油エリアに入ってくるとエンジンを切り、手押しでガソリンスタンドまで押していきます。ドライバーだけでなく、チームみんなが力を合わせてマシンをゴールまで押していく。そんな感覚が好きです

 そして、Joy耐名物とも言えるのが、パドック内にあるガソリンスタンドまでの「手押し給油」です。7時間の間に、クラスによって最低給油回数、最低ピット回数の規定があるのですが、その給油はピットで行なうのではなく、指定された給油エリアを通過して、ガソリンスタンドで行なうのがJoy耐スタイル。少しでも燃料を節約し、安全に給油を行なうために、マシンのエンジンを切り、チームのみんなが手押しで給油エリアを進む姿が見られます。私も以前は一緒に手押し部隊に加わっていたんですが、4~5人で押すとけっこうスピードが出て、走ってもついていけなくなってクビになりました(笑)。でも、炎天下で汗だくになってマシンを押すと、なんだか運動会の大玉送りをやっているみたいで、楽しかったのを覚えています。

Hondaものづくりセンターのエンジニアたちが参加してくれて、2021年のピットは若返りました(笑)。バッテリーのデータなどをとるため、ピットにはPCがたくさん。電脳化された光景は新鮮です

 さて2021年のわがチームは、Hondaものづくりセンターでフィットの開発に携わる若手エンジニアたちが、メカニックやヘルパーを勤めてくれました。バッテリーの改善や温度管理など、通常のメカニックさんでもなかなか手を出せない領域があるマシンなので、専門知識が欠かせないのです。中にはレース現場は初めてというメンバーもいれば、Honda F1チームに携わっていたメンバーもいて、そうした立場も経験もバラバラなメンバーが集まったチームが、スタートして2時間、3時間と経過するにつれて、だんだんと1つにまとまっていく様子がとてもいいなと感じました。レースは「走る実験室」だという本田宗一郎さんの言葉通り、みんながそれぞれにいろんなことを学んだと思います。

 心配していた故障もクラッシュもなく、ドライバーも淡々と役割をこなして走ってくれたおかげで、順位はじわりじわりと上昇。7時間まで残り1分くらいのところで、どのチームもピットからワッと人が駆け出し、最後にチェッカーを受けるマシンたちを讃えようと、サインボードエリアに集結します。通過したマシンのチームから次々に拍手や歓声が沸き起こる、この瞬間はもう感動もの。

 2021年は感染予防対策のため、人数は少なめ、歓声は控えめでしたが、私たちもラストドライバーの桂さんに手を振り、みんなで無事完走を喜び合いました。この7時間のゴールのために、1年以上前から少しずつ準備してきた様子が頭に浮かんで、嬉しいのとホッとするのと、終わってしまって寂しいのと。いろんな感情が入り混じって、なんとも言えない充足感。いっぱい反省点はあるんだけど、とりあえず今この時だけは、心からチーム、マシン、応援してくれた人々、すべてにただただ感謝して、感動に浸りました。

 しかも2021年は、棚ぼた運に恵まれて(?)嬉しいオマケまでついてきたんです。その詳細と顛末は、後ほど橋本洋平がレポートしますので、ぜひチェックしていただけたら幸いです。

何度見てもジーンとしてしまう、ゴールの瞬間。どこもトラブルなく7時間を走りきってくれたマシンに、お疲れさまと声をかけました。最後にガス欠で止まってしまうマシンもあり、逆転劇も見られた2021年のJoy耐でした
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Zなど。 現在は新型のスバル・レヴォーグとメルセデス・ベンツVクラス。