まるも亜希子の「寄り道日和」

微小操舵を極めるためのSTI「フレキシブルドロースティフナー」を試してみました

リアバンパーを外すとお目見えするのが、新発売となった「STIフレキシブルドロースティフナー リヤ」。必要な部位に、必要に応じて「引っ張り」のプリロードをかけることで、状況に適した剛性が得られるというものなんです。単品では3万5200円。工賃を含めると、おおよそ4万3000円とのこと。STIフレキシブルタワーバー、STIフレキシブルドロースティフナーと合わせて、ぜひ違いを体感してみてほしいです

「運転がうまくなりたい」と最初に感じたのは、新卒で自動車雑誌「Tipo」の編集者となり、誌面の企画で初めてミニサーキットを走った時だったと思います。それまで、とくに自分が運転が下手だと感じたこともなく、運動神経もいい方だとされて生きてきたのですが、その時はほかの誰よりもタイムは遅く、わずか20分の走行で体力を使い果たし、フルマラソンを走った後の人みたいに、自力で運転席から出ることさえできなくなってしまったのでした。この時の衝撃は凄まじく、私はすぐさま取材と称してあちこちのドライビングスクールに潜り込み、レースにも参戦して、他人に勝つことなどより以前の自分に勝つことを目標として、少しずつ練習に励むことになったのです。

 でも、ある程度までいくとクルマによって自分の腕ではどうにもならないところで、どうやっても運転がヘタに感じることがあると気づきました。クルマごとの味付けやクセなど、いろんな要素があるようなのですが、深いところの要因までは分からず、長年ずっとモヤモヤしていたのです。

 そして7~8年前だったでしょうか。スバルのカスタムモデルやモータースポーツ部門を担当するSTIの辰己英治さんから、ご自身の似顔絵が書いてあるステッカーをいただき、そこに「運転がうまくなる!」というひと言が。理由を聞くと、STIではフレキシブルシリーズというパフォーマンスパーツ開発を通じて、「運転がうまくなるクルマ」を目指しているのだということでした。それ以前から辰己さんはずっと、「どういうクルマが運転がうまくなるクルマなのか」「クルマのどこを直せばそれを解決できるのか」といったことをずっと考え続け、いろいろと試行錯誤を繰り返してきたとのこと。

 そこから導き出された答えは、人の感覚では切ったかどうか分からないくらいの、角度1°にも満たない「微小操舵」を極め、タイヤの内輪の働きをしっかり先行させると遅れのない素直な挙動が得られ、つまり「運転がうまくなる」ということだったそう。

 そこでフロントにフレキシブルタワーバー、フレキシブルドロースティフナーという2つのパーツを開発。さらに、リアバンパーの内側あたりに装着する「フレキシブルドロースティフナー リヤ」が完成し、6月17日から発売されたということで、その完成車の試乗会に行ってきました。

 本当にそんなに変わるのかな? という思いもなくはないので(笑)、会場まではわが家のノーマル状態のレヴォーグSTI Sportに乗って行きます。夫と2人、「これだってぜんぜん快適だよね」なんて言いながら。

辰己さんが喫煙所でタバコを吸っている時に、何気なく見つけて「おっ、これは使えそうだな」と思ったという鉄の柵。トンカチで叩くと、ドロースティフナーあり・なしではまるで音の出方も振動も違って、ビックリでした。パーツの効果をより分かりやすく伝えるアイデア、いいですよね

 辰己さんのお話の中で興味深かったのは、歩道と車道の間などによく立っている鉄の柵を用いた違いの説明でした。ただの柵の場合は、トンカチで叩くと上、横、下ではまったく別の音が出て、手にビリビリと響く感覚が長く消えないのに対して、柵の下にフレキシブルドロースティフナーと同様の働きをするパーツを付けるだけで、どこを叩いても同じ音がして、手に伝わる振動もすぐにピタリと収まるではないですか。これには驚きました。このように、ドロースティフナーを加えるだけで、それまでは逃げてしまっていたエネルギーが均一に行き渡るようになり、柵全体が1つにまとまるようになる。そしてこれと同じことが、フレキシブルシリーズを装着したクルマにも起こるのだというのです。

 いよいよ、パイロンを置いた試乗コースで、違いを試します。最初はわが家のレヴォーグにはない、フルエアロが装着されたSTI Sportから。うんうん、ステアフィールもいいし、そんなにストレスなくスラロームできますね。しいて言えば、3~4個目のパイロンになると、ハンドルの動きがカクッとなるのが気になるくらいです。

 そしてフレキシブルシリーズを装着したSTI Sportに乗り換えます。1個目、2個目とパイロンを抜けると、「あれ?」ハンドルの手応えがごくごく初期からしっかり感じられて、自然と丁寧な動きになっています。速度もわずかに先ほどより速くなっているのに、ラインはスムーズで、3個目、4個目のパイロンでもカクッとした動きにはならず、ずっとなめらか。なるほど~! これこそが微小操舵を極めるということなのですね!

 後席に乗っていた夫も、「さっきとは別人のように運転がうまくなってる」と感心。お墨付きをいただきました。試乗から戻り、辰己さんに「ぜんぜん違いました!」と報告すると、嬉しそうな表情。実は、この新型レヴォーグに最初に試乗した時、辰己さんは社員に言ったそうなんです。あまりによくできているので、「こりゃ、俺たちの仕事は無くなるかもしれないぞ」と。でも、何度も乗るうちに少しずつ弱点が分かってきて、できることが見つかったそうです。確かに今回、私たちも予想以上に違いが分かってビックリでした。

 でもここでゴールではなく、これはまだ辰己さんの目指す形の、ほんの1ステップ目といったところだそう。ここからもっとよくなるのか? とワクワクしますね。STIの今後のニュースを楽しみにしたいと思います。

この試乗会の時に、2021年バージョンができたということで、いただいちゃいました。これが辰己さん特製「運転がうまくなる!ステッカー」です。これをスマホケースに貼っていると、いろんな人から「あっ!」て指さされるので面白いのです。安全運転のお守りなんかも作ってほしいです(笑)
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Zなど。 現在は新型のスバル・レヴォーグとメルセデス・ベンツVクラス。