まるも亜希子の「寄り道日和」

フィット e:HEV「Joy耐」参戦プロジェクトでラストラン

ラストレースとなったフィット e:HEVでのJoy耐参戦プロジェクト。ホンダの若手エンジニアたちと、ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」のコラボで、走りのフィットをコツコツと追求してきました。最後は10月に登場したスポーツグレード「RS」の顔にチェンジして、さらにカッコいいマシンになりました

 4代目フィットがデビューした2020年にスタートし、「走りのフィット」を磨くためにモビリティリゾートもてぎの耐久レース「Joy耐」にフィットe:HEVで参戦するというプロジェクト。最初から3年計画だったので、2022年のミニJoy耐がラストレースになることは決まっていました。だけどいったい誰が、ここまで強いマシンになると想像してたでしょうか。

 2020年夏の7時間耐久レースは、コロナの猛威によって中止となってしまいましたが、それに向けて5月にシェイクダウンを行ない、初めてもてぎフルコースを走ったフィットe:HEVは、みんなが愕然としてしまう2分46秒というタイム。3分00秒を切れないマシンは参戦が認められないという規則があるので、まさにギリギリでとてもとても、上位争いなんて夢のまた夢のような状態でした。

 そこから、奮起したのはフィットに携わるホンダの若きエンジニアたち。石井昌道、桂伸一、橋本洋平という百戦錬磨のジャーナリストとテスト走行やオンラインでのミーティングを繰り返し、弱点を洗い出して1つ1つ、コツコツとクリアしていったのです。といっても、レースを専門にやるエンジニアではないので、通常の開発業務をこなしながら、空き時間を見つけての作業。並大抵の苦労ではなかったのではと思います。

 その甲斐あって、デビュー戦となった11月の2時間耐久レース「ミニJoy耐」では、予選タイムで32秒台をマーク。無給油で決勝レースを走り切り、29台中総合11位という、望外の結果をもたらしました。その後もバッテリーやLSDの改良、足まわりのセッティングを煮詰めるなど、やれそうなことは全部試してみようというスタンスで、マシンを磨いていきます。

 そして2021年夏、初めての7時間耐久レースではバッテリーもドライバーも暑さとの闘いの中、クラス優勝、総合39位を獲得。次はもっと上へ! と意気込み、ここから1秒を縮めるための試行錯誤が始まりました。その冬、バランス的にも過去最高のマシンができたと自信をつけて挑んだ2度目のミニJoy耐でしたが、ラップタイムが速くなったことで負担がかかったのか、足まわりにまさかのトラブル発生。無念のリタイヤとなってしまったのです。さらに、デフの投入やバッテリー容量アップ、CVTのレスポンス向上と、大きくポテンシャルアップして臨んだ2022年の夏のJoy耐でしたが、同様のトラブルに見舞われ、なんとか完走するという結果に。

 そんな悔しさを抱えたまま、とうとうラストレースとなる12月4日のミニJoy耐を迎えたのでした。その間、10月にはこのJoy耐で培ったノウハウを存分に注入した市販モデル、フィットRSが登場! 公道で試乗して、あまりの走りの気持ちよさに驚き、しっかりとエンジニアたちの情熱がカタチになっていることに胸がいっぱいになりました。

 さて、集大成となるミニJoy耐でのまず最初の目標は、予選アタックで唯一のライバルであるフィット3のハイブリッドのタイムを超え、クラストップを獲ること。それには24秒台に入る必要があるのですが、数日前のテストで出たのは25秒台まで。なんとかもう一声、縮めてほしいとチーム全員が見守る中、橋本洋平がやってくれました。2分24秒8を叩き出し、見事クラストップ、総合でも19番というなかなかのグリッドを獲得! 初年度から22秒も速くなったフィットe:HEVの姿は、どこから見てもレーシングカーらしい気迫満々。今回からマシンのデザインも市販車のRS顔にチェンジしたので、さらに精悍でカッコよくなったと感じます。

もしかして、総合で表彰台に立てるかも! という淡い期待は砕かれてしまったけれど、ファイナルラップまで本当にいいレースを見せてくれました。チェッカーを受けた姿に、私は涙腺崩壊。総合5位・クラス優勝という望外の結果はもちろん、何事もなく、無事に完走したことにまずは感謝です

 そして2つ目の目標として、初年度より上位を狙うという2時間の決勝レースは、やはり無給油で挑戦しました。Joy耐の規則はとてもよくできていて、異種格闘技戦のようなさまざまなクルマたちが堂々と勝負できるように、ピットストップ時間や回数などがクラスごとに細かく設定されています。私たちのクラス1は、ピットストップ(タッチ&ゴー)が3回という規定。そのうち1回はドライバーチェンジで使うとして、そのタイムをいかに短縮できるか、タッチ&ゴーをどのタイミングで消化するか、そこが作戦のキモ。

 スタートドライバーは橋本で、ローリングスタートで始まった直後に混み合った集団を避ける狙いもあって、早々にピットイン。2回のストップ&ゴーを消化しつつ、単独走行ができる位置でコースに戻ります。そこからは燃費と速さのバランスを計算し、2分28秒〜30秒くらいで順調に周回を重ねます。残念だったのは、ライバルのフィット3ハイブリッドがトラブルで戦線離脱してしまったこと。それでも、もっとタイムの速いマシンが続々と給油のためにピットインする中、フィットe:HEVは淡々と走ってレース開始から1時間10分を回ったころ、なんと総合3位に浮上! 石井にドライバーチェンジしても総合5位にとどまり、チーム全体に「もしかして、表彰台が見えてくるか!?」という淡い期待が広がります。レース時間、残り30分を切ったところで、トップを走行していたマシンが給油に向かい、繰り上がって総合2位に!! なんとか守り切ってほしいと、全員でハラハラしながら見守ります。

 しかし……追い上げてくるガソリン車のフィット3の2台は25秒台のラップで猛プッシュ。1周ごとに差を詰められ、ラスト2周でついに抜き去られてインテグラにもラストラップでパスされてしまい、総合5位でのフィニッシュとなったのでした。

 それでも、こんなふうに優勝争いができるなどと、誰も予想していなかったわがチーム。もう、いい夢を見せてもらったし、クラス優勝は勝ち取ってレース前に掲げた2つの目標は達成したし、大満足の結果です。「来年こそは!」と言えないのだけが寂しいところですが、フィット4e:HEVの可能性を多くのレースファン、フィットファンに認めてもらうことができたこと。若いホンダのエンジニアたちと一緒に、いい走り、楽しい走りを突き詰めて切磋琢磨できたこと。これらは本当に、チームにとっても貴重な経験になったと感謝しています。

 今後の活動は白紙ですが、きっとまた何か、ジャーナリストチームとして走る楽しさ、モータースポーツの素晴らしさを伝えられるような機会を見つけて、Joy耐に帰ってこられたらいいなと思います。3年間、多大なるご協力と応援をいただいたすべての皆さま、本当にありがとうございました!

このJoy耐で試行錯誤した知見とノウハウをベースに、誰もが走る楽しさを味わえるフィット伝統のスポーツグレード「RS」が誕生。ステップシフトの気持ちよさ、挙動のなめらかなつながりなど、思わず「運転が上手くなった?」とゴキゲンになれるクルマになっていると感じました。販売も好調のようで、なんだか嬉しいです
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラスなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSDとスズキ・ジムニー。