まるも亜希子の「寄り道日和」
新しくなったテスラの「モデルY」
2025年5月22日 00:00
それまでトップに君臨してきたトヨタ「カローラ」を抜き、電気自動車として初めて世界の車種別販売台数トップ(2023年)を獲得したのが、テスラのミドルサイズSUV「モデルY」でした。2012年に発表された、同じようなサイズ感だった「モデルX」の方が、羽のようなドアの開き方や隠しコマンドが話題になったりと、インパクトとしては派手だったという印象があるのですが、やっぱり乗り比べてみるとクルマとしての完成度は2020年に発売されたモデルYの方が、圧倒的にまとまっているなと感じたことを覚えています。
そんなモデルYが新しくなったということで、箱根の山道で試乗してきました。サイバーデザインと名付けられたフロントマスクは、とてもスッキリとクリーンな印象へと変貌を遂げ、デザイン名の由来ともなっているサイバートラックのようなアクの強さはないですね。リアも、一見すると最近流行っている横一文字のテールライトになっていて、新しい感じは受けなかったのですが、よくよく見ると……TESLAのロゴが浮き上がっている?
これはボディパネルテールライトとして初の拡散反射技術が採用されており、ライトそのものが光っているのではなく、照らし出されて明るく浮き上がるように見せるという手の込んだものになっていて、近くに寄ってじっくり見てしまいました。
そしてインテリアでは、相変わらず最小限の物理スイッチのみで、ほとんどの操作をディスプレイで行なうというスタンスは変わりませんが、このクラスのSUVはファミリーユースがメインでさまざまな人が運転する、というところでウインカーレバーが復活。一度はボタン式に変わっていたのですが、ターゲットユーザーのことを考慮したり、ユーザーからの声に耳を傾けてこうした対応をしてくれるというのは、これまで新しさや既成概念を破ることを追い求めてきたように思えていたテスラというメーカーが、少し変わってきたのではないかという印象を受けました。
それでも、後席のエアコンなどの操作が8インチのタッチスクリーン式になっているところなど、「おお!」と新しさにテンションが上がるポイントもあり、そうしたエンタメ性はやっぱりテスラのお家芸的な感じですね。室内は全席が十分にゆったりとしていて、ラゲッジがこれまた広大。117Lの容量を誇るフロントのトランクスペースは、仕切り板を使ってスペースを区切って使えるようになり、独立した排水口も追加されているので、水濡れの荷物なども遠慮なく放り込めるようになりました。リアのラゲッジスペースは低めのフロアで、後席が4:2:4の分割可倒式になっていて長い荷物もOKと、ボディサイズの割に積載性が高く、使い勝手が優秀なのもテスラに共通する魅力だと思います。
走ってみると今回、新たに追加された複数のシーリング材や遮音材、サイドミラーの変更などによって、室内がさらに静かになったと感じました。風切り音は20%減、ロードノイズが22%減ということで、ロングドライブ時の疲労感も減ることでしょうね。ハンドリングや乗り心地もアップしていて、全面的に再調整されたサスペンションシステムが悪路などでの振動吸収性能を51%向上しているとのこと。シートそのものも新設計されており、座面が1.5cmのび、ヘッドレストの幅が1.7cm拡大した恩恵は大きそう。後席はリクライニングが電動調整できるのも便利です。
走行距離は、バッテリ容量が小さくなったのに効率がアップして、RWDで最大547km、AWDで635km(ともに自社計測値)と延びています。「トランプ大統領の関税の影響はあるんですか?」とお聞きしたところ、部品の大多数を米国内で生産しているため、ほとんど影響はないのだそう。日本には上海工場で生産されたモデルがやってくるため、納期も最短で1か月ほどと国産車並みというからすごいですね。ここのところ、ユーザーに適切な価格でスピーディーによいクルマを届けるためには、技術開発だけでなく経営・渉外・政治的要素が欠かせないのだと痛感させられている私たち。テスラが売れるのは、クルマがいいだけでなくそうしたところも伴っているからなのかもしれないですね。