まるも亜希子の「寄り道日和」
牛糞を活用した発電所「バイオガス実証プラント」を見学してきました
2025年4月10日 00:00
ロッキー/ライズ、タントなど年間約24万5000台を生産しているダイハツの滋賀(竜王)工場の第二地区。その一角で、将来の理想的な資源循環を目指す「バイオガス実証プラント」が推進されていると聞き、見学してきました!
これは、近江牛発祥の地である畜産業、近江米をはじめとする農業、そして自動車製造という工業、三井アウトレットによる商業が同居する竜王町の特色を活かし、より効率的なバイオマス資源の活用や新たな事業化を目指す「竜王町バイオマス産業都市構想」の屋台骨プロジェクト。工場からのCO2排出の削減と、地域と一体となった環境取組を推進する中で、竜王町の畜産農家から出た牛糞を材料として発酵させ、バイオガス(メタン)を生成し、カーボンニュートラル燃料として活用することを目指す実証実験ですが、いろいろと教えてくださったダイハツ工業のくらしとクルマの研究部 BRバイオ推進室の上西真里室長によれば、「手作り感いっぱいで進めている取り組みなんですよ」とのこと。
最初は、上西さん自ら理科の実験みたいに注射器に牛糞をとり、うまく発酵させるためにいろんなことを試したのだとか。そこから次はビーカーになり、だんだんと増やして今は毎日2tの牛糞を収集してメタン発酵プラントに入れられるよう、技術開発を行ってきたのだそう。ここで、「牛糞からのメタン発酵プラントってすでにあるよね?」と思った方もいるかと思いますが、従来は乳牛からの牛糞を使っており、水分量が多いため湿式のメタン発酵プラントだったんです。でも肉質向上のため敷料に「おが粉」を使用する近江牛は、水分量が少ない粘土上の牛糞のため湿式には不向き。独自のメタン発酵技術を開発する必要があったというわけです。
実際のバイオガス実証プラントに入らせてもらうと、想像とまったくちがってすごくクリーンでコンパクト。なんというか昔のイメージだともっと泥んこな感じといいますか、まず牛糞のニオイがまったくしないことにビックリしました。工程としては大きく4工程にわかれていて、まずは運ばれてきた牛糞を混錬機に投入して、発酵準備をします。次に、コンパクトな「バッチ式発酵槽」に移し、37度という温度を維持したまま14日間発酵させます。この時にどのような容器で、どのように加温してその温度をどう維持するのか。これもかなり試行錯誤したとのこと。とくに冬場の外気温が低い中で37度を維持するため、発酵槽を格納する設備の中にエンジン廃熱を再利用した温水を回すホースをひいたり、アルミニウム溶解炉の排熱を利用して、フォークリフトで発酵槽を設備内に置くとスイッチが入る仕組みを手作り。これで本当に温度が維持できるのかどうか、テスト時は夏だったため、自動車開発で寒冷地仕様の試験をするための部屋を借り、加温や断熱方法のテストを行ったのだとか。
続いて、いよいよここからメタンガスの活用工程に移ります。生成したバイオガスはガスバッグで一時貯留し、濃度を一定化します。ガスバッグは白くて宇宙船みたいな感じ。最初はパンパンに膨らんでいて、使っていくうちにペタンとへこんでいくんです。そこから、現在の実証実験ではバイオガス発電機によって発電。将来的には非常時電源としても利用予定とのこと。もう1つは、熱交換器によってカーボンニュートラル燃料として使用予定。こちらは将来的に、自動車製造工程で電気を使うよりもガス燃焼の方が効率が良いという、鋳造工場のアルミニウム溶解炉で使用したい考えだということです。
興味深いのは、バイオガス発電機のベースとなるのがロッキーに搭載されているハイブリッドシステム「スマートハイブリッド」のエンジンそのものを使っているところ。メタンガスの濃度は変動しますが、エンジンがもともと持っている燃焼制御技術を使い、燃焼の安定化と排ガスのクリーン化が叶うというのです。もちろん、AC/DCコンバータや制御盤は専用開発し、パワーコンディショナは市販品を使用。エンジン廃熱を温水としてメタン発酵槽などに活用するためのコージェネシステムは市販品と自動車部品を組み合わせ、これらをコンパクトにパッケージ化しているところに感心しました。
現在、1日あたり2kgの牛糞で発電機1台10kWhを2台、8時間稼働できるくらいの発電量があるそう。将来的にアルミニウム溶解炉を燃焼させるには、20tくらいの牛糞が必要とのことですが、牛さんが1日で出す牛糞は約45kgにもなるとか? その処理が牧場の負担になっているという問題もあるようなので、これはぜひ解決しながら有効利用ができるようになっていけばいいなぁと思いました。
そして最後に、発酵後の処理工程に入ります。発酵残渣を吸い上げるのは、ダイハツの京都工場で見た車両生産用のロボット。その先の固液分離工程では、なんと池田工場で車両の天井を塗っていたロボットが不要となったことから、それを再利用。分離工程では遠心分離などいろんな方法を試したところ、たまたま使っていない振動コンベアが見つかり、それを使って固体分は乾燥させて堆肥に。液体分は消化液としてまた発酵の時に再利用されています。牛糞を無駄なく、最後まで使い倒すこのシステム。素晴らしいと感心していたのですがこれで終わりではなく、その先もまだまだ取り組みは続いています。
堆肥と液肥は竜王町の農家にて有機肥料として使ってもらい、米、ムギ、キャベツなどの実証実験がスタート。将来的に、環境配慮型の農産物のブランド化を目指すといいます。さらに、中期的には農業で出たもみ殻や剪定枝、竹などをバイオ炭として使用する「カーボンネガティブプロジェクト」、長期的には家畜排せつ物を電気や植物成長促進につなげる「ハイブリッド農業プロジェクト」、果樹剪定枝などの木質バイオマスを活用する「熱利用プロジェクト」にも取り組んでいる竜王町。地域の資源を徹底的に循環させ、エネルギーの地産地消、環境にやさしい生産品のブランド化を目指すという、本当に理想的なプロジェクトを見せていただきました。
何よりそのプロジェクトの重要な部分をわれらがダイハツ工業が担っている、というところが嬉しい! クルマの技術は地球環境のため、地域のため、人のためにもっともっと役立っていくはず。今後もダイハツのバイオガス実証プロジェクトに注目していきたいです。