まるも亜希子の「寄り道日和」
「シビックe:HEV」でミニJoy耐2連覇です
2025年6月5日 00:00
マシンを「フィットe:HEV」から「シビックe:HEV」に切り替えて2年目に入った、ホンダの2モーターハイブリッド「e:HEV」の走りを鍛えるプロジェクト。私たちモータージャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」とホンダエンジニアがタッグを組んだ活動は、今年最初の実践の場となるモビリティリゾートもてぎ「ミニJoy耐」に臨みました。
レースに出る以上は、優勝を目指すのが当然といえば当然なんですが、私たちの目的はモータースポーツを通じてe:HEVをもっと面白いクルマにしたいというところにあるので、これまでそんなに優勝にこだわってきたチームではなかったと思います。でも今回、いつになく若手エンジニアたちの意気込みがちがいましたね。事前に行なうオンラインミーティングでも、前回の反省と課題に対する新たな提案、そして次回に向けてのテーマの中で、はっきりと「優勝を目指す」という文字が。とても頼もしいなぁと思いました。
ただ、もてぎのJoy耐というレースは言ってみれば異種格闘技戦のようなもので、クラスが0から9とFIT1.5チャレンジの11クラスもあって、それぞれに細かなピット義務回数や給油の際の停止義務時間が定められているので、その年によって多少は有利不利が生まれてしまいます。優勝するためにはその不利なところを埋めるようなマシンづくりをする必要がありますが、それは時として「e:HEVの走りを鍛える、面白くする」という本来の目的とはちがった方向へ行ってしまうこともあるかもしれないんですよね。
なので今回も、このプロジェクトがどこを目指しているのか。誰を向いて行なっているものなのか。それを今一度話し合って、昨年度はまずシビックe:HEVの「速さ」を鍛えてきたので、今度は「燃費と速さのバランス」を鍛えようという目的をみんなで再認識。優勝というよりは、次のステップへのテストという気持ちを強めたことで以前よりもっと、チームが一枚岩となってこのミニJoy耐に臨めたと感じています。
しかし今回、難しかったのは天気! ミニJoy耐は2時間の耐久レースで、朝いちばんで予選アタックがあり、グリッドが決まったら決勝レースのスタートは15時すぎ。事前の天気予報で雨が降るのはわかっていてもそれがいつ降るのか、どのくらい降るのか、数日前からみんなで予報と睨めっこしているのに、コロコロ変わってぜんぜん読めないんです。路面がドライかウェットかによって戦略を変える必要があるし、タイヤをどうするか、走り方はどうするか、直前まで悩まされたのでした。
迎えた当日の朝は小雨。予選前にはやんで曇り空になったものの、路面はまだウェットというややこしいコンディション。でも予選アタッカーの橋本洋平が時間ギリギリまで粘って、2'24.984というウェットとしてはいいタイムを叩き出し、16台中6番手をゲットしました。トップはインテグラType-Rの2'18.406、2番手がフェアレディZの2'19.651。これは昨年10月のドライ路面での予選から10秒ほど遅いタイムなんですね。5番手のカローラレビンとはコンマ0秒以下の僅差だったのが悔しいところですが、私たちシビックe:HEVのタイムは昨年から3秒ほどしか遅れていないので、やはりモーターを活かした走りは雨でも影響が小さいのかもしれないと感じました。
そして決勝レースが始まるころ、ピットにはシビックのオーナーズクラブの皆さんが応援に駆けつけてくださり、グリッドも熱気ムンムン。それに押されたのか雨はあがり、路面もほとんど乾いていよいよ闘いが始まる! という緊張感に包まれました。スタートドライバーの橋本がいきなり2台抜いて4位に浮上し、盛り上がるピット。トップのチームはラップタイムが10秒ほど速いので、周回遅れにされないよう、でもあまり飛ばしてガソリンを無駄にしないよう、速さと燃費の高バランスを意識しながら順調に周回数を重ねます。
が、空には次第に黒い雲が……。パラパラと降り始めた雨は、15周目に2番手のドライバー・桂伸一にチェンジした頃からだんだんと強まる方向へ。それでもさすが大ベテラン、安定したタイムでジリジリと差を詰め、17周目には3位、26周目には2位へと着実にのぼっていきます。今回、雨予報だったので混乱が起こるかもしれないと予想し、イエローコーションがいつ出てもいいようにいろんな戦略を考えておいたんです。でも予想に反して大きなクラッシュなどはなく、平和に時間が過ぎてゆき……。33周目で3番手のドライバー・石井昌道にチェンジし、ついにトップに躍り出ました。
しかし、ここから急に雨が強く降り始め、路面はところどころ川のようなヘビーウェットに。ラップタイムは2'30〜40くらいまで落として走る必要があるほどで、これではすぐ後ろから追ってくるインテグラType-RとフェアレディZ、フィット3RSに抜かれるのも時間の問題か……万事休す。
と思いきや、わがチーム以上にほかのマシンのラップタイムがガクッと落ち、差は縮まるところか離している!? これは本当に予想外の状況で、あとでドライバーに聞いてみるとモーターの恩恵でウェット路面でもしっかりと安定感があり、コーナリング出口からの再加速もなめらかに伸びていくので、タイムの落ち幅が小さい走り方がしやすいのだとか。これまで雨の決勝レースを経験したことがなかったのですが、今回初めてそうなってみてわかったe:HEVの強み。ということでわがチームにとっては恵みの雨が味方してくれて、なんと昨年に続くトップチェッカー! ミニJoy耐2連覇を果たすことができました。
「優勝しようと思ってやらない方が、かえって勝てるもんなんだよね」とは経験豊富な桂さんの言葉ですが、確かに肩の力を抜いて、明確な目的を持ち、それぞれがやるべき仕事をきっちりとこなした結果、こうして優勝につながったという最高の形だったと感じます。そしてここで得たものが、ゆくゆくは応援に来てくれたオーナーズクラブの皆さんのような方々の笑顔につながることが、私たちの最大の目的。それを再確認できたことも、今回の大きな収穫だったと思います。
ただ、もちろんまだ課題はたくさんあるので、次の9月の7時間耐久レースに向けて、一歩一歩前進あるのみ。気を引き締めて、次へ進みたいと思います。