イベントレポート

三菱ふそう、デッペン社長が大型トラック「H2IC」「H2FC」で水素技術に取り組む理由を解説

一般公開日:2025年10月31日~11月9日 開催
入場料:1500円~3500円(小学生以下はアーリーエントリーを含め無料、高校生以下はアーリーエントリーのみ3500円でそれ以外は無料)
三菱ふそうブースで世界初公開された「H2FC」と三菱ふそうトラック・バス株式会社 代表取締役社長・CEO カール・デッペン氏

「ジャパンモビリティショー2025」(一般公開日:2025年10月31日~11月9日、会場:東京ビッグサイト)に出展している三菱ふそうは、プレスデー初日となる10月29日に東展示棟1階 東6ホール・EC02の同社ブースでプレスブリーフィングを実施した。

 三菱ふそうブースでは水素を燃料として使う内燃機関の水素エンジンを搭載する大型トラック「H2IC」、液体水素をFC(燃料電池)システムで電力に変換して走行するFCV(燃料電池車)大型トラック「H2FC」の2モデルを世界初公開。また、革新的なスマートボディとデジタルソリューションを融合させた新コンセプト「コボディ(COBODI:Connected Load Body)」を第3世代のBEV(バッテリ電気自動車)小型トラック「eキャンター」に搭載し、特別仕様モデルとして展示している。

東展示棟1階 東6ホール・EC02にある三菱ふそうブース

水素エンジン搭載大型トラック「H2IC」(世界初公開)

水素エンジン搭載大型トラック「H2IC」

 水素エンジンを搭載する「H2IC」ではディーゼルエンジンを搭載するトラックと共通のコンポーネントや技術を活用し、スムーズな移行を実現。燃料には圧縮水素ガスを使い、高出力が求められる建設用車両などにも最適としている。

 三菱ふそうの大型トラック「スーパーグレート」をベース車両として採用。フロア下のホイールベース位置に大型の圧縮水素ガスタンク2本を搭載するほか、荷室前方に細身の圧縮水素ガスタンク6本を縦積み。計58kg分の圧縮水素ガスを充填可能で、航続可能距離(社内評価基準)は700kmとしている。

 キャビンの高い位置にミラー代わりとなるカメラを搭載。空気抵抗を低減して航続可能距離を伸ばすほか、見えるエリアを拡大して視認性を向上。さらに早朝や夕暮れ時などに太陽光が直接ミラーで反射するような状況でも画像補正の技術でしっかりとした後方視野を確保する。

H2ICは三菱ふそうの大型トラック「スーパーグレート」をベース車両として採用
H2ICのフロントマスク
キャビンの高い位置にミラー代わりとなるカメラを搭載。助手席側には前方の死角をカバーする広角カメラを追加している

 燃料をディーゼル用の軽油から水素に置き換えるパワートレーンの中核以外では、安全性を高める電子ミラーシステムの採用とキャビン前方に搭載した圧縮水素ガスを来場した人に見てもらえるようにするクリアパネル以外にベース車両からの変更点はとくにない。

 これは来場者に見慣れたスーパーグレートと同様の見た目をしていることで、H2ICが既存技術の置き換えによって実現可能な「より近い将来像」であることを示し、導入コストも抑えられることを体感してもらう狙いがあるとのこと。

 また、東京-大阪間を往復する場合は1000km以上の航続可能距離を実現したいところだが、現状の技術ではより多くの圧縮水素ガスタンクを搭載することが求められ、導入コストが増えてしまうことに加えて貨物スペースがさらに減少。水素の充填時間が長くなると運行に支障が出る可能性もあることから、現状のスペックが定められたと説明された。

 このほか、水素は燃焼時に酸素と結びついて水に変化するクリーンな燃料だが、実際には吸気時に酸素と合わせて吸い込む大気に窒素が含まれ、燃焼後にはNOx(窒素酸化物)となるため、H2ICではベースモデルのスーパーグレート同様、独自技術の「BlueTec」テクノロジーによって後処理を実施する。さらにエンジン内部を潤滑するエンジンオイルもごくわずかながら燃焼に含まれるため、走行時に排出するのは「ほとんどが水」という表現になるそうだ。

運転席の後方にはクリアパネルが設定され、搭載されている圧縮水素ガスタンクが確認できるようになっている
燃料となる水素ガスの充填口は左前輪の後方にレイアウト
左側にあるのが水素ガスの充填口。右上の青いキャップは「BlueTec」で利用するAdBlue(尿素水)投入口
水素ガスの充填口

液体水素搭載FCV大型トラック「H2FC」(世界初公開)

液体水素搭載FCV大型トラック「H2FC」

 FCV大型トラックの「H2FC」ではサブクール液体水素(sLH2)充填用の液体水素タンクを国内初搭載し、圧縮水素ガスと比較してより密度が高い液体水素を使用。水素が持つ高いエネルギー量を活用し、最大1200kmの航続距離を実現しつつ、15分以内での充填も可能としている。さらにディーゼルエンジン搭載車と同等サイズのリアボディを確保して、積載スペースにも影響を与えないこともメリットとしている。

 ダイムラー・トラックとリンデ・エンジニアリングが共同開発したsLH2充填技術を採用して、これまで液体水素を扱う場合の課題となっていたボイルオフガス(蒸発した水素ガス)を再液化。これによって走行時にボイルオフガスの排出する必要がなくなり、水素ステーションで必要となる設備も大幅な簡素化が可能。インフラコストの削減にも貢献して水素社会の実現にも貢献する技術となっている。

 三菱ふそうはsLH2充填技術の国内確立に向け、液体水素を国内で唯一供給する岩谷産業と共同研究を推進するとしている。

H2FCもH2IC同様に大型トラック・スーパーグレートがベース車両となっている

 H2FCもH2IC同様に大型トラック・スーパーグレートがベース車両となっているが、先進的なsLH2を採用するFCVのH2FCは「少し先の未来像」を表現するため、フロントグリルには3Dホログラムの技術を活用して奥行き感を高めた社名ロゴを設置。フロントタイヤにはスタイリッシュなホイールカバーが追加され、キャビン上のウィンドディフレクターやサイドスカートといった一体感の強いエアロパーツも用意。空力性能を高めて航続可能距離を向上させつつ先進的な雰囲気を強調している。

 さらに先進性を強調するアイテムとして、フロント2か所、リア1か所の計3個のワイドカメラを組み合わせて使う360度カメラシステムを搭載。すでに多くの乗用車でも採用されている「上空から見下ろしているかのような映像」も表示可能として、安全性の向上とドライバーの疲労軽減を果たす装備となっている。

H2FCは3Dホログラムを利用した社名ロゴやスタイリッシュなホイールカバー、専用デザインのエアロパーツなどを装着して先進的な雰囲気をアピール
フロントウィンドウ上の左右2か所、リアの中央1か所の計3個のカメラで撮影した映像を組み合わせ、画像補正技術で「上空から見下ろしているかのような映像」も表示可能な360度カメラシステムを搭載

次世代物流ソリューション「コボディ」(世界初公開)

次世代物流ソリューション「コボディ」

 コボディ(COBODI)はドライバーの負担軽減、作業時間の短縮、配送効率の向上、車両管理の生産性向上を目指して開発された、新発想のスマートボディとAIで最適な配送ルートを計画する自動配送計画・配車プラットフォーム「ワイズ・システムズ」を連携させた次世代物流ソリューション。

 小型トラックの第3世代BEVであるeキャンターの荷台に効率よく荷物の載せ降ろしが可能になるカートリッジ式の専用台車を組み合わせ、物流倉庫のトラックバースから専用台車ごと荷物を搭載。上下にスライドする3つの荷台テーブルを使い、ワイズ・システムズで指定された配送計画に沿って効率的に配送を行なうことで、荷下ろし作業を担当するドライバーの負担軽減などを図っていく。

第3世代のBEV(バッテリ電気自動車)小型トラック「eキャンター」
ソリューションの軸となるのは上下にスライドする3つの荷台テーブルを備えるカートリッジ式の専用台車。物流倉庫のトラックバースから荷物ごとトラックの荷台に搭載する
荷物は運転席側に設置されたスライドドアから取り出され、一番下にある荷台テーブルが空になったら台車右下のレバーを操作して上の荷台テーブルを降ろすといったルーティーンで配送されていく

「カーボンニュートラルな輸送を実現する万能なソリューションは存在しない」とデッペン社長

三菱ふそうトラック・バス株式会社 代表取締役社長・CEO カール・デッペン氏

 プレスブリーフィングでステージに立った三菱ふそうトラック・バス 代表取締役社長・CEO カール・デッペン氏は、水素を使って走行する世界初公開された2台のうち、水素を燃焼させるエンジンを搭載したH2ICを先にお披露目し、続いてFCVとなるH2FCを公開した。

 すでにモーターで走行する「eキャンター」を販売している三菱ふそうがこの2モデルを開発している理由について、デッペン氏は「カーボンニュートラルな輸送を実現するため、万能なソリューションは存在しないと私たちは考えている」と語り、自分たちのユーザーとなる物流会社のニーズや社会全体にとって最適なソリューションを探し出すため、複数の技術を吟味していくことが必要となり、どのような技術を市場に提供すればよいのかは、外的要因に大きく影響されると説明。

 水素の供給方法や多様性、インフラの成長、水素の価格、顧客の要望などを要素として挙げ、さらに時間経過に応じて変化していくことから、このような要素について自分たちメーカー側がコントロールしたり、予測していくのは困難だとしている。このため、2つの水素技術を並行して開発することで柔軟な姿勢を保つことを決断したと述べている。

 H2ICは最大700kmの走行を可能としており、これまでに実績を積んできたディーゼルエンジンの燃料を水素に置き換えるため調整を行ない、既存のエンジン部品のうち80%を流用可能としている。また、ドライバーにとってもなじみが深く、車両の導入コストを低く抑え、信頼の置けるパワートレーンになっているとデッペン氏は説明。すでに実績のある技術を使うことで、業界全体が水素技術に転換するスピードが高まり、スムーズに進むようになるとメリットを挙げた。

H2ICは既存エンジン部品の80%が流用可能だとデッペン氏は説明

 H2FCは燃料電池システムを搭載しながら、これまでとは異なるアプローチの採用によってより高い効率と運用コスト低減を実現。最大1200kmの航続距離を誇る一方、水素の充填時間を15分に抑え、積載架装に影響を与えないコンパクトな水素タンクを採用するといった特徴を備えている。

 これまでに登場している多くのFCVでは圧縮水素ガスを利用しているが、H2FCではサブクール液体水素であるsLH2を採用。これによって水素輸送コストの大幅な低減、充填作業の簡素化、シンプルなインフラと水素ステーションの実現が可能になるという。また、長い航続距離と短い充填時間は1つの水素ステーションがより広いエリアをカバーすることにもつながり、結果として水素ステーションの絶対数を減らすことも可能になるとしている。

 sLH2はダイムラー・トラックとリンデ・エンジニアリングが共同開発した技術だが、ISO基準として公開されて誰でも採用可能となっており、日本国内での評価について岩谷産業と協業すると説明。このsLH2技術を採用したトラックを日本で初めて公開することができて誇らしく思っていると語り、この技術をさらに追求して日本の水素業界に貢献。広いサプライチェーンを実現するため物流業界に働きかけを行なっていると説明。「私たちと共に未来を造るお手伝いをしていただきたい。トラックの新しい時代が始まりました。皆さまご一緒に次を造り上げていきましょう」と呼びかけている。

H2FCではサブクール液体水素のsLH2を採用し、水素輸送コストの大幅な低減、充填作業の簡素化、シンプルなインフラと水素ステーションの実現が可能になるという

 このほか、革新的なソリューションコンセプトとして世界初公開したコボディは、日本初の小型BEVトラックとしてリリースされたeキャンターの3代目モデルを使い、荷台部分に革新的なスマートボディとデジタルソリューションについて提案。物流業界が直面している人手不足に対応するため、ドライバーの負担を軽減して荷下ろしの時間を短縮。配送作業と事業者によるフリート管理を効率化する技術であると説明している。

コボディについて解説するデッペン氏
三菱ふそうトラック・バス:CEOスピーチ&水素駆動コンセプト車両のワールドプレミア|Japan Mobility Show 2025(23分)
佐久間 秀