イベントレポート

SCSK、ソフトウェア起点で開発したバッテリEVのコンセプトカーをジャパンモビリティショー2025で初公開

2025年10月30日 公開
SCSKがソフトウェア起点で開発したバッテリEVのコンセプトカー

 ジャパンモビリティショー2025にて、IT企業であるSCSKが、ソフトウェア起点のクルマづくりを提案。9か月間で完成させたBEV(バッテリ電気自動車)のコンセプトカーを公開した。

 SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア・デファインド・ビークル)が注目を集めるなか、ソフトウェア企業が主体となる新たな開発モデルを確立し、国内外の自動車メーカー、サプライヤー、サービス提供企業、スタートアップ企業、自治体、大学などとの水平分業によるエコシステムを構築することで、短期間、低コストでのクルマづくりを実現するという。

SCSKブースでEVのコンセプトカーを披露したSCSK株式会社 代表取締役 執行役員 社長 當麻隆昭氏

 SCSKでは、「そうだ、みんなでクルマをつくればいいんだ」をスローガンに掲げ、自らが完成車メーカーを目指すのではなく、産業全体をつなぎ、OEMやサプライヤーの競争力を高める「オーケストレーター」や「共創の補完者」としての役割を担うことになる。

 SCSKの當麻隆昭社長は、「モビリティ業界は、100年に一度の大変化を迎え、SDVによる進化が加速している。そこではITとの融合による価値創造が不可欠である。SCSKは、日本の基幹産業である『モビリティ』の未来を支える基盤の一翼を担う覚悟で、今回の発表はその第一歩である。これは、SCSKが目指す2035年の姿である」と事業参入への意気込みを語った。

モビリティ事業へ参入する意気込みを語る當麻社長

 また、SCSK モビリティ事業グループ グループ長補佐兼SDM事業開発センター センター長の三谷明弘氏は、「SCSKが目指したのは、クルマをつくることではなく、社会の仕組みそのものを再設計することである。日本を自動車大国に押し上げたのは、垂直統合を軸にした強靭なサプライチェーンであるが、この成功モデルに、さらなる付加価値をつけなくては、未来は描けない。IT企業として、自動車産業に、新たな価値や異なる常識を付加したい。これは、IT企業が産業構造そのものに組み込む、新しい共創モデルの実証である」と述べた。

SCSK株式会社 モビリティ事業グループ長補佐(SDM戦略担当)兼 SDM事業開発センター長 三谷明弘氏

「つくる」ではなく、「つなぐ」が、SCSKの自動車産業における役割になると定義。「SCSKの挑戦の本質は、車を作ることではなく、モビリティを通じて、社会のデータを速循環させる仕組みを作ることである」と位置づけている。

BEVのコンセプトカーを初公開

 初公開されたコンセプトカーは、デジタルネイティブ世代の「無邪気なわがまま」に応え、自分だけの空間をデザインできるクルマづくりをコンセプトにデザイン。ゆったりとしたパーソナル空間を実現するという。モチーフは「ドルフィン」であり、SCSKのコーポレートカラーである青を採用している。

SCSKのコーポレートカラーである青を採用したコンセプトBEV
ボディサイズは4640×1870×1655mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2760mm

 5人乗りのSUVで、ボディサイズは4640×1870×1655mm(全長×全幅×全高)、バッテリ容量は77kWh。四輪駆動方式で、航続距離は600km以上を想定している。車両前面のLEDパネルには、SCSKのロゴだけでなく、ソフトウェアによる挨拶やアニメーション表示が可能で、車外とのコミュニケーションツールとしても活用できる。

SCSKのロゴ部分はLEDパネルになっており、様々な文字などが表示できる

 車内空間は、ドライバーなどの嗜好を学習して最適化。5種類のVPA(バーチャルパーソナルアシスタント)によって、移動するシーンを、エンターテイメント空間に変える。

コンセプトカーの室内

 インテリジェントコックピットには、海外サプライヤーと共同で開発した8K画質の44.6型ピラートゥピラーディスプレイを搭載。コックピットドメインコントローラには、Qualcomm SA8775PおよびNvidia Orinを採用している。

ステアリングにはSCSKのロゴマーク
センターコンソールにはシンプルな操作スイッチ

 パーソナライズAIサービスでは、独自のブロンプト設定とRAGデータの管理により、パーソナライズ化した自然な対話を実現。生成AIを活用した音声AIエージェントがユーザーの意図を解釈して、空調操作などを実行する。また、後部座席には2台の13.3型のリアディスプレイを搭載し、同乗者は、ニュースや知育、ゲーム、カラオケ、お絵かきなどのサードパーティーアプリを楽しめる。

8K画質の44.6型ピラートゥピラーディスプレイを搭載
後部座席には13.3型ディスプレイが2台搭載されている

 SCSKの當麻社長は、「この車両は完成品ではない。SCSKが思い描く未来のすべてを盛り込んだものでもない。だが、この1台は確かな出発点であり、社会との共創によって送り出した証でもある。ここから日本のモビリティ産業が新しい時代へと進化していく始まりを象徴している」と語った。

インテリジェントコクピットの概要

わずか9か月でコンセプトカーが完成

 SCSKは、一般的には自動車メーカーからの要求定義を行なうほか、クラウド構築、AIエージェントの開発を担当。パートナーとの連携により、車両、コックピット、クラウドを並行しながら開発。緊密なコミュニションを取ることで、実車、実物を使った高速なレビューやフィードバックを行ない、手戻りを削減したほか、クラウドの開発には、アジャイル手法を採用。コックピットとクラウドの連携は、専用の開発開発環境であるコックピットベンチで行ない、完成したソフトウェアを車両に搭載したという。

デザインコンセプトはInnocent Wagamama(無邪気なわがまま)」
コンセプトカーの主な諸元

 また、SCSKプラットフォームGen5により、好みのアプリケーションやサービスを、いつでも、自由に車室内に取り込むことができるほか、車両データの蓄積および利活用により、快適なモビリティ空間を実現。運転中にバイタル情報を取得して、安全運転や健康管理につなげたり、地域との連携したサービスの提供なども実現できたりするという。

水平分業による産業設計を採用
データインテグレーション

 SCSKの當麻社長は、「SCSKは創業以来50年にわたり、幅広い業種や業界に対してITサービスをフルラインアップで提供し、課題解決に取り組んできた。技術と信頼を積み重ねてきたSCSKが挑もうとしているのが『進化』である。現状に甘んじることなく、先端IT技術を駆使し、世界を変える企業体へと進化し、共創ITカンパニーとして、次のステージを切り拓く。ITサービスを届けるだけではなく、SCSKならではの強みを生かし、社会に新たな価値を創出するのが、今回の取り組みの狙いになる」と位置づけ、「SCSKの挑戦は、クルマを中心に、人と社会をテクノロジーでつなぐ新しい仕組みを作ること、モビリティを軸に価値が循環する社会を築くことである」と述べた。

一般ユーザー向け仕様イメージ
企業向け仕様イメージ
大河原克行