イベントレポート

2027年度のバッテリEV市場参入を目指すシャープの種谷元隆CTOに、コンセプトモデル「LDK+」の描く世界や可能性を聞いてみた

2025年10月30日 実施
シャープ株式会社 専務執行役員 CTOの種谷元隆氏とコンセプトモデルの「LDK+」

「ジャパンモビリティショー2025」で、BEV(バッテリ電気自動車)の新たなコンセプトモデル「LDK+」を初公開したシャープの専務執行役員 CTOの種谷元隆氏が、本誌の単独インタビューに応じ、コンセプトモデルLDK+の狙いや、BEV市場参入への進捗などについて語ってくれた。

 シャープは、「クルマは停車している時間が95%を占めていること」に着目し、停まっているときに価値を生み出すクルマづくりを進めている。2024年9月に第1弾のコンセプトモデルを公開したのに続き、今回のジャパンモビリティショー2025では、シャープの親会社である鴻海科技集團(Foxconn)のBEV「Model A」をベースに、より完成度を高めた第2弾のコンセプトモデルを公開した。

 また、2027年度の事業化を目指しているとのことなので、シャープの種谷CTOに、LDK+の現在の進捗と、新たなBEVによって実現する将来の姿などについて聞いてみた。

 なお、今回のインタビューは、ジャパンモビリティショー2025の東7ホールにあるシャープブースに展示中のコンセプトモデルLDK+の車内で実施している。

──LDK+の第2弾のコンセプトモデルが公開されました。2027年度の市場参入を目指していますが、CTOの立場から見ると何合目まで来ましたか?

種谷CTO:5合目まで来れたかなという印象です。狙いどおりの進捗で推移しています。日産自動車出身の大津輝章氏がチームに加わり、この1年間で陣容がとても強化されました。この体制を敷けたことが、1年のなかで最大の成果だといえます。

 開発で注意しているのは、ジャパンモビリティショー2025というお披露目の場を設定したものの、そこをターゲットにしたモノづくりをしないようにすることでした。私たちが狙っているのは、コンセプトモデルを作ることではなく、2027年度にEV市場に参入し、事業化することですから、そこから逆算して、ジャパンモビリティショー2025では、何を見せるのかを明確にしました。

 実用化に向けて、ここまで見せれば、来場した方々に価値を知っていただける、あるいはエコシステムの構築に向けて検討しやすい提案ができるだろうということを重視しました。車内の空間をしっかりとお見せするということも、その1つの取り組みです。

 ジャパンモビリティショー2025では、私たちの想いを伝えることを重視しました。会期中を通じて、来場者の方々から様々なフィードバックを得たいと考えています。

──今回のコンセプトモデルで、種谷CTOが最もこだわったところはどこですか?

種谷CTO:運転席が180度回転し、後ろ向きになり、後部座席の人と対面で話ができるようにしたところです。運転席が回転することで、車内空間の雰囲気は一気に変わります。実際に見てもらうと、運転席を180度回転させるだけで、「車内」だったものが、「リビング」に変わることを感じてもらえると思います。

 LDK+を象徴する機能の1つです。また、プロジェクター、テーブルなどによって、くつろげる環境を実現していますが、これも運転席が180度回転することによって、活かされると思っています。今日の取材はLDK+の車内でドアを閉めて行なっていますが、一緒にカラオケボックスに来たような感じがしませんか(笑)

コンセプトモデル「LDK+」の車内でインタビューを実施した

──確かにそうですね(笑)。ところで、現時点で2027年度のEV市場参入に向けての懸念材料はありますか?

種谷CTO:それはたくさんあります(笑)。販売網やサービス網は、ゼロから構築しなくてはなりませんし、設計においても、どんなパートナーと組めるのかといったことも、まだ模索している段階です。

 エコシステムに対しては、シャープはオープンな姿勢を持っていますが、お互いにメリットがないと長続きはしませんから、思いを1つにできるパートナーと巡り合えるかどうかがポイントだと思っています。

 すでに、数社とお話をしています。事業は“山あり谷あり”ですから、いい時も、わるい時も、一緒になって汗をかいて、登り切れるパートナーと手を組みたいと考えています。

 シャープは何をしたいのかという本質を理解してもらい、バリューチェーンのどこを担ってもらえるのかといった具体的なお話をしていきたいと思っています。

──LDK+は、停まっている時間に価値を生み出すという新たな提案です。このコンセプトに対する反応はどうですか?

種谷CTO:みなさんが所有しているクルマは、停まっている時間が95%であり、そこでは、まったく価値を生んでいないというお話をすると、「あぁ、確かにそうですね」と言ってもらえる方がほとんどです。LDK+は、停まっているクルマを、部屋の一部として利用し、生活を豊かにしてもらうことを目指しています。

 これは、BEVだからこそできる提案です。ガレージに停めていたとしても、エアコンを使用するために、ガソリン車のエンジンをかけると、排ガスが出ますし、騒音も出ます。しかし、BEVはエアコンを稼働してもこうした問題は起こりません。BEVならではの価値がここにあります。

 シャープは2025年9月にコーポレートスローガンとして、「ひとの願いの、半歩先。」を制定しました。LDK+で提案しているのは、今まで経験したことがないような使い方や、これまでにない車内空間の実現であり、まさに“半歩先”の提案だといえます。

──これまでのクルマが、家に停めるだけの「Park of your home」であったものを、クルマが家の一部として活用する「Part of your home」へと進化させるコンセプトを打ち出しました。

種谷CTO:クルマは暮らしの中で、もっと利用できると思っています。そのためには、クルマが家の一部になることが大切です。私は10年後には、家そのものが変化して、「以前は、ガレージという場所にクルマを停めていたよね」といった会話が始まるようにしたいとさえ思っています。

──それはどんな家の姿なのですか?

種谷CTO:一戸建てであれば、クルマは外のガレージに駐車することが当たり前ですが、LDK+が描く未来は、家の中にクルマを停める場所があって、もう1つの部屋のように自由に行き来できるというスタイルです。

 たとえば、かつての日本の家屋には土間がありましたが、土間の部分までクルマが入ってくるようなイメージですね。ガレージの扉が閉まるのではなく、玄関の扉が閉まり、そのなかにクルマがあるという状態です。家の中の一部として、あるいは快適に過ごせるもう1つの部屋として利用できるわけです。

 また、マンションの場合でも、家のすぐ横にクルマが置けるといった構造ができ上がり、土地に余裕がある地方であれば自走式で家まで上がっていき、都市部であればエレベーターでクルマを持ち上げるといったことも考えられます。

 クルマの使い方が変化することで、家の形も変化することになるのは明らかです。

 数10億円もする高級マンションでは、高級外国車を見るために、自分の部屋のなかに置けるようにするというケースもありますが、将来的には一般的なマンションでも、クルマをすぐ横に置いて、停まっているときも利用できるようになるといいですね。そうした未来の世界を描いています。

──種谷CTOはLDK+の車内を、どんなことに使いたいですか?

種谷CTO:友人を呼んで、お酒を飲みながら、映画を見たいですね(笑)。ジャパンモビリティショー2025の会場という、これだけ賑やかな会場の真ん中にいても、しっかりと静音性が確保でき、小声で話しても取材に対応ができるレベルです。中の音も、外には漏れません。

 ある金融機関の幹部の方から、こんな話を聞きました。「社員を呼んで、家で飲むという話をすると、奥様がちょっと嫌な顔をする」っていうんですよ(笑)。「LDK+があれば、奥様にも迷惑がかからないからいい!」と。私も「それはいい使い方ですね!」と同意しました。

 こんなことばかり言っているので、LDK+の戦略的パートナーである鴻海科技集團の関潤CSOからは、「種谷さんは、おっさんがくつろげる空間を目指している」と言われてしまうのですが(笑)、用途はいろいろとありますよ。

 子供の勉強部屋としても使えますし、楽器を演奏してもまわりに迷惑がかかりません。試験前で家族が静かにしなくてはならないというピリピリ感も緩和できます。子供部屋が必要な期間というのは、意外と短い期間なのです。そうしたときにLDK+を子供の勉強部屋に転換することも可能です。

 今回のコンセプトカーを見ていただくと、かなり現実性が出てきたと感じてもらえるのではないでしょうか? 2027年度の事業化に向けて、開発をさらに加速させていきます。

2027年度の事業化に向けて開発をさらに加速させます!と種谷元隆CTO
大河原克行