イベントレポート

日本国内87台限定「M2 CS」について、BMW Mのフランシス・ファン・ミール社長に聞く

「電動化は好機、でも直6やV8をあきらめるつもりもありません」

2025年10月30日〜11月9日 開催
日本国内において87台限定で販売される「M2 CS」について、本国BMW M社社長のフランシス・ファン・ミール氏にインタビュー

 ジャパンモビデリティショー2025のプレスデーにおいて、BMW「M2 CS」が日本初公開された。最高出力を530PSまで引き上げた3.0リッター直6エンジンを搭載し、既存の「M2」を約30kg軽量化するとともに数々の専用装備を与えた、M2史上最強のモデルである。

 日本国内で87台限定にて販売される「M2 CS」について、ジャパンモビリティショー2025の会場で、来日したBMW MのFranciccus van Meel(フランシス・ファン・ミール)社長にお話をうかがった。

岡本幸一郎(左)とBMW MのFranciccus van Meel社長(右)

──まずは、M2 CSのコンセプトやポイントを教えてください。

Meel氏:基本的なところはM2から踏襲しながら、「CS」としてふさわしい高い性能を追求しました。車高を下げ、トランクリッドをダックテール形状としてダウンフォースを高めるなど空力性能を引き上げたほか、カーボンの素材をふんだんに使って軽量化にも努めています。

ダックテール形状のトランクリッドが印象的

ルーフやトランク・リッドなどにCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を採用

 サスペンションも、トラック(=サーキット)を想定したセットアップに変更しています。アダプティブダンパーを採用して、ハイパフォーマンスラジアルタイヤ、セミスリック、完全なスリックタイヤという3通りのタイヤに対応できるようにし、お客さまの使い方にあわせて選べるようにしています。

展示車両はミシュランタイヤを装着

──日本での販売は限定87台とのことですが、すぐに売り切れてしまうような気がしますがいかがでしょう? また、M2はとくに北米で人気が高いと聞いています。

Meel氏:特別なクルマなので、期間と台数を制約し、あくまで限定車として販売するので、それほどたくさんは生産しません。北米ではやはり人気が高く、もっともシェアも大きいですね。それでも数百台程度に限定します。

 日本では87台ですが、たしかに早々に売り切れてしまうということが予想されます。ただし、買えなかったお客さまはリストに載せて、次の機会に優先的にご案内するようにしています。

インテリアは、センター・マーク付きのM アルカンターラ・ステアリング、M カーボン・ファイバー・トリム、専用CFRP 製センター・コンソール、CS ロゴ・イルミネーション、前席にM カーボン・バケット・シート等を採用

──ということは、次にもっとすごいのがあるのでしょうか?(笑)

Meel氏:伝統的にこうした特別なクルマをある程度の期間がたったら提供するということをやってきているので、いつどんなクルマを出すかとかは申し上げられませんが(笑)、これからも戦略としてその形でやっていく予定です。

──それでは、Mというブランドで大切にしていることは何でしょうか?

Franciccus van Meel氏

Meel氏:パッション=情熱が一番重要だと思っています。やはりエモーショナル=感情に働きかけ、それによって仕事を頑張ってクルマを手に入れるために頑張れることでしょうし、 Mブランドを愛しているファンの方々はとても熱いパッションをお持ちで、本当に心からエンジョイしてクルマに接していらっしゃる方ばかりです。とにかくパッションです。

──そのためにMとしてとくにやっていることはいかがでしょうか?

Meel氏:大きく2つあります。1つはやはりプロダクトでパッションを表現するということです。Mはモータースポーツをルーツに持つブランドとして、そのDNAを核に持ちながらこれまで53年やってきました。そんなモータースポーツ由来の熱い思いを反映したエモーショナルなプロダクトを送り出しています。

 もう1つは、ブランド&コミュニティです。Mブランドを愛してくれているファンのみなさまのコミュニティというものを大切にしています。

──Mとして日本市場について、海外と比べてどのように見ていらっしゃいますでしょうか?

Meel氏:まず海外と日本では、いくつか分かりやすい違いが見受けられます。たとえばインフラが違うし、東京に一局集中していて人口密度がすごく高くて交通量も非常に多いというのも特徴です。あと日本では軽自動車がかなり走っているところも特徴的です。

 そんな中で、クルマに対するパッション=熱い思いは同じかそれ以上だと感じています。レーシングの世界に興味を持つ人も少なくなく、非常に根強い大きなコミュニティがあります。Mに対しても強く思いを寄せてくれているファンが大勢いらっしゃいます。

 私が前回来日したのが 2015年の東京モーターショーで、そのときは「M4」のGTSを披露する機会だったのですが、当時は2000台もいかないぐらいの販売規模だったところ、いまや6000台に達しています。その点ではすごく成長していますし、昨晩はいろいろなトップカスタマー(お得意さま)のみなさまとお会いする懇親会があったんですけど、やはりすごく熱いパッションが伝わってきました。

 もう1つはグローバルの市場から見て、単独のマーケットでもっとも大きいのはやはりアメリカなのですが、日本もトップ10に入っているということです。地理的にわけたときでも、アフリカを含めたアジア太平洋でも、日本はこの地域でトップ3に入っています。ちなみに直近では、1位はオーストラリア、2位は韓国なのですが、いずれも拮抗していて1位とそれほど大きな差がないほど近いところにいます。

──では、Mというブランドを今後どうしていきたいか? また今後それに電動化がいろいろからんでくると思うのですが、それをMというブランドとしてどういうふうにしていこうとお考えでしょうか?

Meel氏:そうですね。われわれは53年間、レーシング~サーキットにルーツに持つブランドとしてやってきましたが、その伝統はそのまま大事にしながら、アジリティやハイパフォーマンスを味わえるドライビングの世界を提供することを引き続き大事にしていきたいと思っています。

 さらには、やはり継続してMブランドを愛してくださるファンの方々をインテグレートして、パッションやエモーションといったものを大事にしながら、Mブランドを育てていきたいと思っています。

 電動化については、別にわれわれにとって脅威ではなく、むしろオポチュニティ=好機だと思っています。新しいテクノロジーというのはわれわれも積極的に導入していきたいと思っています。

 とはいえ、これまでのわれわれが評価されてきたテクノロジーである直列6気筒エンジンやV8エンジンなどは、とても多くのファンの方から愛されているので、それをあきらめるつもりもありません。

搭載される直列6気筒3.0リッターエンジンは、BMW 「M2」に比べ出力を約50PS向上させ最高出力を530PSに、トルクを約50Nm向上させ最大トルクを650Nmとした。さらに軽量化の実現により、0-100km/h加速は3.8 秒を実現している

 ただし、すでにエンジニアたちは本当に熱意を持って技術革新にまい進しているので、電動車がまだ内燃機に比べて追いついてないところも、もう超えてくると思います。われわれとしては内燃機も電動車も両方とも手がけていく予定です。

 M3についても、すでに両方とも提供することを発表しています。逆に電動車は内燃機を超えるようなクイックなレスポンスといったこともすでに実現できています。

 だからこれからお客さまは逆に、いい意味で困ると思いますよ、いままでの慣れ親しんだ内燃機やミッションの感覚を求めるのか、あるいは技術の進んだ電動車で行くのか。迷ったら両方とも買っていただくのが一番うれしいですけどね(笑)。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一