長期レビュー
高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記
その3:サイバーナビ搭載で準備万端!
(2013/2/13 00:00)
私がハチロクに乗り換えてから、ほぼ半年が経過した。実際には2012年6月に乗り始めたので、8カ月ほど経過した訳だ。しかし、連載1回目でも書いたとおり、1カ月以上乗れない期間があったりしたので、半年といってもいいだろう。ちなみに乗れなかった1カ月のほとんどは、ポニョ嫁のギックリ腰記念日のお陰様である。
それでも待望の新車、しかもスポーツカーである。納車直後に海外取材という、実に悲しい出来事はあったものの、暇を見つけてはハチロクをせっせと走らせた。以前も書いたことだが不肖・高橋、今の今まで本当にスポーツカーとは縁のない生活を送ってきたのである。そんな私がハチロク、すなわちスポーツカーにカルチャーショックを憶えたとしても、それは自然の摂理と言っていいだろう。
今回は最初に、おっさんがハチロクに乗り始めて感じたカルチャーショックをいくつか並べてみたい。乗り慣れた人には当たり前の話だとは思うが、生まれてほぼ半世紀、生涯初のスポーツカーに乗り、そして運転したおっさんにとって、それはまさにワンダーランドなのであった。
車高が低い!
ハチロク、アンテナベースを含む車高が1300mm、ルーフ高だと1285mm! 低いというのは最初から分かっていたことだが、それでも驚いた(もう慣れたけど)。そもそもハチロクへの乗り換え動機の1つは「平べったいクルマに乗りたい」だったのだから、まさに当たり前の話。だが、実際に乗ってみると、本当に低いんだこれが。もっとすごいモデルもあるのだろうけど、私にとってハチロクの平べったさは驚異的である。
最初は本当に「乗車する」というより、「潜り込む」といった雰囲気で乗り込んだものである。もちろん今はスルッと滑るように乗り込む……ということもなく、相変わらずもたもたしている。ただし、潜り込んだ先の運転席はホールド感がしっかりあって、コクピットという雰囲気もあり、実にいい感じである。
乗り味がゴツゴツしてる!
納車当日、喜び勇んでハチロクを乗り回していたら、乗物酔いに似た状態になった(初日だけだが)。もちろんすぐに慣れたが、最初はやっぱり驚いた。なんとまあ、ゴツゴツした乗り味だろうかと。要するにハチロクはスポーツカーらしい、いわゆる「硬いサスペンション」を装備しているのだ。ゴツゴツという感覚はタイヤが(サスペンションが)リニアに素早く、路面に追従しているということなのだろう。ちなみにこれはバイクの場合も同じで、スポーツタイプのバイクはかなりゴツゴツした乗り味である。
これはスポーツカー以外、例えばポニョ嫁の愛車であるトヨタのミニバン「ガイア」などと比較すると分かりやすい。乗り心地と安全性のバランスを追求したガイア、スポーツ性能と安全性のバランスを追求したハチロク。私のハチロクを試乗した友人曰く「TRDのサスを入れたらもっと凄いぞ」と言っていたのだが、私にはノーマルのハチロクで充分。
ハチロクが路面追従性の高いクルマなのだと実感したのは、首都高速道路を走った時である。無視できない段差の多い首都高だが、ゴツゴツと走るハチロクは、とにかく安定している。乗り心地という点では普通のクルマが上だろうが、しっかり路面を捉えて安定した高速走行をするならハチロクである。今ではそんな乗り心地にも慣れ、これが普通という感覚になってきた。
ほかにも運転席でエンジン音をしっかり感じられるとか(うるさいとは言わない)、スピードメーターが260km/hまであるとか、いろいろ驚かされるところのあるハチロク。そもそも個人的には「ドアが2枚しかない!(2ドアだし)」ことに、カルチャーショックをおぼえていたりしたのだが。まあ、どれもこれもカタログやサイトの情報で分かっていたことなのだけど、やっぱり実際に乗って運転し、体感するのは別の話だった。
デュアルコントロールエアコンは好評
もっとも我が家の支配者、ポニョ嫁にスポーティなどという要素は一切関係ないのである。「狭いじゃ!」「視線が低いじゃ!」「トランクが小さいじゃ!」「赤いじゃ!」「今日は柔らかいティッシュを買ってから帰るじゃ!」とブツブツ文句を言いながら助手席を占拠している。そんなポニョ嫁がハチロクに関して褒めたのは、やっぱりというか「そこ?」という部分である。そう、私が選んだハチロクのグレードでは、エアコンがデュアルコントロールになっているのだ。
デュアルコントロールと言っても、別に難しい話ではない。要するにエアコンの温度設定を、助手席側と運転席側で変えられるというものだ。私は暑がりだし、ポニョ嫁は寒がり。そんな状況だと、このデュアルコントロールが重宝なのだ。もちろん助手席と運転席、同じ空間なのだから、きっちり分けられるというものではない。それでも運転席側は低めの温度、助手席側は高めの温度といった設定ができる。
新しいことへのチャレンジは、いつも驚きに満ちている。最初はそのインパクトに驚きだけを感じるが、そこに楽しさとか喜びが生まれてくれば、もうこっちのものだ。最近、ハチロクで走るのが楽しいのは、扱いに慣れきたからなのか、それとももっと別の要因があるのか? 納車されてからもう半年以上を経過し、年も跨いだけれども、総走行距離はまだ3500km程度。もう少し走り込んでみたいものだ。
なお、新型プリウス連載時からのクセで、ハチロクに乗り換えてからも燃費データは一応記録している。といっても燃費が気になって仕方ないという訳ではない。とりあえず現在までのデータを見ると、燃費がよかったのは後述する名古屋行き、高速道路走行の13.77km/L(満タン方式、実燃費)である。一番わるかったのは年末の都内ばかりを走った時の、7.53km/L(同)だった。
比較対象のサンプルが少なくて申し訳ないが、私の実体験からすると、さほどわるい燃費とは思えない。以前乗っていた「カルディナ GT-T」や、「ハイラックス サーフ」と比較すれば、そんなにわるくない燃費なのだから。まあ、ドッカンターボ車やRVと比較するなという話はあるのだけど……。
エクストリーム方向音痴な高橋。サイバーナビ取り付けました
カーナビゲーションシステム、略してカーナビ。これがないと、私はどこにも行けない。というか行けない自信がある。いわゆる方向音痴という現象なのだが、実のところこれがかなり重症なのである。
この話を始めると大変長いストーリーなので割愛するが、まあ自他共に認める立派な方向音痴である。そんな私が今回のハチロクでは、なんとカーナビなしを選択したのだが、もちろんちゃんと理由がある。そう、メーカーオプションや販売店装着オプションではない、別のカーナビをハチロクに搭載したかったのだ。
そこはそれ、腐っても以前はSF小説などを書いていた男である。もちろんというか、当然の流れとして私が搭載したかったカーナビはパイオニアのカロッツェリアブランドから出ている「サイバーナビ」である。具体的にはサイバーナビ AVIC-ZH99CSである。このモデルはサイバーナビ本体、そしてカメラで車両前方を撮影し、リアルタイムに情報を処理するクルーズスカウターがセットになったものだ。
本当なら上記に加えて、AR HUDがセットになったAVIC-ZH99HUDが欲しかった。だが、ハチロクが納車された時は、まだAR HUDがリリースされていなかった。AVIC-ZH99CSはAR HUDがリリースされれば、それをシステムに追加できると知っていたので、サイバーナビ本体の搭載を優先した。では、AR HUDとは何か? これぞまさに近未来、そしてサイバー! あ、ちなみにARというのは「Augmented Reality」の略称、日本語で言うと「拡張現実」となる。そしてHUDの方はというと、軍事マニアならお馴染みの用語だが「Head-Up Display」、ヘッドアップディスプレイのことである。
要するにドライバーの視線の先に透明なバイザーを設置し、そこにナビ情報などを投影するのがAR HUDである。映画などでは戦闘機や戦闘ヘリのパイロットが被るヘルメットのバイザーに、情報が表示されるようなスタイルでHUDが登場する。もちろん映画だけでなく、これはリアルに実用化されており、技術的には確立されたものなのだ。だが、それをカーナビと組み合わせたのは、サイバーナビが世界初だろう。世界初、しかも近未来感バリバリ! これはもう、実際に体験してみるしかない!
という訳でハチロク納車時は、AR HUDを夢見ながら、とりあえずサイバーナビ本体の取り付けを優先した。しばらくカーナビなしで走り、AR HUDがセットになったモデルが出るのを待つという話もあった。だが、エクストリーム方向音痴な私には、ちょっと酷な話である。何はともあれ、カーナビをゲットしなくては。
そこで納車された直後のハチロクを緊張しながら運転して向かったのが、カーオーディオテクニカルサロン、CATS(キャッツ、http://33974611.com/)さんである。このショップ、カーオーディオやカーナビのセットアップでは、知る人ぞ知る存在。技術はもちろんのこと、仕上がりの美しさはプロ中のプロの仕事を見せてくれる。
あまりクルマに詳しくない私ではあるが、実はCATSさんの存在はかなり以前から2つの理由で知っていた。1つは単純なことで、要するにCATSさんが自宅近くにあるため、頻繁にその前を通ること。そしてもう1つは10年以上前、生まれて初めて買ったクルマ、カルディナGT-Tにカーナビを取りつけてくれたのも、このCATSさんだったのだ。
今でこそいわゆる純正ナビは、市販品に劣らない機能を持っている(一部のとんがった機能を除いて)。しかし、私がカルディナGT-Tを入手した頃だと、純正ナビはシンプル、市販ナビは多機能といった印象も強かったのである。今もそうだが当時も立派な方向音痴だった私は、より多機能なカーナビが欲しくて、サードパーティ製のものを選び、結果的にCATSさんのお世話になったのだ。CATSのチーフ、小林さんがそのことを憶えていてくれたのは嬉しかったが。
さて、CATSさんが私の自宅から近いということは、東京トヨタ井草店からも近いということ。井草店の太田さんと共にハチロクを数百メートル走らせれば、CATSさんに到着である。すでに小林さんには話を通してあったので、AVIC-ZH99CSは用意されており、さっそく取り付け作業に入る。これで私のハチロク、カーナビのスペースにポッカリと空いた穴を埋めることができる。
しかしまあ、カーナビを完成したクルマに後から取りつけることが、いかに大変な作業か。もちろん小林さんは歴戦のプロ、何のためらいもなくカバーを取り外し、着々と作業をこなして行く。後で気づいたのだが、脱着したカバー類にはキズが1つもない。もちろんすべての配線がカバー内に収まり、外に出ているのはアンテナやカメラのみ。納車されたばかりのハチロクが、部分的ではあるものの、目前で分解されて行くのである。だが、作業のスムーズさと的確さに見とれるばかりで、不安はまったく感じなかった。
夢のAR HUDは入荷次第取り付けるということで、今回はサイバーナビの本体とスカウターユニット、さらにETCの進化版であるDSRCユニット、さらにバックカメラを取りつけてもらった。「えっ? ハチロクにバックカメラ?」とかいう声が聞こえてきそうだが、これが使い始めると便利なんだってば! 特に我が家の駐車スペースは入り口が狭いので、バックカメラがあると大変助かるのだ。いいじゃないですか、スポーツカーにバックカメラがついてたって。
サイバーナビ本体はもちろん、スカウターユニット、DSRCユニットなどの機能に関しては次回以降、順次紹介して行く。なお、今回もVICSのビーコンユニットは取り付けなかった。というのは将来的な話だが、ETCの進化版であるDSRCユニットがVICSビーコンに近い情報を入手してくれるからと考えたのだ。だが、当然の流れとしてこの決断は、私の周囲にいるVICSビーコン支持派から大ブーイングを受けることになる。
さて、小林さんの取り付け作業は時間をかけて丁寧に進んでいく。その過程でちょっと面白い発見があった。バックカメラの配線と取り付けのため、トランクの内張りを剥がした時のことである。トランクドアを補強するためのビームに「SUBARU」の刻印があったのだ! いや、当然のことではある。トヨタのハチロクだが、製造しているのはスバルなのだから。しかも普段は隠れている部分であり、何の問題もないだろう。だが、個人的にはちょっと面白いと感じた。
ちょうどお昼ぐらいから、夕方までの数時間で作業は完了。無事、私のハチロクはカーナビ、サイバーナビを手に入れたのだった。これでハチロクに乗ってスカイツリーにも行けるし、例えばギターを買いに名古屋へ行くこともできるようになった訳だ。CATSの小林さん、ありがとうございました。
目指せ、ハチロクで名古屋!
サイバーナビを装着して数週間後、スポーツカーにも慣れてきたし、ちょっとハチロクで遠出をしたくなってきた。そんな時、ちょうどタイミングよくギター仲間が、名古屋にギターを買いに行きたいという。新幹線で行くつもりだったのを、私が「だったらクルマで行こうよ。ギターのハードケース抱えての長距離移動は大変だよー」などと誘ってみた。結果、ハチロク初の遠出は名古屋行きとなったのである。
長距離を走る時、話し相手がいると助かる。いくら新車で心躍る遠出といっても、そこはそれ単調な高速走行もある。そんな時、話し相手がいると気がまぎれていいのである。待ち合わせ場所で友人をピックアップして名古屋に向け出発したが、1つ残念だったのは同乗した友人、普通免許を持っていなかった。要するに往復600kmとちょっとの距離は、すべて私が運転しなくてはならないということだ。
ハチロク運転し放題だあ! などと喜んで出発した訳だが、連休中に名古屋行きを決行したため、往路の中央自動車道はそこそこ混んでいた。それでもハチロク初の遠出だし、車内はギターの話などで盛り上がり、時折出くわす渋滞に文句を言う元気もあった。少なくとも往路では。また、新しいギターを買いに行くということに関しても、そこはそれ心躍るものがある。
ちなみに友人はアコギ、すなわちアコースティックギターがメインで、私はエレキ、エレキギターがメインである。どちらもギターではあるが、実際にはヒョウモンリクガメとアオウミガメぐらい違う。ではなぜ、ギターを買いに名古屋まで行ったのか? 実は友人の欲しがっていたチェコのフォルヒというメーカーのアコースティックギター、日本総代理店であるスタジオエムさん(http://www.studio-m.net/)が名古屋にあるのだ。
ギターをやっている人なら分ると思うが、ギターは写真などを見て「これが欲しい!」と思っても、とにかく実物に1度は触れてから購入を決めたいものなのだ。東京近辺にもフォルヒのギターを扱っているショップはあるのだが、友人が欲しがっていたモデルは標準外品。このため触ってから購入を決めるとなれば、名古屋に行くのが一番手っ取り早いのである。
東京を出たのは昼近く、すぐに中央道へと入り、名古屋をひたすら目指す。途中、混雑しているところもあったし、昼食はSA(サービスエリア)でとったため、目的地であるスタジオエムさんには16時近くに到着。友人が事前に連絡を入れていたので、目的のギターを用意してもらいさっそく試奏。端で聞いていても、いい音のするギターだ。サスティーン(弾いた後に残る音の長さ、ちなみに“サステイン”が正しいらしい)が驚くほど長く、響きも素晴らしい。もちろんその分、お値段も素晴らしいが。
満足した友人は購入を即断し、後はスタジオエムの社長さんと少しおしゃべりをして帰路につく。これが「地獄の復路」の始まりだったのである! 往路は中央道を使ったので、帰りは別のルートを使いたい。当然、名古屋-東京と言えばあなた、新東名高速道路でしょう。開通間もない新東名を使い、東京目指して復路をスタートする。最初は順調だったし、出来たばかりの広々とした新東名も実に快適だった……。
辺りが暗くなってきた頃、それは起きた。なんと御殿場IC(インターチェンジ)で重大事故発生、通行止めになってしまったのである。SAやPA(パーキングエリア)でその情報を確認しつつ進んだが、御殿場ICの通行止めが解除される気配はまったくない。御殿場ICと言えば新東名と東名高速が一緒になった、その先にあるIC。解除を待つか、それとも高速を降りて一般道を行くか?
結局、一般道を行くことにした。新東名を降りたハチロクは、箱根の七曲がりを経由して東京へと向かったのであった。もうすっかり日も暮れ、ガスで視界の悪い峠道。挙句の果てには通行止めを避けたほかのクルマで、かなり長い渋滞が発生した。新車のハチロク初の遠出ではあるが、「楽しいか?」と聞かれたら「辛い」と答えたと思う。結局、東京に戻ったのは深夜近くになってからだった。スポーツカーであるハチロクと七曲がり、相性ピッタリのカップルになるはずが、疲労困憊ロードになってしまった。苦い峠道デビューである。
こうしてハチロク名古屋旅は、約600kmを走り、ほぼ半日ががりで終了した。確かに疲れた旅だったが(往路ですでに疲れていたのだから)、頭は結構冴えていたような気がする。要するに軽い興奮状態だったのだ。特に印象的だったのはハチロクと夜の新東名、ゾクゾクするほど相性がいいということ。広く新しい高速道路を滑るように走るハチロク。別にスピードを出さなくても、なんというか、とにかく気持ちがいい。水面を走るアメンボも、たぶんこんな気持ちなのだろうと勝手に想像したりもした。
これで私のハチロクは東京都内の混雑した一般道、高速道路の長距離走行、そしてガスまみれ渋滞まみれの峠道を走破した訳だ。まあ近々、峠道デビューはやり直そうと思ってはいるのだけど。なお、友人が購入したフォルヒギターに「涼宮フォルヒ」とあだ名をつけたバカ野郎は私である。むしゃくしゃしてやったが、今はちょっと反省している。