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三菱自動車、燃費不正問題について過去10年間に販売した20モデルでも不正

再発予防策も発表。「開発部門の閉鎖的な組織に風穴を開け、自浄作用を取り戻す」

2016年6月17日 発表

写真は5月18日に国土交通省で行なわれた記者会見より

 三菱自動車工業は6月17日、燃費不正問題について「過去に販売した車種に関する調査」と、再発防止策についての報告書を国土交通省に対し追加提出した。

 今回のリリースでは、「経営と開発部門現場の情報共有ができなかったことに加えて、遵法意識の不足、『ものが言えない』組織風土、人材の特定部署への長期固定化などの複合要因によって不正が起こったという事実を経営陣として重大且つ真摯に受けとめています。これらを踏まえ、今回発表致しました各種施策を着実に実行していくとともに、開発部門の業務プロセス可視化および部長職の意識改革を早急に行なうべく、経営陣自らが外部人材を含めたチームを作り、直接対話等を行なうことで、開発部門の閉鎖的な組織に風穴を開け、自浄作用を取り戻します。二度とこのような不正事案が発生せぬよう、社を挙げて万全の体制確立に取り組んで参ります」と、今後の決意について語られている。

 また、同日に燃費試験における不正行為に伴うユーザーへの支払い費用として、特別損失を計上する見込みであることが発表された。三菱自動車と日産自動車のユーザーへの支払い費用として、平成29年度3月期決算に約500億円の特別損失を計上するとしており、この金額には軽自動車4車種以外の登録車5車種についての支払い費用の約30億円も含まれるという。

過去に販売した車種に関する調査

 今回の報告では、同社の文書保管期間が10年間であることから、過去に販売した車種のうち、2006年から2016年までの過去10年間の20車種に限って行なわれた調査結果が報告された。20車種は「①ミニカ、ミニカバン」「②旧型eKワゴン(含むeKスポーツ(ターボチャージャー無し車))」「③eKスポーツ(ターボチャージャー付車)」「④トッポ」「⑤パジェロミニ」「⑥ミニキャブ、タウンボックス」「⑦i (アイ)」「⑧i-MiEV」「⑨ミニキャブMiEV」「⑩パジェロ」「⑪アウトランダー(ガソリン車)」「⑫アウトランダーPHEV」「⑬デリカD:5」「⑭旧型アウトランダー」「⑮ランサーエボリューション」「⑯ギャランフォルティス、ギャランフォルティス スポーツバック」「⑰コルト、コルトプラス」「⑱RVR」「⑲ミラージュ」「⑳トライトン」。

 この20車種では、以下の不正が新たに明らかになった。

①走行抵抗の測定において、法規に定められたものと異なる当社独自の「高速惰行法」(1991年から使用)を、「④トッポ」「⑫アウトランダーPHEV」「⑲ミラージュ」を除く17車種で使用していた。

②法規に定められた成績書(負荷設定記録)を作成する際、惰行時間(走行抵抗からプログラムで算出)、試験日、天候、気圧、温度等につき、事実と異なる記載を全20車種で行なっていた。

③前回、現行「⑱RVR」について、走行抵抗を実測したデータを使用せず不正に操作された他車種のデータから机上計算されていた事を報告している。現行「⑱RVR」に関しては11型のデータを基に机上計算していた。11型は、「⑯ギャランフォルティス、ギャランフォルティス スポーツバック」を基に机上計算していた。

④「⑯ギャランフォルティス、ギャランフォルティス スポーツバック」の一部類別は、燃費目標を達成するため、性能実験部で転がり抵抗を改ざんする不正を行なっていた。「⑭旧型アウトランダー」の一部類別、「⑰コルト、コルトプラス」の一部類別では、届出審査が不合格になることを避けるため、認証部で転がり抵抗を改ざんしており、計4車種で不正を行なっていた。

⑤現行「⑩パジェロ」について、過去の測定データの中から、転がり抵抗と空気抵抗を別のクルマの値を恣意的に組み合わせて改ざんしていたと報告している。「⑩パジェロ」の現行販売車以外の類別や「⑰コルト、コルトプラス」の一部類別の2車種でも同様の改ざんを行なっていた。③、④を合わせ、計5車種について改ざんを行なっていたことになる。

⑥現行「⑫アウトランダーPHEV」「⑪アウトランダー(ガソリン車)」「⑬デリカD:5」「⑱RVR」「⑩パジェロ」について、過去の試験結果などを基に机上計算を実施する不正があったと報告している。販売が終了した「①ミニカ、ミニカバン」「②旧型eKワゴン(含むeKスポーツ(ターボチャージャー無し車))」「④トッポ」「⑥ミニキャブ、タウンボックス」「⑦i(アイ)」「⑭旧型アウトランダー」「⑮ランサーエボリューション」「⑯ギャランフォルティス、ギャランフォルティス スポーツバック」「⑰コルト、コルトプラス」でも同様の不正が行なわれており、合計14車種で行なわれていた。

再発防止策

 過去に販売した車種に関する調査結果とともに、再発防止策についても発表。

 今回不正の内容は、「法令で定められた『惰行法』と異なる方法で走行抵抗を測定したこと」「法令で定められた成績書に事実と異なる記載をしたこと」「走行抵抗値のデータを改ざんしたこと」「過去の試験結果などを基に走行抵抗値を机上計算したこと」の4点。

 不正が起こった部署は「性能実験部/三菱自動車エンジニアリング(MAE)車両性能実験部」「認証部」「性能実験部/MAE車両性能実験部/認証部」「性能実験部/MAE車両性能実験部/認証部」となっており、「本来の職制規定と異なる目標燃費達成の義務を負わせたこと(性能実験部)」「走行抵抗の設定過程を客観的に検証する牽制機能がなかったこと(認証部)」「親子会社間で所謂『ものが言えない』主従関係があったこと(MAE)」が今回の不正問題につながったと結論づけた。

 今後、燃費届出の適正化を図るため、以下の再発防止策を発表した。

燃費届出適正化のための施策

①職制規定上と異なる目標燃費設定の義務を性能実験部に負わせたPX及び開発PM、今回不正事案に関係した性能実験部及びMAE管理職をその職位から外した(5月10日)。

②走行抵抗の設定過程を明確にするため、燃費に関する報告書への走行抵抗並びに実測場所・日時、測定条件記載を必須化(5月15日)。走行抵抗の設定を客観的に行なうため、走行抵抗測定業務を、性能実験部から車両実験部に移管。この結果、車両実験部は車両の燃費測定諸元確定の為の走行抵抗を客観的に測定する業務を担当し、性能実験部は、車両の性能・燃費・排ガス・ドライバビリティ開発試験及びドライブトレーン制御の開発試験に専念することになる(6月1日~)。

③燃費開発に関する目標設定と達成は、本来職制で規定された商品開発プロジェクトで行なうこととする(7月1日~)。

④認証部を開発本部外(品質統括本部等)へ移管させ、同部の役割・機能を開発業務から分離する(10月1日)。

⑤車種開発における技術仕様の内容と試験日程、試験車台数の整合性を検証するプロセスに走行抵抗の測定、排ガス・燃費試験の日程、試験車台数の検証を追加(6月1日~)。

⑥人的作為要因を極力排除するため、走行抵抗測定から燃費測定までのデータ処理の自動化システムを導入する(12月1日~)。

⑦開発本部内の試験業務については、結果を試験報告書に纏めることを徹底。また、報告書は確実に共有データベースに格納することを厳格に励行する。その実施状況を自主監査することをルール化すると共に職制による日常チェックを行ない、定期的に監査本部がチェックする(7月~)。

⑧開発部門に対する監査機能強化については、現在品質情報処理の監査目的で岡崎に常駐している品質監査部8名と品質統括本部品質監理部、技術検証部の連携により開発部門の届出・審査業務をチェックできる体制を確立する(常駐監査要員の増員を含む。9月~)。

⑨開発部門が係わる国内外の法規の内容・順守状況の総点検を実施すると共にこれらに準拠した業務標準の内容についても総点検を行なう(7月~9月)。

⑩開発部門が係わる国内外の法規及び当社知財情報の一元管理と同モニタリング及び部門内教育推進を実行する法規情報管理部署を新設(8月~)。

⑪上記⑦に加え、IT化の促進により、測定等プロセス業務の証跡確保・自動保管・人為ミス削減を図る(7月~)。

⑫当社における車両開発から発売後の品質確認までの過程をそのステージ毎に管理・運営して推進するシステムであるMMDS(Mitsubishi Motors Development System)の運用方法を見直す(各判定項目において、目標設定と達成の責任者を関係者間で合意の上取り進めると共に、ターゲットの達成状態を客観的に検証する方法を予め確認・設定の上取り進める。また、目標を変更した場合はゲートチェックをやり直す工数を確認する等。9月~10月)。

再発防止体制構築推進組織(仮称:事業構造改革室)の設置

 前項記載施策は多岐にわたるが、当該施策の着実な実行とフォローアップを行なうべく、開発部門内に本社コーポレート部門員の派遣も含めた再発防止体制構築推進組織を設置する(7月1日)。

 同組織の活動をつうじて、開発部門の透明性確保、恣意性の排除、自浄・主体意識の向上、検証体制の強化についてしっかりとモニタリングしていく。

人事・コンプライアンス関連施策

 構造改革における最も重要な要素は、その主体者となる経営幹部・社員の自覚・自浄意識向上にあり、その為に、人事・コンプライアンスを連携させた以下の施策を実施する(以下期日の記載がない項目については、前掲推進組織で工程表を7月中に策定の上、随時推進する)。

①開発部門に求められる人材像(開発ノウハウだけではなく、持つべき意識・取るべき言動、コンプライアンス遵守、マネジメント能力、各階層における責任範囲、報告・連絡・相談、情報共有・発信の重要性など)の再確認を開発部門の管理職全員で行ない、共通認識を醸成する。

②この認識に基づき、キャリア開発・育成プランも加味した人事異動計画を部門・本部・部として策定し、部門内及び部門間ローテーションを着実に実行することで蛸壺化の回避を図る。特に人事ローテーションの膠着化は、今回不正を見逃すこととなった大きな要因でもあり、経営として特段の注意を払った上で、開発部門はもとよりグループ会社幹部人事を含めた全社レベルでの厳格な運用を行なっていくこととする。

③人事評価において、上記人材像の実践状況を重要な査定項目とする。

④上記①~③実施状況の確認とレビューを、部門として一元フォローする部署を定め、PDCAをまわせる仕組みとする。

⑤前項⑩に記載した法規情報管理部署を事務局として技術者向け法規教育の徹底を図る。

⑥今回の「失敗から学ぶ」べく、本事案を具体例として盛り込んだ教育プログラムを策定し、開発部門全社員に対する研修を実施する。

⑦PXの役割は極めて重要であり、PMを適切に監督しつつ開発プロセスの全ての課題を掌握・推進し、その進捗状況を正しく経営陣にフィードバックする責務がある。今回発生した不正防止の観点からも、PXに求められる資質・要件を再定義の上、適切な抜擢・選抜・育成プロセスを確立する。

MAEのあり方見直し

 MAEの同社への統合も視野に入れた最適な関係再構築を検討する。

 まずはMAEへの委託業務の依頼・進捗管理・検収要領について見直す(7月末)。さらに、親子会社間の構造的問題に加え、同社とMAEに分散されている開発部門の現体制を抜本的に改善するために、MAEと同社を一体化させることで透明性確保と風通しのよい組織を実現する。

経営レベルでのフォローアップ体制強化

 冒頭に述べた本社経営と開発現場の情報ギャップを埋めるべく、上記開発部門の再発防止策に加え、本社経営陣が状況をタイムリーに把握し、確実にグリップを効かせて上記施策の着実な履行を担保するために、以下を実行する。

①本社経営陣による開発部門の定期的な実情把握の励行。開発案件の進捗確認、並びに課題の認識、さらにそれへの対応策確認のための本社経営陣と開発部門幹部間での確認会を四半期毎に実施する。

②開発部門のリソース制約を十分認識した上で、適切且つ現実的な商品戦略、開発計画を策定(集中と選択)する。