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日立、クルマの自動運転技術なども紹介された「Hitachi Social Innovation Forum 2017 TOKYO」
2017年度中に高速道路での「自動運転レベル3」の走行実証を予定
2017年11月7日 00:00
日立製作所は11月1日~2日、東京・有楽町の東京国際フォーラムにおいて、「Hitachi Social Innovation Forum 2017 TOKYO」を開催した。日立グループ世界最大規模のプライベートイベントとして、今回で19回目を迎える同イベントは、今年は、「社会の未来を変えるアイデアがここに」をテーマに開催。
開催初日の日立製作所の東原敏昭社長兼CEOの基調講演をはじめとする各種講演やビジネスセッション、セミナー、展示などにより、同社の社会イノベーション事業の取り組みや、未来への提案などを行なった。
展示会場には、世界各国で進化を続ける社会イノベーション事業の事例を幅広く紹介。「ENERGY」「INDUSTRY」「URBAN DEVELOPMENT」「FINANCIAL」「HEALTHCARE」「Connected by Lumada」「SECURITY」「WORKSTYLE INNOVATION」の8つのゾーンを通じて、顧客との協創により、社会イノベーションを加速させるヒントを提案。体験型や立体型展示を含む20テーマ以上の展示や、事例を紹介する60以上のセミナーを通じて、日立グループの社会イノベーション事業を分かりやすく訴求した。
なかでも、URBAN DEVELOPMENTのエリアでは、クルマや鉄道に関連するソリューションを数多く展示。「快適な”まち”移動を実現するモビリティ」の姿を紹介した。また、ENERGYのエリアでは、福島第一原発の廃炉対応に貢献するロボティクス技術についても展示した。
一方で、東原社長兼CEOの基調講演では、コペンハーゲンメトロに導入している「ダイナミックヘッドウェイソリューション」の事例が定時運行を超える、新時代の新たな付加価値ソリューションとして注目を集めた。写真を通じて、展示内容や講演内容を紹介する。
パーソナルモビリティ「ROPITS」
「ROPITS」は他の交通機関と連携することが可能な、シェアリング型ラストワンマイルモビリティ。携帯情報端末のアプリを通じて、任意地点での呼び出しを可能する次世代パーナルカーであり、屋内外歩道の自律走行技術によって、時速6kmで走行。公共施設や観光施設での訪問者案内支援としての利用も可能。また、将来的にはエレベータやサービスロボットとの連携も想定している。現在、茨城県つくば市のモビリティロボット特区で公道における実証実験を行なっている。屋内外シームレス自己位置推定技術や三次元環境認識技術、衝突回避技術、携帯情報端末からの遠隔操作技術を組み合わせて実用化する。1人乗りで、車両重量は200kg。
慣性正矢軌道検測装置
鉄道のレールに高低差やうねりが発生すると、列車の乗り心地がわるくなるため、補修する必要がある。これを検出するために、慣性測定方式を用いて、ジャイロとレーザ変位計によりレール変位を測定するのがこの慣性正矢軌道検測装置だ。慣性正矢法を採用することにより、大幅な小型化を実現しており、専用の検測車だけでなく、営業車にも搭載が可能となったことで、日常的に検査ができるようになったという。
列車搭載CCTVシステム
列車搭載CCTVシステムは、車両に搭載したCCTV(Closed Circuit Television=監視用カメラ)で撮影した映像を、運転室のモニターに表示して、車両の状況を把握することができるもの。展示エリアでは、車両前方を映し出すカメラ、車両内を映し出すカメラ、そして、乗降口を車両外側から映し出すカメラを想定したデモンストレーションを行なっており、それらを一台のモニターで分割表示できるようにした。鉄道の安全運行に貢献できるシステムとして、最新車両への搭載が相次いでいるという。
鉄道車両向けユニバーサルデザインシート
従来の鉄道車両用シートよりも、高く、浅く腰掛ける形状とすることで、座る、立つという動作による身体的負担を軽減し、電車をスムーズに利用することができるようになるシート。高齢者でもストレスなく安全でスムーズな乗降ができるようになり、事故や遅延のリスクが減るという。さらに、座ると自然に背筋が伸び、足の投げ出しが抑制されること、足下に荷物を納められることから、立ち客空間も広くなるというメリットがある。2017年度グッドデザイン賞を受賞している。
交通データ利活用サービス
交通データ利活用サービスは、公共バスが走行した位置や車速などの情報を用いて生成されたプローブ情報と、交通系ICカードを利用した乗客利用情報、起終点情報などを活用し、路線の過密度や乗車率を把握。それをもとに、乗車人数が少ない時間帯の運行を削減し、乗車人数が多い時間帯の増便を検討したり、運行ルートの変更を検討したりといったことにつなげ、運行計画の最適化につなげることができるという。将来的には、気象情報やイベント情報などの各種オープンデータとの連動させることで、経営効率化や収益向上のほか、利用者の利便性向上にもつなげる考えだ。
サービスロボット「EMIEW3」
人と安全に共生することを目指すことを目的に開発された第3世代のサービスロボットが「EMIEW(エミュー)3」。コミュニケーション能力を持ち、公共スペースや商業施設などにおいて、サポートを必要とするお客さまのもとに自ら移動。接客・案内などのサービスを通して、支援するヒューマノイドロボットだ。様々なシーンでコンシェルジュの役割を果たすことを目指しており、ダイバーシティ東京プラザでは、エスカレータ前で来場者に対応したり、お得な情報を提供したりといった役割を担っているという。
小型双腕重機型ロボット「ASTACO-SoRa(アスタコ-ソラ)」
「ASTACO-SoRa(アスタコ-ソラ)」は、2013年7月以降、福島第一原発の第1号機および第3号機において稼働している小型双腕重機型ロボット。放射線量が高いエリアでの作業を、カメラ6台を使用した遠隔操作によって、無人で動かすことができ、腕の先端のツールを交換することで、がれきの収集や廃棄、配管材の切断などの多様な作業が行なえる。先端ツールは、つかみ具、せん断刃、回転刃、回転工具、大型つかみ具が用意されている。吊上荷重は、片腕で150kg、両腕で300kg。重量は約2.5tで、ディーゼルエンジンにより、約15時間連続稼働する。
原子炉格納容器内調査ロボット「PMORPH(ピーモルフ)2」
原子炉格納容器内調査ロボット「PMORPH(ピーモルフ)2」は、福島第一原子力発電所1号機の原子炉格納容器の燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)の状況を調査するために開発されたロボット。まっすぐに棒のような形状をしたままで、直径約10cmという狭い配管(ガイドパイプ)内を通り、原子炉格納容器内部に入ると、コの字型に形状を変化させて、搭載された5台のカメラや放射線量率センサーを活用して、調査を行なうことになる。カメラで撮影した映像は分割して表示することが可能だ。ウインチを搭載していることから、濁水のなかにある原子炉底部への吊下げセンサーの投入も可能であり、ロボットに搭載する電子機器を排除することで、高い耐放射線性を実現しているという。
熱中症対策用冷却ベスト
熱中症対策用冷却ベストは、保冷剤で冷やされた冷水が、ベスト内を流れ、作業員の体温上昇を抑制することができる。背面部分に、水袋に入った水を保冷剤で挟んで冷却する装置を用意しており、ここからポンプユニットによって、ベストに送り込む。これも福島第一原発の作業用に開発されたものであり、炉壁が約85℃、床面が約50℃という環境においても、冷却ベストは約25℃を維持できるという。
自律型移動ロボット「HiMoveRO」
専用レールや移動ガイドが無くても、自律的に、高精度に走行させることが可能な産業用自律型移動ロボット「HiMoveRO(ハイモベロ)」。自律走行させることで作業範囲を広げ、1台で複数の作業を行なうことが゛てきるため、生産性の向上が図れるとともに、生産現場や物流現場における頻繁なレイアウト変更にも柔軟に対応できる。走行ルート周辺の電子地図の自動作成と、自己位置推定技術によって、誤差±10mm以内の高精度で目的地に停止することが可能できる。展示では、試験管を取り上げたり、キーボードを打ったりといった細かい作業が行なえることを見せていた。
鉄道のオンデマンド運行に対応するダイナミックヘッドウェイソリューション
鉄道領域では、会期初日の基調講演で、東原社長兼CEOがコペンハーゲンメトロでの事例を紹介した。「ダイナミックヘッドウェイソリューション」と呼ばれるダイヤを自動制御するシステムが導入され、駅に設置されたセンサーから人流データを解析して、ホームで電車を待っている乗客数に応じ、最適なタイミングで電車が駅に到着するようにダイヤを変更して運行するシステムとなる。
東原社長は「鉄道ソリューションにおいては、いかに定時運行するかが重要な鍵なっていたが、今後は、定時運行に対する価値が減り、オンデマンド運行に対する価値が求められるようになる」と発言。「トータルの待ち時間を減らすことができ、エネルギーの削減にもつなげることができる。日立が持つ鉄道技術のOT(運用技術)と、データを分析するIT(情報技術)の組み合わせによって、社会変革に貢献する事例」と位置づけた。
東京急行電鉄との協創により、実用化している東急線アプリ「駅視-vision」は、駅構内の混雑状況をリアルタイムで見える化し、利用者の混雑回避と移動のストレス軽減に貢献するものだ。駅視-visionでは、大幅に電車が遅れ、駅が大混雑している場合にもそれがわかったり、駅構内で歩いている人や止まっている人が、どれぐらいいるのかといったことが、プライバシーを守りながらわかったりする。「画像認識技術と、プライバシー保護技術、使いやすいユーザービテリィを融合した情報サービス」(日立製作所の東原社長兼CEO)
また、自動車の領域では、東原社長兼CEOの基調講演で自動運転システムがビデオで紹介された。ミリ波レーダーとSurroundEye(サラウンドアイ)によって実現する低速車両追い越しシステムと、高精度地図によってあらかじめ認識した車線減少ポイントに向かって、GPSやステレオカメラを活用して、適切な車線変更する経路連携自動車線変更、渋滞で前方の車線が十分に認識できない場合や車線がない場所でも、ステレオカメラによって前方車両の軌道を正確に認識することで自動運転が継続できる渋滞運転支援機能などを紹介した。日立グループでは、2017年度中に高速道路での自動運転レベル3の走行実証を予定している。
自分での運転が困難になった高齢者に向けて、安全、安心に、病院や買い物に出かけることができる自動運転の実用化への期待が高まるなか、日立では、高齢者の移動に自動運転技術を活用するという。
東原社長兼CEOは「公共交通機関が少ない地域で、自宅と病院、スーパーマーケットという3つだけのボタンがついた自動運転車を開発してはどうか」と提言。それによりも高齢者がワンプッシュで目的地に行くことができるという。「重要なのは自動運転機能を、いかに人々の生活に役立てることができるかどうかである」と述べた。