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【インタビュー】日本人で初めてWTCC表彰台を獲得!! マカオで3位となった道上龍選手に後半戦好調の理由を聞く

12月3日、もてぎ開催の「Honda Racing THANKS DAY」にも参加

道上龍選手

 FIA世界ツーリングカー選手権(WTCC)にホンダワークスチームとなるHonda Racing Team J.A.S.から参戦しているのが道上龍選手だ。

 道上選手は2000年の全日本GT選手権(現在のSUPER GTの前身)GT500クラスのシリーズチャンピオンに輝くなどホンダのエースとして長い間活躍したドライバーだが、2014年からは自身のチームとなる「ドラゴ・コルセ」を立ち上げ、ここ数年は道上選手よりは「道上監督」として活躍してきた。

 2017年は、現役ドライバーに復帰し道上選手としてWTCCにフル参戦して、活躍している。前半戦はやや苦しい戦いになっていたが、終盤戦のツインリンクもてぎでは予選5位になったり(別記事参照)、11月16日~19日に行なわれたマカオ戦ではオープニングレースで3位に入り、日本人として初めてWTCCの表彰台に立つ活躍を見せている。

 そうした道上選手に今シーズンの振り返りと、マカオでの3位表彰台について、そして最終戦のカタールなどについてお話をうかがった。

コースを覚えながら、チームメイトのセットに合わせて無理をしていた前半戦、もてぎ戦から戦える環境に

――今シーズン、ドライバーとしては3年ぶりのフル参戦になりました。アスリートが一度最前線から復帰するという苦労は並大抵のことではないと思うが……

道上選手:ここ数年は現役ドライバーとしては走っていなかったので、気持ちの面でも、“自分は通用するのか”という不安はあった。そこに来て、WTCCというツーリングカーのトップカテゴリーで、世界を転戦しながら走るし、かつホンダワークスということでプレッシャーは大きかった。当初はおそらく周りも眼中にないような雰囲気はありました、そう簡単に勝てるカテゴリーじゃないぞというライバルからの無言のプレッシャーもありましたし。

――前半戦は正直とても苦戦しているなという印象だったが、後半戦、特にツインリンクもてぎ以降は尻上がりに調子が上向きという印象、その要因は何か?

道上選手:レースウィークが始まると、練習走行があってそれが45分が2回なのだが、前半戦はほとんどが走ったことがないサーキットばかりで、まずは練習走行でサーキットに慣れるに練習走行の時間を費やして終わってしまっていた。このため、セットアップを煮詰める時間もなくて、チームメイトのセットアップを元に自分を合わせていく、そうした状況が続いていた。しかし、後半戦になって、特にツインリンクもてぎやマカオなどは過去に走ったことがあるサーキットだし、特にツインリンクもてぎに関してはよく知っているサーキットで、セットアップも自分に合わせて進めることができた。

――これまで乗ってきたレーシングカーとはWTCCは大分違うのだろうか? なぜ左足ブレーキなのか?

道上選手:FFハイパワーの運転スタイルというのは、これまでとは大きく違っており、切り換えていかなければいけない。WTCCでは左足ブレーキを使っている。自分が国内を走っていたときには右ブレーキだけだったが、特に違和感なく切り換えることはできた。ただ、最初は微妙なブレーキの強弱に課題があったが、だんだんと慣れてきて問題なくなっていた。実はシーズン当初は右で踏んでいたのだが、チームメイトのアドバイスなどもあって左に切り換えた。予選などで1周やるには実は右でも左でも変わらないが、レースになると相手がいて、ターボラグに対処するためにブレーキしながらアクセルを開けるなどの対処も必要なので、左が有利になるからだ。WTCCの車両は、SUPER GTなどとは異なり市販車の要素が大きく残っている。ギヤはマニュアルでパドルでなかったり、ブレーキもカーボンではなくスチールだったりと、ダウンフォースもばりばり効いているカタチではない。そのため、ドライバーの経験がモノをいうレースなのだ。WTCCに参加しているドライバーはあのカテゴリーをそれこそ10年単位でやっており、FFにも慣れていたりと、その経験が効いてくるのだ。

――後半戦以降は前半戦で慣れた分が効いてきたということか?

道上選手:時間はかかりすぎた面は否めないが、そういうことだ。前半戦が終わり、アルゼンチンラウンドが終わった後で、プライベートテストをやって、チームメイトのセットを乗りこなすのではなく、自分好みのセットアップを施すことができた。そのなかで、自分に合うなというセットが見つかった。中国戦以降で調子が徐々に上がってきたのは、そうしたことが影響している。ただ、中国、ツインリンクもてぎは雨が降ってきたのは正直つらいなと思っていた。特にツインリンクもてぎはよく知っているコースだったので晴れてほしかったが、とりあえず思い切って走って予選では上位につけることができた。

――ただ、ツインリンクもてぎでは車両の輸送トラブルでバタバタだった

道上選手:クルマが中国からこなくて、日本にあったクルマを仕立てて、なんとか間に合わせました。エンジンなども交換しなければならなくなったが、その替わりに最新版を投入できたので、パフォーマンスが上がったのはよかった。

オープニングレースではスタートで抑えきったことが表彰台につながったマカオ

道上選手の34号車「Honda Civic WTCC」

――マカオの週末だが、確か1994年~1995年のF3時代に入っているが、どうだったか?

道上選手:実はF3時代には、クラッシュしたり、その結果病院送りになってしまったりと、実はあまりよい記憶がなかった。久々に来たマカオは、実はその20年以上前とあまり変わっていなくて、バンピーで滑りまくり、本当にこんなところでレースするのかというのが最初の印象だった。だが、練習走行、予選1回目、予選2回目と毎セッション緊張して臨んだが、それまでに赤旗が4回出るなど波乱の連続だった。その結果7位になったのだが、それも完全なアタックではなく、アタックしようとしたら赤旗という結果として7位で、もう1つ2つは上にいけそうだったので、正直残念な結果だった。もう1回アタック出来ていれば、今度はもっと壁ギリギリを狙おうと思っていたので残念だった。しかし、その7位というポジションが、決勝レースでは効いてきた。リバースグリッドになるオープニングレースでは、予選8位の車両がエンジン交換をしたことで、グリッドがさがり、3位グリッドに繰り上がってスタートすることになった。ただ、正直に言えば、4番手スタートの方がよかった。というのは、マカオでは奇数グリッドがレコードラインではないからだ。マカオのコースはラインを外すと埃と砂なので、そのレコードラインではない3位グリッドからのスタートが不安だった。しかし、スタートでの出足はよく、1コーナーでなんとか4番手を抑えることができ、その後も長居ストレートでリスボア(筆者注:リスボアホテル前のほぼ直角90度に曲がる有名なコーナー、F3時代にはルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグという後のF1チャンピオン二人もここで突っ込んだ)まで抑えることができた。マカオは、追い抜きが可能な海側のコースはほとんどストレートなのだが、シビックはストレートが速くその恩恵を受ける形で、ストレートで引き離すことができた。

――後ろからは、ホンダのチームメイトであるノルベルト・ミケルズ選手とチャンピオンシップを争っているテッド・ビヨック選手が迫ってきていた、チームからは抑えろと言われていたのか?

道上選手:もちろんチームからはビヨックだけは絶対に前に行かせるなとは言われていた(笑)。ただ、今回はシビックのストレートが速くて直線で離れていくので、向こうはチャンピオンシップを争っているので無理して抜くことはできないだろうなとは思っていた。そうした相手の心理を考えたりしながらドライブしていた。ただ、もしノルビー(ノルベルト・ミケルズ選手)がビヨックを抜いたら、チームオーダー的なのは出るんじゃないかな、それは困るなとは思っていた(笑)。だが、チームメイトのクラッシュで赤旗になり、残り2周で再スタートするのかどうかドキドキしましたが、レースの75%は終了していたので結局そのまま終了になり表彰台に登ることができた。

――久しぶりの表彰台だったのではないか?

道上選手:実は今年スーパー耐久で3位になったことがあるので、そんなの久しぶりという訳ではない。ただ、世界戦という意味では初めてですし、それがマカオでということは思っていなかったので。正直シーズン前はマカオはもっと厳しいだろうと思っていたので。

――WTCCのサイトにも道上選手が表彰台を獲ったことがニュースになっていた。

道上選手:WTCCで日本人ドライバーが表彰台に上がるのは初めてだし、それが日本車、日本のタイヤメーカーで実現したこともメモリアルだということで取り上げてもらった。実は今回自分の家族も来ていて、子供達に表彰台に上る姿を見せることができたのはよかった。ただ、メインレースの方は家族が見ていたリスボアで壁にヒットしてしまったのが残念だったが(笑)。

――最終戦のカタールに向けた意気込みを

道上選手:カタールは重要なレースになる。現在ボルボのビヨックとチームメイトのノルビーの差は6.5ポイント差で、ようやくホンダのドライバーがタイトルを獲るというところまで来ており、マニファクチャラータイトルに関しても同様だ。それを考えれば荒れるレースになるのではないかと考えている。ツインリンクもてぎでも、ボルボのドライバーがやり過ぎてペナルティが出されていたが、今年は大小そういうことがないわけではない。自分が人にあてて回らせたりということをしたことはないが、ほかのドライバーがそうやっているのは何度も見ているし、自分もやられたこともある。まさにWTCCは“格闘技”的なレースであり、それに負けないように闘志あふれた走りをして、少しでもホンダのタイトル獲得に貢献できるような走りを見せたいと思っている。最終戦はハンデウェイトがホンダもボルボもイコールの80kgになり、文字通りガチンコの戦いになると思おう。自分としては初めて走るサーキットで、まずコースになれないといけないハンデはあるが、時間がないなかでも早くコースになれてホンダのタイトルが獲得できるように頑張り、可能であれば自分の優勝も狙っていきたい。

――2018年はWTCCのレギュレーションもシリーズの構造も大きく変わりそうだが、2018年の挑戦もあるか?

道上選手:WTCCを今年一年戦って学んできたことがある。後半戦になり戦えるようになってきてから面白くなってきている。シリーズの行方がどうなるのか現時点では不透明なのではっきりしたことはわからないが、来年もチャンスがあれば乗ってみたい。

――12月3日にツインリンクもてぎで開催される「Honda Racing THANKS DAY」にも参加されるとのことだが?

道上選手:12月1日(金)にカタールでWTCCの決勝レースを走った後、夜行便で翌日日本に戻ってきて、12月3日(日)のホンダ・レーシング・サンクスデーに参加する予定になっている。そこでもいい報告ができるように、カタールのレースではいい成績を残したい。