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タイコエレクトロニクスとアダマンド並木精密宝石、世界初「車載10Gb/sデータリンクシステム」基幹技術を開発

車載イーサネットとして2023年の量産化を目指す

2018年5月22日 発表

 タイコエレクトロニクスジャパンは5月22日、アダマンド並木精密宝石と共同で光ファイバーを利用した世界初の「車載10Gb/sデータリンクシステム」を開発したと発表した。現在、自動車産業は従来の銅線ベースのハーネスから、車載イーサネットへの移行を急速に進めており、自動車の軽量化や来たる自動運転時代に必要となる高速車内通信に備えている。

 今回タイコエレクトロニクスジャパンが開発した「車載10Gb/sデータリンクシステム」は、すでに規格化されているIEEE802.3bw(100Mbps)、IEEE802.3bp(1Gbps)などの車載イーサネットやIEEE802.3bv(1Gbps)の車載光ファイバー通信などの上位版として検討されており、IEEE802.3bpやIEEE802.11bvなどの10倍の速度で通信することができ、自動運転に利用される画像処理をカメラからSoC(System On a Chip)に転送するまでの通信回線としての用途などが考えられる。同社では開発した技術をIEEEに提案していくなどして、2023年には量産化を実現したい方針だ。

自動運転時代にECU~カメラ間では数Gbpsの通信速度が必要になる

タイコエレクトロニクスジャパン合同会社 オートモーティブ 営業&マーケティング本部 松井啓氏

 タイコエレクトロニクスジャパン オートモーティブ 営業&マーケティング本部 松井啓氏は「タイコエレクトロニクスはグローバルで131億米ドルの売り上げがあり、そのうちトランスポーテーション事業が70億米ドル、35億ドルがインダストリアル向けとなる。日本では自動車向けの事業が中心で、コネクターやセンサー、通信関連などを提供している」と同社を紹介した。

TE Connectivityの説明

 タイコエレクトロニクスジャパンはTE Connectivityの日本法人。TE Connectivityはデジタル機器向けのUSBやメモリソケットといったコネクターを提供する企業(昔はAMPというブランドでコネクターを提供しており、その筋では知られた存在の会社だった)として知られている。松井氏が「タイコエレクトロニクスはコネクターメーカーだが、つながるという意味でさまざまな製品を展開している。現在、自動車業界は変革を続けており、パワートレーンやセンサーなども提供している」というように、現在は自動車、産業向けにさまざまなソリューションを提供する企業になっており、自動車向けにはコネクターはもちろんのこと、通信関連、センサーなどを提供していると説明した。

タイコエレクトロニクスジャパンの説明
自動車では高速な回線が必要になる

 次いで登壇したタイコエレクトロニクスジャパン 技術・開発本部 技術開発統括部 小林茂氏は、「弊社はずっとMOSTを提供してきたが、すでに自動車メーカーの興味はより高速なイーサネットや光ファイバーへと移り始めている。今後、ECUとECU、そしてECUとカメラなどの間に数Gbpsから10Gbpsの通信速度が必要になると考えられている」と述べ、車内ネットワークの高速化が待ったなしであると説明した。

タイコエレクトロニクスジャパン合同会社 技術・開発本部 技術開発統括部 小林茂氏

 例えば、自動運転が普及すると車両のあちこちに車両の周囲を確認する高解像度のカメラが取り付けられる。カメラで撮影された画像は、ECUの中にあるSoCに送られて画像認識される。その時に画像は基本的には圧縮しないままECUに送られる(圧縮すると時間がかかり、遅延が発生することになるため。自動運転ではコンマ何秒の遅れが事故になってしまう可能性がある)。この時に、車内ネットワークで必要とされる帯域が数Gbpsになる可能性があり、既存の車載イーサネットの規格の上限(1Gbps)では足りない可能性があるのだ。

タイトル
自動車の高速通信の歴史
自動車の通信

 また、車内でのケーブル接続も今後は高速な幹線でECU同士が接続され、その後支線としてカメラなどに接続されるという形になる可能性が高い。現状では、ECUとデバイス間はアナログのワイヤーハーネスで接続されており、高級車では実に4000mものワイヤーハーネスが利用されているという。これをイーサネットや光ファイバーに置き換えることで大幅な軽量化が実現でき、結果的に燃費も大幅に向上する。

光ファイバーのメリットは電磁ノイズを出さず影響されない。コストは量産が進めばイーサネットと同等に

 こうしたデジタルのデータを送信するための車内通信には、現状ではMOST(Media Oriented Systems Transport)や車載イーネットなどが主に使われている。MOSTはその名の通り、IVI(車載情報システム)など向けに開発された規格で、最新のMOST150では150Mbpsで通信できる(MOSTに関しての関連記事)。ただし、MOSTは一般的にはIVI向けとされており、MOST150の後継となるような規格も現在では考えられていないので、将来的な選択とはなり得ないというのが一般的な捉え方だ。

MOST25よりも400倍高速

 現在、自動車業界で注目を集めているのは、車載イーサネット、そして車載光ファイバーだ。前者は銅線を利用したデータ通信で、PCやサーバーなどで一般的に使われているイーサネットを車載グレードにしたものだ。イーサネットは1980年代から使われている技術で安定しており、すでに車載で利用しても問題ないレベルとされている。IEEE802.3bw(100Mbps)、IEEE802.3bp(1Gbps)という規格がすでに米国の標準化団体であるIEEEで規格化されている。

 タイコエレクトロニクスジャパンが今回発表したのは、そうしたイーサネットの通信速度を上まわる10Gbpsの通信速度を実現した「車載10Gb/sデータリンクシステム」の要素技術となる。小林氏は、光ファイバーの特徴として「伝送路が電磁ノイズを放射しないし、影響を受けない。ケーブルが軽量で断面積も小さい」と説明した。

電磁ノイズの影響を受けにくい光ファイバー

 電磁ノイズとは、ケーブルや電子機器などが発生するノイズで、よく知られている例としては、飛行機に搭乗した時の離着陸時に電子機器をOFFにすることが求められることだ。これは、電子機器が発する電磁ノイズが飛行機の運航システムに影響を与えると考えられていたためで、より高度な備えが必要とされる離着陸時に電子機器をOFFにすることが要求されていたのだ(近年ではほとんど影響がなくなっているため、セルラー回線のOFFだけが要求されるように変わってきている)。

 イーサネットのような銅線を利用した通信では、どうしてもそうしたノイズの放射が大きくなる。もちろん、ケーブルにシールドするなどして対処するのだが、速度が上がれば上がるほどそうした電磁ノイズはどうしても増えてしまう。この影響がIVIなどに出る程度ならいいが、仮に自動運転のシステムが電磁ノイズで影響を受けるということになれば大問題だ。しかし、小林氏によれば光ファイバーであればケーブルから電磁ノイズは放射されないし、逆にほかのケーブルや機器からの電磁ノイズの影響も受けないですむという。

小型化を実現

 今回、タイコエレクトロニクスジャパンが開発した10Gbpsの通信速度を実現する要素技術は、アダマンド並木精密宝石が開発した集積化技術により、MOSTの部品よりも50%の小型化を実現した端子などを利用しており、小型化が特徴の1つとのことだ。すでに振動試験も行なっており、振動が大きな自動車にも搭載できるめどが立っているということだった。公開されたデモでは、振動させている状態でもループ状になった光ファイバーで10Gbpsの通信ができることが確認できた。

振動試験を行なっている
デモシステム
ループでのテスト
コネクター部分
通信している様子

 なお、小林氏によれば開発を2020年ぐらいまで続け、その後2023年をめどに量産技術の確立と国際標準化を目指すという。それに向け、2019年あたりからIEEEなどに対して標準化の提案を続けていく計画という。なお、コストに関しては量産が進めばイーサネットとほぼ変わらないレベルを実現可能だと小林氏は説明した。

 また、今回のデモは5月23日からパシフィコ横浜で開催される「人とくるまのテクノロジー展 2018 横浜」の同社ブースでも行なわれる予定だ。