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パナソニック AIS、テスラとの協業について伊藤好生社長「テスラの工程改善が進み、ボトルネックは解消されはじめている」

2018年度事業戦略説明会で「売上高を牽引するのは車載電池」と伊藤社長

2018年7月2日 発表

パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の伊藤好生社長

 パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ(AIS)社の伊藤好生社長(パナソニック 代表取締役副社長執行役員)は7月2日、2018年度の事業戦略について説明。米テスラとの協業については「テスラの工程改善は急速に進んでおり、ボトルネックは解消されはじめている。セルの供給について、まだ当初の計画数量までには到達していないが、安定供給を心配しなくてはならない可能性が出てきた」などと説明した。

 また、日産自動車が計画していた電池事業子会社の株式譲渡が中止になったことについては、「電池は生産プロセスが違うため、他社のリチウムイオン電池の設備は生かせない。だが、人的リソースは必要であり、エンジニアが枯渇しているのも事実である。その点では興味がある」などと述べた。

 さらに、1月に発表した小型EVプラットフォームの「ePowertrain」については、「2021年度までの事業計画に入っているわけではない」として、中期的な視点で事業を推進する姿勢を示した。

2017年度の売上高1兆7000億円から引き上げを牽引するのは車載電池

 今回の説明会は、2018年5月30日にアナリストを対象に開催したIR説明会「Panasonic IR Day 2018」の内容を補足する形で開催したもので、大阪・門真のオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社で行なわれた。当初は、6月18日の開催予定だったが、大阪北部地震の発生により、7月2日に延期されていた。

 伊藤社長は、「2013年にはICT部門の売上げが伸びず、収益悪化が加速していたが構造改革を実行。2017年度には、ようやく車載、産業への転地を図った成果があがり、増収増益へと反転した。2018年度は、中期経営計画の最終年度として重要な1年となる。車載、産業を中心とした事業構造は変えることなく、当社の強みを生かし得意な分野に集中して、収益を伴った事業成長を目指す」との基本姿勢を示した。

 また、同社では2021年度に車載事業で売上高2兆5000億円の目標を掲げて、自動車部品メーカーのトップ10入りを目指す方針を示しているが、「2017年度の売上高1兆7000億円からの引き上げを牽引するのは、車載電池である。テスラだけでなく、複数のメーカーに納入することになる。コックピットやデバイスなどを含めた自動車部品の市場成長率は8%程度である。パナソニックはその領域では2倍程度の成長がある。ティアワンの部品メーカーの多くは、もっとも成長する電池事業を持っていない。電池の需要が階段状に成長していくことを考えると、トップ10に入ることはそんなに難しいとは考えていない。手中にある」と自信をみせた。

 だが、その中で、AIS社の事業戦略において注目されているのが、テスラとの協業の行方だ。

テスラの「モデル3」
ギガファクトリーで生産される「2170」サイズの円筒形電池セル

 テスラの「モデル3」向けの車載用円筒形電池は、米ネバダ州のテスラのギガファクトリーで生産しているが、モデル3の量産が遅れ、販売の期ずれが発生。パナソニックの収益を圧迫している。

 伊藤社長は、「期ずれが発生したのは事実だが、工程改善は急速に進んでおり、セルの供給について、少し心配しなくてはいけないという可能性も出てきた。在庫を十分に持つという考え方もあるが、エネルギー密度が高いため、保管場所の制約もある。モデル3の生産実績にあわせて、順次、生産ラインを立ち上げる予定である。日本からも相当の人員を送り込んで、最大限の努力をしている。当初の事業計画までには到達していないが、ボトルネックは解消され始めている」と発言。今後、売上げや収益においてプラス要素に働くとの見通しを示した。

 また、「テスラのギガファクトリーでは、第1期の戦略的設備投資を行ない、35GWhの生産規模を目指している。これに対する追加投資は決めていないが、テスラから要望があれば検討していくことになる」などとした。

 一方で、電池の総生産量では、中国CATLに逆転されたとの調査結果が発表された点については、「パナソニックは、円筒形、角型ともに車載向けに絞っており、2017年度の統計をみても、約3分の1をパナソニックが占めている。円筒形は、ニッケル系の高容量タイプをテスラ向けに供給しており、この技術は角形電池にも応用している。パナソニックの強みが生かせるのはエネルギー密度が高い高容量タイプであり、技術開発のロードマップもその方向性を打ち出しており、そこでは競争力があると考えている」とコメント。

 その一方で、「多くの自動車メーカーからの引き合いがあるが、パナソニックの人的リソースや設備、サプライチェーンに課題があり、すべての需要に応えることができない。パナソニックの強みが生かせる電池を、付加価値として認めてもらっている顧客としっかりと手を組みたい」とした。

 2018年3月末時点では、12社74モデルに対して、電池を供給しているとしたが、「そこから8モデルほど採用が増えている。さらに10数モデルの引き合いがある。取引先の数に上限を設けているわけではないが、商品ラインや技術力を評価してもらっている企業だけに展開し、それらの企業と一緒に成長していくのが、パナソニックの基本姿勢である。何km走ったらいいのかという指標も各社さまざまであり、高出力を求めるメーカーと、高容量を求めるメーカーがある。パナソニックはバリエーションを増やして器用に対応することは考えていない」などとした。

 中国では、政府が推奨する車載用電池メーカーを示す「ホワイトリスト」(通称)があり、ここに掲載されることが、自動車メーカーからの調達に優位になったり、中国政府からの補助金が得られるなどのメリットがあるとされている。CATLはこのリストに掲載されていることから、自動車メーカーが相次いでCATLの電池を採用するといった動きがある一方で、パナソニックの車載向け電池工場として稼働した大連工場は、このリストには含まれていないため、中国での展開において不利ともみられている。

 伊藤社長は、「中国政府の説明から、ホワイトリストに掲載されることと、補助金とは関係がないと理解している。また、大連工場は、今年3月から顧客向け出荷を開始しており、生産実績が1年以上という基本条件を満たしていない。時期がくれば申請したいと考えている」としたほか、「円筒形電池は、中国の無錫と蘇州で作っている。蘇州では、車載用円筒形電池の生産拠点として登録されているが、ここでは、基地局用やデータセンター用バッテリーなどが中心になっており、それで手一杯になっている。車載用としての展開は考えていない」とした。

 パナソニックは、2018年1月に米ラスベガスで開催されたCES 2018において、小型EVプラットフォーム「ePowertrain」を発表。小型EVコミューターの走行実証実験を福井県永平寺町などで実施しているが、これについて伊藤社長は、「一般的なEVは、350V以上の高電圧のものになるが、小型EVは48Vのバッテリーを搭載したものになる。距離という点ではあまり動かなくてもいいが、ちょっとそこまでという用途に利用できる。こうしたニーズは、相当増えることが考えられる。だが、2021年度の計画にはほとんど盛り込んでいない。需要があるのかどうかを調査している段階であり、どこの顧客に、どのような用途で導入するといったことが発表できる段階ではない。しかし、こうした用途を提供することで、事業ニーズが広がると考えている。例えば、高齢者や子供といった交通弱者に対して、交通移動手段を提供する上で、自動運転や無人運転につながるものを提供したり、サービスを組み合わせたりすることで、社会貢献を果たし、人とモノの移動に対するお役立ち領域を拡大することにもつながる」と述べた。

 だが、「これは、パナソニックが、自動車メーカーとして事業を展開することにつながるものではない」とした。

 日産の電池子会社であるオートモーティブエナジーサプライが、中国ファンドへの売却が中止になった報道については、「車載向け電池には、円筒形と角形があり、なにを主成分にしているのか、なにを特徴とした電池にするのかといった違いがあり、ここにレシピやプロセスの違いがある。他社の電池事業を買収したとして、そのまま生産設備が利用できる可能性はほとんどないと考えている。なにが資産として活用できるか、ということを考えた場合に、まるまる買収するという判断はない。だが、電池の進化に向けた開発などを考えれば、人的リソースについては枯渇しており、その点では関心があるといえば、関心がある。とはいえ、日産自動車が事業の継続を考えたのであれば、われわれがなにかできるものではない」と述べた。