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パナソニック AIS、2021年度には売上高2兆5000億円。自動車部品メーカートップ10へ
2018年6月1日 17:44
- 2018年5月30日 開催
パナソニックは5月30日、アナリストを対象にした「Panasonic IR Day 2018」を開催し、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ(AIS)社の事業方針について、同カンパニーの伊藤好生社長が説明した。
その中で、車載電池の納入先が2018年3月時点で12社74モデルに拡大していることを明らかにしたほか、2019年度の車載事業の売上げ計画2兆円のうち89%が受注済みであること、2021年度には売上高2兆5000億円を目指し、自動車部品メーカートップ10入りすることを改めて強調。テスラ「モデル 3」の量産が遅れるなど「テスラリスク」が指摘されるが、「トップランナー顧客と組み、ナンバーワン製品を投入し続けることで次なる成長を目指す」と意欲を見せた。
パナソニックのAIS社は、IVI(In-Vehicle Infotainment:車載インフォテイメント)やコックピットシステム、車載充電システム、電子ミラー、センサーなどを担当するオートモーティブ事業のほか、乾電池、蓄電モジュール、車載用や蓄電用の円筒形リチウムイオン電池、車載用角形リチウムイオン電池などを担当するエナジー事業と、車載電源やコネクタ、イメージセンサー、化合物半導体、IPS方式液晶パネルなどを担当するインダストリアル事業で構成される。エナジー事業には、テスラ向けに円筒形リチウムイオン電池などを提供するテスラエナジー事業部が含まれている。
2017年度実績は、売上高が16%増の2兆8035億円、営業利益が2%減の914億円
AIS社の伊藤社長は2017年度の実績について、売上高が前年比16%増の2兆8035億円、営業利益が2%減の914億円になったことに触れながら、「2017年度は増収減益となったが、車載事業や産業向けデバイスが好調に推移し、3事業全てで増益となった。また、営業利益は減益となったが、前年度の法務関連戻し益や事業譲渡益の反動の要因があり、事業から創出される利益だけでみれば317億円の増益となった。なかでも、車載・産業分野へのシフトを図るインダストリアル分野の収益が大きく改善した」と総括。
「オートモーティブ事業では、電子ミラーなどを展開するフィコサの連結化、IVIやコックピットの新製品の増販が増益に寄与したが、新製品立ち上げに伴う、サプライチエーンの混乱によるロスコストが発生して、収益を下押しした。IVIやヘッドアップディスプレイ、充電器といった新製品は、本来は日本で立ち上げてグローバルに展開することが多いが、グローバルで一斉に立ち上げたことで販売が急激に増加。部品不足もあり、かなりの部分を空輸することになり、ロスコストが発生した。モノづくり体制を強化するなどすでに対策を取っており、2018年度は健全な構造となってロスコストを大きく削減できるだろう」。
「エナジー事業では、小型二次電池を動力や蓄電向けにシフトしたことにより収益が改善。だが、車載用円筒形電池がテスラのネバダ工場での増販が遅れ、販売の期ずれが発生して収益を圧迫した。インダストリアル事業は、一部で需要増による納期問題が発生したが、100%子会社化したパナソニックデバイスSUNXとモーター事業との連携が功を奏し、産業デバイスが大きく伸長した。半導体や液晶などの再生事業の収益も改善した」と振り返った。
エナジー事業では、テスラのモデル 3の量産が遅れたことで、テスラ向けの車載電池の生産調整を行なったことが影響しているが、「車載向け円筒形電池のメインの顧客がテスラであるのは確かだ。だが、テスラ側のボトルネックは直近ではかなり改善しており、それに対応すべくセルの供給に向けた準備をしている。情報連携は密にしており、今後はモデル 3の量産においてリスクにならないように対応していく」と述べた。
さらに「AIS社は車載産業を成長分野と定め、収益を伴った成長を確実なものとするためにさまざまな投資を行なってきた」とし、「福井県永平寺町やけいはんな学研都市の公道において、自動運転走行の実証実験を開始したこと」「トヨタ自動車と車載用角形電池で協業の検討を開始し、2018年度中に一定の方向性を示すこと」「フィコサのモロッコ工場の開所、モーターの中国珠海工場の拡張、高機能多層基板材料の中国広州の新工場など、旺盛な需要増に向けた増産体制を構築していること」を強調した。
一方、2018年度の事業方針については、「AIS社にとっては、大規模投資の刈り取りを着実に行なうタイミングに入ってきた。車載産業分野での事業成長により、収益拡大を軌道に乗せる大事な年になる。増収増益を目指し、パナソニック全社を牽引していく」と宣言した。
2018年度のAIS社の売上高は前年比7%増の3兆円、営業利益は46%増の1360億円、営業利益率4.5%を目指す。「売上高は、為替影響を除くと3事業の全てで増収を見込む。特にエナジー事業は角形、円筒形ともに引き合いが好調な車載電池が牽引し、大幅な成長を見込んでいる。オートモーティブ事業は小幅な成長となっているが、これは2017年度の着地が販売好調により大幅に上振れした影響である。また、営業利益も全ての事業で増益を見込んでおり、エナジー事業は車載電池の大幅な増販益を見込み、インダストリアル事業は車載産業向けデバイスの成長や、収益改善事業である半導体、液晶の黒字化に向けた取り組みを強化して、収益の改善が寄与する」とした。
同カンパニーでは、積極的な投資を行なう「高成長事業」に、インフォテインメントシステム、車載エレクトロニクス、フィコサ、テスラエナジー、オートモーティブエナジー、メカトロニクスの6つの事業を位置付け、これらが同カンパニーの過半を占めている状況にある。カンパニー全体が積極投資段階にあるともいえ、「この領域に経営リソースを重点配備する」と述べた。
2018年度は付加価値商品の車種横展開などを進め、増収増益を目指す
また、伊藤氏は2018年度の事業別の戦略についても説明。オートモーティブ事業は、IVI、コックピット、ADAS、電動化の重要4カテゴリーが本格増販に寄与するほか、フィコサ連携の電子ミラー、通信ユニットなどの増販効果を見込んでいる一方、次世代コックピットなどへの開発投資を継続するという。
2018年度の見通しは、売上高は前年比1%減の9227億円、営業利益は37%増の434億円。「2018年度はこれまで投資してきた開発費の償却が増加するものの、IVIやコックピットなどの付加価値商品の車種横展開などを進め、為替影響を除いて増収増益を目指す」という。
エナジー事業は、経営基盤の強化を図ることを目的に、2018年度からの組織体制を顧客、業界別に再編。車載電池では、テスラなどの重点顧客の需要に同期した増産や稼働率向上に取り組み、円筒形、角形ともに増収を見込んでいる。
売上高は35%増の7580億円、営業利益は162%増の291億円を見込む。「大規模投資による設備償却費や人権費などの固定費増や、コバルトやリチウムなどの材料高騰の影響はあるものの、車載電池の増販益や合理化などでカバーし、増益を目指す」とした。
なお、希少鉱物の材料高騰に関しては、「想定以上に高騰したものは顧客とリスクをヘッジする契約を進めているが、その一方で、これらを使わずに同等以上の性能が発揮するための開発を進めている。円筒形で使用しているニッケル系では、コバルトの使用量を減らすことができている。早晩、コバルトをゼロにできる。角形についても、コバルトで安定性を図っているが、コバルトの使用量を削減する取り組みを同時に進めている」と述べた。
インダストリアル事業は、基盤事業と位置付けるメカトロニクス事業部、デバイスソリューション事業部、電子材料事業部において、FAモーターやセンサーなどの産業デバイス、EVリレーや受動部品などの車載向けデバイスでの増販により、さらなる高収益化を図る一方、半導体や液晶の再生事業については、合理化や歩留まり向上、品種構成の見直しなどで限界利益を改善し、2019年度の黒字化を目指しているとした。売上高は4%増の9841億円、営業利益は33%増の558億円を見込んでいる。
なお、設備投資については、2017年度に2264億円の実績に対して、2018年度には2410億円を見込んでいることに触れ、「2017年度には2000億円を上まわる投資を実行したが、車載センサーの期ずれに対応し、稼働時期を遅らせることで償却費の抑制を図り、経営への影響を最小化した。2018年度もネバダ工場、姫路工場、大連工場といった車載電池工場を中心に投資をする。旺盛な需要に的確に対応していくとともに、顧客の生産計画や需要を見極め、段階的な投資で引き続き、リスクの最小化に取り組む」とした。
中期戦略となる車載事業の売上高2兆円は、89%が受注済で2019年に達成見込み
一方で中期戦略についても言及。中でも重要な指標となる車載事業の2019年度の売上高2兆円についても説明した。
「当初は、中期経営計画の最終年度となる2018年度に売上高2兆円を目指してきたが、これは2019年度に達成することになる。円高が要因となっているほか、M&Aによる非連続事業の獲得の見送り、車載電池の販売の期ずれが影響している。しかし、2019年度には車載電池の納入車種拡大などにより、売上高2兆円を達成できると見込んでいる。そして、昨年度に掲げた2021年度の売上高2兆5000億円の目標は変える予定はない。これにより、自動車部品メーカーのトップ10入りを目指す」と述べた。
2019年度の車載事業の売上げ計画2兆円のうち、すでに89%が受注済みであり、「2019年度については安心している」とした。
オートモーティブ事業では、重点4カテゴリーに引き続き注力して収益成長を図るとし、特にコックピットではフィコサとの連携、IVIではシステム受注により事業拡大を目指すとした。また、ADASはデジタルAVで培った画像処理や画像合成技術の強みを生かし、低速ADASでの受注を拡大。自動駐車システムの提案を加速するという。
「パナソニックの強みは、携帯電話やテレビの技術者を車載事業に転換している点にある。通信の技術者は約200人おり、テレビで培った映像関連の技術者もかなりの人数がいる。LinuxとAndroidの2つのプラットフォームを持っており、顧客の要望に合わせていずれかを使ってもらっている。トヨタの場合はLinuxをベースに進めている。パナソニックが、これらの技術を持っている点は、クルマメーカーから高い評価を得ている点である」と胸を張った。
電動化では、今後成長が期待される中国、欧州での事業拡大を図ることになる。「複数のカーメーカーから受注済みの小型軽量の車載充電器を成長させたい。また、統合コックピットやADAS、電動化などの保有する技術を掛け合わせて、移動する全ての人に配慮した、モビリティ社会に求められる新たなサービスの事業化にも挑戦する」と述べた。
2018年度におけるオートモーティブ事業における重点4カテゴリーの売上げ構成比は27%の約6800億円を見込んでおり、2016年度の約2500億円から大幅に拡大しているほか、2020年度には2018年度比で倍増する計画を掲げていることも明らかにした。「まだ、投資が先行しており利益は少ないが、安定した高収益事業に成長することを見込んでいる」という。
なお、IVIについては第2世代の開発に着手しており、2022年度にはこれを製品化できると明言。「現行の約60%のプラットフォームを流用できる。開発費削減にもつながる。受注を確かなものにしたい」と語った。
エナジー事業では、車載電池の急速な需要に合わせて体制を拡大。「現時点で、自動車向けの供給量においてはグローバルナンバーワンメーカーであると認識しているが、今後の需要拡大に向けて単に量を追うのではなく、収益性と確実な投資回収を念頭に置き、質を重視した段階的な投資を進めていく」とし、「姫路工場では2019年度以降に角形電池の量産を開始」「ネバダ工場は円筒形で年間35GWh超の生産体制へ拡大」「大連工場では顧客単位で角形電池のラインを増強していく」の3つを示した。
「車載電池は2017年度では2桁増となっており、2018年度も相当な成長を見込んでいる」としたが、「今は設備投資先行型になっており、稼働が始まれば償却費負担が増加し、それが終わるまでは利益率は低い。償却が終わった後には投資回収がきちっとでき、2桁に近い収益性にまでもっていきたい」とした。
だが、伊藤社長は「各国の環境規制や燃費規制の影響もあり、電動車へのシフトが加速したり、新たなメーカーが数多く参入したりしているが、当社は全てのメーカーと取引できるとは考えていない。パナソニックの電池の優位性を理解し、さまざまな面で価値観を共有でき、リスクをシェアするトップランナー顧客との関係を進化させていくことになる。その考えの下で、テスラ、トヨタなど、グローバルの12社のトップライナー顧客に対して、車載電池を導入している。これらの実績をベースに車載電池事業を成長させたい。そのためには、顧客とより密接に連携し、当社の電池を顧客の要望にふさわしい電池に進化させなくてはならない。角形、円筒形共に開発の手を緩めることなく、車載用リチウムイオン電池を極めていくことになる」などとした。
車載電池は2017年3月時点では68モデルに納入していたが、2018年3月時点で12社74モデルに拡大。「テスラ以外では、2020年以降に向けてバッテリーEVやプラグインハイブリッドといった高容量型のリチウムイオン電池の需要が大きいと見込んでおり、高い安全性、高容量、高入出力の特徴を生かして提案していく」とした。
また、車載以外では電池を使用する事業の創出に取り組むとし、「パナソニックの蓄電システムは、信頼性や寿命などに優れており、IoTやデータセンターのビッグプレーヤーでの採用や、インドなどの厳しい気候状況においても基地局のバックアップ電源としての採用が進んでいる。また、バッテリーの遠隔監視やバッテリーシェアリングなどの新たなサービスの創出に取り組む」と述べた。
インダストリアル事業については、車載産業の中でも社会的な要請が大きい「省人化」「情報通信インフラ」「車載電装化」にリソースを集中し、安定成長と高収益を目指すとした。
省人化においては、自動化を支えるサーボモーターやセンサーなどの基幹部品のシステム提案を促進。情報通信インフラでは、独自技術により導電性コンデンサや多層基板材などで圧倒的シェアを維持。車載電装化では、EVリレーなどの強いデバイスを核に、パワーコントロールユニットなどに取り組む一方、インダクタなどの高信頼技術をベースにした事業で成長を目指すという。
伊藤社長は「AIS社は、ICTなどの既存分野の減収を車載産業分野に転地することで、2017年度にこれまでの減収基調から増収へと転換することができた。また、単なる商品を販売するのではなく、顧客に密着し、困りごとに対して商品をモジュール、システムとして提案することで付加価値の向上を図り、顧客との信頼関係が収益向上につながっている。AIS社の勝ちパターンは、業界をリードするトップランナー顧客と組み、特徴ある独自技術で業界ナンバーワン商品を開発し、積極投資により成長し続けることの掛け算であると考えている。ビジネスチャンスはあらゆるところにあるが、『あれもこれも』ではなく『あれかこれか』といったように、特徴や強みを生かせる領域にフォーカスし、リソースを集中させることで収益を伴った成長を果たしたい」などと語った。