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BlackBerry、ルネサスのR-Car向けに仮想化・機能安全・セキュリティ統合ソフトウェア環境を提供開始

「BlackBerry QNX ハイパーバイザー2.0」

2018年10月23日 実施

 カナダのBlackBerryは10月23日、東京都内で記者会見を行ない、半導体メーカーのルネサス エレクトロニクスの自動車向け半導体製品「R-Car」シリーズ向けの仮想化・機能安全・セキュリティを実現する統合ソフトウェア開発環境を提供していくと明らかにした。

 BlackBerryがかつて買収したQNXのブランドで提供される自動車向けソフトウェア「BlackBerry QNX ハイパーバイザー2.0」は、機能安全を必要とするメータークラスターと、AndroidやLinuxといったOSで動作し機能安全までは必要としないインフォテインメントシステムを、ハイパーバイザーという仕組みを利用することで1つのSoC(System On a Chip)で相互に影響を及ぼさないようにして安全に作動させることができる。

 BlackBerryとしては従来からサポートできているIntelやNVIDIAに加えて、ルネサスが選択肢として加わることで、より顧客となる自動車メーカーやティア1の部品メーカーに提案しやすくなるメリットがあり、ルネサス側にしてみれば、自社ではカバーしきれないソフトウェアのサポートをBlackBerryにしてもらえるというメリットがある。

BlackBerry QNXの仮想化・機能安全・セキュリティ統合ソフトウェア環境がルネサスのR-Car向けに提供開始

BlackBerry Technology Solutions セールス&マーケティング担当 上級副社長 ケイヴァン・カリミ氏

 BlackBerry Technology Solutions セールス&マーケティング担当 上級副社長 ケイヴァン・カリミ氏は「BlackBerryの創業精神は社会にとって重要ななにかを提供することだった。携帯電話を提供する会社からセキュリティ・ソフトウェアの会社になってからもそれは変わっていない。今はエンタープライズセキュリティや自動運転や自動車向けのセキュリティなどの提供でそれを実現していく」と述べ、BlackBerryが創業時のエンタープライズ向けの携帯電話から、エンタープライズセキュリティや自動車、ミッションクリティカル向けのソフトウェア企業にビジネスを変化しても、会社の根本は変わっていないと説明した。その上で「日本は非常に重要な市場。特に自動車産業では重要な位置を占めており、日本の顧客と協力して自動運転社会を実現していきたい」と述べ、日本の自動車メーカーとの協業に力を入れていると強調した。

BlackBerryの創業の精神

 QNXが提供している機能安全などを実現するソフトウェアは多くの産業で使われており、カリミ氏は「トップ10の商業銀行と保険会社すべてが、G20のうち17か国でBlackBerryのセキュリティ技術を採用している。自動車に関してはすでに1億2000万台に採用されており、トップ10の自動車メーカーのうち9社、トップ8のティア1部品メーカーのうち8社が採用している。さらに重要なことはお客さまと取り組んだプロジェクトは290もあり、すべてが成功した」と述べ、自動車産業でもBlackBerry、そしてその傘下のQNXのソフトウェア・セキュリティ技術の採用が進んでいるとした。

自動車におけるセキュリティの経験
自動車メーカーのパートナー

 カリミ氏は「われわれは車載ソフトウェアのプラットフォーム技術を提供している。競合もその一部を提供しているところはあるが、弊社のように一気通貫で採用しているベンダーは他にない」とQNXの強みを強調し、その上で、それらを日本の自動車産業に提供するパートナー向けのプログラムとして提供しているVAI(Value-Added Integrator)プログラムに、日立超LSIシステムズ、アイ・エス・ビーの2社が参加したことを明らかにした。両社はSIer(システムインテグレータサービスを提供する企業のこと)として、技術サポートとサービスを顧客に提供していく。

2社が国内の新しいSIerに

 また、今回は会場への来場はかなわなかったものの、ビデオカンファレンスの形でルネサス エレクトロニクス オートモーティブソリューション事業本部 テクニカルカスタマーエンゲージメント統括部 シニアディレクター 吉田正康氏が参加し「今後の自動運転、コネクテッドカードでは、自動車のエレクトロニクスをめぐる環境は大きく変わり、ソフトウェアの重要度が増す。特に仮想化、機能安全、セキュリティが重要になると考えており、QNXをR-Carのプラットフォームとして利用できるように、BlackBerryとパートナーシップを組んでやっていきたい」と述べ、QNXとのパートナーシップが発展していることを喜んだ。

ルネサスとの協業をさらに深化
ルネサス エレクトロニクス株式会社 オートモーティブソリューション事業本部 テクニカルカスタマーエンゲージメント統括部 シニアディレクター 吉田正康氏

 BlackBerryとルネサスのパートナーシップでは、ルネサスの車載用SoCとなるR-Carに、仮想化・機能安全・セキュリティを統合したソフトウェア開発環境を両社が提供していく。この開発環境はルネサスのR-Carシリーズと、QNXのソフトウェア開発プラットフォーム「SDP 7.0」「BlackBerry QNX ハイパーバイザー 2.0」から構成されており、R-CarのSoC1つで、メータークラスターとインフォテインメント用ゲストOSとしてAndroid、Linux、AUTOSARなどを選択することができるようになる。

R-CarとQNXを利用したデモ。4つのカメラをコントロールしている
R-CarとQNXハイパーバイザー 2.0を利用したデモ
R-CarとQNXを利用したデータの可視化のデモ
そのほかのカリミ氏のスライド

自動運転時代を見据えたソフトウェアにより定義されるハイパフォーマンス車載コンピュータが主流に

BlackBerry 上級副社長 兼 BlackBerry QNX ジェネラルマネジャー ジョン・ウォール氏

 BlackBerry 上級副社長 兼 BlackBerry QNX ジェネラルマネジャー ジョン・ウォール氏は「自動運転とコネクテッドカーで起きていることはソフトウェアの革命だ。グローバルに見れば2035年には自動運転を超えてレベル3、レベル3+、レベル4などの自立運転がもっと広範囲に受け入れられると考えられており、それをリードしているのはアジアだ。日本でも日本政府がレベル3相当の自動運転車を2030年までに国内の新車販売の3割以上にするという目標を掲げたという報道があったが、そうした認識が各国で共通になりつつある」と述べ、自動運転の普及で事故の低減や、CO2排出量の削減、渋滞の減少による経済効果など社会にとってさまざまなメリットがあると説明した。

コネクテッドカーと自動運転のメリット
日本政府の方針の報道

 ウォール氏は「現在、高級車は1台で150のECUがあり、それらを合計すると100万行にもなるプログラムコードになっている。OTAなどでのアップデートはほぼ不可能であり、開発も自動車メーカーではなく、それぞれ異なるティア1の部品メーカーで開発されているといったこともあって、セキュリティ上の懸念になりつつあった。しかし、スマートフォンやPCのような高性能のコンピュータを1つ搭載し、ECUを置き換えていけば、ソフトウェアでさまざまな機能を実現することが可能になる。重量や配線だけでなくコストも減らせて、そして課題があればOTAでアップグレードすることも可能だ」と述べ、QNXが提供するハイパーバイザーの仕組みを利用することで、1つのSoCで機能安全を必要とするOSとインフォテインメントのOSを、メモリ空間を別にして相互に影響を及ぼさないように実行していくと説明した。

現行のECU
将来のハイパフォーマンスコンピューティング

 ウォール氏は「2030年にはBOM(部材コスト)の50%が電装系になり、そのうち30%がソフトウェアのコストになると考えられている。それと同時に、ソフトウェアこそが他メーカーとの差別要因になる。今後自動車メーカーはソフトウェアを内製にする方向に向かっていると考えられ、例えば、機能をソフトウェアでONにしたりOFFにしたりするのをオプションとして販売するといった新しいビジネスモデルも考えられる」と述べ、自動車メーカーが従来サプライチェーンを重視していた状況からエコシステムを重視する方向に変わっていくだろうとした。

ソフトウェア化のメリット
自動車がプラットフォームに
自動車のアプリケーション

 最後にウォール氏は「自動車の未来は必ずソフトウェア定義になる。スマートフォンのiOSやAndroidがそうだったように、最初は複数のプラットフォームが混在すると考えられるが、時間が経てば1つか2つに集約されていくだろう」と述べ、その時代を見据えたソフトウェア開発環境の導入が必要だとアピールした。

ジャガー「XJ」を利用したデモ
トランクルームにIntelのApollo Lakeの開発ボードが納められていた
QNXで実現されているメータークラスターとAndroidのインフォテインメントは、互いに異なるメモリ空間で動いており、それぞれ隔離されている
ウォール氏のそのほかのスライド