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自律走行ロボット「AiR」や自動運転フォークリフト「Rinova AGF」のデモなど、トヨタL&Fの最新技術発表会

「CASE」戦略でスマート物流の実現を目指すトヨタL&Fの取り組み

2020年2月7日 開催

自律走行ロボット「AiR」シリーズで主にピッキングの作業負荷を低減を目的にした「AiR-T」のデモを披露

 豊田自動織機 トヨタL&Fカンパニーは2月7日、トヨタL&Fの最新技術として自律走行ロボット「AiR」シリーズ、自動運転フォークリフト「Rinova AGF」のデモンストレーションを公開するとともに、物流業界の「働き方改革」実現に向けた同社の取り組みを紹介する発表会を開催した。

 公開された自律走行ロボット「AiR-T」は、人の移動に追従する機能を備えた荷台付きロボットで、主にピッキングの作業負荷を低減を目的にしたもの。デモンストレーションでは、作業員の動きに追従して、まるでペットのように動いていたのが印象的。ピッキング作業が終了すると自律走行で集荷場に向かう仕様だ。

人の動きに追従して動く「AiR-T」
ピッキング作業が終了すると自律走行で集荷場に向かう

 Rinova AGFは、周囲の障害物やレイアウトを把握して自律的に状況判断を行ない荷物を移動させる自動運転フォークリフト。ラックに収められている荷物を取り出すフォークリフトの機能も自動化されており、立体的に荷物を移動させることができる。また、レーザーSLAMを採用することで磁気マーカーの設置など走行路の床面工事を削減していることを特徴としている。

無人で作業をこなすRinova AGF。有人による操作も可能

誰でも活躍できる“スマート物流”の実現を目指す

 近年、eコマース市場の拡大や労働力不足といった環境変化を背景に、物流業界では効率化・省人化を実現する製品の開発が求められているという。

 同発表会には、豊田自動織機 トヨタL&Fカンパニー プレジデントの水野陽二郎氏、同 執行職 R&Dセンター長の一条恒氏、同 国内営業部 部長の小倉崇氏が登壇。省人化による労働力不足解消を目指す最新のオートメーション技術、女性や高齢者、さまざまな国籍の人など多様な人材が活躍できる労働環境の整備、安全への取り組みなど、物流業界の「働き方改革」実現に向けた同社の取り組みを紹介した。

株式会社豊田自動織機 トヨタL&Fカンパニー プレジデント 水野陽二郎氏

 冒頭にあいさつしたトヨタL&Fカンパニー プレジデントの水野氏は、物流業界をめぐる外部環境の変化として、2025年に超高齢化社会を迎えることによる労働者不足、女性や高齢者、さまざまな国籍の人が働く職場のダイバーシティ化、企業の働き方改革の取り組み加速していることを紹介。物流業界の現状と課題については、労働力不足、eコマース進展による仕事量の増加、配送の小口化とスピード化があり、物流業界の負担が増大していることを指摘。政府が掲げる“スマート物流”の実現に向けて、同社でも取り組みを推進していることを示した。

トヨタL&Fの2030年ビジョン
2017年に買収した、物流倉庫向けシステム、小包・郵便向けシステム、空港手荷物向けシステムを手掛けるオランダの「Vanderlande」、倉庫内物流機器の制御や管理を行なうソフトウェア開発力を有する「Bastian Solutions LLC」とのシナジーで次世代物流革新の実現を目指す
物流業界を取り巻く環境を示すスライド

 水野氏は「そのような背景から、このスマート物流を実現する次世代ソリューション技術開発がさらに高まることが考えられます。このようなニーズに対応するため、豊田自動織機では創業以来培ってきたカイゼンやトヨタ生産物流方式におけるノウハウを活用しながら、次世代物流ソリューションの開発に取り組んでまいります。そのソリューションの1つがオートメーションであり、トヨタL&Fでは他社も巻き込んだオープンイノベーションで取り組み、年齢や国籍、性別にとらわれない、誰でも活躍できる開かれた物流現場をスマート物流として実現したいと考えております」と話した。

スマート物流への取り組みを示すスライド
安全への取り組みを示すスライド

「CASE」戦略でスマート物流の実現を目指すトヨタL&Fカンパニー

株式会社豊田自動織機 トヨタL&Fカンパニー 執行職 R&Dセンター長 一条恒氏

 スマート物流の実現に向けた具体的な取り組みについては、トヨタL&Fカンパニー 執行職 R&Dセンター長 一条恒氏が説明。同社のオートメーション技術開発の方向性を示した。

 現在の物流業界においては、荷量が拡大する一方で、フォークリフトを使わないユニット単位での物流が拡大。また、物流センターの大型化、自動化、IT化、荷物の細分搬送が急進展しているという。

労働力不足を示すスライド
物流業界の量的拡大と質的変化を示すスライド
物流業界の量的拡大と質的変化に合わせて物流センターの自動化が進んでいるという
政府が掲げる「Society 5.0」は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)と定義されている
物流業界における2030年のありたい姿
トヨタL&Fがスマート物流で目指す姿のコンセプトイメージ
トヨタL&Fがスマート物流で目指す姿のコンセプトイメージ

 こうしたことを背景に、同社は2017年に物流倉庫向けシステム、小包・郵便向けシステム、空港手荷物向けシステムを手掛けるオランダの「Vanderlande」、倉庫内物流機器の制御や管理を行なうソフトウェア開発力を有する「Bastian Solutions LLC」を買収した。

トヨタL&Fの「CASE」戦略

 一条氏はトヨタL&Fの技術開発の方向性として「CASE」戦略を取ることを示し、既存のフォークリフトについては電動化(Electric)による環境対応で商品力を強化するとともに、知能化/自動化(Autonomous)を活用したロボティクス技術で高度作業支援や自律化を進める。

自動運転フォークリフトの知能化自動化の例
自動運転フォークリフトの知能化自動化の例
中部国際空港で実施された自動運転トーイングトラクターの実証実験の紹介
物流ロボットAiRシリーズの紹介
ピッキング、清掃、搬送など用途に応じたアタッチメントを装備して、カスタマイズ可能な物流ロボットAiRシリーズ

 さらにVanderlandeやBastian Solutionsとの事業領域において、倉庫全体や物流全体に向けたソリューションサービス(Solution&service)、システム化やコネクテッド化(Connected)のサービス提供を推進していくという。

コネクテッド領域の技術開発
ソリューション領域ではVanderlandeやBastian Solutionsの製品群を活用して物流ソリューションを提供する
2017年に買収した、物流倉庫向けシステム、小包・郵便向けシステム、空港手荷物向けシステムを手掛けるオランダのVanderlande、倉庫内物流機器の制御や管理を行なうソフトウェア開発力を有するBastian Solutions LLCとのシナジー効果でソリューション提供を進める

 今回公開された自動運転フォークリフトのRinova AGFや自律走行ロボットのAiRシリーズは、同社が開発をすすめる「オートメーション技術」が作り出す先進的な物流現場の姿の1つの例を紹介するもの。会場では、ゲストとして日本通運 ロジスティクスエンジニアリング戦略室 専任部長 中野喜正氏が登壇して、「働き方改革」のモデル職場として、自動運転フォークリフト導入により夜間の完全無人化職場を実現させた日本通運の事例も紹介された。

日本通運株式会社 ロジスティクスエンジニアリング戦略室 専任部長 中野喜正氏
自動運転フォークリフト導入により、夜間の完全無人化職場を実現させた日本通運の事例を紹介するスライド

フォークリフト事故削減に向け安全運転支援機能を標準搭載に

株式会社豊田自動織機 トヨタL&Fカンパニー 国内営業部 部長 小倉崇氏

 また、この発表会ではフォークリフト事故削減に向けた「安全への取り組み」として、トヨタL&Fカンパニー 国内営業部 部長 小倉崇氏から、フォークリフトオペレーターを事故から守るための取り組みと歴史を説明した。

社会環境の変化
物流業界を取り巻く環境と課題
フォークリフトによる災害の推移

 小倉氏は、フォークリフトによる死傷者数は近年においても2000件/年レベルで推移していることを紹介。労働力不足による不慣れなオペレーターの増加、1人あたりの仕事量増加による作業スピードのアップなど、不安全操作や行動が増加する懸念があるという。

 同社では4月1日より、主力商品である1.0~8.0t積エンジンフォークリフト「GENEO(ジェネオ)」と1.0~3.5t積電動フォークリフト「gene B(ジェネビー)」に、一部安全運転支援機能を標準搭載する。

標準搭載される安全運転支援機能の説明
一部モデルでオプション設定であった安全運転支援機能を標準搭載とした

 具体的には、管理者などがあらかじめ最高速を設定しておくとその速度以上で走れなくなる「速度管理機能」。オペレーターが積み荷を高く上げたままの状態で、アクセルを急激に踏み込む(離す)などの誤操作を行なった場合でも、加速/減速を制限することで安定した走行・作業に寄与する「荷崩れ防止のための加速/減速制限機能」を標準装備する。

 小倉氏は、同社では1998年より車両の転倒や荷崩れの防止に貢献する独自の安全システム「SAS(System of Active Safety)」として、旋回時の安定性を確保する機能「後輪スイングロック制御」や、高揚高時のマスト角度を自動で制御する機能「マストティルト制御」などを主力フォークリフトに搭載してきたことを紹介。

安全への取り組み
SASとOPSの説明
全国の販売店で「お客様向け安全講習会」を実施するなど、ソフト面でも安心・安全への取り組みを進める

 ハード面での安心・安全だけでなく、ソフト面でも全国の販売店で「お客様向け安全講習会」を実施するなど、物流現場における「安心・安全」のサポートに取り組みを行なっていること強調。新たに標準搭載する安全運転支援機能との相乗効果で、フォークリフトによる事故抑制に貢献したいとの考えを示した。

株式会社豊田自動織機 トヨタL&Fカンパニー 執行職 R&Dセンター長の一条恒氏(左)、日本通運株式会社 ロジスティクスエンジニアリング戦略室 専任部長 中野喜正氏(中央)、株式会社豊田自動織機 トヨタL&Fカンパニー プレジデントの水野陽二郎氏(右)によるフォトセッション