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ボッシュ、見通しのわるい交差点でもスムーズに合流できる自動運転技術を開発

MEC-Viewプロジェクトにおける1つの成果として発表

2020年7月20日 発表

交差点にある街灯に設置したビデオセンサーやLiDARのデータからデジタルマップを生成

 ボッシュは7月20日(現地時間)、市街地の街灯などとデータ連携することにより、走行車両の死角をカバーして安全性を高める「MEC-Viewプロジェクト」の知見を発表した。

 このプロジェクトは、ドイツ経済エネルギー省(BMWi)から550万ユーロの資金援助を受けていて、プロジェクトのパートナーには、コンソーシアムリーダーを務めるボッシュと共に、メルセデス・ベンツ、ノキア(通信インフラ)、オスラム(照明メーカー)、TomTom(位置情報技術)、IT Designers(ソフトウェア企業)、デュースブルク=エッセン大学、ウルム大学が名を連ねる。

「走行車両から見えにくい歩行者、車両の前を通過する自転車、突然迫って来るバス。頻繁に道路利用者同士のやり取りが生じる市街地走行は、突然難しい判断を迫られることがある。そのような環境で、街灯に都市交通の安全性の強化と、自動運転車両への交通状況の概要を提供する役割を担わせることができるのではないか?」これがMEC-Viewプロジェクトのテーマ。そして3年以上の開発期間を経て、このプロジェクトで得られた知見を発表する準備が整ったという。

交差点に設置されている街灯にビデオセンサーやLiDARを配備し、約6mの高さから広範囲を検知させる

 プロジェクトチームが考えたのは、街灯にビデオセンサーやLiDAR(光検出・測距)センサーを組み込むことで、高度なモバイル通信技術を利用して重要な情報をリアルタイムで車両に提供し、他の車両、自転車、歩行者といった障害物を迅速かつ確実に検知すること。

 アソシエイトパートナーであるドイツのウルム市で過去3年間、街灯に組み込まれたセンサーおよび関連するネットワーク化技術の実験を実施。現在はプロジェクトを通じて得られた知見を利用し、自動車機器テクノロジー、自動運転、モバイル通信技術のさらなる開発が進められている。また、プロジェクトで構築したインフラは、ほかの分野の研究プロジェクトでも利用できるよう解放している。

ドイツ経済エネルギー省(BMWi)が資金を提供するMEC-Viewプロジェクトは、複雑な都市交通シナリオで、高度に自動化された運転を可能にする。MEC-Viewプロジェクトは、都市部の交通の安全性と効率を向上させることを目的として活動している

虫の視線に勝る鳥の視線

 街灯の高さは最高で路上から約6mもあるので、交通量の多い交差点を上空から鳥のように正確に見通すことが可能となり、この情報は自動運転車両にとって将来必要なものとなるとプロジェクトチームは言う。

 カメラ、レーダー、LiDARセンサーなどで構成される車載センサーシステムが車両には360度の正確な視界を提供してくれるが、トラックに遮られる歩行者、物陰から現れる乗用車、背後から接近して急な車線変更を試みる自転車などを認識するには必ずしも十分とは言えない。

 コンソーシアムリーダーであるボッシュのMEC-Viewプロジェクトを率いるリューディガー・ウォルター・ヘン氏は「車両には曲がり角や壁の向こうを見通す能力はないため、街灯にセンサーを組み込むことで車載センサーの視野を拡大することにしました」と述べている。

 そこで、プロジェクトパートナーが、この目的に対応するハードウェアおよびソフトウェアを開発。このシステムでインフラのセンサーから取得した画像と信号を処理し、高解像度デジタルマップ(HDマップ)と組み合わせて無線で車両に伝送すると、そのデータを車載センサーの情報と統合し、関連するすべての道路利用者を含む精度の高い周辺画像を生成することに成功した。

データの無線伝送

 最先端のモバイル通信技術は、センサー情報の超低遅延伝送が可能なので、MEC-Viewプロジェクトでは、これを目的として設定を最適化した新しい5G通信規格のLTEモバイル通信技術を採用し、リアルタイムのデータ伝送を基本としたという。

 また、遅延時間を最適化したモバイル通信の主な目的は、無線を介した事実上瞬時のデータ伝送だけではなく、そのデータの処理をできる限りソースに近づけることでもある。この目的を達成するのが、モバイルエッジコンピューティングサーバー(MECサーバー)として知られる特殊なコンピュータで、移動通信網に直接組み込まれる。

 このサーバーが、街灯のセンサーのデータと車両のサラウンドセンサーのデータから、極めて高精度なデジタルマップを統合。そのときの交通状況に関して可能な限りの情報を含む周囲状況のモデルを生成し、無線を介してそれを各車両で利用できるようにする。

 将来的に都市交通管制センターなどの施設にこのようなサーバーを導入すれば、メーカーに関係なくすべての車両、さらにはほかの道路利用者ともデータを共有できるようになるという。

交通とのシームレスな統合

 ウルム市では、2018年から実際の交通状況でプロジェクトパートナーによる自動運転のテスト車両とインフラのセンサー間のデータ送信のテストが行なわれているが、特にレーア地区に非常に見通しがわるいことで知られる交差点があり、そこに設置されている街灯にセンサーを組み込み、交差点での自動運転車両の運転を支援する試みが行なわれた。

 側道からこの見通しのわるい交差点に近づいた車両は、うまく本道に合流する必要があるが、新しく開発された技術により自動運転のテスト車両がいち早く道路利用者を認識し、状況に応じて適切な走行モードに切り替えられたという。この本道の交通の流れを見定めて、停車せずにスムーズに本道に合流できる技術の開発は、都市交通の安全性を高め、道路交通を円滑化するとしている。

 また、プロジェクト期間中にウルム市に構築されたインフラは、引き続き利用されて今後の研究プロジェクトにも活用される予定だという。