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ボッシュ、今では全世界の新車乗用車の82%が装備するESC(横滑り防止機能)開発秘話を公開

ヨーロッパ圏内だけでも過去25年間に1万5000人以上の命を救い、50万件近くの人身事故を防ぐ

2020年5月19日 発表

濡れた路面での急なステアリング操作は、はるか昔から今でも大事故につながることに変わりはない

 濡れた路面での急なステアリング操作が原因で、側溝やガードレールに追突し、死亡重傷事故につながることが珍しくなかった時代があったが、今からちょうど25年前に革新的な発明による対応策がもたらされた。

 1995年、ボッシュとダイムラー・ベンツは、横滑り防止装置となる「ESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)」を「Sクラス」に初めて装備し、それ以来ESCは危険な状況においても車両の進路を安全に維持してきた。ボッシュの分析によると、ESCはEUだけでも過去25年間に1万5000人以上の命を救い、50万件近くの人身事故を未然に防いできたという。今やESCは、シートベルトやエアバッグとともに、人命を救う最も重要な車両装備の1つとなった。

ESCが開発されて25年。多くの人命を守ってきたテクノロジーで、今では世界の新車乗用車の82%に搭載される

 ロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバーであるハラルド・クローガー氏は「ESCの開発は、交通事故死亡者をゼロにするという私たちの“ビジョン・ゼロ”に向けたマイルストーン(中間目標地点)でした。ESCはまさに、ボッシュのコーポレートスローガンである“Invented for life”を体現した製品と言えるでしょう。ESCの技術は1995年に開発されたものですが、時代に取り残されることはありません。ボッシュはESCを継続的に改善し、現在までに2億5000万台以上のクルマに搭載されてきました。全世界の新車乗用車の82%がESCを装備しており、現在の車両はESCなしには考えられません」と述べている。

 なお、2017年の全世界の新車乗用車へのESC装着率は64%だったとしている。

ESCはあらゆる横滑り事故の最大80%を防止可能

 特に路面が濡れていたり凍結してたりする場合や、路上の動物など予期せぬ障害物を回避する場合、コーナーへの進入速度が速すぎる場合にもESCは介入し、ESCが装備されていれば、あらゆる横滑り事故の最大80%を防止することが可能となる。また、ESCはABS(アンチロックブレーキシステム)とTCS(トラクションコントロールシステム)の機能が統合されることで、より安全を維持する機能となった。

 ESCは横滑りの危険を検知すると車両に介入して安定性を回復させるが、その原理はESCが車両ダイナミクスに関する情報と、車両がドライバーの操舵している方向に向かっているかを検知し、この2つの要素の間に不一致があればESCが介入するという仕組みとなる。これは簡単に聞こえるかもしれないが、実際にはかなり複雑なプロセスがあり、高性能センサーにより、操舵角と車両の軌道を毎秒25回比較して、両者の差が広がるとESCはエンジン出力をコントロールし、各車輪にブレーキをかける。システムはこのようにして、車両進路の逸脱や横滑りの防止に貢献し、多くの事故を効果的に未然に防いでいる。

路上における動物やクルマなど、予期せぬ障害物を回避する場合にESCは介入
コーナーへの進入速度が速すぎる場合にもESCは介入する

伝説的なエルクテスト後の躍進

 車両の安定性を高めるための取り組みは1980年代に始まり、当初はボッシュとダイムラー・ベンツが別々に進めていたが、1992年から量産に至るまでは、両社のエキスパートがプロジェクトとして共同で取り組み、1997年の伝説的なエルクテスト(急なステアリング操作による緊急回避試験)が、ESCシステムの躍進に貢献したという。

 その伝説的なエルクテストとは、当時スウェーデンの自動車雑誌によるテストが行なわれ、メルセデス・ベンツ「Aクラス」が緊急回避操作を行なった際に、まさかの横転。そしてこの横転をきっかけに、メルセデス・ベンツはESCを全車標準装備にした。その後は、さまざまな自動車メーカーも、多くの車両にESCを採用するようになった。

当時のテスト風景

 やがて事故件数、負傷者数、死亡者数の減少により、立法者もESCの有益性を認め、世界の多くの地域でESCの車両装備が義務化された。EUでは、2011年11月以降に認可された乗用車と商用車が、2014年11月以降は新規登録されたすべての乗用車と商用車が対象となり、段階的に装備が進んでいった。

 また、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、エクアドル、イスラエル、日本、マレーシア、ニュージーランド、ロシア、韓国、トルコ、および米国でも、ESCの装備義務化が法制化されるか、自主的な努力義務とされているが、欧州の経験が示すように、ESCを装備する車両の割合が高まれば、事故件数は減少すると言えるだろう。

自動運転のための基礎

 ボッシュは、内燃機関から電気モーターまでのあらゆるパワートレーンタイプ、そしてマイクロカーから商用車までのあらゆる種類の車両に向けてESCを提供し、現在ESCの搭載は多種多様な車両タイプに広がっている。

 さらに、ボッシュは2輪車向けにもESCと同様の機能を提供するシステムを開発。2013年に量産を開始したモーターサイクル用スタビリティコントロール(MSC)は、物理的限界内において、ライディングのあらゆる状況下で車両の安定性の維持に貢献するシステムであり、交通安全の可能性をさらに広げた画期的な2輪車向けテクノロジーとしている。同時にESCは、多くの運転支援システム、そしてボッシュが“ビジョン・ゼロ”を目指す上で進める自動運転にとっての基礎となるテクノロジーとなるという。

 クローガー氏は「ESCは交通安全を新たなレベルに引き上げました。また、ボッシュのテクノロジーは、新しいものであれ十分に試行したものであれ、危険な状況でドライバーへの警告と支援を行ないます。そして、単調で疲れる仕事を引き受けるようになり、結果として交通事故の件数と死亡者数をさらに減少させる機会をもたらします」と、コメントしている。

 ボッシュは、ドライバーがステアリングを握っているかに関わらず、今後も交通事故を未然に防いでいくと結んでいる。

ボッシュはESCの他にも、VDC(自動車ダイナミック制御システム)など多数の安全システムを開発している

【お詫びと訂正】記事初出時、タイトルの一部に誤りがありましたので、お詫びして訂正させていただきます。