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豊田通商、大型トラックで実現した「高速道路 後続無人隊列技術」オンライン説明会
車間距離9mで3台のトラックが80km/h巡航する動画も紹介
2021年3月5日 19:46
- 2021年3月5日 開催
豊田通商は3月5日、経済産業省と国土交通省から受託して取り組んでいるプロジェクト「トラックの隊列走行の社会実装に向けた実証」の成果として、2月22日に新東名高速道路の遠州森町PA(パーキングエリア)~浜松SA(サービスエリア)の約15kmで、後続車の運転席を無人化した状態でのトラックの後続車無人隊列走行を実施したことを発表。この内容について紹介するオンライン説明会を開催した。
2016年9月にスタートした同プロジェクトでは、高速道路における「後続車無人隊列走行技術」の実現に関する研究開発を進めており、今回の実証走行では3台の大型トラックが約9mの車間距離で隊列を組み、80km/hで隊列走行。2台目以降の大型トラックは無人状態(助手席には保安要員が乗車)のまま、車間距離を維持しつつ先頭車両の追従を実現した。
オンライン説明会では、経済産業省 製造産業局 自動車課 ITS・自動走行推進室長の植木健司氏、国土交通省 自動車局 技術・環境政策課 自動運転戦略官の多田善隆氏がそれぞれあいさつしたほか、プロジェクトで実際の車両開発などを担当する先進モビリティ 代表取締役社長の青木啓二氏が動画を使って技術説明を行なった。
国交省の多田氏は、交通事故の削減、高齢者の移動の確保、物流分野の生産性向上といった社会課題の解決に向け、国として自動運転技術の導入に向けて注力しており、さらに政府の成長戦略で2020年度内の実現を目標に同プロジェクトを進めてきたと説明。今回の実現が物流サービスに自動運転を導入する大きな節目になると語った。
経産省の植木氏は、今回の後続車無人隊列走行の実現が、燃費の改善、トラックドライバー不足、人材の高齢化といった物流事業者が抱える課題解決に向けた大きな成果であると評価。これまでに4万km以上の公道走行を行なったほか、テストコース走行やシミュレーションでの考察を重ねてきたことにより、高く設定された信頼性、安全性のハードルを越えることができたと紹介しつつ、商業化に向けては割り込みなどの対応が課題になると説明。隊列が途切れてしまっても自動運転に切り替えて走行を続けられるよう、今後はレベル4の自動運転を搭載するトラックを実現する新プロジェクトを、2021年度以降に検討していく姿勢を示した。
先進モビリティの青木氏が登場する動画では、後続車無人隊列走行の概要や実現するために利用している技術について解説。技術的には「先頭車両の走行軌跡を後続車が自動で追従する機能」「隊列内に一般車両が容易に割り込めないよう、車間距離を5~10mで制御する機能」の2点を中心に構成しているという。
後続車が追従していく「先頭車トラッキング制御」では、後続車両のフロント部分に設置した3D-LiDARやステレオカメラ、RTK-GPS(リアルタイムキネマティックGPS)などを使って先頭車両を認識。ステアリング制御を行なって先頭車両との横ズレ量を左右±50cm以内に維持する。
「車間距離制御」では、既存の車間距離センサーだけでは急制動時にトラック同士が衝突する可能性があるため、トラック同士を通信で接続。先頭車両のアクセル、ブレーキといった操作が後続車にも即座に伝えられ、車速を制御している。動画内では80km/hからのフルブレーキでも車間距離が2mしか縮まらないというテストシーンが紹介された。
これらのほか、3台の大型トラックが隊列を組むと全長が約60mにおよぶことから、先頭車両を運転するドライバーを支援する「後続車の後方画像伝送」「後続車画像のモニター」といった技術も用意。後続車両の側方にカメラ、後方にミリ波レーダーを設置して、車線変更などの際に危険があると判断した場合、先頭車両のドライバーに対して警報音で通知する。
信頼性と安全性の確保では、「自然環境の変化への対応」「装置故障への対応」「割り込みへの対応」が求められる。「自然環境の変化への対応」では、3D-LiDARやステレオカメラ、ミリ波レーダーといった複数のセンサーを組み合わせて雨天、夜間などに対応。しかし、降雪時や濃霧といった厳しいコンディションでは走行不能になることから、今後の課題になっているとした。
「装置故障への対応」では、各種センサーや制御用のコンピューター、ステアリングモーターといった重要な部品が故障してもバックアップできる体制を確保。また、通常の制御モードに加え、故障の深刻度を自己診断して、車速を50km/hに減速して走行を続ける「縮退運転モード」、隊列走行を維持できずに車両を安全に停止させる「MRM(ミニマル リスク マヌーバー)モード」の2つを使い分ける。
「割り込みへの対応」では、停車中に人がトラック間に立ち入った場合、トラック後方にあるLED表示器で「割込危険」と点滅表示。また、先頭車両のドライバーにもHMI表示で注意喚起しつつ発信不可能に制御する。
走行中はサイドパネルの文字とイラストなどで周囲にアピールするほか、割り込み車両を検知した場合にはトラック後方のLED表示器を点滅表示して割り込みを抑制。車両に割り込まれてしまったときはMRMモードに制御が切り替わって後続車両を停止させる。
3氏によるプレゼンテーション後には質疑応答を実施。商業化の時期について質問され、経産省の植木氏は「2021年に有人による隊列走行の商業化を目指しております。また、2019年までに出された成長戦略では2022年度以降に無人の隊列走行を商業化する期待を持っていましたが、実際に取り組みを進めていくなかで検討を行なって、無人隊列走行の技術だけではなかなか対応しきれない部分もあることが分かって、レベル4(自動運転)の技術と組み合わせて商業化を図っていく必要があるのではないかと考えています。そのため、レベル4に向けた新たなプロジェクトを立ち上げる予定で、2025年以降にレベル4のトラックを商業化すべく今後取り組んでいきたいと思っており、そのレベル4に隊列の技術も組み込んで実証していきたいと考えております」と答えた。
商業化における具体的な方向性についての質問では、まず経産省の植木氏が「商業化の具体的な出口は現時点では決まっていないと思っておりますが、いろいろな形態がありうると考えます。トラックメーカーさんとも連携しながら、この隊列走行の技術開発を行なっており、トラックメーカーさんから車両に技術を組み込んで販売していただくやりかたもあるでしょうし、車両を先進モビリティさんなどの第三者が改造して販売することもあるかと思います。どんな形が物流事業者の皆さんに使っていただきやすいかをプロジェクトの中で検討していきたいと考えております」と回答。
また、先進モビリティの青木氏は「今回の技術開発は基本的に国からの委託を受けてのものです。まだ技術開発の段階で、コストや部品の小型化といった技術課題がいろいろと残っております。今後の商業化を目指すには、部品メーカーさん、トラックメーカーさんと一緒にやって今のレベルから上げていかないと実用化とはなりません。先進モビリティ単独での商業化は難しいかなと思いますので、技術開発を部品メーカーさん、トラックメーカーさんと一緒に進めていくプロセスが必要になるかなと思います」と述べた。
商用化に向けて法規や規制などの面で課題があるのかについての質問には国交省の多田氏が回答。「今回の技術開発では『電子牽引』という技術を使っております。この電子牽引の安全性については国土交通省でガイドラインを策定しており、これに沿うように先進モビリティさんに開発していただいております。ただ、今回は安全面で万全を期するため、保安要員を車両に乗せて対応しております。ずっと保安要員を乗せた形では商業化で非常に難しい部分があるので、ガイドラインを見直して保安要員なしでもできる方向で策定する必要があると思います」と述べた。
実用化にあたって先頭車両のドライバーは専用の資格やトレーニングなどが求められるのか、という問いかけに対して国交省の多田氏は「大型トラックを運転するという意味では現状ととくに変わらないです」と返答。
また、実際に実証実験を行なった先進モビリティの青木氏は「先行車両のドライバーに求められる一番大きなスキルとしては、60mあるという全長の長さの対応です。一般車両と混在する状況で、接近したりクロスしたりという場面で非常に注意する必要があり、あるいはその状況下で自分の運転行動を決めることになるので、ある程度しっかりトレーニングをしなければまずいのではないかと思います。具体的に今回の実証実験では、専門に行なっている会社に委託する形で、約2年間トレーニングを続けて後続無人隊列の先頭車両ドライバーをお願いしております」と説明した。
このほか、海上輸送用のコンテナを積載するトレーラーなど、大型トラック以外は今回のプロジェクトで想定しているのかという質問では、経産省の植木氏が「今回はコンテナをあつかうトラックは想定していないので、大型トラック以外に展開していくためにはさらなる技術開発が必要になると思います」と回答。
先進モビリティの青木氏も「トラックでも小型、大型、トレーラーなどいろいろあると思いますが、今回の隊列走行を使う場合、トレーラーだとやりにくい面があります。技術的にできないというわけではありませんが、おそらく新たな開発要素が必要になると思います」と述べている。