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内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験

ディープラーニングを利用した画像認識でレベル4相当のツールを導入

2017年10月27日 発表

内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 内閣府SIP自動走行システムが沖縄県でのバス自動運転実証実験に利用するバス
内閣府SIP自動走行システムが沖縄県でのバス自動運転実証実験に利用するバス

 内閣府が取り組んでいる戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「自動走行システム」は、同府の庁舎において記者会見を開催し、沖縄県宜野湾市から北中城村の公道においてバス自動運転の実証実験を10月31日より開始すると明らかにした。

 SIP 次世代都市交通ワーキンググループ主査 大口敬氏(東京大学教授)は「高齢者やそのほかの交通制約者にも使いやすく、定時性、速達性、安全・快適性などに優れた次世代都市交通(ART)の研究開発に役立つように、沖縄で実証実験を行なう」と述べたほか、47都道府県の県庁所在地の中で渋滞により移動時間がワーストとなっている那覇市などの道路渋滞を解消する目的もあって沖縄県で行ない、将来的に沖縄次世代交通システム(Okinawa-ART)への発展を考えていると説明した。

定時性、速達性、安全・快適性などに優れた次世代都市交通の研究開発の一環

 SIPの次世代都市交通ワーキンググループ主査 大口敬氏は「高齢者やそのほかの交通制約者にも使いやすく、定時性、速達性、安全・快適性などに優れた次世代都市交通(ART)の研究開発に役立つように、沖縄で実証実験を行なう」と述べ、今回のバス自動運転実証実験の意義を説明した。

内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 次世代都市交通ワーキンググループ主査 大口敬氏(東京大学教授)
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 次世代都市交通ワーキンググループ主査 大口敬氏(東京大学教授)

 大口氏によれば、沖縄県の那覇市は、県庁所在地の中で通勤時間帯の旅行時間が一番長い(つまり、渋滞が一番ひどい)とのこと。内閣府の担当者によれば「平成24年度で、宜野湾市の伊佐地区から那覇市の久茂地までの11.9kmが朝7時15分で71.9分。1日の平均では16.9km/h、同じ時期の東京23区では19.3km/hとなる」とのことで、そうした状況を改善しようという意図もあって沖縄県が選ばれ、将来的に沖縄次世代交通システム(Okinawa-ART)として発展させていきたいということが検討されているという。

 大口氏によれば、実施エリアは宜野湾市から北中城村付近の国道58号、同宜野湾バイパス、国道330号などになっており、那覇市と沖縄市の間の幹線道路を中心としたルートになっている。これまでSIP自動走行システムでは、南城市、石垣市での実証実験を行なっており、今回の実験はその第2ステップとして、公道上での通常の交通環境における実証実験、さらにはバスを新しくして自動ブレーキを搭載したのでその実証実験、準天衛星みちびきを利用した高精度3次元地図などの活用などを行なっていくほか、磁気マーカーを利用した正着制御の実証実験などを行なっていくと説明した。

内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 ルート予定(出典:戦略イノベーションプログラム[SIP]「自動走行システム」における 沖縄におけるバス自動運転実証実験の概要について)
ルート予定(出典:戦略イノベーションプログラム[SIP]「自動走行システム」における 沖縄におけるバス自動運転実証実験の概要について)

 実験は10月31日から行なわれ、12月5日からは関係者の試乗会も行なわれる予定。この試乗は道路交通関係者のみが想定されており、今回は一般の乗客を乗せての実証実験は行なわれないという。

 また、SIP自動走行システムは現在開催されている東京モーターショーの会期中となる11月3日に、「モビリティと都市デザイン」をテーマにした座談会「市民ダイアログ」を開催すると明らかにした。これは、専門家による講演、専門家と都市交通やまちづくりに携わる社会人や学生など約10名の市民パネリストによる対談などからなるプログラムで、自動運転などについて語り合う機会になるという。現在一般観覧者を募集しており、詳しくはSIP自動走行システムのWebサイトをご覧いただきたい。

ディープラーニングを利用した画像認識でレベル4相当のツールが入っているが、一部手動でレベル3相当

 自動運転バスの技術的な内容に関しては、質疑応答で先進モビリティ 代表取締役社長 青木啓二氏が説明した。というのも、今回の実証実験は先進モビリティと、SBドライブの両社が組成したコンソーシアムがプログラムの運営などを受託しており、先進モビリティが主にバスの製作を、SBドライブがバスの運営システムなどを提供する形で実証実験が行なわれていくからだ。

内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 先進モビリティ株式会社 代表取締役社長 青木啓二氏
先進モビリティ株式会社 代表取締役社長 青木啓二氏

 先進モビリティ 代表取締役社長の青木氏によれば「今回の自動運転バスでは、カメラで撮影した画像をディープラーニングで認識している。ツールとしてはレベル4相当のものが入っているが、完全ではなく自動が難しいところは一部マニュアルになっており、自動運転としてはレベル3相当という言い方になる」と説明した。青木氏によれば、2輪車を含む自動車、歩行者、標識に関してはカメラからの画像をディープラーニングを利用して画像認識を行ない、それを制御系にフィードバックして進んでいくという。ただし、現状では自動車、歩行者、標識のみが認識可能で、車線や障害物などは認識することができず、それらに関しては避けることができないので、搭乗しているドライバーが手動で避けることになるという。

 なお、バスの正着制御(バス停などにほぼ隙間無く正確に横付けすること)に関しては、実際のバス停と私有地の2カ所で行なう予定だという。青木氏によれば、私有地での正着制御には路面に磁気マーカーを設置してより制度の高い正着実験を目指し、バス停では準天頂衛星「みちびき」を利用した正着制御を行なうとのことだ。

内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 実験に利用されるバス(出典:戦略イノベーションプログラム[SIP]「自動走行システム」における 沖縄におけるバス自動運転実証実験の概要について)
実験に利用されるバス(出典:戦略イノベーションプログラム[SIP]「自動走行システム」における 沖縄におけるバス自動運転実証実験の概要について)
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 正着制御実験の概要(出典:戦略イノベーションプログラム[SIP]「自動走行システム」における 沖縄におけるバス自動運転実証実験の概要について)
正着制御実験の概要(出典:戦略イノベーションプログラム[SIP]「自動走行システム」における 沖縄におけるバス自動運転実証実験の概要について)

ディープラーニングの推論を利用した画像認識はNVIDIAのDRIVE PX2で実現されている

 会見前には、松山政司内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画、クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策)のバス視察が行なわれたほか、会見後には実際に運用される自動運転バスが公開された。

内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 先進モビリティ株式会社 代表取締役社長 青木啓二氏(左)が松山政司内閣府特命担当大臣(右)に今回の実証実験に利用する車両を説明
先進モビリティ株式会社 代表取締役社長 青木啓二氏(左)が松山政司内閣府特命担当大臣(右)に今回の実証実験に利用する車両を説明

 先進モビリティとSBドライブの関係者によれば、前後に3DのLiDAR、左右それぞれにLiDARが用意されているほか、前にカメラ、左右にもカメラがそれぞれ用意されている。カメラで撮影した画像は、バス内部に設置されているNVIDIAのDRIVE PX2の開発ボードに入力され、そのDRIVE PX上でディープラーニングの推論を利用して画像認識を行なっている。その画像認識の結果と、LiDARから得られた情報を、別途搭載されているPCでセンサーフュージョン(センサーからの情報を統合すること)して、制御系の別のコンピューターに渡してハンドル、アクセル、ブレーキの制御を行なう仕組みになっている。

内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 バスの後部
バスの後部
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 バスの前部に用意されているカメラ。このカメラで撮影して画像認識を行なう
バスの前部に用意されているカメラ。このカメラで撮影して画像認識を行なう
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 左右にはミラー相当のカメラも装着
左右にはミラー相当のカメラも装着
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 DRIVE PX2が格納されている部分
DRIVE PX2が格納されている部分
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 DRIVE PX2により画像認識されている。ここでは歩行者しかいないため、歩行者のみが認識されている
DRIVE PX2により画像認識されている。ここでは歩行者しかいないため、歩行者のみが認識されている
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 画面の右下側に表示されているのがLiDARからのデータ。それらをセンサーフュージョンすることで精度を上げている
画面の右下側に表示されているのがLiDARからのデータ。それらをセンサーフュージョンすることで精度を上げている
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 車両の前部に取り付けられている3D LiDAR
車両の前部に取り付けられている3D LiDAR
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 車両の後部に取り付けられている3D LiDAR。一番上の円柱状のデバイス
車両の後部に取り付けられている3D LiDAR。一番上の円柱状のデバイス
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 車両の左右にもLiDAR(黒)が取り付けられている。白い台座の黒いものはカメラで、これはSBドライブの運行用
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 車両の左右にもLiDAR(黒)が取り付けられている。白い台座の黒いものはカメラで、これはSBドライブの運行用
車両の左右にもLiDAR(黒)が取り付けられている。白い台座の黒いものはカメラで、これはSBドライブの運行用

 別途SBドライブのコンピュータやカメラも搭載されており、そちらを利用して、ネットワーク回線を利用したバスの運行制御が行なわれる。

内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 コックピット部
コックピット部
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 ハンドル操作モジュール
ハンドル操作モジュール
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 非常時用のキルスイッチ
非常時用のキルスイッチ
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 SBドライブのバス運行用のコンピュータ
SBドライブのバス運行用のコンピュータ
内閣府のSIP自動走行システムが10月31日から沖縄県の公道でバス自動運転実証実験 コンピュータ駆動用のバッテリー
コンピュータ駆動用のバッテリー

 2017年3月に行なわれた南城市、6月に行なわれた石垣市での実証実験では、ブレーキは手動になっていたが、今回の実証実験ではブレーキも自動運転のコンピュータが制御するように変更されている。なお、バス車両も新しくなっており、日野自動車の日野ポンチョのロング・2ドアをベースに、先進モビリティが改造した形で実現されている。