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石垣島で始まった、南の島の自動運転バスに乗ってみた

RTK-GPSとソフトバンクの電話網を使って自動走行システムを構築

石垣島を自動運転で走行する自動運転バス

 新石垣空港~石垣港離島ターミナルの間を6月26日~7月8日の期間運行している、観光客や一般客も乗ることができる自動運転バス。その出発式はすでにお伝えした(関連記事:南の島に自動運転バスが走る。鶴保大臣も出席して、新石垣空港~石垣港離島ターミナル路線の出発式)とおりだが、本記事ではその自動運転バスの仕組みなどについてお届けする。

 この自動運転バスは、自動運転技術を研究・開発する先進モビリティと、ソフトバンクグループのSBドライブが内閣府の推進する戦略的イノベーション創造プログラム「自動走行システム」(SIP-adus[Automated Driving for Universal Service])から委託されて実証実験を行なっているもので、あらかじめ決められた路線を走るというバスの特性を生かしたシステムになっているのが特徴だ。

 まずは、自動運転バスの車内動画を見てほしい。

南の島の自動運転バス。石垣港離島ターミナル~ANAホテル
中古のリエッセを改造して作られた自動運転バス

 このバスは、中古で購入した日野自動車「リエッセ」を改造したもので、4.72リッターのディーゼルエンジンを搭載している。そこにアクセルとステアリングのコントロール機構を組み込み、アクセルのON/OFFでスピードを、ステアリングでバスの方向を決めている。「あれ? ブレーキは?」と思う人がいるだろうが、実はこのバスの自動運転は運転手が乗ることを前提としており、ブレーキは人の判断で行なっている。エンジン駆動のためエンジンブレーキもよく効き、速度コントロールはアクセル開度である程度できるようになっている。

 では、そのようにコントロールしているバスを、どのような情報をもとに走らせているのかというと、「正確なルート設定によって自動走行を行なっている」と言える。バスの路線を車線単位でルート設定を行ない、そのルートからできるだけずれないように走る。バスの位置はRTK-GPSによって把握し、さらにソフトバンクの携帯電話網によって補強。車線内を正確に走っているかを常に判断し続けている。

 搭載されたLiDARやミリ波レーダーによって、ルート上の先行車や障害物を認識。先行車があれば車間(速度)を調整し、障害物があればやはり速度を低下させる。駐車車両の追い越しに関しては別モード(割り込み処理)が動くようで、その調整などは行なっていた。

石垣港離島ターミナル前に止まる自動運転バス
バス停の表示。仮設なのでシンプル
自動運転バスの前面には障害物検知用のLiDARやミリ波レーダー
下部がミリ波レーダー。遠距離検知用
上部と中部がLiDAR。上のほうがより遠距離を検知する
バス上部にはGPSアンテナ。不要反射波の影響を避けるため、南城市の実験に比べ、覆いが付けられている
バス前半には、内閣府や石垣市公認キャラクターの「ぱいーぐる」
バス後半には、内閣府から実験の委託を受けて実証実験を行なっている先進モビリティとSBドライブのロゴ

 すでに3月20日~4月2日に沖縄本島南部の南城市で公道走行実証実験を行なっているが、南城市からの明確な進化点としては、車速が30km/hから40km/hに10km/h上昇したところ。それだけ情報を確実に処理できるようになったのだろう。

 また、新たな試みとしては、信号との同期制御の実験を行なっていた。ルート上の4つの信号の点灯サイクルをあらかじめバス側に情報としてもっており、青で通過できそうならスムーズに通過し、赤になりそうならゆっくりと速度を調整していく。ただ、この信号の点灯サイクルについては信号がもっている時刻情報が完全に正確ではない(自動運転バスはGPS信号を受信しているため限りなく正確)ため、たとえば15時に信号を通過する際は青と計算されていたが、実際にバスが15時に信号に到達してもまだ赤というような状況が起きていた。興味深い試みだが、信号機がネットワークにつながるような時代にならないとなかなか難しいかなと思わせる実験だった。このような問題点を立証していくのも実証実験のテーマなのだろう。

実証実験について説明を行なう先進モビリティ株式会社 代表取締役社長 青木啓二氏
実証実験についての説明

 いずれにしろ動画を見て分かるように、まだまだ人が介在する範囲は広い。自動運転バスといっても、すべての区間を自動運転で走っている訳ではない。しかしながら、ルート設定を正確に行ない、そのルートを正確に走るというコンセプトはバスの運行など公共交通機関には適用しやすいものだろう。正直アクセル操作(速度の加減速)は、市販車のACCと比べても粗いものとなっていたが、将来的にはEVやPHVバスになることでスムーズな制御を実現しやすくなるのは間違いない。

信号との連動実験。車内モニターで予測信号が表示されている
こちらも車内モニター。左上が予測信号モニター、右上がLiDARの認識、左下がディープラーニングをNVIDIAのDRIVE PX 2で行なっている画面、右下がモニターカメラ画面
LiDARの認識。意外と遠くまで見えている
こちらは運行モニター。インターネット経由で位置や速度を認識している
バス停への正着制御については、あまり追い込んだ設定にはしていないとのこと

 この自動運転バスのポイントは、正確なルート決めと、RTK-PGSとソフトバンクの電話網によって自車位置を正確に導き出していることにある。鶴保庸介大臣も触れていたが、今後はQZSS(準天頂衛星みちびき)の3基目が打ち上がることによってさらに正確な位置情報(1.5cm精度)が取得できるようになるだろう。この石垣島の実証実験においても、自動運転バスの制御には用いないが、QZSSの受信実験は行なう(QZSSの位置は内閣府が提供している「GNSS View」から確認でき、正式運用は2018年度が予定されている)とのことだ。

 自由なルートを走る乗用車に比べれば技術的に確立しやすい部分もあり、バスの自動運転はこうあるべきものという1つの事例としてデータが蓄えられていく。完全に自動運転とならなくても、運転アシスト機能が高度化することでバスはより安全な乗り物になっていく。自動運転技術が進化することでより安全で、より利用しやすいバスが実現することに期待したい。